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主要金鉱山と生産

情報基準日:2026-08-26 / 分野:地下資源


0. 最初に:3つの「量」を混同しない

フィリピンの金を語る記事の大半は、以下を区別せずに使っている。ここを外すと全部が誤読になる。

用語 定義 誰が出すか フィリピンでの例
埋蔵量(Ore Reserves / Mineral Reserves) 資源量のうち、採掘計画・回収率・金属価格前提・許認可まで織り込んで「経済的に採掘可能」と証明された部分 上場企業が有資格者(CP/QP)の署名付きで開示 ディディピオ 41.5 Mt @ Au 0.85 g/t(含有金 1.13 Moz、2025年12月31日時点、NI 43-101、OceanaGold)
資源量(Mineral Resources) 地質学的に確からしいと示された鉱化帯の量。経済性は未証明。M&I/Inferred に分かれる 同上 タンパカン 2.94 Bt @ Cu 0.51%・Au 0.19 g/t(JORC 2004、2011年12月末時点、SMI)
賦存量(Endowment/in-situ value) 「地下に眠る鉱物の推定総額」。探査していない土地も含む政府・業界の概算 政府広報・業界団体・報道 「未開発鉱物 1兆ドル」(政府系広報。MGB幹部自身が「ラフな推計」と認めている、Manila Bulletin 2019年)

「フィリピンは金埋蔵量世界第2位」という主張は、裏が取れない。 - 中央銀行の金準備(gold reserves)としては明確に誤り。Rappler のファクトチェック(2023年2月公表、World Gold Council/IMF の2022年第4四半期データ)は、フィリピン中銀保有 157.06 t に対し米国 8,133.46 t で世界26位前後と指摘し「False」と判定。FactRakers も2020年版を否定済み。(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載「2022年」は引用データの時点であって公表年ではない。出典:分野「金の埋蔵量と鉱床」2-1「Rapplerが2023年2月に False と判定」) - 地下埋蔵量としての「2位」は、Forbes(2015年)や Gulf News が出所を示さず引用しているのみで、USGS や地質調査機関の一次資料に辿れない。本資料では「未確認・出所不明の流布した主張」として扱う。

報告基準の違いも必ず確認すること。 - PMRC 2020(Philippine Mineral Reporting Code)= PSE 上場企業の国内開示基準。OceanaGold Philippines は2026年3月の鉱山寿命延長をこの基準で開示。 - NI 43-101(カナダ)= OceanaGold、B2Gold など TSX 上場親会社。 - JORC(豪)= SMI(タンパカン)、X64 Gold(コ・オー)など。 - MGB の生産統計は政府の行政統計であって報告基準ではない。埋蔵量の担保はない。


1. 国全体の金生産量と世界順位

1-1. 生産量の推移(MGB=鉱山地球科学局ベース)

金生産量 生産額 備考
2022年 29,036 kg PHP 91.05 bn
2023年 31,046 kg(+7%) PHP 106.64 bn(金属総額の42.82%)
2024年 28,870 kg(≒928,000 oz) PHP 126.36 bn 金が品目別1位でニッケルを逆転(Chambers "Mining 2026 – Philippines" 引用のMGB統計)
2025年1〜9月 20,500 kg(前年同期21,651 kg、▲5.3%) PHP 117.421 bn(+28.9%) MGB暫定値(Philippine Resources Journal 2025年12月)
2026年1〜3月 数量未確認 鉱業生産額 +28.6% MGB(Context.ph 2026年6月2日)

数量は減り、金額は増えるという構図が2024年以降一貫している。2025年1〜9月の金属鉱物生産額合計は PHP 219.742 bn(+14.8%)で、うち金が PHP 117.4 bn と過半に近い。

MGB統計は暫定値→確定値で改定される。2024年1〜9月の金生産量は当初 22,034 kg と発表され、後に 21,651 kg に改定された。同じ期間でも参照時点により数字が違うので、必ず「MGB◯年◯月発表値」と書くこと。同様に2025年上半期の金属生産額も PHP 135.62 bn(MGB H1レビュー)と PHP 140 bn(Chambers 引用)で食い違いがある。

