フィリピンの銅とその他の金属資源 ── 銅・クロム鉄鉱・鉄・マンガン・亜鉛鉛・モリブデン・コバルト
0. 3行サマリー
- フィリピンは「銅埋蔵量世界第4位」と語られることが多いが、鉱山生産量では世界28位(2023年、BGS)にすぎない。主張の根拠になっている「順位」が何の指標なのかを必ず確認する必要がある。
- 国内唯一の銅製錬所 PASAR(レイテ州イサベル)が 2025年2月に操業停止。フィリピンは「精鉱を輸出し、地金を輸入する」構造に完全に逆戻りした。
- 2026年に入り、タンパカン(Tampakan)を巡る資本再編(Dominion Holdings への統合)とシランガン(Silangan)の立ち上げ遅延という、今後10年を左右する2つの動きが進行中。
1. 最初に押さえる「地下資源の数字」の読み方
この分野は、日本語記事で最も誤りが多い領域である。以下を混同しないこと。
1-1. 「埋蔵量」「資源量」「賦存量」は別概念 注
| 用語 | 英語 | 意味 | 誰が出すか |
|---|---|---|---|
| 埋蔵量 | Reserves / Ore Reserves | 経済的に採掘可能と証明済みの部分。価格前提つき | 企業(有資格者の署名つき) |
| 資源量 | Resources / Mineral Resources | 存在が合理的に見込まれる量。経済性は未確定 | 企業 |
| 賦存量・潜在量 | Endowment / Potential | 地質学的に「ありそうな量」。事業性の裏づけなし | 政府・研究機関 |
注 フィリピン政府(MGB)や投資誘致資料が出す「◯億トンの銅」は、ほぼ賦存量・資源量ベース。企業の JORC / NI 43-101 埋蔵量と同じ土俵で比べてはいけない。
1-2. 報告基準の違い
| 区分 | 例 | 信頼度の性格 |
|---|---|---|
| NI 43-101(カナダ) | キンキン(St. Augustine、TSX上場) | 有資格者署名。監督官庁あり |
| JORC(豪州) | タンパカンの2004年時点推定など | 同上 |
| 政府推計 | MGB/DENR の「14.5億〜145億トン」系の数字 | 定義・カットオフ未公表が多い |
| 業界・投資誘致の主張 | 「未開発鉱物資源1兆ドル」 | 2018年以前の推計が2026年の資料にも転記され続けている |
1-3. 「世界第◯位」は指標を確認する
同じ「銅」でも、鉱石トン数の順位/金属含有量の順位/埋蔵量の価値順位/生産量の順位はまったく別物になる。
| 指標 | フィリピンの位置 | 出典・年 |
|---|---|---|
| 銅埋蔵量「世界第4位」 | 政府・法律事務所ガイド等で広く流布 | 出所が特定できず、注 原典未確認 |
| 銅鉱山生産量(金属含有量) | 28位/61,629 t(世界計 2,298万 t の約0.27%) | 英国地質調査所 BGS「World Mineral Production 2019–2023」(2023年値、2025年刊) |
| ニッケル鉱山生産量 | 世界2位(世界の9.5%) | USGS(2024年) |
| コバルト鉱山生産量 | 世界7位(約1.0%) | USGS(2024年) |
注 「銅は世界4位、ニッケルは5位、金は3位、クロム鉄鉱は6位」という一連の順位はフィリピン国内メディア・政府資料で常用されるが、USGS や BGS の統計と整合しない。「鉱石量ベースの賦存量順位」と説明されることが多いものの、算定根拠は本稿執筆時点で確認できなかった(未確認)。日本語で紹介する際は必ず「フィリピン政府側の主張」と注記すべきである。
2. 銅:フィリピンの実力
2-1. 公式統計(フィリピン統計庁 PSA「鉱物勘定」)
PSA は SNA(国民経済計算)の枠組みで Class A 埋蔵量=具体的な開発計画・操業に裏づけられた商業的に回収可能な埋蔵量を毎年公表している。これがフィリピンで最も定義が明確な「埋蔵量」である。
| 項目(Class A) | 2025年 | 前年比 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 銅 埋蔵量 | 414万 MT | −1.1%(2024年 418万 MT) | PSA 鉱物勘定(2026年6月公表) |
| 銅 埋蔵量の貨幣価値 | 605.0億ペソ | +0.2% | 同上 |
| 銅 採掘量 | 4万6,080 MT | −13.3% | 同上 |
| ニッケル 埋蔵量 | 6億3,279万 DMT | −4.5% | 同上 |
| クロム鉄鉱 埋蔵量 | 6,629万 MT | −0.1% | 同上 |
| 金 埋蔵量 | 37万1,260 kg | −4.9% | 同上 |
| 金・銅・ニッケル・クロム鉄鉱 4資源の合計価値 | 5,881.2億ペソ | +17.6%(2024年 5,002.0億ペソ) | 同上 |
| 4資源の資源レント | 682.5億ペソ(GDPの0.24%) | ─ | 同上 |
注 PSA の銅 Class A 埋蔵量は「414万トン」。投資誘致資料でよく見る「11.4億トン」「44.1億トン」といった数字とは3桁違う。前者は金属含有量ベースの商業埋蔵量、後者は鉱石ベースの賦存量と考えられる。単位と定義を確認せずに引用すると致命的な誤りになる。
2-2. 生産量の推移(MGB 統計)
MGB(鉱山地球科学局)は銅精鉱の DMT(乾燥メトリックトン)で公表する。金属含有量ではない点に注意。
| 期間 | 銅精鉱 生産量 | 前年比 | 生産額 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年1〜9月(改訂値) | 200,806 DMT | ─ | ─ | MGB |
| 2025年1〜9月 | 185,135 DMT | −7.8% | 202.96億ペソ(−1.0%) | MGB(2025年12月報道) |
