フィリピンの知的財産と競争法 ― IPOPHLとPCCの実務地図
0. 最初に押さえる7点
| # | 要点 | 補足 |
|---|---|---|
| 1 | フィリピンの知財法は知的財産法(Intellectual Property Code of the Philippines / Republic Act No. 8293、1997年)の1本にまとまっている | 特許・商標・著作権・意匠・実用新案が同一法典。所管はIPOPHL(Intellectual Property Office of the Philippines/知的財産庁) |
| 2 | 商標は登録主義(先願主義)。ただしDAU(Declaration of Actual Use=使用宣言書)を出さないと権利が消える | 使用主義と登録主義の「いいとこ取り」構造。日本企業が最も事故を起こす箇所 |
| 3 | 著作権の保護期間は著作者の死後50年(IPOPHL) | 注 日本・EU・米国の「死後70年」と混同しやすい |
| 4 | 地理的表示(GI)は法律ではなくIPOPHLの規則(通達第2022-022号、2022年)ベースで運用中 | 2026年8月時点、フィリピン国内産品のGI登録は4件(登録簿全体では外国GI 5件を含む。§6.2参照)。GI法案が第20議会に係属 |
| 5 | 競争法はフィリピン競争法(Philippine Competition Act / RA 10667、2015年)、執行機関はPCC(Philippine Competition Commission/競争委員会) | 2026年で施行10年 |
| 6 | M&Aの強制届出閾値は2026年3月1日から SOP 91億ペソ/SOT 38億ペソ(PCC) | 注 「50億/20億ペソ」という2018年当時の数字がまだ流通している |
| 7 | 2026年2月28日以降の中東紛争による原油高が、石油業界のカルテル疑惑調査要求という形で競争法の議題に直結 | 2026年4月、下院・エネルギー省(DOE)がPCCに調査を要求 |
1. 知的財産法(RA 8293)の構造
1.1 法典の構成
RA 8293は1997年6月6日成立。2026年6月にIPOPHLが「29周年」として改正論議を打ち出しており(Advanced Television、2026年6月8日)、条文の骨格は1997年当時のままである。
注 (2026-08-26 改正確認)「1997年当時のまま」はPart の骨格についての話であり、条文単位では3本の改正法が溶け込んでいる。現行の RA 8293 は「RA 9150・RA 9502・RA 10372 による改正後」の姿である。LawPhil 掲載の RA 8293 は「制定時(1997年)の原文」であり、改正を溶け込ませた consolidated 版ではない。LawPhil の条文と一致したからといって「現行法である」ことにはならない。特に第112〜120条(意匠・集積回路配置)は RA 9150 により全文差し替えられているため、LawPhil の RA 8293 本文をそのまま引くと誤りになりうる。(出典:Asia IP「A call for a stronger IP code in the Philippines」が "R.A. 8293, as amended by R.A.s 9150, 9502, and 10372" と明記/LawPhil 掲載 RA 9150 本文)
| Part | 対象(原語) | 条の範囲 |
|---|---|---|
| Part I | 知的財産庁(THE INTELLECTUAL PROPERTY OFFICE) | 第1〜19条 |
| Part II | 特許法(THE LAW ON PATENTS)実用新案(第108〜111条)・意匠+集積回路の回路配置(第112〜120条。章名は RA 9150〈2001〉により "Industrial Design and Layout-Designs (Topographies) of Integrated Circuits" に改題済み)を含む | 第20〜120条 |
| Part III | 商標・サービスマーク・商号(THE LAW ON TRADEMARKS, SERVICE MARKS AND TRADE NAMES) | 第121条〜第170条 |
| Part IV | 著作権(THE LAW ON COPYRIGHT) | 第171条〜 |
| Part V | 最終規定(FINAL PROVISIONS) | 第219条以降のいずれか(下記注) |
(出典:LawPhil掲載のRA 8293本文を2026-08-25に直接確認。ChanRobles掲載の Part 見出し一覧も併用)
注 (2026-08-25 検証で修正)初稿の Part 区分は2か所が誤りだった。 - Part II を「第20〜111条」としていたが、正しくは「第20〜120条」。第111条は実用新案の章の一条にすぎず、Part II の末尾ではない。意匠の存続期間を定める第118.1〜118.2条も Part II の中にあるため、「Part II=第111条まで」とすると本資料の §4.1 の記述と自己矛盾する。 - Part V の見出しを「学際的規定・罰則」としていたが、原文は "FINAL PROVISIONS"(最終規定)。「Miscellaneous Provisions(雑則)」は Part IV 内の章名であり、Part の名称ではない。 - 注 Part IV の末尾条と Part V の開始条番号は、本セッションでは一次確認できず=未確認。 LawPhil / Official Gazette / ChanRobles のいずれも、当該部分まで本文を取得できなかった(ページ長・CAPTCHA・404)。初稿の「第226条〜」も可能性としては残るため消さずに記録するが、引用する場合は必ず原典で確認すること。
1.2 主な改正法
| 改正法 | 承認日 | 改正された RA 8293 の条 | 内容 |
|---|---|---|---|
