自動車産業とEV
2026年は、フィリピンの自動車産業政策が「ガソリン車の国産化」から「EVの国産化」へ切り替わった年である。 1月の予算拒否権でCARSとRACEの予算が消え、7月にEVIS(600億ペソ)が大統領令で発足した。
1. まず全体像
フィリピンは ASEAN で唯一「自動車を輸入する国」に近い構造を持つ
販売される車の約7割が輸入車(2015〜2023年平均、BOI)
国内組立は実質2社(トヨタ/三菱)のみ
部品の国内調達率は 1997年の約80% → 現在 約20%(PPMA)
| 論点 | 現状 |
|---|---|
| 新車販売(2025年) | 491,395台(業界全体、CAMPI集計。過去最高) |
| 新車販売(2026年上半期) | 204,557台(CAMPI-TMA会員、前年同期比 -11.4%) |
| 国内生産 | トヨタ 63,804台(2025年)/三菱(能力5万台) |
| 電動車(xEV)比率 | 2024年 5.5% → 2025年 12% → 2026年上半期 15.34% |
| 公共充電器 | 約1,569口(2026年3月、DOE) |
| 政策の主軸 | CARS・RACE(内燃機関) → EVIS(電動車) |
注 統計は「どの団体の数字か」で大きく変わる。 CAMPI-TMA(トヨタ・三菱ほか)と AVID(輸入販売業者団体)は別集計で、BYDはCAMPIに入っておらずAVID側にいる。「フィリピンの新車販売台数」を語るときは必ず出典団体を確認する必要がある。
2. CARS(Comprehensive Automotive Resurgence Strategy)とは
2015年、大統領令182号にもとづき開始された乗用車の国産化支援制度。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総枠 | 270億ペソ |
| 参加枠 | 3モデル(実際に埋まったのは2枠) |
| 参加企業 | トヨタ(Toyota Motor Philippines=TMP、ヴィオス/Vios)/三菱(Mitsubishi Motors Philippines=MMPC、ミラージュ/Mirage) |
| 条件 | 登録モデルを6年間で20万台生産すること |
| 支援の形 | 現金ではなく TPC(Tax Payment Certificate=納税証明書)。税・関税の支払いに充当できる |
| 対象 | 車体部品の国産化、共通部品、生産体制への固定投資 |
TMPはヴィオス20万台の生産条件をすでに達成済み。 CARS資金は樹脂射出成形設備(バンパー・インパネ)、ローラーヘミングロボット、A0プレスラインなどに投じられた。
RACE(Revitalizing the Automotive Industry for Competitiveness Enhancement)
- CARSの後継としてDTIが設計した90億ペソ規模の制度。
- 生産条件を10万台に緩和し、1社あたり最大30億ペソの支援。
- 設備・治工具などの資本支出と固定投資に対する財政支援。
- DTI・DOF・DBMの共同行政命令(joint administrative order)で実施する予定だった。
3. 2026年予算の拒否権 ── CARSとRACEが外された
経緯
2026年1月5日
マルコス大統領が 2026年一般歳出法(6兆7,930億ペソ)に署名
同時に「未計画歳出(unprogrammed appropriations)」10項目のうち7項目、
計 925億ペソ に拒否権(veto)を行使
消えたもの
・CARS 43億2,000万ペソ(トヨタ・三菱への未払い分=arrearages)
・RACE 2億5,000万ペソ
注 「未計画歳出」がポイント。 フィリピンの予算にはprogrammed(通常財源)とunprogrammed(超過収入などが出た場合にのみ執行できる条件付き枠)があり、CARSの支払いは後者に置かれていた。つまり最初から執行が保証されていない枠に自動車支援が入っていたこと自体が構造的な弱点だった。
業界の反発(2026年1月)
| 団体 | 反応 |
|---|---|
| PPMA(Philippine Parts Makers Association) | 会長 Ferdinand Raquelsantos が「生き残りにCARSとRACEが必要」。生産量がなければ部品産業は成立せず、部品産業がなければ組立も残らないと主張 |