| 2026年1〜3月 | 47,920 DMT | −19.4% | 63.6億ペソ(−7.4%) | MGB(2026年6月報道) |
数量は2024年をピークに減少局面。一方で銅価が史上最高値圏にあるため、金額の落ち込みは数量ほど大きくない。これが2025〜2026年フィリピン銅セクターの基本構図である。
参考:金属鉱物生産額全体は 2025年1〜9月に 2,197.42億ペソ(+14.8%)、2026年1〜3月に 827.8億ペソ(+28.6%)(いずれもMGB)。牽引役は金であり、銅ではない。
注 2024年通年について「鉱業総生産額 3,162.9億ペソ」(Chambers Global Practice Guides "Mining 2026"がMGBを引用)と「金属鉱物生産額 2,529億ペソ」という2つの数字が流通している。前者は非金属を含む鉱業全体、後者は金属のみと解されるが、両者の定義差は公表資料上で明示されていない(未確認)。
(2026-08-25 相互照合で補強)この読み方は算術的に裏づけられる。 2023年の金 1,066.4億ペソが「金属総額の42.82%」なら金属総額は 2,490億ペソ(分野「主要金鉱山と生産」1-1)。2025年1〜9月の金属は 2,197.4億ペソ(前年同期 1,914.2億ペソ)で、年換算すると2024年通年の金属は 2,500億ペソ台になる。3,162.9億ペソを金属とすると、2024年の金 1,263.6億ペソの構成比が約40%となり、「2024年に金が金属の約半分を占めて首位に立った」という MGB の説明と整合しない。 分野「金の埋蔵量と鉱床」3-3 および「レアアースと戦略鉱物」5章は旧版で3,162.9億ペソを「金属鉱物生産額」と表記していたため、同日に修正した。
2-3. 世界市場の文脈(2025〜2026年)
| 指標 | 値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 世界の銅鉱山生産 | 2,297.3万 t(2024年)→ 2,318.9万 t(2025年) | ICSG |
| 2026年の需給 | 15万トンの不足(2009年以来の構造的不足との評価) | ICSG |
| LME銅 3か月物 最高値 | US$14,527.50/t(2026年1月29日) | LME/報道 |
| LME銅 現物 | US$14,455/t(2026年8月6日)→ US$14,290/t(8月10日) | LME/報道 |
| 2025年の年間騰落 | 約+41%(2009年以来の上昇率) | 報道(2025年12月) |
| 2026年通年平均予想 | US$12,075/t | JPモルガン(2026年半ば時点) |
3. 主要銅鉱山・プロジェクト一覧
| 名称 | 所在 | 運営 | 状態(2026年8月) | 規模 |
|---|---|---|---|---|
| トレド/カルメン鉱山 | セブ州トレド市 | Carmen Copper(Atlas Consolidated 100%子会社) | 稼働中・再開発の最終段階 | 国内最大級の露天掘り銅鉱山。1,674ha |
| パッドカル(Padcal) | ベンゲット州トゥバ | Philex Mining | 稼働中(鉱山寿命2028年末まで) | 操業68年目。銅金 |
| ディディピオ(Didipio) | ヌエヴァ・ビスカヤ州カシブ | OceanaGold Philippines(持分80%) | 稼働中 | 2025年 金9.07万oz・銅1.33万t |
| シランガン(Silangan) | スリガオ・デル・ノルテ州トゥボド | Silangan Mindanao Mining(Philex 100%) | 建設最終段階・立ち上げ遅延中 | 最終 1.2万t/日=年400万t |
| タンパカン(Tampakan) | 南コタバト州 | Sagittarius Mines(SMI) | 未開発。資本再編中、生産目標2028年 | 年 銅37.5万t・金36万oz(計画) |
| キンキン(King-king) | ダバオ・デ・オロ州パントゥカン | Kingking Mining Corp. | DFS段階(2026年Q4完了目標) | 初期capex 23.7億ドル |
3-1. トレド/カルメン鉱山(Carmen Copper Corporation, Atlas Consolidated)
- セブ州トレド市。Carmen・Lutopan・Biga の3鉱体の総称で「トレド銅鉱山」。鉱区1,674ha(Atlas 全体保有地は5,218ha)。MPSA No. 210-2005-VII(Carmen)ほか。
- 3年間の再開発計画を実施中。完了目標は2026年半ば(一部報道では2025年第3四半期完了)。
- 2025年第1四半期:銅精鉱 26,000 DMT(前年同期比 −19%)。ただし金属価格上昇により純利益 6.45億ペソ(前年同期は4.04億ペソの赤字)に転換(Atlas 開示/報道)。
- 2025年8月、鉱区内マルボグ貯水池に 4.99MW の浮体式太陽光(3ha)を稼働。所要電力の約10%。将来的に最大50MWまで拡張可能とする(Atlas 発表、フィリピン初)。
- 輸出先は中国・日本・韓国の製錬所。銅精鉱に加え、金・銀を主要副産物とし、モリブデン・磁鉄鉱(マグネタイト)・黄鉄鉱の商品化を志向(Atlas 2024年統合報告書)。
- 注 2025年11月の台風「Tino」(国際名 Kalmaegi)によるセブ州の洪水に関する声明を Atlas が出しており、操業への影響がありうる。定量的な影響は未確認。
3-2. パッドカル(Philex Mining)
- ベンゲット州トゥバ。MPSA No. 276-2009-CAR。1958年操業開始、2026年で68年目という国内屈指の老鉱山。
