出典をたどれるフィリピン情報
トップ分野一覧地下資源 › フィリピンの銅とその他の金属資源 ── 銅・クロム鉄鉱・鉄・マンガン・亜鉛鉛・モリブデン・コバルト

フィリピンの銅とその他の金属資源 ── 銅・クロム鉄鉱・鉄・マンガン・亜鉛鉛・モリブデン・コバルト

情報基準日:2026-08-26 / 分野:地下資源


0. 3行サマリー


1. 最初に押さえる「地下資源の数字」の読み方

この分野は、日本語記事で最も誤りが多い領域である。以下を混同しないこと。

1-1. 「埋蔵量」「資源量」「賦存量」は別概念

用語 英語 意味 誰が出すか
埋蔵量 Reserves / Ore Reserves 経済的に採掘可能と証明済みの部分。価格前提つき 企業(有資格者の署名つき)
資源量 Resources / Mineral Resources 存在が合理的に見込まれる量。経済性は未確定 企業
賦存量・潜在量 Endowment / Potential 地質学的に「ありそうな量」。事業性の裏づけなし 政府・研究機関

フィリピン政府(MGB)や投資誘致資料が出す「◯億トンの銅」は、ほぼ賦存量・資源量ベース。企業の JORC / NI 43-101 埋蔵量と同じ土俵で比べてはいけない。

1-2. 報告基準の違い

区分 信頼度の性格
NI 43-101(カナダ) キンキン(St. Augustine、TSX上場) 有資格者署名。監督官庁あり
JORC(豪州) タンパカンの2004年時点推定など 同上
政府推計 MGB/DENR の「14.5億〜145億トン」系の数字 定義・カットオフ未公表が多い
業界・投資誘致の主張 「未開発鉱物資源1兆ドル」 2018年以前の推計が2026年の資料にも転記され続けている

1-3. 「世界第◯位」は指標を確認する

同じ「銅」でも、鉱石トン数の順位/金属含有量の順位/埋蔵量の価値順位/生産量の順位はまったく別物になる。

指標 フィリピンの位置 出典・年
埋蔵量「世界第4位」 政府・法律事務所ガイド等で広く流布 出所が特定できず、 原典未確認
鉱山生産量(金属含有量) 28位/61,629 t(世界計 2,298万 t の約0.27%) 英国地質調査所 BGS「World Mineral Production 2019–2023」(2023年値、2025年刊)
ニッケル鉱山生産量 世界2位(世界の9.5%) USGS(2024年)
コバルト鉱山生産量 世界7位(約1.0%) USGS(2024年)

「銅は世界4位、ニッケルは5位、金は3位、クロム鉄鉱は6位」という一連の順位はフィリピン国内メディア・政府資料で常用されるが、USGS や BGS の統計と整合しない。「鉱石量ベースの賦存量順位」と説明されることが多いものの、算定根拠は本稿執筆時点で確認できなかった(未確認)。日本語で紹介する際は必ず「フィリピン政府側の主張」と注記すべきである。


2. 銅:フィリピンの実力

2-1. 公式統計(フィリピン統計庁 PSA「鉱物勘定」)

PSA は SNA(国民経済計算)の枠組みで Class A 埋蔵量=具体的な開発計画・操業に裏づけられた商業的に回収可能な埋蔵量を毎年公表している。これがフィリピンで最も定義が明確な「埋蔵量」である。

項目(Class A) 2025年 前年比 出典
銅 埋蔵量 414万 MT −1.1%(2024年 418万 MT) PSA 鉱物勘定(2026年6月公表)
銅 埋蔵量の貨幣価値 605.0億ペソ +0.2% 同上
銅 採掘量 4万6,080 MT −13.3% 同上
ニッケル 埋蔵量 6億3,279万 DMT −4.5% 同上
クロム鉄鉱 埋蔵量 6,629万 MT −0.1% 同上
金 埋蔵量 37万1,260 kg −4.9% 同上
金・銅・ニッケル・クロム鉄鉱 4資源の合計価値 5,881.2億ペソ +17.6%(2024年 5,002.0億ペソ) 同上
4資源の資源レント 682.5億ペソ(GDPの0.24%) 同上

