フィリピン労働法の実務 ― 雇用形態・解雇・法定給付・社会保険・外国人雇用
フィリピンで人を雇うときに、日本の常識がそのまま通じない領域が労働法である。特に「試用期間」「解雇」「非正規雇用」の3点は、日本と制度設計の思想が根本的に違う。本資料は労働法典(Labor Code, Presidential Decree No. 442)の条文と、DOLE(労働雇用省 / Department of Labor and Employment)の行政規則を軸に、2025〜2026年の最新状況まで含めて整理する。
1. 法源の地図 ― どこを見れば答えがあるか
| 階層 | 名称(原語) | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 法律 | 労働法典(Labor Code of the Philippines, PD 442, 1974) | 基本法。雇用形態・解雇・労使関係の骨格 |
| 法律 | 個別法(RA 11210 産休、RA 11165 在宅勤務、RA 11058 労働安全、RA 11861 ひとり親 等) | 労働法典を上書き・補完する |
| 大統領令 | PD 851(13か月給与)ほか | 給付の根拠 |
| 省令 | Department Order(DO)― 例:DO 147-15(解雇手続)、DO 174-17(請負)、DO 248-25(外国人雇用) | 実務の細目はほぼここ |
| 通達 | Labor Advisory(LA)― 例:LA 12-25(2026年の祝日賃金) | 年次の運用指示 |
| 判例 | 最高裁(Supreme Court)判決 | 条文より判例が実務を決める領域が広い |
注 条文番号が二系統ある。 労働法典は原番号(Art. 279 = security of tenure、Art. 282 = 解雇の正当事由 など)と、DOLEによる再番号付け後の番号(Art. 294 以降の系列)が併存して流通している。文献によって番号が違うので、番号だけで検索せず、条文見出し("Security of Tenure" "Termination by Employer" 等)で照合すること。契約書では見出しを併記するのが安全。
2. 雇用形態 ― 6類型と「みなし正規化」
労働法典 Art. 280(Regular and Casual Employment)と Art. 281(Probationary Employment)が起点になる(出典:ChanRobles Virtual Law Library 掲載 Labor Code 本文)。
| 類型 | 原語 | 定義の核心 | 期間 | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 正規 | regular | 使用者の通常の事業に「usually necessary or desirable」な業務に従事 | 無期 | 解雇は正当事由/許容事由がなければ不可 |
| 試用 | probationary | 正規化の基準を事前明示して評価する期間 | 最長6か月(Art. 281。注同条の「徒弟契約(apprenticeship agreement)による例外」は空洞化した──労働法典の徒弟章・学習者章〔Book Two, Title II, Ch.1〜2〕は RA 12063(EBET法)第36条により2024年11月7日に廃止され、現行の企業内訓練は RA 12063 の EBET 契約による。2026-08-26 改正確認。出典:LawPhil ra_12063_2024 第36条) |
6か月を1日でも超えると自動的に regular |
| プロジェクト | project | 特定の事業・工程に紐づき、終期が採用時に確定 | プロジェクト完了まで | 終期をあらかじめ書面で特定していないと regular 扱いになりうる |
| 季節 | seasonal | 季節性のある業務 | シーズン単位 | 反復雇用されると regular seasonal になりうる |
| 臨時 | casual | 通常の事業に必要でない業務 | ― | 1年勤務すると当該業務について regular(Art. 280) |
| 有期 | fixed-term | 条文に明文なし。判例(Brent 法理)で限定的に許容 | 契約期間 | 注 労働法典に根拠条文がない。対等な交渉力があり、正規化回避目的でないことが必要 |
Regularization(正社員化)の実務
- 試用期間は 6か月が上限(Art. 281)。これは「原則6か月」ではなく 上限 である。
- 試用期間の開始時に「正規化の基準(reasonable standards)」を書面で本人に通知していないと、判例上は最初から regular とみなされる扱いになる。入社初日の書面交付が最大の防御線。
- 6か月経過後も就労させれば regular。「更新して延長」は原則できない。
- 注 日本流の「試用期間3か月+延長3か月」は、フィリピンでは通算6か月に収まっている限り可能だが、合計6か月を超えた瞬間に正規化する。「様子を見てもう半年」は不可。
「エンドー(endo)」=反復短期契約の規制
- endo は "end of contract" の俗称。5か月ごとに契約を切って正規化を免れる慣行を指す。
- 規制の中心は DOLE Department Order No. 174, series of 2017(DO 174-17。2017年3月16日発出・4月2日施行、DO 18-A-11 を廃止)=労働法典 Art. 106〜109(請負・下請)の施行規則。DOLE 登録要件として非建設業は払込資本500万ペソ以上が求められる(2026-08-25 検証で追記。 出典:分野資料「最低賃金と労働」§9-2)。労働法典 Art. 106 は、資本・設備を持たない仲介者を通じた labor-only contracting(人材供給型請負) を禁じ、その場合の仲介者は「使用者の代理人」とみなされ、元請が直接の使用者として責任を負うと定める。同条は請負労働者の賃金未払について元請と請負業者の jointly and severally liable(連帯責任) も定める。
- 注 DO 174-17 は発出当時から「合法的な請負は残る」「endo は生き延びる」と労働側に批判された(出典:Rappler、Inquirer.net 2017年3月〜5月報道)。つまり 請負そのものは禁止されていない。禁止されるのは labor-only contracting である。
- 立法での全面禁止(Security of Tenure Bill / anti-endo bill)は2026年8月時点でも成立していない(2019年にドゥテルテ大統領が拒否権を行使、第19議会でも不成立)。労働界は繰り返し成立を求めている(出典:Philippine News Agency、TUCP 報道)。注 「フィリピンは endo を法律で禁止した」という説明は誤り。行政規則レベルの規制にとどまる。
- 注 第20議会(2025年〜)に係属中の法案番号は、資料群内で食い違っている。 分野資料「最低賃金と労働」は §0-7 で「HB 88が審議中」、§9-3 で「下院法案2604号(HB 2604)等として再提出」と、同一資料内で異なる番号を挙げている。どちらも消さずに併記する。注「出所(同一資料内でも節)により法案番号が異なる」ため、議案番号を引用する場合は下院・上院の法案検索で必ず原典に当たること(2026-08-25 検証で併記化)。