- 2024年12月、鉱山寿命を2027年末→2028年末に1年延長。760MLレベルの鉱柱回収と、既存ドローポイントからの100%超回収分を追加可採量に算入。従業員1,879名の雇用が継続(Philex 発表)。
- 注 2026年第1四半期、二次・三次破砕プラントの構造的故障により処理鉱量が42%減。Philex はコア純損失2.81億ペソ、連結損失5.92億ペソを計上。改修は完了済みで、2026年の残り期間は操業を維持できるとしている(Philex 開示/報道)。
3-3. ディディピオ(OceanaGold)
| 項目 | 2025年実績 | 2026年ガイダンス |
|---|---|---|
| 金 | 90,700 oz | 85,000〜105,000 oz |
| 銅 | 13,300 t | 13,000〜15,000 t |
| AISC | ガイダンス上限をやや超過 | ─ |
- 2026年に提出された技術報告書で、2025年末の鉱物埋蔵量(金価格 US$2,200/oz 前提)のみに基づき鉱山寿命を2037年まで延長(OceanaGold)。
- 持分は 2024年5月13日以降 80%(現地持株会社の20%をフィリピン証券取引所に上場)。
3-4. シランガン(Philex)── 国内初の銅カソード生産計画
- スリガオ・デル・ノルテ州トゥボド。Boyongan・Bayugo・Kalayaan の3鉱体。運営は Silangan Mindanao Mining(SMMCI、Philex 100%)。
- 製品は銅精鉱ではなく「銅カソード+金ドーレ」。ROM鉱石からの銅浸出(リーチング)で直接カソードを製造するのはフィリピン初。BOI 登録により銅カソード収入に6年間の法人所得税免除(条件付きで2年延長可)。
- 生産計画:第1期 Boyongan で 初期 2,000 t/日 → 12年目に 12,000 t/日=年400万t。注中間段階の記述が資料間で食い違う。 本資料は「2,000 t/日×5年 → 6年目に4,000 t/日(年約130万t)」とし、分野「主要金鉱山と生産」4-1 は「約18か月で4,000 t/日(追加 US$160m)→ 9年目に 8,000 t/日 → 12年目に12,000 t/日」とする。初期2,000 t/日と最終12,000 t/日(12年目)は両資料一致するが、4,000 t/日への到達時期は「6年目」と「18か月」で大きく異なる。Philex の公式開示による原典確認が必要=未確認。どちらか一方を消さずに併記する(2026-08-25 相互照合)。総投資額は建設+ランプアップで 約10億ドル(既投資180億ペソ=約2.4億ドル相当)。
- 立ち上げは繰り返し遅延。
| 時点 | 目標 |
|---|---|
| 2022年 | 2025年第1四半期 商業生産開始 |
| 2024年12月〜2025年6月 | 2026年3月(初出湯=first metal pour) |
| 2026年6月(株主総会) | 2026年第3四半期 |
| 2026年7月末(最新開示) | プラント試運転完了は2026年第4四半期 |
- 注 2026年8月24日時点で、初の銅カソード産出・商業生産開始の公式発表は確認できていない。Philex はプロセスプラントを EEI Corp. から段階的に引き渡し中で、Ausenco Pty. Ltd. を主任コンサルタントとして順次試運転を進めているとしている。収益貢献は2027年からと会社側は説明。
3-5. タンパカン(Sagittarius Mines)── 止まり続ける世界級斑岩銅金鉱床
なぜ止まっているのか(経緯)
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1990年 | Western Mining Corporation が発見 |
| 2001年 | FTAA(財務・技術支援協定)が Sagittarius Mines(SMI)へ移転 |
| 2010年 | 南コタバト州が州条例で露天掘りを禁止 |
| 2015年 | Glencore が撤退(規制の不透明さを理由に) |
| 2017年 | 全国レベルの露天掘り禁止 |
| 2020年 | 地元自治体が「不公平」として協定を破棄/FTAA を12年延長 |
| 2021年 | 全国の露天掘り禁止が解除、州の禁止条例も撤廃 |
| 2025年2月 | DENR が FTAA をさらに6年延長し2038年までとする |
| 2025年10月 | SMI が「近代的技術を持つ戦略パートナー」を公募。生産開始目標を2028年に後退 |
| 2026年8月 | Dominion Holdings(DHI)への統合が発表(下記) |
資源量 注
| 数字 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 29.4億トン @ 銅0.51%・金0.19 g/t(カットオフ 銅0.2%)= 含有銅1,500万t・含有金1,760万oz。うちM&Iは22.7億t @ 銅0.55% | JORC(2004年版)準拠、2011年12月末時点の資源量(2012年1月 ASX 開示) | これが基準の特定できる最新の公表資源量。注資源量であって埋蔵量ではない(公表済みJORC Ore Reserve は未確認)。以後15年近く更新公表なし(2026-08-25 相互照合で修正。出典:分野「主要金鉱山と生産」4-2) |
| 注「29.4億トン @ 銅0.6%、金1,800万oz」 | 報道・Wikipedia等で最も流布 | 誤り。 旧推計(24.9億t @ 銅0.6%、カットオフ0.3%)と新推計(29.4億t @ 銅0.51%)を混同したもの。この形では引用しない(2026-08-25 相互照合で判定。出典:分野「主要金鉱山と生産」4-2) |
| 11.04億トン @ 銅0.65%・金0.26 g/t(カットオフ 銅0.3%) | 2004年時点の JORC 指示+推定資源量 | 基準は明確だが20年以上前の数字 |