PSA の銅 Class A 埋蔵量は「414万トン」。投資誘致資料でよく見る「11.4億トン」「44.1億トン」といった数字とは3桁違う。前者は金属含有量ベースの商業埋蔵量、後者は鉱石ベースの賦存量と考えられる。単位と定義を確認せずに引用すると致命的な誤りになる。

2-2. 生産量の推移(MGB 統計)

MGB(鉱山地球科学局)は銅精鉱の DMT(乾燥メトリックトン)で公表する。金属含有量ではない点に注意。

期間 銅精鉱 生産量 前年比 生産額 出典
2024年1〜9月(改訂値) 200,806 DMT MGB
2025年1〜9月 185,135 DMT −7.8% 202.96億ペソ(−1.0%) MGB(2025年12月報道)
2026年1〜3月 47,920 DMT −19.4% 63.6億ペソ(−7.4%) MGB(2026年6月報道)

数量は2024年をピークに減少局面。一方で銅価が史上最高値圏にあるため、金額の落ち込みは数量ほど大きくない。これが2025〜2026年フィリピン銅セクターの基本構図である。

参考:金属鉱物生産額全体は 2025年1〜9月に 2,197.42億ペソ(+14.8%)、2026年1〜3月に 827.8億ペソ(+28.6%)(いずれもMGB)。牽引役はであり、銅ではない。

2024年通年について「鉱業総生産額 3,162.9億ペソ」(Chambers Global Practice Guides "Mining 2026"がMGBを引用)と「金属鉱物生産額 2,529億ペソ」という2つの数字が流通している。前者は非金属を含む鉱業全体、後者は金属のみと解されるが、両者の定義差は公表資料上で明示されていない(未確認)。

(2026-08-25 相互照合で補強)この読み方は算術的に裏づけられる。 2023年の金 1,066.4億ペソが「金属総額の42.82%」なら金属総額は 2,490億ペソ(分野「主要金鉱山と生産」1-1)。2025年1〜9月の金属は 2,197.4億ペソ(前年同期 1,914.2億ペソ)で、年換算すると2024年通年の金属は 2,500億ペソ台になる。3,162.9億ペソを金属とすると、2024年の金 1,263.6億ペソの構成比が約40%となり、「2024年に金が金属の約半分を占めて首位に立った」という MGB の説明と整合しない。 分野「金の埋蔵量と鉱床」3-3 および「レアアースと戦略鉱物」5章は旧版で3,162.9億ペソを「金属鉱物生産額」と表記していたため、同日に修正した。

2-3. 世界市場の文脈(2025〜2026年)

指標 時点・出典
世界の銅鉱山生産 2,297.3万 t(2024年)→ 2,318.9万 t(2025年) ICSG
2026年の需給 15万トンの不足(2009年以来の構造的不足との評価) ICSG
LME銅 3か月物 最高値 US$14,527.50/t(2026年1月29日) LME/報道
LME銅 現物 US$14,455/t(2026年8月6日)→ US$14,290/t(8月10日) LME/報道
2025年の年間騰落 約+41%(2009年以来の上昇率) 報道(2025年12月)
2026年通年平均予想 US$12,075/t JPモルガン(2026年半ば時点)