本稿執筆時点(2026-08-24)で、MGB の2025年通年確定統計は確認できていない(未確認)。通年値は例年3〜6月に公表される。

1-2. 世界順位


2. 大規模鉱山と小規模採掘の比率

区分 根拠法 規模感 出荷ルート
大規模(金鉱山) 鉱業法(RA 7942, 1995年)MPSA / FTAA 稼働金鉱山 11か所(2025年6月時点、MGB。2024年6月は12か所) 海外精錬(香港Heraeus等)/輸出、一部BSPへ
小規模(ASGM) 小規模鉱業法(RA 7076, 1991年)+DAO 2015-03 宣言済み Minahang Bayan 63か所(うち金50・クロマイト11・マグネサイト1・シリカ石英1)(時点は2025年3月14日=MGB「Minerals Industry at a Glance」。2026-08-25 相互照合で修正。旧記載「2025年6月」は誤り。出典:分野「金の埋蔵量と鉱床」9章/「金の制度・税制・BSP」6章)。別集計では2025年7月時点53か所とされ数字が併存する。就業者は推計20万〜50万人 原則 BSP(フィリピン中央銀行)のみが合法的買取・輸出主体

比率について流布する数字: - PIDS(フィリピン開発研究所)研究:国内金供給の約70%が小規模採掘由来。 - DENR-EMB(2011年):年間産金の80%がASGM、鉱夫約50万人。

「大規模 : 小規模 = ◯ : ◯」を正確に出すことは、制度上できない。 MGB統計は大規模鉱山の申告値が中心で、小規模産金の相当部分は密輸・非申告で捕捉されない。2011年に小規模鉱夫のBSP売却へ物品税2%+源泉税5%が課されると、BSP買取は2010年の90万トロイオンス超から2019年には約1万トロイオンスへ激減し、Reuters は「小規模産金の最大9割が主に中国へ密輸されている」と報じた。RA 11256(2019年)で免税が復活したが、統計の断層はそのまま残っている

2025〜2026年の動き: - BSP は Quezon City / Baguio / Naga / Zamboanga / Davao に買取所を置き、LBMA の責任ある金調達(RGG)書類を要求。 - 質店大手 Cebuana Lhuillier(全国約3,500拠点)を認定金トレーダーとして取り込み中。 - MGB が MOSS(Mobile One-Stop Shop) を各鉱業地域で展開し、小規模鉱夫の登録とBSP接続を簡素化(2026年)。 - 大規模側にもBSP売却義務。OceanaGold Philippines は2025年に 6,684 oz をBSPへ売却し、最低25%の約定(2025年3月〜2028年3月)を上回った。「年産の31%」という表現に注意:ディディピオの2025年の金生産は90,700 oz であり、6,684 oz はその7.4%にすぎない。31%は金ドーレ(doré)生産に対する比率であって総金生産に対する比率ではない(残りは銅精鉱に含まれて輸出される)。総金生産と混同すると桁を誤る(2026-08-25 相互照合で注記。同じ「年間生産の約31%」という表現が分野「鉱業とニッケル」6章・「小規模金採掘と水銀問題」9章にもある)。


3. 主要金鉱山(稼働中)

3-1. マスバテ金鉱山(Masbate Gold Project)── 国内最大の産金鉱山

項目 内容
所在 マスバテ島 アロロイ(Aroroy, Masbate)
事業体 Filminera Resources Corp.(鉱区保有、B2Gold 40%/Zoom 60%)+ Philippine Gold Processing & Refining Corp.(PGPRC)(B2Gold 100%、鉱石購入・処理)
親会社 B2Gold Corp.(TSX/NYSE American: BTO/BTG、カナダ)
方式 露天掘り+低品位ストックパイル処理

生産実績・計画(B2Gold 開示)