| CAMPI(Chamber of Automotive Manufacturers of the Philippines Inc.) | 「約束された優遇が守られない」ことへの深刻な懸念。実績に応じた支給を受けられるべきと表明 |
| Philippine Metalworkers' Alliance(労組) | 産業基盤育成からの政府の後退であり、多数の雇用が危険にさらされると批判 |
| EVAP(電気自動車協会) | 両制度の予算復活を要請 |
DBM・DTI・DOFの説明と「DPWH節約分」での支払い
2026年1月19日、3省庁が連名で「PBBMは自動車産業を見捨てない」と題する共同声明を出した。
| 発言者 | 要旨 |
|---|---|
| DBM長官 Rolly U. Toledo | 「発行済みかつ検証済みのTPCに裏づけられた債務は、財政余力と予算ルールに沿って、合法的・秩序的に支払う」 |
| DTI長官 Cristina A. Roque | 自動車産業の雇用・技術面の役割へのコミットメントを再確認 |
| 財務長官 Frederick D. Go | 大統領が投資家への約束を守るよう指示したと説明。1月16日には「資金手当ての解が固まった」と表明 |
支払いの仕組み(ここが実務的に重要)
① 2025年一般歳出法(FY2025 GAA)の DTI-BOI 側に残る
「財政支援未払い金」ライン項目を使う
② 不足分は DPWH(公共事業道路省)の2025年検証済み節約分で増額(augmentation)する
③ 実行には大統領府(Office of the President)の増額承認が必要
④ TPCが未発行で要件だけ満たしている分は、
2027年度の国家歳出計画(NEP)に計上して処理する
注 DPWH節約分が原資になった背景には、2025年の治水事業(flood control)をめぐる汚職問題がある。 DPWHは2026年度予算で地方の治水事業約2,520億ペソを自ら削除しており(2025年9月)、2025年度分にも未執行資金が残っていた。自動車産業への支払いが、別分野の不祥事で浮いた金で賄われるという、かなり異例の構図になっている。
4. RACEの事実上の終了とEVISへの移行
2026年1月 RACE予算 2.5億ペソが拒否権で消える
→ DTIは「CARSの未払い4億ペソ超が優先」と説明、RACEは棚上げ
2026年1月末 DTI「RACEの資金手当ては引き続き協議中」
2026年4月 DTI長官 Roque
「Diretso nang EVIS. For now, wala nang RACE」
(EVISに直行する。当面RACEは無し)
→ RACEの実施計画を撤回
2026年6月 ロケ長官、MSMEが必要とする内燃機関車のために
RACE復活の可能性に再度言及 → 部品業界が歓迎
2026年7月29日 大統領令121号(EO 121)でEVIS発足
注 「RACEは死んだ/生きている」の報道が交錯している。 2026年4月に実施が撤回されたのは事実だが、6月に復活検討が語られ、8月時点でも制度としては再開されていない。資料としては「事実上終了、復活は未確定」と書くのが正確。RACE復活を最も強く求めているのはトヨタとされる(内燃機関の国内生産を続けるため)。
5. EVIS(Electric Vehicle Incentive Strategy)
大統領令121号。2026年7月29日署名、7月30日発効。フィリピン史上最大の自動車向け優遇パッケージ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総枠 | 600億ペソ(CARSの270億ペソの2倍超) |
| 1モデルあたり上限 | 150億ペソ |
| 参加枠 | 4社(1社あたり最大2モデル登録可) |
| 最低投資額 | 50億ペソ以上 |
| 生産目標 | 年産10,000台規模(CARSのような累計台数条件は課さない) |
| 支援① | 固定投資支援 ── 設備投資額の最大40% |
| 支援② | 生産インセンティブ ── 工場出荷価格の最大12%、1台あたり上限20万ペソ |
| 支援の形 | 譲渡不可のTPC(現金給付ではない) |