| RA 9150(Layout-Designs (Topographies) of Integrated Circuits)2026-08-26 追加 | 2001-08-06 | RA 9150 第1条が RA 8293 第112・113・114・116・117・118・119・120条(第13章)を改正 | 第13章の章名を "Industrial Design and Layout-Designs (Topographies) of Integrated Circuits" に改題し、集積回路の回路配置(layout-design/topography)を保護対象に追加。第118条(存続期間)=意匠は出願日から5年、5年ずつ2回まで更新(最長15年)/回路配置は10年・更新不可 |
| RA 9502(Universally Accessible Cheaper and Quality Medicines Act) | 2008-06-06 | RA 9502 第7条→RA 8293 第72.1条/第10条→第93条/第11条→第93-A条を新設 | 医薬品特許の特則。並行輸入・ボーラー例外・強制実施権の拡充 |
| RA 10372 | 2013-02-28 | RA 8293 第6, 7, 9, 171, 180-181, 183-185, 188, 190-191, 198, 203-204, 208, 212, 216-218, 220, 226条ほか | 著作権パートの大改正。Bureau of Copyright and Other Related Rights(著作権局)新設、IPOPHLへの立入(visitorial)権限付与、二次的責任の明文化 |
RA 10372が改正した RA 8293 の条は第6, 7, 9-A(新設), 171.3/171.9/171.12-13, 180, 181, 183, 184.1, 185.1, 188.1, 190(190.1・190.2を削除し190.3を190に繰上げ), 191, 198, 203, 204.1, 208, 212, 216, 217.2, 218.1, 220-A(新設), 226, 230(新設), 231(旧230の繰下げ)と広範(2026-08-26 に LawPhil 掲載 RA 10372 本文で全28条を再確認)。
改正法の条番号との対応(混同防止):RA 10372 第1条→RA 8293 第6条/第2条→第7条(立入権の (d) はここ)/第3条→第9-A条新設/第22条→第216条(侵害と救済)/第23条→第217.2条(刑事罰)/第25条→第220-A条新設/第27条→第230条新設。「RA 10372 第7条(d)」という書き方は誤り。正しくは「RA 8293 第7条(d)(RA 10372 第2条による改正後)」。
この表の「改正された RA 8293 の条」欄は、改正法自身の条番号と混同しないために設けている。「RA 9502 第93条」「RA 9150 第118条」という条文名は存在しない。必ず「RA 8293 第93条(RA 9502 第10条による改正後)」「RA 8293 第118条(RA 9150 第1条による改正後)」の形で書くこと。(2026-08-26 改正確認。出典:LawPhil 掲載 RA 9150 本文 https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2001/ra_9150_2001.html/RA 9502 本文/RA 10372 本文)
2026年8月時点で、RA 8293 を改正する新法は成立していない。注 ただし改正法案は下院商工委員会を通過済み(2026年6月)。内容は①IPOPHL に著作権侵害サイトへのアクセス遮断命令権を直接付与、②地理的表示(GI)の法制化(現行は IPOPHL Memorandum 2022-022 という規則ベース)など17分野。本会議・両院協議会・大統領署名はいずれも未了=まだ法律ではない(出典:Advanced Television 2026-06-08/Daily Tribune 2026-06-06/Asia IP)。
注 知らないと間違える点:フィリピンには営業秘密(trade secret)の単独法がない。契約法・不正競争(RA 8293第168条)・刑法・データプライバシー法(RA 10173)の組み合わせで守るしかない(Law.asia、2025年5月2日)。日本の不正競争防止法のような一体的な救済を期待すると設計を誤る。
2. IPOPHLの役割と2025〜2026年の動き
2.1 位置づけ
IPOPHLは通商産業省(DTI)傘下の知財官庁。登録審査だけでなく、IP Rights Enforcement Office(IEO)による執行、IP紛争の裁定(adjudication)とメディエーションまで担う点が日本の特許庁と大きく異なる(IPOPHL公式サイト)。
2.2 電子出願・国際的地位
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 電子出願 | eInventionFile(特許)、eTM File(商標)、実用新案・意匠 |
| PCT国際調査機関 | IPOPHLはPCTの国際調査機関(ISA)および国際予備審査機関(IPEA)として稼働。米国出願人も利用可能(USPTO、2024年3月6日)。2026-08-25 検証で裏付け確認:WIPO の ISA/IPEA 協定一覧に "PH — Intellectual Property Office of the Philippines" が掲載されている(wipo.int/pct/en/access/isa_ipea_agreements.html) |
| AI活用 | IPOPHLがAI戦略を策定中(Newsbytes.PH、2025年12月20日)。2026年8月には「海賊版対策とAIガバナンス」を政策論点として提示 |
| 地方拠点 | DTI地方事務所内にIPサテライトオフィス(IPSO) |
注 「IPOPHLが世界のIP官庁イノベーション指数で3位」という報道がある(Newsbytes.PH、2026年1月12日)が、どの機関のどの指標かは本調査では特定できなかった=未確認。対外資料に引く際は指標名を確認すること。
2.3 2026年の出願統計(IPOPHL、2026年3月31日公表)
| 区分 | 2025年 出願件数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 合計 | 53,231件 | +2.0% |
| 商標 | 44,308件 | −0.5% |
| 特許(発明) | 4,486件 | +8.3% |