3. 解雇 ― 正当事由・許容事由と二重の適正手続
フィリピンは security of tenure(雇用保障) が憲法・労働法典の原則。Art. 279 は「使用者は、正当事由がある場合または本編で認められる場合を除き、従業員を解雇してはならない」と定める。
Just Causes(正当事由 / 従業員の帰責事由)― Art. 282
| # | 事由(原語) | 概要 |
|---|---|---|
| a | serious misconduct or willful disobedience | 重大な非行、業務命令への意図的不服従 |
| b | gross and habitual neglect of duties | 重大かつ常習的な職務怠慢 |
| c | fraud or willful breach of trust | 詐欺、信任の意図的裏切り(loss of trust and confidence) |
| d | commission of a crime against the employer or his family | 使用者等に対する犯罪 |
| e | analogous causes | 上記に類する事由 |
正当事由による解雇には 退職金(separation pay)の支払義務がない。 注 (c) の「信頼喪失」は最も濫用されやすく、最高裁は繰り返し厳格に絞っている(例:Inquirer.net 2025年10月17日「Bad feng shui is not loss of trust and confidence」=風水が悪いことは信頼喪失に当たらない、とする論評記事)。
Authorized Causes(許容事由 / 経営上の理由)― Art. 283・284
| 事由 | 原語 | 予告 | 退職金の法定額 |
|---|---|---|---|
| 省力化設備の導入 | installation of labor-saving devices | 従業員本人とDOLEに1か月前の書面通知 | 1か月分、または勤続1年につき1か月分の高い方 |
| 冗員 | redundancy | 同上 | 同上(1年につき1か月分) |
| 人員整理 | retrenchment to prevent losses | 同上 | 1か月分、または勤続1年につき0.5か月分の高い方 |
| 事業所閉鎖 | closing or cessation of operation | 同上 | 同上(1年につき0.5か月分) |
| 疾病 | disease(Art. 284) | ― | 1か月分、または勤続1年につき0.5か月分の高い方 |
通知は「従業員宛」と「DOLE宛」の2通が必要。DOLE への届出(RKS Form 5 系)を落とすと手続違反になる。 注 「1か月前通知」であって「1か月分の給与で代替(payment in lieu of notice)」は労働法典に明文がない。日本や欧米の解雇予告手当の感覚を持ち込まないこと。
二重の適正手続(Two-Notice Rule)
正当事由(just cause)による解雇では、手続の履践が独立して要求される。DOLE Department Order No. 147-15 が基準を定める。
| 段階 | 内容 | 実務ポイント |
|---|---|---|
| ① 第1通知 | Notice to Explain(NTE)/ show-cause memo。具体的な事実・違反した規則・想定される処分を記載 | 「抽象的な非違」の記載は無効。日時・行為を特定する |
| ② 弁明の機会 | ample opportunity to be heard。書面弁明+必要に応じ administrative hearing / conference | 合理的な猶予(実務上5暦日程度が目安として使われる)を与える |
| ③ 第2通知 | Notice of Decision/termination notice。認定事実と結論を記載 | ①の記載事由を超えた理由で解雇しない |
立証責任は使用者側にある。 解雇の有効性を証明できなければ不当解雇になる。 注 実体(正当事由)が有ることと、手続(two-notice)を踏むことは別要件。 実体はあるが手続を欠いた場合、判例法理では解雇自体は有効だが、使用者は名目的損害賠償(nominal damages)を負う。水準は3万ペソ前後が実務上の目安とされる(2026-08-25 検証で補記。 出典:分野資料「最低賃金と労働」§6-2「判例で3万ペソ前後」)。注 ただし正当事由(just cause)と許容事由(authorized cause)で相場が異なり、許容事由型の手続違反ではより高額が命じられる例があるとされる。個別判決の事件番号・金額は本セッションで一次確認できていないため、具体案件では最新判例を必ず当たること。
不当解雇(illegal dismissal)の救済
- 原則は 復職(reinstatement)+バックウェイジ(backwages)。労働法典 Art. 279(security of tenure、RA 6715 による改正後)が根拠。
- バックウェイジは解雇時から実際の復職時まで、full backwages として積み上がる。係争が長期化すると企業側の負担が雪だるま式に増える点が最大のリスク。
- 復職が現実的でない場合(strained relations 等)は、復職に代えて separation pay in lieu of reinstatement が命じられる運用。
- 労働仲裁官(Labor Arbiter)の復職命令は、上訴中も immediately executory(即時執行)とされる点が日本と大きく違う。
4. 紛争解決 ― NLRC と DOLE の管轄
| 機関 | 原語 | 扱う事件 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| DOLE 地方事務所 | DOLE Regional Office | SEnA(Single Entry Approach)=あらゆる労働紛争の義務的調停・仲介の入口 | RA 10396(Art. 228:「労働・雇用から生じるすべての争点は義務的な conciliation-mediation に付される」) |
| DOLE 地方局長 | Regional Director | 少額金銭請求:1人あたりP5,000以下かつ雇用関係が終了しているケース(Art. 129) | Art. 129 |
| DOLE 労働長官 | Secretary of Labor | 臨検・是正命令権(visitorial and enforcement power)。事業所・記録へのアクセス、compliance order の発出(Art. 128) | Art. 128 |
| 労働仲裁官 | Labor Arbiter(NLRC所属) | 不当労働行為、解雇紛争、P5,000超の金銭請求、損害賠償 等の第一審(Art. 217) | Art. 217 |