3. 主要銅鉱山・プロジェクト一覧

名称 所在 運営 状態(2026年8月) 規模
トレド/カルメン鉱山 セブ州トレド市 Carmen Copper(Atlas Consolidated 100%子会社) 稼働中・再開発の最終段階 国内最大級の露天掘り銅鉱山。1,674ha
パッドカル(Padcal) ベンゲット州トゥバ Philex Mining 稼働中(鉱山寿命2028年末まで) 操業68年目。銅金
ディディピオ(Didipio) ヌエヴァ・ビスカヤ州カシブ OceanaGold Philippines(持分80%) 稼働中 2025年 金9.07万oz・銅1.33万t
シランガン(Silangan) スリガオ・デル・ノルテ州トゥボド Silangan Mindanao Mining(Philex 100%) 建設最終段階・立ち上げ遅延中 最終 1.2万t/日=年400万t
タンパカン(Tampakan) 南コタバト州 Sagittarius Mines(SMI) 未開発。資本再編中、生産目標2028年 年 銅37.5万t・金36万oz(計画)
キンキン(King-king) ダバオ・デ・オロ州パントゥカン Kingking Mining Corp. DFS段階(2026年Q4完了目標) 初期capex 23.7億ドル

3-1. トレド/カルメン鉱山(Carmen Copper Corporation, Atlas Consolidated)

3-2. パッドカル(Philex Mining)

3-3. ディディピオ(OceanaGold)

項目 2025年実績 2026年ガイダンス
90,700 oz 85,000〜105,000 oz
13,300 t 13,000〜15,000 t
AISC ガイダンス上限をやや超過

3-4. シランガン(Philex)── 国内初の銅カソード生産計画

時点 目標
2022年 2025年第1四半期 商業生産開始
2024年12月〜2025年6月 2026年3月(初出湯=first metal pour)
2026年6月(株主総会) 2026年第3四半期
2026年7月末(最新開示) プラント試運転完了は2026年第4四半期

3-5. タンパカン(Sagittarius Mines)── 止まり続ける世界級斑岩銅金鉱床

なぜ止まっているのか(経緯)

出来事
1990年 Western Mining Corporation が発見
2001年 FTAA(財務・技術支援協定)が Sagittarius Mines(SMI)へ移転
2010年 南コタバト州が州条例で露天掘りを禁止
2015年 Glencore が撤退(規制の不透明さを理由に)
2017年 全国レベルの露天掘り禁止
2020年 地元自治体が「不公平」として協定を破棄/FTAA を12年延長
2021年 全国の露天掘り禁止が解除、州の禁止条例も撤廃
2025年2月 DENR が FTAA をさらに6年延長し2038年までとする
2025年10月 SMI が「近代的技術を持つ戦略パートナー」を公募。生産開始目標を2028年に後退
2026年8月 Dominion Holdings(DHI)への統合が発表(下記)

資源量

数字 内容 注意点
29.4億トン @ 銅0.51%・金0.19 g/t(カットオフ 銅0.2%)= 含有銅1,500万t・含有金1,760万oz。うちM&Iは22.7億t @ 銅0.55% JORC(2004年版)準拠、2011年12月末時点の資源量(2012年1月 ASX 開示) これが基準の特定できる最新の公表資源量。資源量であって埋蔵量ではない(公表済みJORC Ore Reserve は未確認)。以後15年近く更新公表なし(2026-08-25 相互照合で修正。出典:分野「主要金鉱山と生産」4-2)
「29.4億トン @ 銅0.6%、金1,800万oz 報道・Wikipedia等で最も流布 誤り。 旧推計(24.9億t @ 銅0.6%、カットオフ0.3%)と新推計(29.4億t @ 銅0.51%)を混同したもの。この形では引用しない(2026-08-25 相互照合で判定。出典:分野「主要金鉱山と生産」4-2)
11.04億トン @ 銅0.65%・金0.26 g/t(カットオフ 銅0.3%) 2004年時点の JORC 指示+推定資源量 基準は明確だが20年以上前の数字
「25億トン超の推定鉱床」 SMI 自社サイト 事業者の主張
「総額1,500億〜2,000億ドル相当」 各種報道 価格前提が示されておらず比較不能