| 「25億トン超の推定鉱床」 | SMI 自社サイト | 事業者の主張 |
| 「総額1,500億〜2,000億ドル相当」 | 各種報道 | 価格前提が示されておらず比較不能 |
「世界有数の未開発斑岩銅金鉱床」「東南アジア最大の未開発銅金鉱床」という表現自体は複数の独立ソースで一致している。 資源量については JORC 2004年版・2011年12月末時点の 29.4億t @ Cu 0.51%・Au 0.19 g/t が基準を特定できる唯一の公表値であり、2025〜2026年に更新された JORC/NI 43-101 資源量は確認できない(未確認)。日本語で紹介する際は「JORC 2004年版・2011年末時点の資源量(埋蔵量ではない)」と明記すべきである。(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載は「報告基準・公表元・基準年とも特定できない」としていたが、クラスタ内の「主要金鉱山と生産」および「_地下資源の総合考察」が基準・時点を特定していた)
2026年の最重要ニュース:Dominion Holdings への統合
- 2026年8月20日のフィリピン証券取引所開示によれば、Indophil Resources Phils. Inc. と Sonar Holdings Inc. を Dominion Holdings Inc.(DHI)が吸収合併(DHI が存続会社)。
- Indophil が SMI の 40%、Sonar が 31.60% を直接保有し、合計71.60%の経済的持分と100%の議決権を握る。
- DHI は授権資本を 34.2億ペソ → 300億ペソに増資。株主総会は 2026年9月14日。交換比率は独立評価後に決定。
- 背景:Sy 財閥(SM Investments)が主導し、Consunji 家(DMCI Holdings)が鉱山運営の実務を担い、Alcantara 系が少数株主という構図。2026年3月には Isidro A. Consunji が DHI 会長に就任(前任は SM の Frederic C. DyBuncio、社長として残留)。
- DHI はセブのアトラス(Atlas Consolidated、Sy 側が54.48%を保有)とタンパカンという国内2大銅金資産を併せ持つことになり、「フィリピン最大の鉱山会社」となる見込み。
- 注 ただし 2026年半ば時点でタンパカンの環境適合証明(ECC)は未発給。マルベル教区のカシカス司教らによる FTAA 延長の取消訴訟(certiorari)も継続中で、B'laan 族などの先住民族領域と重複する。「2028年生産開始」はあくまで事業者側の目標である。
3-6. キンキン(King-king、ダバオ・デ・オロ州)
- 鉱区:MPSA No. 009-92-XI(1992年5月27日承認、2002年改定、2,976ha)、パントゥカン町。DMPF(採掘事業可行性宣言)と ECC は取得済み。
- 所有構造:Kingking Mining Corporation を St. Augustine Gold & Copper(TSX: SAU)40%/Nadecor 40%/Queensberry Mining and Development(ビリャール系)20% が保有。PASAR を買収するビリャール家が、上流でもキンキンに関与している点が重要。
| 区分 | 数量 | 品位 | 含有量 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 測定+指示資源量(2023年8月) | 11億1,970万 t | 銅0.24%、金0.34 g/t | 銅55.53億lb、金1,114.7万oz | NI 43-101 |
| 推定資源量 | 6億7,520万 t | 銅0.20%、金0.27 g/t | 銅28.54億lb、金546.4万oz | NI 43-101 |
| 確定+概測埋蔵量 | 9億5,940万 t | 銅0.26%、金0.36 g/t | 銅53.96億lb、金977.1万oz | NI 43-101 |
- 2025年 PFS(予備的可行性調査、M3 Engineering 作成)の経済性:税引後NPV(7%) 41.8億ドル、IRR 34.2%、初期capex 23.7億ドル、鉱山寿命 38年、回収期間1.9年、剥土比0.81。生涯生産 銅44億lb(200万t)・金690万oz。最初の5年は年平均 銅2.84億lb・金33.3万oz。
- 2025年10月、取締役会が DFS(確定可行性調査)への移行を承認。Stantec が主導、IMC が採掘計画・資源量推定を担当。完了目標は2026年第4四半期。低品位硫化鉱ストックパイルへの塩化物浸出導入、粉砕回路の効率化、鉱山寿命の21〜25年への短縮(=処理量増)などを検討。
- 注 歴史的に Nadecor 内部の支配権争い(2011〜2013年)や、2017年の DENR による MPSA 取消勧告リスト掲載など、権利関係のトラブルが多い案件である。先住民 Mansaka の領域と重複し、地元では反対運動が続く。
4. 製錬能力:PASAR の停止と「精鉱輸出・地金輸入」への逆戻り
4-1. PASAR とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名 | Philippine Associated Smelting and Refining Corporation(PASAR) |
| 所在 | レイテ州イサベル町バランガイ・リベルタッド(レイテ工業開発団地内) |
| 設立 | 1976年12月7日(フィリピン政府が設立)/1983年商業運転開始、建設費3億ドル |
| 位置づけ | 東南アジア初の銅製錬・精錬所であり、フィリピン国内唯一 |
| 民営化 | 1999年、Glencore が取得 |