| 対象 | BEV・HEV・PHEV・燃料電池車の乗用車/商用車と、その部品・部材 |
| 期限 | 登録から3年以内に国産モデル/部品を投入。未達なら登録取消・罰金・優遇の返還 |
| 併用 | 税法Title XIII(CREATE系)の優遇との二重取りは不可 |
実施体制
- BOI(Board of Investments)が主管。
- IAC-EV(Inter-Agency Committee on EV Industry Development) を新設。DOF・DOE・DOTr・DBMが参加。登録申請の審査、登録証の推薦、優遇の承認・剥奪を担当。
- 上位機関として FIRB(Fiscal Incentives Review Board)。EVISは2026年5月18日のFIRB決議 009-26 号で承認済み。
- 申請が定員超過した場合、財政・経済効果と国内経済への貢献度で上位4社を選定。
注 実施細則(IRR/implementing guidelines)はEO発効から1か月以内に出すこととされている(=8月末目途)。2026年8月24日時点で公布の確認は取れていない(未確認)。 三菱もIRRの登録を待って正式申請する構えである。
EVISへの参加見込み
| 企業 | 状況 |
|---|---|
| 三菱(MMPC) | 唯一の公表済み参加表明企業 |
| トヨタ(TMP) | 既存の生産基盤から「次の論理的候補」とされるが、RACE復活(内燃機関支援)を求める立場でもある |
| VinFast(ベトナム) | 現地生産を検討中と報じられる「ワイルドカード」 |
| その他 | BOI幹部によれば国内2社が外資と組んで応募を検討中。アジア・欧州のEVブランドが打診段階 |
6. 三菱自動車の2028年ハイブリッド現地生産
2026年4月6日 三菱自動車CEO 加藤隆雄がマラカニアン宮殿でマルコス大統領と会談
→ EVIS参加とフィリピンでのHEV生産計画を発表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資額 | 70億ペソ(親会社である三菱自動車工業による投資) |
| 場所 | ラグナ州サンタ・ロサ(Santa Rosa, Laguna)の既存工場を拡張(新工場ではない)。約21〜23ヘクタール、年産能力5万台 |
| 現行生産車種 | ミラージュG4(Mirage G4)/L300 |
| 量産開始 | 2028年半ば(試作・パイロット生産は2027年半ば頃の可能性) |
| 車種 | 未公表。セダン型HEVではない見込みと幹部が示唆 |
| 人員 | エンジニアを300〜500人増員 |
| バッテリー | パック組立はフィリピンで実施予定。ただしセル・部材は当面輸入 |
| 輸出 | フィリピンをEVの輸出拠点にする構想。財務長官Goは「ハイブリッド車の輸出国になり得る」と発言 |
実現すれば「フィリピン初の国産ハイブリッド車」となる。 三菱の役員(会長 Noriaki Hirakata)は、需要が想定を上回れば投資が70億ペソを超える可能性にも言及している。
7. 国内市場 ── 誰が売れているか
2025年(過去最高)
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 業界全体 | 491,395台(前年比 +3.7%、過去最高。2024年は473,842台) |
| CAMPI-TMA会員のみ | 463,646台(前年比 -0.8%) |
| 12月単月 | 47,371台 ── 2017年以来の月間最高 |
| 商用車 | 370,722台(+7%) |
| 乗用車 | 92,924台(-23%) |
| xEV(BEV+PHEV+HEV) | 58,905台。市場の12%(2024年は5.5%、+142.5%) |
注 「500,000台」は業界が2024年・2025年と2年続けて逃した目標。 CAMPIの新会長 Jose Maria Atienza は達成に意欲を示している。
ブランド別(2025年、CAMPI-TMA基準)
| 順位 | ブランド | 台数 | シェア |
|---|---|---|---|
| 1 | トヨタ | 229,447台(+5.2%) | 49.5%(業界全体比では約46.7%) |