金生産 補足
2025年通年 196,526 oz 当初ガイダンス170,000〜190,000 oz → 2025年9月に190,000〜210,000 ozへ上方修正し達成
2025年Q1 46,369 oz 品位0.83 g/t、処理2.28 Mt、回収率75.9%
2025年Q2 50,738 oz 品位0.93 g/t、キャッシュ操業コスト $801/oz
2025年Q3 49,519 oz 回収率80.0%
2026年ガイダンス 当初170,000〜190,000 oz → Q2決算(2026年8月6日)で上方修正。鉱山別ガイダンスは180,000〜200,000 oz。ただし B2Gold 公式サイトの Masbate ページは2026-08-25時点でなお「170–190 koz」と表示している。上方修正の有無・対象(連結か鉱山別か)は要再確認=未確認(2026-08-25 相互照合で注記) 処理8.2 Mt、品位0.93 g/t前提。AISC US$1,430〜1,580/oz、キャッシュ操業コスト US$900〜1,000/oz(B2Gold公式、2026-08-25確認)

埋蔵量(最新=2025年12月31日時点、NI 43-101、金価格前提 US$2,000/oz):合計 62.9 Mt @ 0.72 g/t = 1.46 Moz(全量 Probable、Proven なし)。内訳は North 6.6 Mt @0.79 g/t=170 koz/South 17.3 Mt @1.00 g/t=560 koz/ストックパイル 39.0 Mt @0.59 g/t=740 koz含有金の半分がすでに掘り出された低品位山である。資源量は Indicated 140.9 Mt @0.70 g/t=3.18 Moz/Inferred 40.16 Mt @0.72 g/t=0.93 Moz(資源量の有効日は 2026年3月31日)。 (2026-08-25 相互照合で修正。旧記載は1年古い2024年12月31日時点(61,000 kt @0.73 g/t=1,430 koz、前提 US$1,750/oz)を主として掲げていた。前年値も参考として残すが、現行値は上記。出典:B2Gold 公式サイト Masbate Gold Project ページを2026-08-25に直接確認。分野「金の埋蔵量と鉱床」第6章も 6,290万t @0.72 g/t=146万oz・2025年12月31日基準としており一致) 採掘(ピット)は2028年に終了予定、ストックパイル処理で選鉱場は2034年まで稼働見込み。この「長い尻尾」がマスバテの資産特性。 2025年に国・地方合わせ 100億ペソ超を納税し、地元アロロイ町は4級自治体から1級自治体に昇格(B2Gold/Manila Times 2026年7月)。

3-2. ディディピオ(Didipio Mine)── FTAA第1号案件、金+銅

項目 内容
所在 ヌエバビスカヤ州カシブ(Kasibu, Nueva Vizcaya)/キリノ州にまたがる
事業体 OceanaGold (Philippines), Inc.(OGPI/PSE: OGP)。親会社 OceanaGold Corp.(TSX: OGC)が80%持分
権原 FTAA(財務技術支援協定)。1994年6月締結 → 2019年6月19日から25年更新(2044年まで)、正式付与は2021年7月
収益配分 政府60 : 会社40(純収益ベース)

2019〜2021年の操業停止と再開の経緯:FTAA満了(2019年6月)後の更新が滞る中、州知事が鉱石・資材トラックの通行を阻止し、2020年には従業員の8割をレイオフ。2021年7月にドゥテルテ政権が更新を正式付与して操業再開。 更新は今も係争中。ヌエバビスカヤ地方裁判所で「事前の住民協議を欠く」として提訴され、2025年4月2日の分割判決は継続的職務執行令状(Continuing Mandamus)の公判前手続を命じつつ、更新は「原FTAAの期間延長にすぎない」として certiorari の請求は棄却した。

業績・生産

財務
2024年 97,000 oz 12,300 t 前後 純利益 $30.3 m
2025年 90,700 oz 13,300 t(+8%) 純利益 $76.5 m、売上 $438.8 m(+28%)、実現金価格 $3,494/oz(過去最高)
2026年ガイダンス 85,000〜105,000 oz 13,000〜15,000 t 探鉱費 $10 m
2026年1〜6月 41,800 oz(▲7%) 5,900 t(▲17%) 純利益 $67.4 m(+206%)、売上 $285.3 m、実現金価格 $4,073/oz、AISC $1,436/oz、FCF $62.3 m