| NLRC | National Labor Relations Commission(国家労働関係委員会) | 労働仲裁官の決定への上訴審。上訴期間は10暦日(Art. 223) | Art. 223 |
| 国家調停仲介委員会 | NCMB(National Conciliation and Mediation Board) | ストライキ予告(notice of strike)の受理、調停 | Art. 263 |
金銭請求を伴う上訴には、認容額相当の保証(appeal bond)の供託が必要。根拠条文は Art. 223(Appeal/再番号付け後 Art. 229) であり、「金銭の裁定を伴う判断について、使用者による上訴は、NLRC が認定した保証会社の発行する現金または保証状(cash or surety bond)を、上訴対象の判断における金銭裁定額に相当する額で供託して初めて完成する(perfected)」と規定する。これを落とすと上訴自体が受理されない。 (2026-08-25 検証で修正。 初稿は根拠を「Art. 128」としていたが、Art. 128 は労働長官の臨検・是正命令に対する不服申立ての保証を定めるもので、NLRC への上訴保証は Art. 223 である。出典:ChanRobles 掲載 Labor Code Book V, Art. 223 原文を直接確認。) 同じ Art. 223 が、①上訴期間 10暦日、②労働仲裁官の復職命令は上訴中も即時執行("The posting of a bond by the employer shall not stay the execution for reinstatement")を定める。
2026年の動き
- 2026年6月18日、DOLE が「Labor Attorneys' Office」(労働弁護士室)の設置を発表。労働者への無料法的支援を担う(出典:DOLE、Philippine News Agency、Inquirer.net、BusinessWorld、2026年6月18日)。
- 2026年5月に就任した Francis Tolentino 労働雇用相(acting)は、無料法律支援と ギグワーカー向け24時間ホットライン を優先課題に掲げた(出典:SunStar 2026年5月26日、ABS-CBN 2026年5月25日)。
- 注 使用者側から見ると、2026年は「労働者が提訴しやすくなる方向」に制度が動いている。書面の整備コストを惜しむと不利になる。
5. 賃金 ― 2026年最大の実務論点は「NCR賃金改定の停止」
フィリピンの最低賃金は全国一律ではなく地域別。根拠は RA 6727(賃金合理化法/Wage Rationalization Act, 1989) で、17の地域三者構成賃金生産性委員会(RTWPB) が Wage Order を発出し、NWPC(DOLE傘下)が統括する。賃金令は一般紙への公告から15日後に発効する。 注 「17」と「18」は矛盾ではない。 行政区画としての地方(Region)は2024年6月のネグロス島地方(NIR)復活で18だが、賃金決定を行う RTWPB は17である(NIR には賃金委員会が未設置で、行政命令264-2025によりネグロス西部は RTWPB VI、ネグロス東部・シキホールは RTWPB VII が継続管轄)。「地方数」なのか「賃金委員会数」なのかを必ず書き分けること(2026-08-25 検証で追記。 出典:分野資料「最低賃金と労働」§3、「地理と行政区画」§9)。 注 適用の基準は「労働者の住所」ではなく「就業場所(place of work)」の地域賃率。 マニラ在住でカビテ工場勤務なら CALABARZON 賃率が適用される。 労働者が「最低賃金未満で構わない」と合意することはできない。 契約書に署名していても、雇用主は差額(wage differential)の支払義務を負う。未払賃金の時効は原則3年(労働法典 Art. 306)。
2026年 NCR(首都圏)の賃金改定と裁判所による差止め
賃金令 NCR-27 の中身(金額)
| 時期 | 非農業 | 農業・小売サービス(15人以下)・製造(10人未満) |
|---|---|---|
| 2025年7月18日〜(NCR-26) | 695ペソ | 658ペソ |
| 2026年7月25日〜(NCR-27 第1段/+60ペソ) | 755ペソ | 718ペソ |
| 2027年1月20日〜(NCR-27 第2段/+25ペソ) | 780ペソ | 743ペソ |
(2026-08-25 検証で追記・修正。 出典:NWPC 掲載の賃金令 NCR-27/分野資料「最低賃金と労働」§2-1、「会社設立と起業の実務」§末尾、「財閥・企業グループ」横断確定値表 #3 と一致。)
経緯
| 日付 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年6月23日 | RTWPB-NCR が Wage Order NCR-27(2段階合計+P85)を承認。使用者側委員2名は反対の意思表示(dissent)を付したまま署名 | NWPC |
| 2026年6月30日 | Tolentino 労働相が NCR の賃上げを発表("historic") | DOLE |
| 2026年7月9日 | The Philippine Star に公告(RA 6727 により公告の15日後に発効) | NWPC、PNA |
| 2026年7月25日 | 第1トランシェ P60 が発効(695 → 755ペソ)。対象は最低賃金労働者約110万人 | DOLE、NWPC |
| 2026年7月30日 | パシッグ地方裁判所(RTC)第152支部が20日間の一時差止命令(TRO)を発出、第1段を停止。申立人は建設会社 Readycon Trading and Construction Corp. と R-II Builders, Inc. | BusinessWorld、ABS-CBN、GMA Network |
| 2026年8月1〜2日 | DOLE は TRO に異議。「労働者は賃上げを維持する」と表明 | The Manila Times、GMA Network |
| 2026年8月4日 | 上院が TRO の早期解除を求める決議を採択 | DOLE |
| 2026年8月12日 | 労働側(NAGKAISA、NFL 等)が最高裁に職権濫用是正の申立(Certiorari and Prohibition) | BusinessWorld、Inquirer.net |
| 2026年8月13日 | 同支部が予備的差止命令(writ of preliminary injunction)を発付。第1段の+60ペソが引き続き停止。(=TRO 期間満了後も差止が継続する状態になった) | BusinessWorld、Inquirer.net |
| 2026年8月17日 | Tolentino 労働相が管轄違いを理由に再考申立て(motion for reconsideration)を提出 | Inquirer.net、DOLE |
| 2026年8月25日時点 | 差止は依然として効力を維持。最高裁で係属中 | The Manila Times |