| 意匠 | 2,576件 | +30.2% |
| 実用新案 | 1,918件 | +20.6% |
| 著作権寄託 | 6,736件 | +2.8% |
居住者(フィリピン国内)の伸びが顕著:特許1,007件(+25.1%)、実用新案1,848件(+20.4%)、意匠1,587件(+46.4%)。 特許の技術分野トップは医薬794件、次いでデジタル通信433件、バイオテクノロジー170件。 (出典:Newsbytes.PH/BusinessWorld、いずれも2026年3月31日、IPOPHL発表に基づく)
IPOPHLは今後年5%成長を目標に掲げている(Philippine News Agency、2026年3月31日)。
注 IPOPHL公式サイトの「統計」ページに掲載されているグラフは2015〜2019年のままで更新が遅れている。最新値は年次発表のニュースリリース経由で取る必要がある。
注 IPOPHL自身のFAQによれば、発明特許は歴史的に外国出願人が約9割、国内出願人が約1割という構造が続いてきた。上記の居住者の伸びはこの構造を前提に読むこと。
3. 商標(Trademarks)
3.1 権利発生
第122条:「商標に関する権利は、本法の規定に従って有効になされた登録により取得される」。=登録主義/先願主義。使用実績があっても、先に他人に登録されれば原則負ける。
3.2 DAU(Declaration of Actual Use)— 最大の落とし穴
第124.2条:出願人は出願日から3年以内に、使用証拠を添えた使用宣言書を提出しなければならず、怠れば拒絶または登録抹消となる。
実務上、DAUの提出期限は複数回ある(ICLG "Trade Marks Laws and Regulations 2026 – Philippines"、2026年5月19日):
| # | 期限 |
|---|---|
| 1 | 出願日から3年以内 |
| 2 | 登録日の5周年から1年以内 |
| 3 | 更新日から1年以内 |
| 4 | 各更新の5周年から1年以内 |
注 日本企業の典型的な失敗:登録が取れた時点で安心し、②の「登録5周年DAU」を落として権利を失う。フィリピンに実際の販売がまだない場合でも、期限管理と使用計画をセットで設計する必要がある。
3.3 期間・手続
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登録期間 | 登録日から10年、10年ごとに更新可(更新を続ければ半永久) |
| 更新受付 | 満了前6か月〜満了後6か月(後者は追加手数料) |
| 異議申立 | 公告後30日以内 |
| 国際出願 | マドリッド協定議定書経由の指定が可能(IPOPHL) |
| 拒絶事由 | 第123条。不道徳・欺瞞的な標章、国章、先行登録商標・周知商標との混同、記述的・普通名称的、形状を伴わない色彩のみ 等 |
| 周知商標 | 国際的に周知な商標は、フィリピンでの登録の有無や商品の類否にかかわらず保護 |
非伝統的商標:立体・色彩・位置・動き・ホログラムは現行制度で登録可(ICLG 2026)。注 音・匂いの登録には立法が必要で、第20議会に法案が1本係属中(Advanced Television、2026年6月8日)。
IPOPHLは2026年3月に商標ガイドライン改定案のパブリックコメントを実施(BusinessWorld、2026年3月29日)。出願実務が動く可能性があるため要監視。
4. 特許・実用新案・意匠
4.1 三制度の比較
| 項目 | 発明特許 | 実用新案(Utility Model) | 意匠(Industrial Design) |
|---|---|---|---|
| 存続期間 | 出願日から20年(第54条 "Term of Patent") | 出願日から7年・更新不可(第109.3条:" shall expire, without any possibility of renewal, at the end of the seventh year after the date of the filing of the application") | 出願日から5年、5年ずつ2回まで更新可=最長15年(RA 8293 第118.1〜118.2条。RA 9150 第1条による改正後の条文)なお同じ第118条は集積回路の回路配置=10年・更新不可も定める(2026-08-26 改正確認。出典:LawPhil 掲載 RA 9150 本文) |
| 実体審査 | あり(公開後) | なし(方式要件充足で登録) | 方式審査中心 |
| 進歩性 | 必要 | 不要 | ― |
| 維持年金 | 5年目から毎年必要 | ― | 更新時 |
第111条は、同一の発明について特許出願と実用新案出願を同時または連続して行うこと(並行出願)を明文で禁止している。条文原文:「An applicant may not file two (2) applications for the same subject, one for utility model registration and the other for the grant of a patent whether simultaneously or consecutively.」(2026-08-25 に LawPhil 掲載 RA 8293 本文で直接確認)。日本の「実用新案登録に基づく特許出願」的な発想は通用しない。
4.2 PCT
フィリピンはPCT加盟国。IPOPHLはISA/IPEAとして国際調査・国際予備審査を実施する立場にあり(USPTO、2024年3月6日)、フィリピン発の国際出願で自国官庁を調査機関に指定できる。
4.3 医薬品特許の特則(RA 9502、2008年)
医薬品分野に投資・輸入する企業は、この法律を知らないと権利範囲を読み違える。
| 論点 | 内容(改正後のIP Code条文) |
|---|---|
| 並行輸入 | 第72.1条。特許権者等により世界のどこかで上市された医薬品は、政府機関・民間を問わず第三者が許諾なく輸入できる(国際消尽) |
| ボーラー例外 | 第72.4条。規制当局の承認取得のための試験・製造・使用・販売は侵害にならない |
| 強制実施権 | 第93.6条(需要が適正条件で満たされない場合)、第93-A条(特許医薬品の輸入、および製造能力不足国への製造・輸出のための特別強制実施権) |