「世界有数の未開発斑岩銅金鉱床」「東南アジア最大の未開発銅金鉱床」という表現自体は複数の独立ソースで一致している。 資源量については JORC 2004年版・2011年12月末時点の 29.4億t @ Cu 0.51%・Au 0.19 g/t が基準を特定できる唯一の公表値であり、2025〜2026年に更新された JORC/NI 43-101 資源量は確認できない(未確認)。日本語で紹介する際は「JORC 2004年版・2011年末時点の資源量(埋蔵量ではない)」と明記すべきである。(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載は「報告基準・公表元・基準年とも特定できない」としていたが、クラスタ内の「主要金鉱山と生産」および「_地下資源の総合考察」が基準・時点を特定していた)

2026年の最重要ニュース:Dominion Holdings への統合

3-6. キンキン(King-king、ダバオ・デ・オロ州)

区分 数量 品位 含有量 出典
測定+指示資源量(2023年8月) 11億1,970万 t 銅0.24%、金0.34 g/t 銅55.53億lb、金1,114.7万oz NI 43-101
推定資源量 6億7,520万 t 銅0.20%、金0.27 g/t 銅28.54億lb、金546.4万oz NI 43-101
確定+概測埋蔵量 9億5,940万 t 銅0.26%、金0.36 g/t 銅53.96億lb、金977.1万oz NI 43-101

4. 製錬能力:PASAR の停止と「精鉱輸出・地金輸入」への逆戻り

4-1. PASAR とは

項目 内容
正式名 Philippine Associated Smelting and Refining Corporation(PASAR)
所在 レイテ州イサベル町バランガイ・リベルタッド(レイテ工業開発団地内)
設立 1976年12月7日(フィリピン政府が設立)/1983年商業運転開始、建設費3億ドル
位置づけ 東南アジア初の銅製錬・精錬所であり、フィリピン国内唯一
民営化 1999年、Glencore が取得
能力 当初 電気銅 13.8万 t/年 → 拡張後 20万 t 超(一部報道は 215,000 t/年)/精鉱処理能力 約120万 t/年
LMEブランド "PSR"(2008年〜登録)
原料 年間約72万トンの銅精鉱を必要とし、国内産では足りず輸入に依存。豪州・インドネシア産の受け皿であり、南米→中国向けの余剰カーゴの処理先でもあった

4-2. 2025年2月の操業停止

指標 時点・出典
年間ベンチマーク TC/RC(2025年) US$21.25/t・2.125 ¢/lb Antofagasta × 中国製錬各社
年間ベンチマーク TC/RC(2026年) US$0/t(史上最低) 2026年1月妥結、S&P Global/SMM
スポット TC(CIF アジア) −US$65.40/t 2025年11月21日、Fastmarkets
スポット TC −US$126.80/dmt 2026年6月末
日本の製錬各社 2026年は中国基準と別建てを模索(2025年は US$25/t・2.5¢/lb を確保) 2025年11月、ロイター

TC/RC がマイナスとは、製錬所が鉱山に対価を払って精鉱を処理してもらう状態を意味する。世界的な製錬能力の急増(特に中国)と鉱山側のトラブルによる精鉱不足が重なった結果であり、PASAR 固有の問題ではない。中国政府は新規製錬所の建設認可を停止し、中国大手も減産に踏み切った。

4-3. 所有権の移転(Glencore → ビリャール家)

4-4. 停止の意味 ── 構造の逆戻りと地域経済

(a)貿易構造

停止前 停止後
精鉱を輸入 → 国内で電気銅を生産 → カソードをほぼ100%輸出(タイ・中国・ベトナム向けが金額の75%) 国内産精鉱をそのまま輸出 → 電気銅・伸銅品を輸入
銅の付加価値の一部を国内で取得 付加価値はすべて海外(中国・日本・韓国)で発生

(b)地域経済への打撃

指標 出典
直接影響を受けた労働者 約3,000人 報道
東ビサヤ地方の 2025年 GRDP 成長率 1.0%(2024年は6.2%) PSA(2026年4月公表)
同 製造業 −9.6%(地域経済の13.9%を占める) PSA
同 工業セクター +5.7%(2024年)→ −3.8%(2025年) PSA
東ビサヤ地方の失業率 7.7%(2026年1月)、前年同月2.4% PSA
同 失業者数 約15.7万人(前年同月5.2万人) PSA