(2026-08-25 検証で修正。 初稿は①賃金令の承認日を「2026年7月1日」としていたが正しくは 6月23日承認・7月9日公告、②2026年8月13日の予備的差止命令に全く触れていなかった、③8月17日の申立人を「DOLE」と一般化していた。出典:分野資料「最低賃金と労働」§2-1・§2-2、「IT-BPM産業」§、「会社設立と起業の実務」§、「繊維・アパレル産業」§2-5 と照合のうえ統一。)
争点は労働法典 Art. 126:「いかなる裁判所・審判所も、NWPC および地域賃金委員会の手続に対して差止命令(injunction / TRO)を発してはならない」。労働側は地裁命令が patent nullity(明白な無効) だと主張し、使用者側は宣言的救済(declaratory relief)の申立てという形式をとった。地方裁判所が賃金令を止めた事例はこれが初めてとされる(The Manila Times)。
注 差止の供託金額は出所により数値が異なる。 7月30日の TRO については 100万ペソ(BusinessWorld/分野資料「最低賃金と労働」§2-2)、8月13日の予備的差止については 100億ペソ(GMA Network/分野資料「繊維・アパレル産業」§2-5)と報じられている。裁判所公告・決定原文に到達できず未確認。注「出所により数値が異なる」ものとして扱い、実務では引用しないこと。
注 2026年8月25日時点で、NCR の適用賃金水準(695ペソか755ペソか)は法的に確定していない。 賃金台帳・給与計算を確定させる前に、必ず NWPC / RTWPB-NCR の最新告示と裁判所の状況を確認すること。 - 注 差止は「支払ってはならない」という命令ではない。755ペソを支払うことは自由である。 - 注 逆に、差止が後日取り消されれば 7月25日に遡って差額支払義務が生じるリスクがある。保守的な実務は「755ペソで支払い、755ペソを前提に予算を組む」。695ペソに据え置くなら遡及分の引当てを行うこと。 - 日額 P780 は「NCR-27 第2段の到達額(2027年1月20日予定)」であって、2026年の水準ではない。(2026-08-25 検証で修正。 初稿は「報道では改定後の到達水準を日額 P780 とするものがあるが…未確認」としていたが、P780 は第2段の予定額であることが NWPC 掲載の賃金令および資料群6本で一致確認できた。) - NCR-27 の免除(exemption)申請期限は 2026年9月22日(公告から75日/分野資料「最低賃金と労働」§5)。被災企業・資本欠損企業は検討の余地がある。
家事労働者(kasambahay)は別系統:賃金令 NCR-DW-06 月額7,800ペソ(2026年2月7日〜)。上記の差止の対象外(RA 10361 Batas Kasambahay)。
社会保険の負担(RA 10361 第30条): 勤続1か月以上の家事労働者は SSS・PhilHealth・Pag-IBIG に加入させる義務があり、掛金は原則として雇用主が全額負担する。注ただし月5,000ペソ以上を受け取る家事労働者は、法定の按分負担分を自ら支払う。(2026-08-26 訂正 ── 本資料群の一部に「月5,000ペソ以上を払う場合に雇用主が全額負担」という条文と逆の記述があった。出典:LawPhil https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2013/ra_10361_2013.html 第30条)。NCRの月7,800ペソは5,000ペソを超えるので、首都圏では労働者負担分が生じるのが原則。罰則は第40条=1万〜4万ペソ。
13か月給与(13th Month Pay)― PD 851
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | Presidential Decree No. 851(1975年12月16日) |
| 金額 | 暦年の基本給の 1/12(1年未満は在籍月数で按分)。手当・残業代・祝日割増・夜勤手当は基本給に含めない |
| 支払期限 | 毎年12月24日まで(猶予期間なし)。分割する場合は 5月31日までに50%、12月24日までに残り50% |
| 対象 | 暦年中に1か月以上勤務した rank-and-file employee(法律上の管理職・官公庁職員は除外) |
| 中途退職者 | 在籍月数に応じた日割り(pro-rated) |
| DOLE への報告 | 翌年1月15日までに compliance report を提出 |
| 課税 | 13か月給与+その他ボーナス合計で年90,000ペソまで非課税(TRAIN法/RA 10963)。超過分は課税 |
(2026-08-25 検証で追記。 支払期限の分割ルール・DOLE 報告期限・90,000ペソ非課税枠は、分野資料「最低賃金と労働」§7 と照合して補完。注 初稿の「半額を学年開始前」は口語的説明にすぎず、実務上の期日は 5月31日 である。)
注 PD 851 の原文には「月P1,000以下の従業員」という所得上限の文言が残っている(LawPhil/ChanRobles 掲載の PD 851 第1条を直接確認)が、現在の実務では給与額にかかわらず全ての rank-and-file employee に支給されている。この上限を撤廃したのは Memorandum Order No. 28, s. 1986(1986年8月13日) とされる(2026-08-25 検証で補記)。注 ただし本セッションでは官報・LawPhil のいずれからも MO 28 の原文に到達できず(Official Gazette は CAPTCHA、LawPhil は該当URLなし)=一次確認は未了。条文原文だけを見て「高給者は対象外」と判断しないこと。 注 13か月給与はボーナス(賞与)ではなく法定給付。業績連動ではないし、支給しない裁量もない。
祝日賃金(2026年)
- 2026年の祝日は Proclamation No. 1006(2025年9月4日、大統領府 PCO)で指定。
- 支払ルールは DOLE Labor Advisory No. 12-25(2025年10月14日付、出典:Grant Thornton Philippines)が「regular holidays / special (non-working) days / special (working) day」の別に定める。
- 労働法典 Art. 94:祝日は通常日給を支給。祝日に就労させた場合は 通常賃率の2倍(twice his regular rate)。従業員10人未満の小売・サービス事業所は適用除外。
6. 休暇 ― 法定一覧
| 休暇 | 原語 / 根拠 | 日数 | 実務ポイント |
|---|---|---|---|
| 有給奨励休暇 | Service Incentive Leave(Art. 95) | 年5日(勤続1年以上) | 注 これがフィリピンの「年次有給休暇」の法定最低。日本の年10日〜20日とは全く違う。同等以上の休暇を既に与えている場合、および従業員10人未満の事業所は適用除外。未消化分は金銭換算(commutation)義務あり(2026-08-25 検証で追記/分野資料「最低賃金と労働」§6-1) |
| DV被害者休暇 | RA 9262(VAWC法) | 10日(有給) | 女性被害者。(2026-08-25 検証で追記。初稿は法定休暇一覧から脱落していた) |