| 事前交渉義務の免除 | 第95.2条。緊急事態・公的非商業的使用・需要未充足の場合は、任意実施許諾の事前交渉が不要 |
| 政府使用 | 第74条。政府機関は事前許諾なく実施でき、報酬は事後に決定 |
| エバーグリーニング防止 | 第22.1条。「医薬品については、既知物質の新たな形態または新たな特性の単なる発見であって、その物質の既知の効力の増大をもたらさないもの(the mere discovery of a new form or new property of a known substance which does not result in the enhancement of the known efficacy of that substance)」、既知物質の新規特性・新用途の単なる発見、既知の方法の単なる使用(少なくとも1つの新規反応物を用いる新規生成物を生じる場合を除く)は特許不適格 |
(出典:LawPhil掲載のRA 9502本文を2026-08-25に直接確認)
注 第22.1条はインドの特許法第3条(d)に類似した規定で、日本や欧州で成立する後続特許がフィリピンでは成立しない場合がある。 注 (2026-08-25 検証で修正)初稿は第22.1条の要件を「顕著に高い効力(significantly enhanced efficacy)」と記していたが、RA 9502 の原文に "significantly" に相当する語はない。 条文は "enhancement of the known efficacy"(既知の効力の増大)であり、インド特許法第3条(d)の "significantly" 付きの文言と混同したものと思われる。「顕著性」を要件として主張・反論の前提に置くと誤る。
5. 著作権
5.1 発生と登録
著作権は創作と同時に自動発生する。IPOPHLへの登録・寄託は任意だが、証明書が発行され、譲渡・独占的ライセンス・質権の登録も可能(IPOPHL著作権ページ)。
5.2 保護期間(第213条)
原則は著作者の生存期間+死後50年(IPOPHL)。共同著作物、無名・変名著作物、写真著作物、応用美術、視聴覚著作物には別の起算・期間が定められている。
注 日本(死後70年)、米国(死後70年)、EU(死後70年)と異なる。フィリピンで公有(パブリックドメイン)になっている作品が日本では保護されている、という逆転が起きる。
5.3 第184条(著作権の制限)
第184条は、権利者の許諾なく行える行為を列挙する制限規定である。私的な朗読・実演、出所明示を伴う引用、時事報道、司法・立法手続における利用、教育目的の利用、図書館による複製などが典型類型として置かれている。
RA 10372(2013年)は第184.1条に、視覚障害者・読字障害者専用の特殊フォーマットでの複製・頒布を認める号を追加した(LawPhil掲載のRA 10372本文)。これはマラケシュ条約の方向性に沿う改正である。
注 第184.2条は、これらの制限が著作物の通常の利用を妨げず、権利者の正当な利益を不当に害しない範囲で解釈されるべきことを求める(いわゆるスリーステップテスト)。列挙に当たれば無条件に自由、ではない。
5.4 第185条(フェアユース)
フィリピンは、アジアでは珍しく米国型のフェアユース(fair use)の一般条項を持つ。第185.1条は、批評・解説・報道・教授・学術・研究等の目的での利用を著作権侵害としないとし、4要素の総合判断基準を置く(要旨):
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| (a) | 利用の目的と性格(商業的か非営利の教育目的か 等) |
| (b) | 著作物の性質 |
| (c) | 利用された部分の量と実質性(全体との関係で) |
| (d) | 著作物の潜在的市場・価値に対する利用の影響 |
RA 10372により、デコンパイル(decompilation)がフェアユースに当たり得ることが条文上明示された(LawPhil掲載のRA 10372本文)。
注 条文が米国型であっても、フィリピンの裁判所の運用は米国判例と同一ではない。実務では「フェアユースがあるから大丈夫」と安易に判断せず、ライセンスを取る方が安全である。
5.5 侵害と救済(第216条、RA 10372改正)
第216条は、直接侵害に加えて、①侵害を知りつつ利益を得、かつ管理し得た者、②侵害活動を知りつつ誘引・惹起・実質的に寄与した者の責任を明文化した(二次的責任)。
法定損害賠償:最低5万ペソ。侵害者が善意(知らなかった)の場合は1万ペソ。技術的保護手段の回避や権利管理情報の改変が絡む場合は損害額が倍額になる。
IPOPHLは第7条(d)により、通報・申立に基づき、IP侵害活動を行う事業所へ営業時間内に立入検査する権限を持つ。
6. 地理的表示(GI)― 2026年時点の制度化状況
6.1 制度の土台
注 フィリピンにはGI単独法がまだない。IPOPHL 通達 第2022-022号「地理的表示に関する規則」(2022年)が運用の根拠である(2026-08-25 検証で通達番号を補記。 出典:分野資料「工芸と織物」§6.1。初稿は「2022年のGI規則」とだけ書き、番号を示していなかった)。対象は農産物、食品、ワイン・蒸留酒、繊維/衣料、手工芸品、工業製品など7区分。GI導入前は「団体商標(collective mark)」で代替されていた(Guimaras Mangoesは2017年に団体商標として出願)。
第20議会にはGIガバナンスに関する法案が4本係属中で、下院通商産業委員会が修正付きで可決済み(Advanced Television、2026年6月8日)。
6.2 登録済みGI(2026年8月時点で確認できたもの)
| GI | 品目 | 登録番号 | 登録日 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Guimaras Mangoes | 生鮮マンゴー | G/4/2023/00001 | 2023-05-13 | 登録番号ベースで国内産品の第1号。2026年7月にブリュッセル・マドリード・ベルリン・パリ・ハーグ向けの初の直接輸出を実施(IPOPHL、2026年7月29日) |
| Aklan Piña | パイナップル繊維の手織テキスタイル | G/4/2024/00007 | 2025-08-15 | 権利者:Aklan Piña & Indigenous Fibers Manufacturers and Traders Association Inc. |