埋蔵量・資源量(2025年12月31日時点、NI 43-101、前提 Au $2,200/oz・Cu $4.00/lb) - 埋蔵量(Proven+Probable):41.5 Mt @ Au 0.85 g/t・Cu 0.32% → 含有金 1.13 Moz/含有銅 0.13 Mt - 資源量(M&I):45.2 Mt @ Au 0.92 g/t・Cu 0.35% → 金 1.34 Moz/銅 0.16 Mt - 資源量(Inferred):9.2 Mt @ Au 0.9 g/t・Cu 0.3% → 金 0.3 Moz

2026年の最大ニュース:2026年3月、PMRC 2020 準拠の改訂鉱山計画をPSEに開示し、鉱山寿命を2035年→2037年に延長(前提金価格 $2,200/oz と保守的)。続いて2026年7月、マルコス大統領のバンクーバー訪問に合わせ OceanaGold が総額 US$1.9 bn(一部報道は US$1.96 bn)の投資を表明。直接・間接で約2,500人の雇用。フィリピンの新財政制度(RA 12253)下での最初の大型投資判断として注目されている。 上場:FTAA が PSE 上場を義務付けているため、2024年5月13日に OGPI が20%を売り出して上場(1株 P13.33、4億5,600万株、約60.8億ペソ)。2012年以来初の鉱山会社IPO。 2025年の地方事業税は3自治体へ計 P397.7 m(カシブ町が P198.9 m で最大)。

3-3. パッドカル(Padcal Mine)── 2012年尾鉱ダム決壊と2028年閉山

項目 内容
所在 ベンゲット州イトゴン/トゥバ(Itogon・Tuba, Benguet)
事業体 Philex Mining Corp.(PSE: PX)(First Pacific/MVPグループ)
操業開始 1958年(2026年時点で約68年)

2012年8月の尾鉱ダム決壊(国内最大の鉱害) - 台風 Gener/Ferdie による豪雨で 尾鉱池3号(Tailings Pond No.3) が漏出、2,069万トンの鉱滓がバロッグ川〜アグノ川水系へ流出。 - MGB は鉱業法(1995年)の「1トンあたり P50」規定に基づき P1,034,358,971(約10.3億ペソ) の罰金を課した。Philex は「50年確率降雨(234.50 mm)を超える331.80 mm の不可抗力」と主張したが2012年11月に不服申立が却下され、分割払い要請も拒まれ 2013年2月18日に全額納付。 - 2014年6月にはさらに水質浄化法違反で P188.6 m を追加納付。Philex は関連費用を総額 約40億ペソ と説明。 - 「Philexが罰金を払わなかった/減額された」という記述は誤り。全額納付済み

近年の生産と閉山

粉砕量
2024年 30,702 oz 19.780 M lb 6.809 Mt
2025年 24,358 oz 18.155 M lb 6.774 Mt
2026年Q2 4,011 oz(前期比+80%) 3.388 M lb(+81%) 1.56 Mt(+68%)

2025年通年のコア純利益は P1.071 bn、売上 P8.854 bn。Q4の実現金価格は $4,338/oz と過去最高。数量減を価格が完全に打ち消した典型例。 2026年初は二次・三次破砕プラント損傷で減産(Q1 粉砕93.1万トン)、修復後Q2に回復。 閉山予定は2028年。ただし1980年代に確認された鉱体の確認掘削を終え資源量評価中で、2026年末に延長可否の初期スタディが出る予定(Philex)。

3-4. シアナ(Siana Gold Project)── 2024年TSF崩壊で停止中

3-5. コ・オー(Co-O Mine)── 運営会社の誤記に注意

コ・オー鉱山は Benguet Corp や Apex Mining の鉱山ではない。 日本語記事にこの誤りがよく見られる。

3-6. マコ(Maco Mine)/Apex Mining ── PSEの金銘柄の代表

金販売 銀販売 実現金価格 純利益
2025年1〜6月 51,436 oz 197,925 oz $3,121/oz P3.20 bn(+70%)
2025年1〜9月 P5.45 bn(+77.5%)、売上 P15.48 bn
2026年1〜6月 43,215 oz(▲16%) 154,946 oz(▲22%) $4,656/oz(+49%) P5.39 bn(+68%)、売上 P12.84 bn(+35%)