| 女性特別休暇 | RA 9710(女性のマグナカルタ) | 2か月(有給) | 婦人科疾患の手術。勤続6か月以上。(2026-08-25 検証で追記。同上) |
| 産休 | RA 11210(105-Day Expanded Maternity Leave Law, 2019) | 105日(全額支給)。無給で30日延長可。流産・緊急中絶は60日 | 正常分娩・帝王切開を問わず105日 |
| 産休(ひとり親加算) | RA 11210 §3 | +15日(全額支給) | Solo Parents' Welfare Act 該当者。注RA 11210 §3 の条文は「RA 8972 に定めるひとり親」を参照しているが、RA 8972 は RA 11861(拡大ひとり親福祉法、2022-06-04 に署名なしで法律化)により改正済み。したがって該当者の範囲は RA 11861 の拡大定義(扶養児童の年齢上限18歳→22歳、低技能OFWの配偶者・家族〔12か月以上不在〕、祖父母・適格後見人を含む)で読む(2026-08-26 改正確認。出典:LawPhil ra_11861_2022) |
| 産休の分与 | RA 11210 §6 | 最大7日を父親または代替養育者に譲渡可(4親等内) | 父親の paternity leave とは別枠 |
| 父親休暇 | RA 8187(Paternity Leave Act, 1996) | 7日(全額支給)。最初の4回の出産まで | 法律上の配偶者と同居している既婚男性が要件。流産も「delivery」に含む |
| ひとり親休暇 | RA 11861 第8条(Expanded Solo Parents Welfare Act。2022-06-04 に署名なしで法律化=lapsed into law。注「ドゥテルテ大統領が署名」は誤り。2026-08-26 検証、出典:LawPhil ra_11861_2022) |
年7労働日(有給)、勤続6か月以上。繰越不可・買取不可(forfeitable and noncumulative) | 柔軟勤務・テレコミューティングの優先配慮も規定。雇用条件におけるひとり親差別を禁止 |
| SSS産休給付 | RA 11210 §5(a) | ― | 出産の属する半期の直前12か月に3か月以上の拠出が要件。使用者が30日以内に立替払いし、SSSに償還請求する |
2026-08-25 検証(条文番号の照合):RA 11210(2019年2月20日承認) の条番号を LawPhil 掲載本文で直接確認した。§3 Grant of Maternity Leave(ひとり親への+15日全額支給)、§5(a)(SSS 産休給付=出産の属する半期の直前12か月に3か月以上の拠出)、§6 Allocation of Maternity Leave Credits(最大7日を父親等に配分可)— いずれも本表の記載どおりで誤引用はない。
注 病気休暇(sick leave)と休暇(vacation leave)は労働法典上の法定義務ではない。 多くの企業が SIL 5日を上回る VL/SL を任意に付与しているが、これは契約・就業規則・CBA に基づく。求人競争上は「VL 15日+SL 15日」といった水準が事実上の相場になっている業界もあるが、法定ではない点を混同しないこと。
7. 社会保険 ― 2026年の料率
| 制度 | 原語 / 根拠法 | 2026年の料率 | 対象報酬の上限・下限 | 労使負担 |
|---|---|---|---|---|
| 社会保障 | SSS(Social Security System)/RA 11199 | 15%(2025年1月から。RA 11199 の段階的引上げの最終段階)。2026年は据置き。SSS は「2027年まで拠出増なし」と明言(2026年2月26日) | 月額給与クレジット(MSC)上限35,000ペソ/下限5,000ペソ | 従業員5%/雇用主10% |
| 医療保険 | PhilHealth/RA 11223(UHC法)第10条 | 5%(注RA 11223 第10条の法定表は2024年5.00%・2025年5.00%で終わり、条文に「2026年」の行はない。2026年の5%はPhilHealthの2026年5月6日アドバイザリーによる据置き。2026-08-26 条文精査で補正。出典:LawPhil ra_11223_2019 第10条/PIA報道) |
上限 月100,000ペソ/下限 月10,000ペソ | 労使折半(各2.5%) |
| 住宅積立 | Pag-IBIG Fund(HDMF)/RA 9679、HDMF Circular 460 | 2%+2%(月1,500ペソ以下の従業員は本人1%) | 最大積立給与(MFS)10,000ペソ | 各2% |
| 労災補償 | EC(Employees' Compensation)/労働法典 | 定額 | ― | 雇用主のみ 月10または30ペソ |
(2026-08-25 検証で修正。 初稿は Pag-IBIG の料率・上限、SSS の MSC 上下限、PhilHealth の所得上限を「未確認」としていたが、分野資料「最低賃金と労働」§8-1 に一次情報ベースの記載があり、同一資料群内で片方だけ「未確認」と書くのは食い違いであるため統一した。出典:分野資料「最低賃金と労働」§8-1。注 Pag-IBIG 公式サイトは本セッションでも CAPTCHA で直接確認できていないため、実際の給与計算前には Pag-IBIG 公式 Circular で必ず再確認すること。)
上限に達した高給者の月額(1名あたり)
| 制度 | 従業員負担 | 雇用主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| SSS(MSC 35,000。うちWISP部分を含む) | 1,750ペソ | 3,500ペソ | 5,250ペソ |
| PhilHealth(月10万ペソ以上) | 2,500ペソ | 2,500ペソ | 5,000ペソ |
| Pag-IBIG | 200ペソ | 200ペソ | 400ペソ |
| EC | ― | 30ペソ | 30ペソ |
| 合計 | 4,450ペソ | 6,230ペソ | 10,680ペソ |
SSS の負担は使用者側が大きい(15%のうち 10%が雇用主・5%が従業員)。具体の月額拠出額は Monthly Salary Credit(MSC)テーブルで決まるため、SSS の contribution table(https://www.sss.gov.ph/sss-contribution-table/ )を必ず参照する。 注 MSC 20,000ペソ超の部分は WISP(Workers' Investment and Savings Program/MPF)として区分される。 分野資料「税制の各論」§3-5 は PwC に依拠して従業員負担上限を「SSS 1,000ペソ+WISP 750ペソ」と分けて表示しており、合計1,750ペソで本表と一致する(2026-08-25 相互照合)。表記が違うだけで矛盾ではない。 注 雇用主の実効的な人件費上乗せは、社会保険+13か月給与(基本給の約8.3%)+SIL+祝日手当で、ざっくり基本給の20〜25%増と見るのが実務感覚(分野資料「最低賃金と労働」§8-2)。これは目安であって確定値ではない。 注 納付期限は制度ごとに違う。 Pag-IBIG は翌月10日まで。SSS・PhilHealth は雇用主番号の末尾によって期日が異なる。