| Alburquerque Asin Tibuok | 伝統製法の塩(ボホール) | 注番号要確認 | 2025-07-25 | 権利者:アルブルケルケ町。注 IPOPHL 一覧上、登録番号が Prosecco と重複表示されている(サイト側の表記ゆれとみられる) |
| T'nalak Tau Sebu | ティボリ族の手織アバカ布(南コタバト) | 注番号要確認 | 2026年3月4日 | 権利者:T'nalak Tau Sebu Inc.(レイク・セブのティボリ7協同組合)。2026年7月13日に登録証を正式交付(IPOPHL) |
(2026-08-25 検証で追記・修正。 初稿は Aklan Piña と Asin Tibuok の登録日・登録番号が空欄で、Guimaras を「GI制度下の第1号」とだけ書いていた。出典:分野資料「工芸と織物」§6.2(IPOPHL 登録簿)、「先住民と少数民族」§。)
注 「第◯号」という順位表現は使わない方が安全。 2025年9月の各紙は Aklan Piña を「フィリピン第3のGI産品」と報じたが、Asin Tibuok の登録日(7月25日)の方が早い。発表順と登録順が食い違うため、順位を書くなら「何の順か(登録日順か登録番号順か発表順か)」を必ず明示すること(分野資料「工芸と織物」§6.2 の警告と統一)。 注 上表の4件は「フィリピン国内産品のGI」である。IPOPHL 登録簿にはこのほか外国GI(コニャック、スコッチ・ウイスキー、パルミジャーノ・レッジャーノ、プロセッコ、コート・ド・プロヴァンス)が登録されており、「フィリピンのGI登録は4件」と書くと登録簿全体の件数と食い違う。「国内産品は4件」と書き分けること(2026-08-25 検証で追記)。
6.3 2026年の動き
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年4月 | IPOPHLがGI認証ロゴを導入(Newsbytes.PH、2026年4月28日)。バラコ(Barako)コーヒー、ピリナッツを次の登録候補として名指し(BusinessWorld、2026年4月28日) |
| 2026年5月 | フィリピンがイロイロで第1回ASEAN GIフォーラムを主催(Newsbytes.PH、2026年5月13日) |
| 2026年6月 | ボホールのUbi Kinampay(紫芋)がGI出願(BusinessWorld、2026年6月17日) |
| 2026年7月 | IPOPHLと農務省(DA)が農産物ブランド化で連携強化(IPOPHL、2026年7月30日) |
注 フィリピンのGI登録は「国内での登録」であり、EUなど輸出先での保護は別途手続が必要。Guimarasマンゴーの欧州向け出荷についても、EUレベルの正式GI登録がなされたかは本調査では確認できず=未確認。
7. 伝統的知識と先住民の権利(IPRA、RA 8371)
知財と並行して必ず確認すべきなのが先住民族権利法(Indigenous Peoples' Rights Act of 1997 / RA 8371)である。GI・素材調達・伝統文様の商業利用は、この法律と衝突しやすい。
| 条 | 内容(LawPhil掲載のRA 8371本文より) |
|---|---|
| 第32条 | Community Intellectual Rights。ICCs/IPs(先住民文化共同体/先住民)は自らの文化的伝統・慣習を実践し復興させる権利を持ち、国家はその文化の過去・現在・未来の表出を保存・保護・発展させる |
| 第33条 | 精神的・宗教的伝統、慣習、儀式を表明・実践・教授する権利、宗教的・文化的な場所を維持・保護・アクセスする権利 |
| 第34条 | Right to Indigenous Knowledge Systems and Practices(IKSP)。ICCs/IPsは自らの文化的・知的権利の完全な所有・管理・保護を認められ、科学・技術・文化的表現を管理・発展・保護する特別措置を求める権利を持つ 2026-08-25 に LawPhil 掲載 RA 8371 本文で第32〜35条の見出し・内容を直接確認済み(条番号の誤引用なし) |
| 第35条 | 生物・遺伝資源へのアクセス、およびその保全・利用・改良に関連する伝統的知識へのアクセスは、ICCs/IPsの自由な事前の情報に基づく同意(FPIC)がある場合に限り、祖先の土地・領域内で認められる |
注 実務上の意味:伝統文様(T'nalakのデザイン、Piñaの織り等)を商品に使う、あるいは在来種・薬用植物由来の素材を調達する場合、IP Codeの手続だけでは不十分で、NCIP(National Commission on Indigenous Peoples)を通じたFPIC取得が必要になり得る。GI登録も、コミュニティ側の合意形成が前提となる。
8. 模倣品・海賊版対策と特別301条
8.1 押収実績
| 年 | 模倣品押収額 | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年 | 410億ペソ(アパレル・靴・バッグが上位) | BusinessWorld、2025年2月6日 |
| 2025年1〜11月 | 292億ペソ | Inquirer.net、2025年12月15日 |
| 2025年通年 | 300億ペソ(執行件数は増加したが金額は減少) | Manila Bulletin、2026年2月16日 |
注 推計値と確定値の区別:これらは押収された模倣品の「市場価値換算」であり、正規品売上の逸失額ではない。金額の増減は執行の強度だけでなく、押収品の単価構成にも左右される。
8.2 特別301条報告書(USTR)での位置づけ
フィリピンは2026年の特別301条報告書でも監視リスト(Watch List)から外れ、13年連続の除外を達成した(Philstar.com 2026年5月3日、Inquirer.net 2026年5月2日、Newsbytes.PH 2026年5月4日)。2025年報告でも同様に除外(Philippine News Agency、2025年4月29日)。