2026年上半期は金・銀とも販売数量が減ったのに利益が7割近く伸びた(銀は実現価格が+134%の $77.67/oz)。粉砕量は 542,697 t(+18%)と増えたが、深部の高品位帯へ移行する過程で品位が低下。 2025年の資源・埋蔵量証明に基づき 3,000 t/d 前提で2034年までの鉱量。処理能力を 3,500 t/d へ増強する工事を2026年末完了目標。Tagbaros 排水・通気坑道で深部鉱体にアクセス。 Asia Alliance Mining Resources 買収に伴う銅案件は、選鉱場建設を含め 約 US$300 m の投資規模。Apex は Forbes Asia "Best Under a Billion"(2026年)に2度目の選出。

3-7. ベンゲット社(Benguet Corporation)の鉱山

3-8. その他の稼働鉱山(押さえておくべきもの)

鉱山 事業体(上場) 2025〜2026年の要点
ルンルノ(Runruno) ヌエバビスカヤ Metals Exploration Plc(英AIM) 2025年は記録的で金売上 $208.4 m、税引前FCF $115.3 m、Q4実現 $3,995/oz。2026年Q3に鉱石枯渇で採掘終了、処理は2026年末〜2027年初で終了予定。2026年ガイダンスは50,000〜60,000 oz → 40,000〜48,000 oz へ下方修正(BIOX 回路の不調、品位低下、過去の違法採掘の影響)。キャッシュは次のニカラグア La India 案件へ
ビクトリア/テレサ(Victoria / Teresa) ベンゲット(Mankayan) Lepanto Consolidated Mining(PSE: LC/LCB) 2026年上半期 純利益 P1.59 bn(2倍超)、売上 P3.24 bn(+47%)。金 10,931 oz(▲7%)、銀 21,518 oz(▲9.2%)、実現金価格 $4,684.40/oz。MPSA 001(948.47 ha)が2025年3月に期限切れ。最高裁が FPIC 先行を要求 → 2026年2月に住民多数が賛成 → 2026年7月30日に先住民と25年MOA署名。NCIP の Certificate Precondition 発行待ち。関連の Far Southeast(FSGRI 60%出資)は未開発で、2024年7月に Gold Fields とのオプション契約を解消
バラバグ(Balabag) サンボアンガ・デル・スル(Bayog) TVIRD 100%(TVI Pacific 30.66%) 2021年商業生産開始、露天掘り+Merrill-Crowe/CIL のハイブリッド、約2,500 t/d。開始〜2024年2月末で87回のドーレ出荷、含有 金82,670 oz・銀1,670,636 oz。2022年に大統領鉱業環境賞(PMIEA)
カニャティアン(Canatuan) サンボアンガ・デル・ノルテ(Siocon) TVIRD(閉山済み) 1995年鉱業法下で最初期の案件。VMS 鉱床の酸化帽(ゴッサン)から金銀 → 硫化鉱で銅精鉱(2009年商業化)。2014年1月に鉱量枯渇で閉山。スバノン先住民の聖地マウント・カニャティアンをめぐる紛争が長く続いた、IPRA と FPIC を論じる際の基準事例
ティボイ(T'Boli) 南コタバト Rizal Resources Corp.(TSXV: RZL) ヘネラル・サントス市から約40 km。2018年3月に NI 43-101 テクニカルレポート。北脈群・南脈群の2系統。2016年末に TMC-Tribal Mining が地元小規模鉱夫(Maguan 一族の組合、T'boli Minahang Bayan 協同組合)と約20年の紛争を終える協定。開発段階で商業生産には至っていない(2026年時点、未確認)