2026年の社会保険まわりの動き(中東紛争の影響)
- SSS は2026年2月26日、年金10%引上げと拠出据置きを発表。さらに2026年の年金引上げを6月に前倒し実施し、約60億ペソを前倒し支給(出典:PIA 2026年5月27日、Manila Bulletin 2026年6月2日)。9月にもう一段の10%引上げが予定される(GMA Network 2026年2月26日)。
- 注 これらは2026年2月28日に始まった中東紛争に起因する物価高への緩和策として説明されており、政府は関連の救済措置に600億ペソを配分したと報じられている。
- 2026年8月には、政府の contract of service(COS)/job order(JO)労働者について SSS・PhilHealth・Pag-IBIG への任意加入を認める措置が報じられた(出典:BusinessWorld 2026年8月14日、Philstar 2026年8月14日、Baguio Herald Express 2026年8月17日)。注 これは政府機関の非正規職員が対象であり、民間企業の正規従業員の強制加入義務には影響しない。
8. 労働組合・団体交渉・ストライキ
団結権と交渉代表
| 項目 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 団結権 | Art. 243 | 商工業・農業の従業員は労働組合を結成・加入・支援する権利を有する |
| 交渉代表 | Art. 255 | 従業員の過半数が指名・選出した労働組合が排他的交渉代表(exclusive bargaining representative) |
| 認証選挙 | Art. 256(組織済)/ Art. 257(未組織) | CBA 満了前60日間(freedom period)に実施。申立には全従業員の25%以上の支持が必要 |
| 不当労働行為 | Art. 248(使用者側)/ Art. 249(組合側) | 団結権への干渉、組合員であることを理由とする差別的採用、CBA違反などを禁止 |
ストライキの要件(Art. 263)― 一つでも欠けると違法スト
| # | 要件 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | ストライキ予告 | 団体交渉決裂(deadlock)は30日前、不当労働行為(ULP)は15日前に NCMB へ notice of strike を提出 |
| 2 | 冷却期間 | 上記期間中、当局が調停・仲介を尽くす(cooling-off period) |
| 3 | スト権投票 | 当該交渉単位の組合員総数の過半数の賛成。秘密投票による |
| 4 | 投票結果の報告 | 予定ストライキの7日前までに投票結果を当局へ報告(7-day strike ban) |
| 5 | 禁止行為の回避 | Art. 264:交渉・予告・スト権投票を経ないスト、管轄引受後のスト、暴力行為への参加等は禁止。使用者側の strike-breaker 雇用も禁止 |
労働長官の管轄引受(assumption of jurisdiction)― Art. 263(g)
国益に不可欠な産業(industry indispensable to the national interest)の労働争議について、労働長官は管轄を引き受け、または NLRC に強制仲裁のため移送できる。その効果として、予定・進行中のストライキ/ロックアウトは自動的に差し止められる。
2026年の労使関係トピック
- 2026年2月20〜21日、ルソンの大手飲料メーカー複数工場で CBA 交渉が妥結し、DOLE が複数地域にまたがるストライキを回避したと報じられた(出典:DOLE、Manila Bulletin)。
- 注 一方で2026年7月10日、San Miguel の800人規模の大量解雇が「組合権への打撃」として報じられている(出典:Bulatlat)。経営環境の悪化局面では retrenchment と組合対立が同時に起きやすい。
9. 在宅勤務(RA 11165)と柔軟勤務
RA 11165(Telecommuting Act、2018年12月20日承認)の要点:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 「telecommunications および/またはコンピュータ技術を用いた、代替的な就業場所での勤務」 |
| 公平待遇(parity) | 在宅勤務者は出社勤務者と同一の賃金率・給付・機会を受ける。研修・キャリア開発・団体交渉権へのアクセスも同等 |
| 孤立の防止 | 使用者は同僚との定期的な面会機会を確保する義務 |
| 合意事項 | 労働時間、最低勤務時間、時間外賃率、休日、休暇給付を書面で定める。労働基準の最低線を下回れない |
| 位置づけ | 恒久法。ただし §8「Telecommuting Pilot Program」は「DOLE は特定産業において3年を超えない期間の在宅勤務パイロット事業を実施・維持する」と別途規定(2026-08-25 に LawPhil 掲載 RA 11165 本文で全12条の構成と §8 の見出し・文言を直接確認。条番号の誤引用なし) |
2026年:オイル価格高騰下の在宅勤務
- 2026年3月18日、DOLE は民間セクターに対し、油価高騰を受けた柔軟勤務(flexible work arrangements)の検討を「推奨」した(出典:Human Resources Online)。
- ただし2026年3月13日、DOLE は柔軟勤務の「義務化」を否定。2026年7月20日にも「WFH の実施・再開は使用者の裁量」と改めて表明した(出典:DOLE 発表)。
- 注 したがって2026年時点で、民間企業に在宅勤務の実施義務はない。 「政府が在宅勤務を命じた」という理解は誤り。実施する場合は RA 11165 の書面合意と待遇同等原則が適用される。
10. 職場の安全衛生(RA 11058)
RA 11058(OSH Standards Law/労働安全衛生基準の遵守強化および違反に対する罰則に関する法律、2018年8月17日成立)の要点:
注 施行規則は2025年に全面改定されている。 従来の DO 198-18 は、DOLE Department Order No. 252, series of 2025(DO 252-25、2025年5月16日施行) に置き換わった(2026-08-25 検証で追記。 出典:分野資料「最低賃金と労働」§0-10・§16-2・§18表#10。初稿は RA 11058 の本体規定のみを記載し、現行 IRR に一切触れていなかった)。社内の安全衛生規程が「DO 198-18」を引用したままなら、参照先の差し替えが必要である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用者の義務 | 「危険な状態のない就業場所を提供する」。全労働者への安全教育・オリエンテーションの実施 |