| 能力 | 当初 電気銅 13.8万 t/年 → 拡張後 20万 t 超(一部報道は 215,000 t/年)/精鉱処理能力 約120万 t/年 |
| LMEブランド | "PSR"(2008年〜登録) |
| 原料 | 年間約72万トンの銅精鉱を必要とし、国内産では足りず輸入に依存。豪州・インドネシア産の受け皿であり、南米→中国向けの余剰カーゴの処理先でもあった |
4-2. 2025年2月の操業停止
- 2025年2月上旬に生産停止(市場筋情報、SMM 2月6日)。2月24日(現地月曜)に PASAR が正式声明、「操業評価の継続と厳しい市況」を理由にケア&メンテナンス(維持管理状態)へ移行すると発表(ロイター 2025年2月25日)。
- 直接の原因は TC/RC(製錬・精錬料)の歴史的崩壊。
| 指標 | 値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 年間ベンチマーク TC/RC(2025年) | US$21.25/t・2.125 ¢/lb | Antofagasta × 中国製錬各社 |
| 年間ベンチマーク TC/RC(2026年) | US$0/t(史上最低) | 2026年1月妥結、S&P Global/SMM |
| スポット TC(CIF アジア) | −US$65.40/t | 2025年11月21日、Fastmarkets |
| スポット TC | −US$126.80/dmt | 2026年6月末 |
| 日本の製錬各社 | 2026年は中国基準と別建てを模索(2025年は US$25/t・2.5¢/lb を確保) | 2025年11月、ロイター |
注 TC/RC がマイナスとは、製錬所が鉱山に対価を払って精鉱を処理してもらう状態を意味する。世界的な製錬能力の急増(特に中国)と鉱山側のトラブルによる精鉱不足が重なった結果であり、PASAR 固有の問題ではない。中国政府は新規製錬所の建設認可を停止し、中国大手も減産に踏み切った。
4-3. 所有権の移転(Glencore → ビリャール家)
- 2024年12月:Glencore が売却を検討中との報道。
- 2025年7月8日:Glencore がビリャール家(Manny Villar Jr. 主導)への売却で合意とブルームバーグが報道。Glencore はカナダ・ケベックの銅資産や米国のリサイクル施設を亜鉛製錬部門に統合する世界的な再編の一環と位置づけ。
- 注 2026年8月24日時点で、取引の正式クロージングと再稼働時期は公表資料で確認できない(未確認)。「市況が改善したら再稼働」との観測に留まる。
- 戦略的意味:ビリャール家は St. Augustine Gold & Copper(キンキン)、Queensberry Mining、Nationwide Development Corp.(Nadecor) を通じて上流にも展開しており、自社鉱山の精鉱を自社製錬所で処理する垂直統合が視野に入る。タンパカンが開発されれば原料調達はさらに安定する。
4-4. 停止の意味 ── 構造の逆戻りと地域経済
(a)貿易構造
| 停止前 | 停止後 |
|---|---|
| 精鉱を輸入 → 国内で電気銅を生産 → カソードをほぼ100%輸出(タイ・中国・ベトナム向けが金額の75%) | 国内産精鉱をそのまま輸出 → 電気銅・伸銅品を輸入 |
| 銅の付加価値の一部を国内で取得 | 付加価値はすべて海外(中国・日本・韓国)で発生 |
- 停止発表後、年間約24万トンの精鉱供給がアジア市場から中国側へ振り向けられたとされる(業界分析)。
- 注 精製銅(カソード)の輸入は金額ベースで98%が日本から(2020〜2024年、OEC)。PASAR 停止によりこの依存はさらに強まる方向にある。フィリピンの銅(HS 74類等)輸入総額は 2025年に13.1億ドル(UN COMTRADE、2026年6月更新)。
(b)地域経済への打撃
| 指標 | 値 | 出典 |
|---|---|---|
| 直接影響を受けた労働者 | 約3,000人 | 報道 |
| 東ビサヤ地方の 2025年 GRDP 成長率 | 1.0%(2024年は6.2%) | PSA(2026年4月公表) |
| 同 製造業 | −9.6%(地域経済の13.9%を占める) | PSA |
| 同 工業セクター | +5.7%(2024年)→ −3.8%(2025年) | PSA |
| 東ビサヤ地方の失業率 | 7.7%(2026年1月)、前年同月2.4% | PSA |
| 同 失業者数 | 約15.7万人(前年同月5.2万人) | PSA |
NEDA 地方局(Meylene Rosales 局長)は「地域が PASAR に依存しすぎていた」として製造業の多角化を訴えている。地域開発評議会(RDC)が緩和策を策定中。
注 「1社の製錬所の停止が、地方1つの経済成長率を5ポイント押し下げた」という事実は、フィリピンの地方経済が単一大型事業に依存する構造を示す典型例として押さえておく価値がある。
5. クロム鉄鉱(chromite)── かつての世界的産地の現在
5-1. 歴史:ザンバレス州マシンロック/コト鉱山
- ザンバレス超苦鉄質岩体(Zambales Ophiolite) はアルプス型で、ポディフォーム(レンズ状)クロム鉄鉱鉱床をカンラン岩・ダナイト中に胚胎する。既知資源(既採掘分含む)は約1,500万トン(USGS)。
- 発見は1925〜1926年頃、生産開始は1930年代。1934年から Benguet Consolidated が Consolidated Mines Inc. の契約で操業、粗鉱 3,800 t/日 まで能力を拡大。
- 1958年の米国地質学会紀要(GSA Bulletin)は、マシンロック(コト)鉱山を「世界最大の耐火級クロム鉱石の産地」と記述している。
- 米国は耐火級クロム鉄鉱の輸入の80〜90%をフィリピンに依存し、米国の塩基性耐火物技術そのものがコト産の高アルミナ・クロム鉄鉱の特性に合わせて設計されていた(USGS)。