4. 開発中の2大案件

4-1. シランガン(Silangan Project)── 2026年に国内初の新規大型鉱山になるか

項目 内容
所在 スリガオ・デル・ノルテ州 Tubod(ボヨンガン Boyongan 鉱体が第1期)
事業体 Philex Mining(Silangan Mindanao Mining Co., Inc.=SMMCI)
鉱量 ボヨンガン 可採鉱量 81 Mt @ Cu 0.67%・Au 1.13 g/t、回収可能銅 993 M lb、回収可能金 2.8 Moz(PMRC準拠)。地区全体の資源量は 5.71億t(従来3.98億tから+43%)。鉱山寿命は鉱区全体で 28年(2026-08-25 相互照合で補記。分野「鉱業とニッケル」6章は第1期「22年」と記載していたため28年に統一)
製品 銅カソード+金ドーレ(国内初の全自動 金・銅酸化鉱処理プラント、銅リーチングは国内初)
投資 追加 US$1 bn + 事前開発費 P18 bn

生産計画:初期 2,000 t/d → 4,000 t/d(追加 $160 m)→ 9年目 8,000 t/d → 12年目に最大 12,000 t/d。4,000 t/d への到達時期は資料間で食い違う。 本資料は「約18ヶ月で」、分野「銅とその他の金属資源」3-4 は「2,000 t/日×5年 → 6年目に4,000 t/日」とする。初期2,000 t/dと12年目12,000 t/dは一致。Philex 公式開示での確認が必要=未確認。両論を消さずに併記(2026-08-25 相互照合)。品位はパッドカルの約6倍で、トン数が小さくてもパッドカルより多い収益を見込む。 スケジュールの変遷(誤記しやすい):当初「2026年3月に商業生産」(パンギリナン会長)→ 2025年11月時点で「2026年Q1に初出湯」→ 2026年Q1決算(5月)で「2026年内」に修正 → 2026年6月末(株主総会)で「2026年Q3に初出湯・商業運転開始」→ 2026年7月末の最新開示では「プラント試運転完了は2026年第4四半期」(2026-08-25 相互照合で追記。旧記載はQ3で止まっていた=古い目標の残置。出典:分野「銅とその他の金属資源」3-4/「金の制度・税制・BSP」9-2)。 2026年8月24日時点で、初出湯が実際に行われたかは確認できていない(未確認)。 会社側は収益貢献を2027年からと説明している。 足元の財務:2026年Q1はコア純損失 P281 m(前年同期はコア利益 P71 m)、連結損失 P592 m(パッドカルの減産+ドル建て借入の非現金為替評価)。建設は EEI Corp.、試運転は Ausenco Pty Ltd。 マルコス政権下で商業生産に入る最初の大型鉱山案件になる見込み。

4-2. タンパカン(Tampakan)── 東南アジア最大級の未開発斑岩銅金鉱床

項目 内容
所在 南コタバト州タンパカン〜ダバオ・デル・スル州キブラワン。FTAA 対象区域 25,371 ha、鉱山サイトは約10,000 ha
事業体 Sagittarius Mines, Inc.(SMI)
資源量 2.94 Bt @ Cu 0.51%・Au 0.19 g/t(Cu 0.2% カットオフ)= 含有銅 15.0 Mt、含有金 17.6 Moz。M&I は 2.27 Bt @ Cu 0.55%。JORC(2004年版)準拠、2011年12月末時点の資源量(2012年1月 ASX 開示)
計画生産 銅精鉱中で年平均 銅375,000 t・金360,000 oz、鉱山寿命17年(一部報道は40年超)

タンパカンの数字は「資源量(Mineral Resources)」であって埋蔵量ではない。 公表済みの JORC 準拠 Ore Reserve は確認できていない(未確認)。 さらに、この資源量は2011年末時点のもので、以後15年近く更新公表がない。「0.6% Cu で 2.94 Bt」という記述(Wikipedia 等)は、旧推計(2.49 Bt @ 0.6%、0.3% カットオフ)と新推計を混同した誤りである。 開発費も US$5.9 bnUS$1.1 bn の両方が流通しており、どちらの範囲(フル開発 vs 初期フェーズ)かが不明。「$200 bn」「$150〜200 bn」は地下の金属の粗価値(gross in-situ value)であって投資額でも利益でもない。