| 労働者の就労拒否権 | 「疾病・傷害・死亡をもたらしうる imminent danger(切迫した危険) が職場に存在する場合、労働者は使用者からの報復の脅威なしに就労を拒否する権利を有する」 |
| 安全管理体制 | safety officer が安全衛生プログラムを統括・監視。OSH委員会は使用者代表・安全担当者・産業保健要員・選出された労働者代表で構成 |
| 保護具(PPE) | 無償(free of charge)で支給。 眼・顔・手・足の保護具、安全帯、呼吸具等。「PPEの費用は安全衛生プログラムの一部であり、独立した支払項目(separate pay item)とする」 |
| 行政罰 | 違反1日あたり最大10万ペソ(P100,000)。死亡・重傷のリスクに労働者をさらした場合は上限額が適用される |
注 PPE を従業員に自費購入させる、あるいは給与から控除するのは明確な違反。
11. 外国人雇用(AEP)― 2025〜2026年に大きく変わった領域
DOLE Department Order No. 248, series of 2025(DO 248-25)
- 2025年1月21日発出(出典:BusinessWorld 2025年2月26日)。
- 注発出日・発効日は出所により数値が異なる。 本稿初稿は「2025年1月21日発出、2025年2月10日発効」、分野資料「会社設立と起業の実務」§10-1 は「2025年1月25日公表、2月9日発効(=公表の15日後)」とする。分野資料「最低賃金と労働」§14-2 は「1月21日発出」としつつ官報掲載日は未確認と明記している。発出日(署名日)と公表日を別々に拾っている可能性が高いが、DOLE 公式の官報掲載日に到達できず未確認。注 両方を残す(2026-08-25 検証で併記化)。
- 補足ガイドラインとして DO 248-A, s. 2025(2025年6月9日発出)がある(2026-08-25 検証で追記。 出典:分野資料「最低賃金と労働」§14-2、「会社設立と起業の実務」§10-1。初稿は DO 248 本体のみを扱い 248-A に触れていなかった)。実務では DO 248 と DO 248-A をセットで確認すること。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| Labor Market Test | 「当該役務を遂行できる・意思のあるフィリピン人がいない」ことの立証。新聞、PhilJobNet、地方雇用事務所(PESO)での求人掲示が必要。掲示内容は雇用主情報・職務内容・資格要件・勤務地等を含む。申請は掲載から15日以内かつ広告の有効期間45日以内に行う |
| Economic Needs Test | 新設。外国人雇用が労働市場のギャップを埋めるかを評価。特に財政インセンティブを受けている企業が対象 |
| 技能移転義務 | 対象企業は Understudy Training Program または Skills Development Program を提出。最低2名のフィリピン人従業員への技能移転が必要。進捗報告と評価が義務 |
| 対象企業 | 政府から財政インセンティブを受けている企業、優先・戦略投資分野の企業 |
| 免除者 | 外交官、国際機関職員、難民資格者等。ただし免除者も「AEP Certificate of Exemption」の取得が必要になった |
注 「免除だから何も要らない」は誤り。 免除証明書の取得手続が新たに求められる。 注 手数料は出所により数値が異なる。 JETRO(2025年11月1日更新)は「初回1年間 9,000ペソ、1年超の各年分および更新時 4,000ペソ」、Vialto Partners(2025年2月3日)は DO 248-25 で「10,000ペソ → 6,000ペソへ引下げ」と報じている(分野資料「会社設立と起業の実務」§10-1)。注 申請前に DOLE 地方事務所の最新料金表で確認すること(2026-08-25 検証で併記化。初稿は単に「未確認」としていた)。有効期間は本資料では未確認。
2026年:AEP の全国集中処理化
| 日付 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年6月10日 | Tolentino 労働相が AEP 処理の全国集中化 を指示 | DOLE、Inquirer.net |
| 2026年6月12日 | 「DoLE centralizes issuance of alien work permits」 | BusinessWorld |
| 2026年7月7日 | 集中申請への移行。NCR でタウンホール開催 | DOLE |
| 2026年7月14日 | 集中処理の正式採用 | PIA |
| 2026年7月17日 | エコゾーン入居企業向けのグリーンレーン、電子決済の導入を含む周知活動を拡大 | DOLE |
2026年に外国人を雇用する日系企業は、従来の「地域事務所に申請」という前提が変わっている。 申請ルート・必要書類を最新の DOLE 告知で必ず再確認すること。 注 2025年2月には「新ルールにより処理期間が長期化する可能性」が指摘されていた(出典:Fragomen 2025年2月14日)。駐在員の着任スケジュールには余裕を持たせること。
12. 2026年の労働市場環境 ― 中東紛争の影響
2026年2月28日に始まった中東紛争は、油価高騰と物価上昇を通じてフィリピンの労働実務に直接影響している。
失業率の推移(2026年、PSA 労働力調査 / Labor Force Survey)
| 調査月 | 失業率 | 失業者数 | 発表・報道 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月 | 5.8%(3年超ぶりの高水準) | 296万人 | PNA 2026年3月13日 |
| 2026年2月 | 5.1% | 266万人 | PNA 2026年4月8〜9日 |
| 2026年3月 | 5.0% | 258万人 | 2026年5月6〜7日 |
| 2026年4月 | 4.7% | 241万人 | 2026年6月9〜10日。農業・小売で雇用減 |
| 2026年5月 | 4.8% | ― | Rappler、Inquirer.net 2026年7月8〜9日。農業雇用の減少 |
| 2026年6月 | 4.9%(不完全就業率 12.1%) | 259万人 | GMA Network、Daily Tribune、Rappler 2026年8月6日/不完全就業率は分野資料「最低賃金と労働」§0-8(PSA) |
- 注 2026年4月には不完全就業率(underemployment)が3年ぶり近い高水準を記録(出典:Metrobank Wealth Insights 2026年6月10日報道)。失業率だけを見ると実態を見誤る。
- 新卒者の就職難が繰り返し報じられている(Rappler 2026年8月6日)。
- 政府は「中東紛争を受けた労働支援の強化」を表明(PNA、2026年5〜6月)。
実務への含意
- retrenchment(人員整理)の実施が増えやすい局面。Art. 283 の1か月前二重通知+退職金(勤続1年につき0.5か月分)を厳格に踏むこと。損失の立証も判例上要求される。