| 期間 | 生産 |
|---|---|
| 1946〜1952年 | 1,605,867.6 ロングトン(Cr₂O₃ 32.33%) |
| 1950〜1964年 | 中部北ザンバレスだけで自由世界の生産の20% |
| 1960年(ピーク) | 耐火級 606,103 t(主にコト鉱山)+ 冶金級 128,426 t(アコヘ鉱山) |
| 1946〜1976年(全国) | 冶金級 2,756,072 DMT/耐火級 12,425,200 DMT |
5-2. 耐火級と冶金級の違い 注
| 区分 | Cr₂O₃ | Al₂O₃ | 用途 | ザンバレスでの産状 |
|---|---|---|---|---|
| 耐火級(refractory) | 30〜44 wt% | 20〜30 wt% | 耐火煉瓦 | カンラン岩–トロクトライト–カンラン石斑れい岩系 |
| 冶金級(metallurgical) | 45〜53 wt% | 12〜18 wt% | フェロクロム→ステンレス | カンラン岩–輝岩–ノーライト系 |
両者は空間的に分離し、異なる親マグマから晶出したとされる(Mineralium Deposita, 1986)。 注 現在の MGB 統計は耐火級/冶金級を区別していない。この分類は主に20世紀の報告書で使われた。
5-3. 現在の生産水準
| 期間 | 生産量 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2024年(Techiron/Chromiteking のみ) | 63,022 DMT(6.293億ペソ) | +165%(数量) |
| 2025年1〜9月(全国) | 72,599 DMT | −30.1%(金額 −35.7%) |
- 2025年6月時点の稼働クロム鉱山は全国で4件(MGB)。ニッケル38件、金11件、鉄4件と比べても小規模。
- 主な事業者(MGB 2024年統計):
| 事業者 | 鉱区 | 2024年生産 |
|---|---|---|
| Techiron Resources/Chromiteking | 東サマール州ギワン(ホモンホン島) MPSA 292-2009-VIII | 63,022 DMT |
| Krominco Inc. | ディナガット諸島州ロレト MPSA 291-2009-XIII | ゼロ |
| Shangfil Mining & Trading | ザンバレス州サンタクルス MPSA 250-2007-III | ゼロ |
- Taganito HPAL(THPAL)が2021年4月からクロム鉄鉱を副産物として商業生産(ニッケル・コバルト混合硫化物の製造工程からの回収)。2017年に回収プラント建設を決定、2021年3月に精鉱の生産を開始。
- 注 「フィリピンは世界有数のクロム鉄鉱産出国」という記述は現在は誤り。現在の世界最大生産国は南アフリカで、世界消費は約6,000万トン規模(2024年)。「かつて耐火級で世界最大だった」が正しい。
- PSA の Class A クロム鉄鉱埋蔵量は 6,629万 MT(2025年)であり、資源はなお残る。生産が低迷しているのは資源枯渇というより価格・需要・耐火物技術の変化による。
6. その他の金属
6-1. 鉄鉱石
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2025年1〜9月 生産 | 100,683 DMT(+109.5%)、金額 3億2,895万ペソ(+100.2%)。新規生産ラインと出荷再開が寄与(MGB) |
| 稼働鉱山数 | 4件(MPSA、2025年6月時点) |
| 中心 | 磁鉄鉱砂(magnetite sand)。ルソン北部・北西部、レイテ東部、ネグロス南西部の海浜に大規模鉱床 |
| 品位 | 経済的鉱床は磁鉄鉱15〜30%、選鉱後で Fe 55〜60%。チタン・バナジウムを不純物として含み、製錬を阻害するが、含有量が高ければ特殊鋼原料として価値が上がる |
| 賦存量(政府系推計) | 塊状磁鉄鉱 約5,600万 MT、磁鉄鉱砂 20億 MT 未満、ラテライト鉱 20億 MT 未満 注 定義未確認 |
| 主な事業者 | Ore Asia Mining and Development(ブラカン州ドニャ・レメディオス・トリニダード、MPSA 353-2022-III、河床浚渫)、JDVC Resources(カガヤン州沖合、年365万t×47年を計画) |
注 フィリピンの製鉄原料の90%超は輸入であり、国産磁鉄鉱砂の位置づけは限定的。
6-2. 注 マンガン・亜鉛・鉛 ── 商業生産は事実上ゼロ
- 2025年6月時点の稼働金属鉱山60件の内訳は、ニッケル38・金11・クロム鉄鉱4・鉄4(+銅)。マンガン・亜鉛・鉛の鉱山は1件も含まれない(MGB)。
- USGS が挙げる2024年のフィリピン産出品目(クロム、銅、金、鉄鉱石、パーライト、スカンジウム、銀、鋼、ゼオライト)にもマンガン・亜鉛・鉛は含まれない。
- 賦存としては存在する:シキホール島のマンガン鉱山(休止、再開計画なし)、ヌエヴァ・エシハ州ガバルドンのマンガン鉱床(Mn 50%超、400万トンとされるが未開発・売買情報も失効)。
- 注 「フィリピンは亜鉛・鉛の資源国」という表現は、賦存の話であって生産の話ではない。投資誘致資料の「銅・金・ニッケル・亜鉛・銀の未開発埋蔵1兆ドル」という定型句もこの類である。
- マンガンは「今後の探査対象」として政府が言及している段階(コバルト・銅・ニッケルと並列)。
6-3. モリブデン
- 斑岩銅鉱床の副産物として回収されうる。Atlas / Carmen Copper がモリブデン・磁鉄鉱・黄鉄鉱の商品化を掲げている(2024年統合報告書)。
- 注 国レベルの統計上、モリブデンの生産量は MGB の金属鉱物生産表に独立項目として現れない(未確認)。実際に商業出荷が始まっているかは公表資料では確認できなかった。