露天掘り禁止条例をめぐる経緯(試験に出る流れ) 1. 2010年 南コタバト州が環境コードで露天掘りを禁止。SMI は露天掘りが唯一実行可能と結論していたため、事実上の停止。 2. 2015年 Glencore(当時 SMI の62.5%保有)が規制不透明を理由に撤退。残り37.5%は豪 Indophil Resources NL 系で、後にアルカンタラ(Alcantara)財閥の Alsons Prime Investments が取得。 3. 2021年12月 中央政府が全国的な露天掘り禁止を解除。しかし州条例が残り開発できず。 4. 2022年5月 州議会(Sangguniang Panlalawigan)が環境コードを改正し 露天掘り禁止条項を削除。最後の規制障壁が消える。 5. 生産開始目標は「2026年Q4」から 2028年へ後ろ倒し。 6. 2026年8月20日 Dominion Holdings Inc.(PSE: DHI、Sy財閥+Consunji財閥系。旧 BDO Leasing and Finance)の取締役会が、Indophil Resources Phils., Inc. および Sonar Holdings Inc. との合併(DHI が存続会社)を承認(PSE開示)。両社は SMI を Indophil 40%/Sonar 31.60%=経済的持分 合計71.60%、議決権100% で保有しており、合併完了で DHI が SMI を支配下に置く。授権資本を P3.42 bn → P30 bn へ増資。株主総会は 2026年9月14日。合併比率は独立評価後に確定。(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載は日付「8月19日」・持分「議決権100%」のみ。出典:分野「銅とその他の金属資源」3-5/「金と投資・日本企業」10-4/「_地下資源の総合考察」4-3、いずれも8月20日および経済的持分71.60%とする) 7. 市場の反応:DHI 株は2026年に 1,000%超上昇して P15.60(時価総額 P33.7 bn)、公表後に売買一時停止。アルカンタラ系 Alsons Consolidated Resources も最大40%高。DHI は Atlas Consolidated Mining の20.43%も取得済で、SM Investments が2027年に約34%を移管予定 ── タンパカンとアトラスを束ねた国内最大の鉱業持株会社構想。

反対運動は継続。マルベル教区(Diocese of Marbel)が環境・食料安全保障を理由に一貫して反対しており、30年間の賛否対立で多数の死者が出ている。タンパカン町が主張する P4億超の不足税をめぐる訴訟では、租税控訴裁判所(CTA)がコロナダル地裁の徴収命令の執行を停止している。


5. PSE 上場企業と2025〜2026年の金価格高騰

5-1. 金価格の水準(必ず織り込む)

時点 価格 出所
2025年上半期ピーク US$3,354.35/oz MGB 2025年上半期レビュー
2025年 OceanaGold 実現平均 US$3,494/oz OceanaGold
2025年Q4 Philex 実現 US$4,338/oz Philex
2026年1月29日 史上最高値 US$5,608.35/oz同日の先物最高値を US$5,542.40/oz とする集計もある。日中高値ベースと終値ベースの差とみられるが未確認=2026-08-25 相互照合で併記) Trading Economics
2026-08-24 現物 US$4,645.74/oz(前年同期比 +37.98%)本資料の旧値 US$4,648.18/+38.05% と微差あり Trading Economics(2026-08-25 相互照合で修正。クラスタ内3資料〈金の埋蔵量と鉱床/金の制度・税制・BSP/金と投資・日本企業〉が 4,645.74ドル・+37.98% で一致するため多数値を採用)
2026年上半期 実現平均 Apex US$4,656/oz(+49%)/Lepanto US$4,684.40/oz(+51.8%) 各社開示

銀も同時に急騰(2026年上半期 Apex 実現 $77.67/oz、+134%)。ペソ安(2026年上半期平均 P59.97/US$ vs 前年 P57.06)も、ドル建て売上をペソ換算する国内上場企業の利益を押し上げている。