- 賃上げ圧力が強い。NCR で P85(2トランシェ)の改定が承認され、DOLE は年央の賃金見直し(mid-year wage reviews)も支持している(BusinessWorld 2026年)。注 ただし第1段は2026年8月13日の予備的差止命令で停止中(§5参照)。予算計上は遡及リスクを見込んで行うこと。
- 油価高騰による通勤コスト増で、柔軟勤務・WFH の再導入要望が従業員側から出やすい(ただし前述のとおり義務ではない)。
13. 日本企業がやりがちな失敗(注 チェックリスト)
| # | よくある誤り | 正しい理解 |
|---|---|---|
| 1 | 注「試用期間は延長できる」 | Art. 281 の6か月が上限。超えれば自動的に regular |
| 2 | 注「試用期間の評価基準は口頭で伝えた」 | 採用時に書面で通知していないと最初から regular 扱いになりうる |
| 3 | 注「能力不足なので解雇した」 | Art. 282 の列挙事由に該当させ、two-notice rule を踏む必要がある |
| 4 | 注「解雇予告手当を1か月分払えば良い」 | 労働法典に「予告手当で代替」の明文なし。1か月前の実際の通知+許容事由なら退職金 |
| 5 | 注「DOLE への通知は不要」 | 許容事由による解雇は従業員宛とDOLE宛の2通が必要 |
| 6 | 注「年次有給休暇は当然に10日以上ある」 | 法定は SIL 年5日のみ。それ以上は契約・就業規則・CBA による |
| 7 | 注「13か月給与は業績次第のボーナス」 | 法定給付。基本給の1/12を12月24日までに支給 |
| 8 | 注「請負にすれば労働法の適用を免れる」 | labor-only contracting なら元請が使用者とみなされる(Art. 106)。賃金未払は連帯責任 |
| 9 | 注「endo は法律で禁止された」 | 禁止法(Security of Tenure Bill)は2026年8月時点で未成立。規制は DO 174-17 等の行政規則レベル |
| 10 | 注「有期契約なら期間満了で自由に終了できる」 | fixed-term は労働法典に明文なし。判例法理で限定的にしか認められない |
| 11 | 注「上訴すれば復職命令は止まる」 | 労働仲裁官の復職命令は即時執行。金銭請求の上訴にはappeal bond(Art. 223)が必要 |
| 12 | 注「PPE代は従業員負担」 | RA 11058 により無償支給が義務。違反は1日最大10万ペソ |
| 13 | 注「AEP免除者は手続不要」 | DO 248-25 により免除証明書(Certificate of Exemption)の取得が必要 |
| 14 | 注「NCRの最低賃金は7月25日から755ペソで確定した」 | 2026年7月30日のTRO、さらに2026年8月13日の予備的差止命令で第1段(+60ペソ)が停止中。8月25日時点で最高裁に係属。695ペソか755ペソかは法的に未確定 |
| 15 | 注「780ペソが2026年のNCR最低賃金」 | 780ペソは NCR-27 第2段の到達額で、予定発効は2027年1月20日。2026年の水準ではない |
| 16 | 注「労働安全の施行規則は DO 198-18」 | 2025年5月16日から DO 252-25 に置き換わっている |
14. 主な出典(一次資料・機関)
| 種別 | 名称 | URL |
|---|---|---|
| 労働法典本文 | ChanRobles Virtual Law Library(Book V・VI) | https://chanrobles.com/legal4labor5.htm / https://chanrobles.com/legal4labor6.htm |
| 個別法 | The LawPhil Project(RA 11210 / RA 11165 / RA 11058 / RA 11861 / RA 8187 / RA 10396 / PD 851 / RA 11360 / RA 12063) | https://lawphil.net/ |
注 2026-08-26 に判明した方法論上の注意 ── LawPhil も ChanRobles も「制定時の原文」を載せており、改正を溶け込ませた consolidated 版ではない。 条文を読んで「原文と一致」と確認しても、それが2026年時点の現行法である保証はない。特に労働法典(PD 442)は、ChanRobles 掲載本文が徒弟章(第57〜72条)・学習者章(第73〜77条)を残したままだが、これらは RA 12063 第36条により2024年11月7日に廃止済みである。引用前に必ず「その条を改正・廃止した後続法があるか」を別途確認すること。注「改正法の第◯条」と「改正された先の第◯条」を混同しないこと(例:徒弟章を廃止したのは RA 12063 の第36条であって、廃止された先は PD 442 の Book Two, Title II, Chapters 1〜2)。 | 行政 | DOLE(労働雇用省) | https://www.dole.gov.ph/ | | 賃金 | NWPC(National Wages and Productivity Commission) | https://nwpc.dole.gov.ph/ | | 紛争解決 | NLRC | https://nlrc.dole.gov.ph/ | | 社会保障 | SSS 拠出表 | https://www.sss.gov.ph/sss-contribution-table/ | | 医療保険 | PhilHealth 通達(2026年分) | https://www.philhealth.gov.ph/circulars/2026/ | | 統計 | PSA 労働力調査(報道経由) | GMA Network / Rappler / Daily Tribune 等 | | 報道 | BusinessWorld、Inquirer.net、Philippine News Agency、PIA、Manila Bulletin、GMA Network、ABS-CBN、Rappler、Bulatlat、Grant Thornton Philippines | ― |
注 (2026-08-25 検証で更新) 初稿で「未確認」としていた項目のうち、Pag-IBIG の料率、SSS の MSC 上下限、PhilHealth の所得上限、NCR-27 の賃金額、名目的損害賠償の水準、13か月給与の上限撤廃根拠は、資料群内の一次情報ベースの記載および LawPhil/ChanRobles の条文で補完した(各所に注記)。 注 なお「未確認」のまま残るのは以下:①AEP の手数料(JETRO と Vialto で数値が異なる)と有効期間、②DO 248 の発出日・発効日(1月21日/1月25日、2月9日/2月10日)、③賃金差止の供託金額(100万ペソ/100億ペソ)、④Memorandum Order No. 28(1986)の原文、⑤名目的損害賠償の個別判決の事件番号・金額、⑥第20議会のanti-endo 法案番号(HB 88/HB 2604)。実務で使う前に必ず各機関の最新一次資料で確認すること。政府サイト(Official Gazette、DOLE、Pag-IBIG、SSS)は CAPTCHA・アクセス制限により本セッションでも直接確認できなかった。