- 市況は追い風:2026年5月時点の IMF モリブデン・スポット価格は US$65,503/t(前年比 +48.9%)、約20ドル/lb から30ドル/lb 近くへ上昇。酸化モリブデン FOB 中国は 2026年6月1日で US$33.70/lb。IMOA / 安泰科は 2026年に4万4,300トンの需給不足を予測。
- 銅価が高いほど銅鉱山は増産インセンティブを持つため、副産物モリブデンの供給も増えるが、2026年時点では需要増に追いついていない。
6-4. コバルト ── ニッケル HPAL の副産物
フィリピンのコバルトはほぼ全量が2つの HPAL(高圧酸浸出)プラントから出る。
| プラント | 所在 | 資本 | 稼働 | 能力 |
|---|---|---|---|---|
| Coral Bay Nickel(CBNC) | パラワン州リオツバ | 住友金属鉱山(SMM)系。原料は Rio Tuba Nickel(Nickel Asia 子会社) | 2005年〜 | ニッケル 約24,000 t/年 |
| Taganito HPAL Nickel(THPAL) | スリガオ・デル・ノルテ州クラベル | SMM 系(注出資比率は「SMM 62.5%/Nickel Asia 22.5%/三井物産 15.0%」〈レアアースと戦略鉱物〉と「SMM 75%/NAC 10%/三井 15%」〈金と投資・日本企業〉が併存=未確認)。2008年8月22日設立、投資額は16億ドル(本資料)/約13億ドル(鉱業とニッケル)と出所により異なる注 | 2013年10月操業開始 → 2014年6月試運転完了、8月に定格到達 | ニッケル 30,000 t/年・コバルト 2,640 t/年(Ni-Co 混合硫化物、事業期間30年) |
- 製品は「ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)」で、日本の住友金属鉱山 新居浜ニッケル工場(愛媛県)・播磨事業所へ輸出され、電気ニッケル・電気コバルト・硫酸ニッケル等に精製される。EV 用電池材料になる。
- THPAL は副産物の多角化を進めており、2019年にフィリピン初のスカンジウム生産、2021年4月からクロム鉄鉱の商業生産を開始。
- MGB 統計上の「混合ニッケル・コバルト硫化物」:
| 期間 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|
| 2025年1〜9月 | 55,844 DMT(+3.7%) | −6.4% |
| 2026年1〜3月 | 16,711 DMT(−8.3%) | 101.3億ペソ(+22.1%) |
- USGS によれば 2024年のフィリピンはコバルト鉱山生産で世界7位、世界の約1.0%。
- 注 コバルトは「銅の副産物」ではなく「ニッケルの副産物」である点がフィリピンの特徴。コンゴ民主共和国やザンビアの堆積岩型銅鉱床とは供給構造が根本的に異なる。したがってフィリピンのコバルト供給はニッケル価格とニッケル鉱石の供給に連動する。
7. 輸出先と価格変動の影響
7-1. 銅鉱石・精鉱の輸出先
| 相手国 | 2024年 | 2025年 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 10億ドル超 | 4億2,415万ドル | UN COMTRADE |
| 日本 | 1億3,100万ドル | ─ | UN COMTRADE |
| 韓国 | 8,400万ドル | ─ | UN COMTRADE |
| インド | 5,000万ドル | ─ | UN COMTRADE |
注 2024年と2025年の対中輸出額に2倍以上の開きがある。数量の減少(銅精鉱 −7.8%)だけでは説明できず、統計の取り方(報告国・品目コード)の違いか、片方が誤りである可能性がある。本稿では両方を併記し、いずれも「要検証」とする(未確認)。
構造的には、中国が量で圧倒的(日本の10倍超)、次いで日本、韓国という順序は複数ソースで一致する。Carmen Copper は「中国・日本・韓国の製錬所」に出荷、別報道では「輸出のほぼ全量が中国向け」とされる。
7-2. 精製銅(カソード)の流れ
| 方向 | 相手 | 備考 |
|---|---|---|
| 輸出(2020〜2024年、金額) | タイ 4.16億ドル、中国 3.91億ドル、ベトナム 2.00億ドル(計75%)、他にインドネシア・韓国・台湾・マレーシア | PASAR 産のカソード |
| 輸入 | 日本が金額の98%(中国0.2%、韓国0.1%) | ─ |
| 2024年 平均単価 | 輸出 US$8,899/t、輸入 US$9,176/t | ─ |
7-3. 価格変動の影響
| 金属 | 2025〜2026年の動き | フィリピンへの影響 |
|---|---|---|
| 銅 | 2026年1月29日に LME 史上最高値 US$14,527.50/t。2025年は年間 +41% | 数量減でも金額を維持。ただし製錬側は TC/RC ゼロ〜マイナスで壊滅的。鉱山と製錬で明暗が真逆 |
| 金 | 大幅上昇(2026年上期に約 US$4,600/oz 水準) | 銅金鉱山(パッドカル・ディディピオ・カルメン)の採算を金が支えている。MGB 統計でも金が生産額首位 |
| ニッケル | 2023〜2025年に約30%下落(インドネシアの増産) | HPAL の採算圧迫 → コバルト供給にも波及 |
| クロム鉄鉱 | 2025年1〜9月に金額 −35.7% | 小規模生産者の休止が続く |
| モリブデン | 2026年に約50%上昇 | 副産物回収の経済性が改善する可能性 |
重要な非対称性:銅価が上がっても、製錬料(TC/RC)は精鉱の需給で決まるため、銅価高騰は製錬所を救わない。むしろ製錬能力過剰+精鉱不足が TC/RC を押し下げ、PASAR のような単独製錬所を直撃した。「銅が高いのに銅製錬所が潰れる」という一見矛盾した現象を理解しておく必要がある。