5-2. 2025〜2026年の共通パターン:「数量減・価格増・最高益」

企業(PSE) 主要鉱山 数量 利益
Apex Mining(APX) マコ 金販売 ▲16%(2026年上半期) 純利益 +68%(P5.39 bn)
OceanaGold Philippines(OGP) ディディピオ 金 ▲7%、銅 ▲17% 純利益 +206%($67.4 m)
Lepanto(LC/LCB) ビクトリア/テレサ 金 ▲7% 純利益 2倍超(P1.59 bn)
Benguet Corp(BC/BCB) アクパン等 小規模 2025年通年 純利益 +74.4%
Philex Mining(PX) パッドカル 金 ▲21%(2025年) 2025年コア純利益 P1.071 bn(増収)/2026年Q1は損失
B2Gold(BTO/BTG、加) マスバテ 2025年 196,526 oz(ガイダンス達成) 2025年 連結売上が初の $30億超

セクター全体:2026年8月20日には PSE の鉱業・石油サブ指数が 1日で+5.04% と全業種で最大の上昇(Apex +9.26% で P15.58、Philex +7.32% で P10.70)。Philex の目標株価は直近5四半期で P2.20 → P11.00 へ引き上げられた。 「利益が伸びている=生産が伸びている」ではない。 上表のとおり、ほぼ全社が数量は減らしながら過去最高益を出している。記事化する際は必ず数量と価格を分けて書くこと。

5-3. 制度:RA 12253(2025年9月4日成立)

Enhanced Fiscal Regime for Large-Scale Metallic Mining Act(大規模金属鉱業の税制強化法、共和国法12253号)。

項目 内容
ロイヤルティ(鉱物保留地 利益率連動の5段階、1〜5%。閾値未満の鉱山には総産出額の 0.1% の最低ロイヤルティ
ロイヤルティ(保留地 従来どおり 5%
ウィンドフォール利益税 マージン30%超の部分に 5段階で1〜10%
過少資本規制 負債資本比率 2:1。関連者借入の利子控除を制限
リングフェンス プロジェクト単位。ある案件の損失で別案件の利益を相殺することを禁止
透明性 鉱物販売・輸出の監査、データ公開、マルチステークホルダー説明責任グループの設置
税収見込み 2026〜2029年で計 P25.08 bn(年平均 P6.26 bn、財務省)

この法律が「フィリピンを投資可能な鉱業国に戻す触媒」と業界が評価しており、OceanaGold の $1.9 bn 投資判断(2026年7月)はその最初の実証例として語られている。


6. 知らないと間違えるポイント(総まとめ)

  1. 「埋蔵量」「資源量」「賦存量」を混ぜない。 タンパカンの 17.6 Moz は資源量、ディディピオの 1.13 Moz は埋蔵量。桁が違って見えるのは当然。
  2. 「金埋蔵量世界2位」は出所不明。 中銀の金準備としては明確に誤り(世界26位前後、Rappler ファクトチェック)。地下埋蔵量としては一次資料に辿れない。
  3. 「未開発鉱物1兆ドル」は政府広報の粗い在地価値推計で、JORC/PMRC の埋蔵量ではない。MGB 幹部自身が「ラフな推計」と認めている。
  4. コ・オー鉱山は Philsaga Mining(旧 Medusa、現 X64 Gold 40%)であり、Benguet Corp でも Apex Mining でもない。
  5. MGB 統計は暫定値と確定値で数字が動く。 同じ期間でも発表時期で異なる。必ず「MGB◯年◯月発表」と併記。
  6. 大規模 : 小規模の生産比率は正確には出せない。 「70〜80%が小規模」は PIDS/DENR-EMB の推計であり、密輸分は統計に載らない。
  7. 2025〜2026年の増益は数量ではなく金価格とペソ安による。 生産量はむしろ横ばい〜減少。
  8. シアナ(2024年5月 TSF 崩壊)とパッドカル(2012年 尾鉱池決壊)は別の事故。 混同しない。
  9. シランガンの「2026年3月操業開始」も「Q3」も古い情報。 2026年7月末の最新開示では試運転完了は2026年第4四半期。初出湯の実施可否は本稿時点で未確認。(2026-08-25 相互照合で更新)
  10. タンパカンの「2026年操業開始」も古い。 現在は2028年目標で、2026年8月に Dominion Holdings への支配権移転手続きが進行中。

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