注 ただし別枠の「悪名高い市場リスト(Notorious Markets List)」は別である。Greenhills Shopping Center(サンファン市)は2025年レビュー(2026年3月公表)でも掲載が続いた(GMA Network 2026年3月7日、Manila Bulletin 2026年3月4日)。偽ファッション品と電子機器が理由として挙げられている(BusinessMirror、2026年3月6日)。2026年4月時点では「次回は離脱の見込み」との報道もある(BusinessWorld、2026年4月20日)。
8.3 オンライン海賊版対策
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度 | IPOPHL Memorandum Order No. 2023-025に基づく任意的行政サイトブロッキング(Voluntary Administrative Site Blocking)。ISPの自発的協力が前提 |
| 実績 | 2024年ルール下で約30サイトをブロック(IPOPHLのUSTR提出資料、Newsbytes.PH 2025年10月23日) |
| ECプラットフォーム | Lazadaが侵害出品の85.5%、Shopeeが93.6%を削除 注(2026-08-25 検証)この2つの率は初稿に出典の記載がない。 文脈上は上行と同じ「IPOPHL の USTR 提出資料」由来と思われるが、集計期間・分母(通報件数か検知件数か)が不明=未確認。対外資料に引く場合は IPOPHL 原資料で期間と分母を確認すること |
| E-Commerce MOU | 署名企業が2025年に43社→108社に拡大。2026年7月にはD.I.D. Philippines、Pitsbike等の二輪部品メーカーが参加 |
| 司法 | DOJのIP関連事件の処理率は2024年で98% 注(2026-08-25 検証)出典の記載がなく未確認。 「処理率(disposition rate)」は分母の定義(新規受理件数か係属件数か)で大きく変わる指標であり、定義を書かずに引用しないこと |
| 関連法 | Internet Transactions Act(RA 11967)によるオンライン事業者規制 |
立法の方向:IPOPHLは「任意」ではなくIPOPHL自身が侵害サイトへのアクセスを遮断する直接権限を求めており、第20議会にサイトブロッキング権限拡大の法案が3本係属している(Advanced Television、2026年6月8日/Newsbytes.PH、2026年6月6日)。テオドロ・C・パスクア(Teodoro C. Pascua)IPOPHL長官は、インターネットの普及と消費者の変化がIP Codeの更新を要求していると述べている。
8.4 国際評価
フィリピンは2026年International IP Index(国際知財指数)で36位。海賊版対策と罰則の不足が指摘された(Inquirer.net、2026年4月15日)。順位自体は前年から横ばい(BusinessWorld、2026年3月27日)。
注 この指数は米国商工会議所系の民間調査であり、政府統計ではない。「世界○位」として引用する場合は必ず指数名と主体を明記すること。
9. 競争法:フィリピン競争法(RA 10667)とPCC
9.1 PCCの位置づけ
PCC(Philippine Competition Commission)は、RA 10667を執行する独立の準司法機関。M&A審査、競争事案の調査・裁定、制裁の賦課、経済・法律調査、意見書(advisory opinion)の発行を担う(PCC公式サイト)。
注 (2026-08-26 改正確認)RA 10667 の条文を恒久的に改正した共和国法は、2026年8月時点で確認できない。ただし一度だけ、他法による時限的な効力停止があった。 RA 11494(Bayanihan to Recover as One Act、承認 2020-09-11)第4条(eee) が、①同法施行から2年間、取引額500億ペソ(P50,000,000,000.00)未満の企業結合を RA 10667 第17条の強制届出の対象外とし、②同法施行から1年間、RA 10667 第12条の PCC 職権審査(motu proprio review)権限を停止した(LawPhil 掲載 RA 11494 本文で直接確認)。 この特例はいずれも既に失効しており、現在の実務には効かない。注ただし2020〜2022年に実行された案件の届出義務の有無を後から判断する場合には効くため、当時の案件を扱うときは必ず確認すること。 条の対応(混同防止)=RA 11494 第4条(eee) → RA 10667 第12条・第17条。「RA 10667 第4条(eee)」という条文は存在しない。
委員長はMichael G. Aguinaldo(元監査委員会=COA委員長。2023年1月にマルコス大統領が任命/ABS-CBN 2023年1月12日、GMA 2023年1月11日)。
PCCサイト掲載の累計実績(2026年8月時点):審査したM&A 286件、委員会決定 87件。
9.2 禁止行為
| 条 | 類型 | 扱い |
|---|---|---|
| 第14条 | 価格その他の取引条件の制限、入札における価格操作(カバービッド、入札抑制、入札順番制を含む) | 当然違法(per se) |
| 第14条 | 生産・市場・技術開発・投資の設定/制限/管理、市場分割(販売量、購入量、地域、商品類型による) | 合理の原則(競争を実質的に妨害・制限する場合に違法) |
| 第15条 | 支配的地位の濫用:略奪的価格(原価割れ販売)、参入障壁の設定、抱き合わせ、無関係な義務の押し付け、顧客間の差別価格、転売・再リースの制限、弱い立場の生産者への不当価格、消費者に不利益な生産制限 | 個別判断 |
注 第15条には「善意で競合の価格に合わせる場合」は略奪的価格に当たらないという除外がある。価格対抗そのものが違法になるわけではない。
9.3 合併・買収の届出閾値
PCCは2018年のPolicy Statement 18-01でSOP 50億ペソ/SOT 20億ペソを設定し、2019年3月1日以降はPSA(フィリピン統計庁)のGDP成長率推計に基づき毎年改定している。
| 適用期間 | SOP(当事者規模/Size of Party) | SOT(取引規模/Size of Transaction) |
|---|---|---|
| 2026年3月1日〜 | 91億ペソ | 38億ペソ |