NEDA 地方局(Meylene Rosales 局長)は「地域が PASAR に依存しすぎていた」として製造業の多角化を訴えている。地域開発評議会(RDC)が緩和策を策定中。

「1社の製錬所の停止が、地方1つの経済成長率を5ポイント押し下げた」という事実は、フィリピンの地方経済が単一大型事業に依存する構造を示す典型例として押さえておく価値がある。


5. クロム鉄鉱(chromite)── かつての世界的産地の現在

5-1. 歴史:ザンバレス州マシンロック/コト鉱山

期間 生産
1946〜1952年 1,605,867.6 ロングトン(Cr₂O₃ 32.33%)
1950〜1964年 中部北ザンバレスだけで自由世界の生産の20%
1960年(ピーク) 耐火級 606,103 t(主にコト鉱山)+ 冶金級 128,426 t(アコヘ鉱山)
1946〜1976年(全国) 冶金級 2,756,072 DMT/耐火級 12,425,200 DMT

5-2. 耐火級と冶金級の違い

区分 Cr₂O₃ Al₂O₃ 用途 ザンバレスでの産状
耐火級(refractory) 30〜44 wt% 20〜30 wt% 耐火煉瓦 カンラン岩–トロクトライト–カンラン石斑れい岩系
冶金級(metallurgical) 45〜53 wt% 12〜18 wt% フェロクロム→ステンレス カンラン岩–輝岩–ノーライト系

両者は空間的に分離し、異なる親マグマから晶出したとされる(Mineralium Deposita, 1986)。 現在の MGB 統計は耐火級/冶金級を区別していない。この分類は主に20世紀の報告書で使われた。

5-3. 現在の生産水準

期間 生産量 前年比
2024年(Techiron/Chromiteking のみ) 63,022 DMT(6.293億ペソ) +165%(数量)
2025年1〜9月(全国) 72,599 DMT −30.1%(金額 −35.7%)
事業者 鉱区 2024年生産
Techiron Resources/Chromiteking 東サマール州ギワン(ホモンホン島) MPSA 292-2009-VIII 63,022 DMT
Krominco Inc. ディナガット諸島州ロレト MPSA 291-2009-XIII ゼロ
Shangfil Mining & Trading ザンバレス州サンタクルス MPSA 250-2007-III ゼロ

6. その他の金属

6-1. 鉄鉱石

項目 内容
2025年1〜9月 生産 100,683 DMT(+109.5%)、金額 3億2,895万ペソ(+100.2%)。新規生産ラインと出荷再開が寄与(MGB)
稼働鉱山数 4件(MPSA、2025年6月時点)
中心 磁鉄鉱砂(magnetite sand)。ルソン北部・北西部、レイテ東部、ネグロス南西部の海浜に大規模鉱床
品位 経済的鉱床は磁鉄鉱15〜30%、選鉱後で Fe 55〜60%。チタン・バナジウムを不純物として含み、製錬を阻害するが、含有量が高ければ特殊鋼原料として価値が上がる
賦存量(政府系推計) 塊状磁鉄鉱 約5,600万 MT、磁鉄鉱砂 20億 MT 未満、ラテライト鉱 20億 MT 未満 定義未確認
主な事業者 Ore Asia Mining and Development(ブラカン州ドニャ・レメディオス・トリニダード、MPSA 353-2022-III、河床浚渫)、JDVC Resources(カガヤン州沖合、年365万t×47年を計画)