8. 制度環境(2025〜2026年)
8-1. 共和国法 12253 号(大規模金属鉱業の税制改革法)
注(2026-08-26 改正確認)RA 12253 が改正するのは内国歳入法(RA 8424)であって、鉱業法(RA 7942)ではない。 正式名称は "…Amending for the Purpose Sections 34(B), 287, and the Subjects of Title VI and Chapter VII Thereof, and Creating New Sections 151-A, 151-B, 151-C, 151-D, and 287-A, All Under Republic Act No. 8424…"。RA 7942 は「mineral agreement」「FTAA」「metallic mining contractor」等の定義の参照先として引かれているにすぎない。ロイヤルティの実体規定は RA 12253 第6条が新設した NIRC 第151-A条である(「RA 12253 第151-A条」ではない)。(出典:lawphil.net ra_12253_2025 本文)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 署名 | 2025年9月4日(マルコス大統領、旧上院法案 SB 2826) |
| IRR 公布 | 2025年12月20日 |
| 発効 | 2026年2月17日 |
| 鉱物保留地内 | 総産出額の 5% のロイヤルティ(従来どおり) |
| 鉱物保留地外 | 利益率連動ロイヤルティ 1〜5%(5段階)。利益率が閾値未満なら総産出額の 0.1% が最低ロイヤルティ |
| 超過利潤税(WPT) | 利益率 30% から適用、1% → 10%(利益率75%以上)。算定時に標準控除は不可、法人所得税とロイヤルティは控除可 |
| リングフェンス | 鉱業協定/FTAA ごとに別個の課税単位。損益通算不可。BIR に別支店 TIN で登録 |
| 過少資本規制 | 関連者借入について 負債資本比率 2:1 |
| 存続する負担 | 鉱物品への4%物品税(注根拠は RA 7942 ではなく内国歳入法〈RA 8424〉第151条。2%→4%にしたのは TRAIN=RA 10963〈2017〉。2026-08-26 改正確認で訂正。出典:LawPhil ra_12253_2025 正式名称〈改正先は RA 8424〉/主要法令インデックス RA 10963 行)、先住民(ICC)向け1%ロイヤルティ(DENR AO 96-40) |
| 透明性 | 鉱物販売・輸出の監査、データの公開、マルチステークホルダー説明責任機関の設置 |
| 増収見込み | 2026〜2029年で計 250.8億ペソ(年平均 62.6億ペソ)※政府推計 |
実務的含意:高値局面では政府取り分が増える一方、リングフェンスにより「稼働鉱山の利益で新規開発の損失を相殺する」ことができなくなった。シランガンやタンパカンのような大型新規案件の資金計画に影響する。
8-2. 原鉱輸出禁止は「見送り」
- 2025年2月3日、上院が SB 2826 を三読可決。原鉱輸出を署名から5年後に禁止する内容(エスクデロ上院議長提案、インドネシアの2020年ニッケル鉱石輸出禁止を範とする)。
- 2025年6月、両院協議会で輸出禁止条項を削除。上下両院が承認(上院ではホンティベロス議員のみ反対)。フィリピン鉱業会議所(COMP)とフィリピンニッケル産業協会(PNIA)は税制改革は支持、輸出禁止は反対という立場だった。
- 注 したがって 2026年8月時点でフィリピンに原鉱(銅精鉱・ニッケル鉱・クロム鉄鉱)の輸出禁止は存在しない。政府は禁止ではなく投資インセンティブと加工プラント誘致の路線に転換した。
- 2026年3月には、DTI が米国主導の重要鉱物枠組みへの参加を働きかけ、中間加工品への価格フロア制度などを提案している。
9. 注 知らないと間違える点(まとめ)
| # | よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|---|
| 1 | 「フィリピンは銅埋蔵量世界4位の大銅産国」 | 埋蔵量順位は根拠未確認の政府側主張。鉱山生産量は世界28位・世界シェア0.27%(BGS 2023年) |
| 2 | 「銅埋蔵量は11億トン」 | 鉱石ベースの賦存量。PSA の商業的埋蔵量(Class A)は414万トン(2025年、金属ベース) |
| 3 | 「MGB の銅生産量◯万トン=銅金属◯万トン」 | MGB は銅精鉱の DMT で公表。金属含有量ではない(品位は数%〜20数%) |
| 4 | 「フィリピンは世界有数のクロム鉄鉱産出国」 | 過去(1950〜60年代)に耐火級で世界最大だったという話。現在の最大生産国は南アフリカ |
| 5 | 「フィリピンは亜鉛・鉛も産出」 | 2025年6月時点で亜鉛・鉛・マンガンの稼働鉱山はゼロ。賦存と生産は別 |
| 6 | 「銅高だから製錬所も好調」 | TC/RC は精鉱需給で決まる。2026年の年間ベンチマークは US$0/t、スポットはマイナス。PASAR 停止の直接原因 |
| 7 | 「コバルトは銅の副産物」 | フィリピンではニッケル HPAL の副産物。ニッケル市況に連動する |
| 8 | 「タンパカンは2026年に生産開始」 | 2023年時点の目標。現在の目標は2028年で、ECC 未取得、訴訟も継続中 |
| 9 | 「シランガンは2026年3月に商業生産開始」 | 2025年時点の目標。2026年7月末開示では試運転完了が2026年第4四半期 |
| 10 | 「原鉱輸出が禁止される」 | 2025年6月に両院協議会で削除済み。禁止は成立していない |