| 2025年3月1日〜2026年2月28日 | 85億ペソ | 35億ペソ |
| 2018年3月20日〜(基準) | 50億ペソ | 20億ペソ |
(出典:PCC "Computing Merger Thresholds")
注 古い数字が広く流通している。日本語のM&A実務記事には「10億ペソ」(RA 10667第17条の法定原始基準)や「50億/20億ペソ」(2018年)を現行値として書いたものが残っている。毎年3月1日に更新されることを前提に、案件ごとに最新値を確認すること。
閾値を超える取引はクロージング前の届出が必要で、PCCは届出から30日(第1フェーズ)で審査する。2020年以降、PPP案件の合弁については届出免除の枠組みがあり、2026年6月には民間からの要望を受けてPPP関連の免除がさらに拡大した(Daily Tribune/BusinessWorld、2026年6月30日)。
9.4 制裁
| 区分 | 金額・内容(RA 10667) |
|---|---|
| 行政制裁金・初回違反 | 最大1億ペソ |
| 行政制裁金・2回目 | 1億ペソ以上2億5,000万ペソ以下 |
| 命令不遵守 | 1件あたり5万ペソ〜200万ペソ。45日経過後は日ごとに加算 |
| 虚偽・不正確な情報提供 | 最大100万ペソ |
| 刑事罰(第30条、当然違法型の合意) | 懲役2年〜7年+罰金5,000万ペソ以上2億5,000万ペソ以下 |
| リニエンシー(第35条) | カルテルを最初に通報した者に訴追免除または制裁金の減免。調査開始前・開始後の双方に適用され、保護の程度が段階的 |
| 構造的措置 | 差止命令、分割(divestiture)・組織再編、超過利潤の吐き出し(disgorgement) |
PCCは2026年2月に制裁強化を検討中と報じられ(BusinessWorld、2026年2月26日)、2026年5月に競争法違反の制裁金を引き上げた(Philstar.com、2026年5月23日)。注 引き上げ後の具体的水準は本調査では原典を確認できず=未確認。案件対応の際はPCCの委員会issuanceで確認すること。
10. 2025〜2026年のPCC主要案件
10.1 カルテル・入札談合
| 時期 | 案件 | 内容 |
|---|---|---|
| 2025年11月 | DPWH洪水対策事業の入札談合 | PCCがブラカン州の事業をめぐり契約業者およびDPWH幹部を告発(PNA、2025年11月14日)。同月19日に司法省(DOJ)へ送致(Philstar.com、2025年11月19日)。NBIによる家宅捜索、DPWH職員12名の6か月停職処分に発展(OneNews.PH、2025年12月3日) |
| 2026年1月 | 水補充ステーションの価格協定 | PCCが和解(settlement)を承認(SunStar、2026年1月27日) |
| 2026年7月3日 | ボラカイのダイビング業者カルテル | PCCがボラカイのスキューバダイビング協会と加盟39社に対し、価格協定を理由に総額217万ペソの制裁金(Inquirer.net、2026年7月3日/Daily Tribune、2026年7月3日は「40事業者」と報道)。協会そのものと個社の双方を対象にした点が特徴 |
| 2026年6月3日(報道) | セメント業界のカルテル調査が決着 | 2017年に元DTI次官 Victorio Dimagiba の申立てを端緒に PCC が調査を開始。対象は CeMAP(セメント製造者協会)および Cemex Holdings Philippines、Holcim Philippines、Republic Cement、Taiheiyo Cement Philippines(RA 10667 第14条・第15条の疑い)。同法第37条(c) の同意命令(Consent Order)で決着し、制裁金は4,000万ペソ(約71万米ドル)。コンプライアンス体制強化・社内規程見直し・競争法研修が条件で、違反すれば手続再開もありうる(MLex報道/PCC決定文書) |
| 2026年8月 | 入札談合検知ツール | PCCが政府調達での入札談合検知ツールの利用拡大を推進(Philippine Information Agency、2026年8月25日) |
注 業界団体は要注意。ボラカイ事件とセメント事件(CeMAP)が示すとおり、協会が推奨価格や最低価格を決める行為はper se違法になり得る。両事件とも「協会そのもの」と「加盟個社」の双方が対象になっている。日本企業が現地の業界団体に参加する場合、価格・数量・入札に関する情報交換を明確に禁止する内部規程が必要である。
注 (2026-08-25 検証で追記)初稿の §10.1 はセメント事件を落としていた。 分野資料「非金属鉱物と骨材」§3.4 に詳細があり、同一資料群内でPCCの主要事案の記載が食い違っていたため統一した。 制裁金水準について:セメント事件の4,000万ペソを「PCC史上最大」とする報道がある(MLex、2026年6月3日/分野資料「非金属鉱物と骨材」§3.4)。注 ただし何の順位か(同意命令による制裁金の額か、全処分を通じた最高額か)を報道は明示していない。本資料 §9.4 のとおり RA 10667 の行政制裁金の法定上限は初回1億ペソ・2回目2.5億ペソであり、4,000万ペソはその範囲内である。「史上最大」を対外資料に引く場合は、比較対象の範囲を必ず添えること。
10.2 M&A承認(2025〜2026年の例)
| 時期 | 案件 |
|---|---|
| 2025年5月 | GCashによるECPay買収(23億1,000万ペソ)を承認(BusinessWorld/Philstar.com、2025年5月16日) |
| 2025年12月 | AboitizによるCBK水力発電施設取得(Inquirer.net、2025年12月2日) |
| 2026年1月 | AP Møllerがアヤラ物流子会社の40%を取得(Philstar.com、2026年1月8日)/FPG・Mercantile Insuranceの損保合併(Inquirer.net、2026年1月29日)/AboitizによるPSALM発電資産取得 |
| 2026年3月 | DoubleDragonによるMerryMart株35%取得(Inquirer.net、2026年3月5日)/Lima Land・House of Investments案件(同3月6日)/Aboitiz・Yuchengcoのタルラック工業団地合弁 |