フィリピンの製鉄原料の90%超は輸入であり、国産磁鉄鉱砂の位置づけは限定的。

6-2. マンガン・亜鉛・鉛 ── 商業生産は事実上ゼロ

6-3. モリブデン

6-4. コバルト ── ニッケル HPAL の副産物

フィリピンのコバルトはほぼ全量が2つの HPAL(高圧酸浸出)プラントから出る。

プラント 所在 資本 稼働 能力
Coral Bay Nickel(CBNC) パラワン州リオツバ 住友金属鉱山(SMM)系。原料は Rio Tuba Nickel(Nickel Asia 子会社) 2005年〜 ニッケル 約24,000 t/年
Taganito HPAL Nickel(THPAL) スリガオ・デル・ノルテ州クラベル SMM 系(出資比率は「SMM 62.5%/Nickel Asia 22.5%/三井物産 15.0%」〈レアアースと戦略鉱物〉と「SMM 75%/NAC 10%/三井 15%」〈金と投資・日本企業〉が併存=未確認)。2008年8月22日設立、投資額は16億ドル(本資料)/約13億ドル(鉱業とニッケル)と出所により異なる 2013年10月操業開始 → 2014年6月試運転完了、8月に定格到達 ニッケル 30,000 t/年・コバルト 2,640 t/年(Ni-Co 混合硫化物、事業期間30年)
期間 数量 金額
2025年1〜9月 55,844 DMT(+3.7%) −6.4%
2026年1〜3月 16,711 DMT(−8.3%) 101.3億ペソ(+22.1%)

7. 輸出先と価格変動の影響

7-1. 銅鉱石・精鉱の輸出先

相手国 2024年 2025年 出典
中国 10億ドル超 4億2,415万ドル UN COMTRADE
日本 1億3,100万ドル UN COMTRADE
韓国 8,400万ドル UN COMTRADE
インド 5,000万ドル UN COMTRADE

2024年と2025年の対中輸出額に2倍以上の開きがある。数量の減少(銅精鉱 −7.8%)だけでは説明できず、統計の取り方(報告国・品目コード)の違いか、片方が誤りである可能性がある。本稿では両方を併記し、いずれも「要検証」とする(未確認)。

構造的には、中国が量で圧倒的(日本の10倍超)、次いで日本、韓国という順序は複数ソースで一致する。Carmen Copper は「中国・日本・韓国の製錬所」に出荷、別報道では「輸出のほぼ全量が中国向け」とされる。

7-2. 精製銅(カソード)の流れ

方向 相手 備考
輸出(2020〜2024年、金額) タイ 4.16億ドル、中国 3.91億ドル、ベトナム 2.00億ドル(計75%)、他にインドネシア・韓国・台湾・マレーシア PASAR 産のカソード
輸入 日本が金額の98%(中国0.2%、韓国0.1%)
2024年 平均単価 輸出 US$8,899/t、輸入 US$9,176/t

7-3. 価格変動の影響

金属 2025〜2026年の動き フィリピンへの影響
2026年1月29日に LME 史上最高値 US$14,527.50/t。2025年は年間 +41% 数量減でも金額を維持。ただし製錬側は TC/RC ゼロ〜マイナスで壊滅的。鉱山と製錬で明暗が真逆
大幅上昇(2026年上期に約 US$4,600/oz 水準) 銅金鉱山(パッドカル・ディディピオ・カルメン)の採算を金が支えている。MGB 統計でも金が生産額首位
ニッケル 2023〜2025年に約30%下落(インドネシアの増産) HPAL の採算圧迫 → コバルト供給にも波及
クロム鉄鉱 2025年1〜9月に金額 −35.7% 小規模生産者の休止が続く
モリブデン 2026年に約50%上昇 副産物回収の経済性が改善する可能性

重要な非対称性:銅価が上がっても、製錬料(TC/RC)は精鉱の需給で決まるため、銅価高騰は製錬所を救わない。むしろ製錬能力過剰+精鉱不足が TC/RC を押し下げ、PASAR のような単独製錬所を直撃した。「銅が高いのに銅製錬所が潰れる」という一見矛盾した現象を理解しておく必要がある。


8. 制度環境(2025〜2026年)

8-1. 共和国法 12253 号(大規模金属鉱業の税制改革法)

(2026-08-26 改正確認)RA 12253 が改正するのは内国歳入法(RA 8424)であって、鉱業法(RA 7942)ではない。 正式名称は "…Amending for the Purpose Sections 34(B), 287, and the Subjects of Title VI and Chapter VII Thereof, and Creating New Sections 151-A, 151-B, 151-C, 151-D, and 287-A, All Under Republic Act No. 8424…"。RA 7942 は「mineral agreement」「FTAA」「metallic mining contractor」等の定義の参照先として引かれているにすぎない。ロイヤルティの実体規定は RA 12253 第6条が新設した NIRC 第151-A条である(「RA 12253 第151-A条」ではない)。(出典:lawphil.net ra_12253_2025 本文)

項目 内容
署名 2025年9月4日(マルコス大統領、旧上院法案 SB 2826)
IRR 公布 2025年12月20日
発効 2026年2月17日
鉱物保留地 総産出額の 5% のロイヤルティ(従来どおり)
鉱物保留地 利益率連動ロイヤルティ 1〜5%(5段階)。利益率が閾値未満なら総産出額の 0.1% が最低ロイヤルティ
超過利潤税(WPT) 利益率 30% から適用、1% → 10%(利益率75%以上)。算定時に標準控除は不可、法人所得税とロイヤルティは控除可
リングフェンス 鉱業協定/FTAA ごとに別個の課税単位。損益通算不可。BIR に別支店 TIN で登録
過少資本規制 関連者借入について 負債資本比率 2:1
存続する負担 鉱物品への4%物品税根拠は RA 7942 ではなく内国歳入法〈RA 8424〉第151条。2%→4%にしたのは TRAIN=RA 10963〈2017〉。2026-08-26 改正確認で訂正。出典:LawPhil ra_12253_2025 正式名称〈改正先は RA 8424〉/主要法令インデックス RA 10963 行)、先住民(ICC)向け1%ロイヤルティ(DENR AO 96-40)
透明性 鉱物販売・輸出の監査、データの公開、マルチステークホルダー説明責任機関の設置
増収見込み 2026〜2029年で計 250.8億ペソ(年平均 62.6億ペソ)※政府推計

実務的含意:高値局面では政府取り分が増える一方、リングフェンスにより「稼働鉱山の利益で新規開発の損失を相殺する」ことができなくなった。シランガンやタンパカンのような大型新規案件の資金計画に影響する。

8-2. 原鉱輸出禁止は「見送り」


9. 知らないと間違える点(まとめ)

# よくある誤解 正しい理解
1 「フィリピンは銅埋蔵量世界4位の大銅産国」 埋蔵量順位は根拠未確認の政府側主張。鉱山生産量は世界28位・世界シェア0.27%(BGS 2023年)
2 「銅埋蔵量は11億トン」 鉱石ベースの賦存量。PSA の商業的埋蔵量(Class A)は414万トン(2025年、金属ベース)
3 「MGB の銅生産量◯万トン=銅金属◯万トン」 MGB は銅精鉱の DMT で公表。金属含有量ではない(品位は数%〜20数%)
4 「フィリピンは世界有数のクロム鉄鉱産出国」 過去(1950〜60年代)に耐火級で世界最大だったという話。現在の最大生産国は南アフリカ
5 「フィリピンは亜鉛・鉛も産出」 2025年6月時点で亜鉛・鉛・マンガンの稼働鉱山はゼロ。賦存と生産は別
6 「銅高だから製錬所も好調」 TC/RC は精鉱需給で決まる。2026年の年間ベンチマークは US$0/t、スポットはマイナス。PASAR 停止の直接原因
7 「コバルトは銅の副産物」 フィリピンではニッケル HPAL の副産物。ニッケル市況に連動する
8 「タンパカンは2026年に生産開始」 2023年時点の目標。現在の目標は2028年で、ECC 未取得、訴訟も継続中
9 「シランガンは2026年3月に商業生産開始」 2025年時点の目標。2026年7月末開示では試運転完了が2026年第4四半期
10 「原鉱輸出が禁止される」 2025年6月に両院協議会で削除済み。禁止は成立していない

同じ分野