10.3 デジタル市場への適用
PCCは2026年2月、デジタルプラットフォームの市場調査結果を公表した(Newsbytes.PH 2026年2月20日、BusinessMirror 2026年2月24日)。
| 論点 | PCCの指摘 |
|---|---|
| データ集中 | MetaはInstagram・WhatsAppを含むエコシステム横断でデータを統合し、GoogleはGmail・Maps・YouTube等のデータを統合している |
| 参入障壁 | データの集中が新規参入者の市場アクセスを困難にしている |
| 消費者の選択 | 「take it or leave it」型のプライバシーポリシーで交渉余地がない |
| 消費者認識 | オンライン調査では、代替手段の乏しさと生活への深い統合により、データ収集のデメリットが見過ごされている |
PCCの提言:競争評価にデータプライバシーの観点を組み込む、デジタル経済に対応した競争法の立法的更新の検討、データポータビリティと相互運用性の検討(ただし規制が不十分だと漏えいリスクが増大すると警告)。
2026年8月にはコンサートチケット業界の市場調査を開始し、調査参加者を公募(PCC、2026年8月20日/MLex、2026年8月20日/Inquirer.net、2026年8月23日)。二次流通・独占的販売契約が論点とみられる。
10.4 中東紛争(2026年2月28日〜)の影響
2026年3月以降の原油供給の混乱と大幅な燃料価格上昇(BusinessWorld、2026年3月10日)を受け、競争法が政治的焦点になった。
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 2026年3月27日 | マルコス大統領が、中東の地政学的緊張に起因する原油高への緊急救済措置を優先すると表明 |
| 2026年4月9日 | 下院指導部(Miro Quimbo議員ら)が石油会社の価格協調(カルテル)疑惑の調査を要求(GMA Network/politiko.com.ph) |
| 2026年4月10日 | DOEのGarin長官が石油会社の「反競争的行動」の調査を要請。PCCは燃料市場を監視中と表明(GMA Network) |
| 2026年4月10〜11日 | DOE・ERC・PCCによる調査を求める声が拡大し、石油会社が下院に召喚(Inquirer.net/Manila Bulletin) |
| 2026年4月15日 | 「共謀とカルテル化の調査」が継続(Inquirer.net) |
注 2026年8月25日時点で、PCCが石油会社に対して正式な違反認定を行ったという確認は取れていない=未確認。市場監視(market monitoring)と正式調査(statement of objections等)は別段階であり、報道の「調査」という語を違反認定と読み違えないこと。
10.5 その他の制度整備(2025〜2026年)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年1月 | オンライン申告システムを稼働/LTFRB(陸運委員会)と公共交通の競争で協定/IRRIと稲作分野で協定 |
| 2026年2月 | PCC設立10周年フォーラム(マニラ) |
| 2026年5月 | 韓国の競争当局と競争法執行のMOU締結 |
| 2026年6月 | デ・ラ・サール大学(DLSU)でPCCアカデミックハブ事業開始 |
11. 実務チェックリスト(フィリピン進出企業向け)
| # | 確認事項 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 進出決定前に商標を出願したか(先願主義) | IP Code 第122条 |
| 2 | DAUの4つの期限をカレンダー管理しているか | IP Code 第124.2条/IPOPHL規則 |
| 3 | 実用新案と特許を同時に出そうとしていないか(禁止) | IP Code 第111条 |
| 4 | 特許は5年目からの年金納付を管理しているか | IPOPHL |
| 5 | 医薬品の場合、第22.1条(顕著な効力向上)と強制実施権リスクを織り込んだか | RA 9502 |
| 6 | 著作物の権利期間を「死後50年」で計算しているか | IP Code 第213条 |
| 7 | 営業秘密は契約+社内規程で守っているか(単独法なし) | Law.asia、2025年 |
| 8 | 伝統文様・在来素材を使う場合、FPICを取得したか | IPRA 第32〜35条 |
| 9 | M&Aの閾値はその年の3月1日改定後の値で判定したか | PCC |
| 10 | 業界団体での価格・入札に関する情報交換を禁じているか(per se違法) | RA 10667 第14条 |
| 11 | カルテルが疑われる場合、リニエンシー(第35条)の先着を検討したか | RA 10667 第35条 |
| 12 | EC出品の模倣品対策で、E-Commerce MOUの枠組みを使えるか確認したか | IPOPHL |
12. 主な出典
- LawPhil Project:RA 8293(知的財産法)、RA 10372(2013年改正)、RA 9502(安価医薬品法)、RA 8371(IPRA)、RA 10667(フィリピン競争法)本文
- IPOPHL公式サイト(ipophil.gov.ph):ニュース、商標・特許・実用新案・著作権の各解説、統計
- PCC公式サイト(phcc.gov.ph):合併閾値の計算、機関概要、市場調査の公募
- USPTO(2024年3月6日):IPOPHLのPCT ISA/IPEA指定
- ICLG "Trade Marks Laws and Regulations 2026 – Philippines"(2026年5月19日)
- Newsbytes.PH、BusinessWorld、Inquirer.net、Philstar.com、Manila Bulletin、GMA Network、Philippine News Agency、Daily Tribune、BusinessMirror、MLex、Advanced Television、Law.asia、Philippine Information Agency(各記事日付は本文に明記)