| 2 | 三菱 | 86,808台(-3%) | 約18.0% |
| 3 | スズキ | 21,984台(+8%) | ── |
| 4 | フォード | 21,784台(-22%) | ── |
| 5 | 日産 | 20,571台(-23%) | ── |
2026年上半期 ── 内燃機関の急落とEVの急伸
| 指標 | 2026年1〜6月 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| CAMPI-TMA会員 販売 | 204,557台 | -11.4% |
| 商用車 | 164,054台 | -11% |
| 乗用車 | 40,503台 | -11% |
| xEV | 31,381台 | +132.7%(シェア15.34%) |
| HEV | 17,148台 | +57.5% |
| PHEV | 5,531台 | +3,356.9% |
背景は2026年前半の石油危機。 ホルムズ海峡をめぐる中東情勢の悪化で価格が急騰し、6月初旬でも首都圏のディーゼル平均が82.54ペソ/L、無鉛ガソリンが85.88ペソ/L(DOE/fuelprice.ph)。2026年8月時点でも高止まりが続いている(ディーゼル 85.50ペソ/L=2026年8月17日、GlobalPetrolPrices。1年前は53.10ペソ/L)。この燃料高が消費者の購買選好をまとめて電動車に振った。政府がEVISを急いだ直接の動機でもある。
注注 (2026-08-25 相互照合で修正。出典:GlobalPetrolPrices「Philippines diesel prices」2026年8月17日更新=85.50ペソ/L・1年前53.10ペソ/L/分野資料「電力と電気代」§4) 旧稿の「8月時点ではディーゼル約56.7ペソ/Lまで落ち着いた」は誤り。 これは危機前(2025年)の水準に近い数字で、古い数字を現在値として置いてしまった典型例である。 分野資料「電力と電気代」§4は同時期を「2026年8月3日時点のディーゼルは約90.40ペソ/L(GlobalPetrolPrices)」とし、さらに「8月18日はガソリン+2.49、ディーゼル+3.84ペソ/Lの値上げ」「Garin長官:紛争が終わっても戦前の50〜60ペソ/Lには戻らない」と記している。56.7ペソ/Lはこれらすべてと矛盾する。 注 ピーク時期の記述も資料間で食い違う。 本稿の旧稿は「4月頃にピーク」、「電力と電気代」§4は「3月にディーゼル130〜140ペソ/L、Philstar報道ではピーク170ペソ/L」とする。一次資料(DOE油価モニタリング)で未確認のため、本稿では「4月頃にピーク」という断定を落とした。
AVID系を含めた実像(BYD)
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| BYD(2025年通年) | 26,122台(+446%) |
| BYD(2026年1〜4月) | 13,723台、シェア9.4%(ブランド別3位、+203%。AVID Summit/PwC発表) |
| 2026年上半期の全体像(PwC等) | 総販売 222,071台(-4.4%)。トヨタ45.3%、三菱15.4%、BYD 9.3%で4段階上昇して3位 |
| CAMPI-TMA内のBEV首位 | VinFast(2026年に3,142台、前年150台から急増) |
注 BYDはCAMPIではなくAVIDに所属している。 そのためCAMPI発表の販売統計にはBYDが含まれない。「フィリピンのEV販売首位はVinFast」という記事は、CAMPI基準での話であって市場全体ではない。
8. 部品産業(PPMA)と輸入依存の構造
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| PPMA会員数 | 1997年ピーク 約140社 → 現在 約40社 |
| 部品の国内供給比率 | かつて約80% → 現在 約20% |
| 輸入車比率 | 販売の約71%(2015〜2023年、BOI) |
| 主要輸入元 | タイ・インドネシア・中国。対タイの車両輸入は約28億米ドル(2024年、UN COMTRADE) |
構造の要点
・1993年からのASEAN共通効果特恵関税(CEPT)で域内関税がほぼゼロに
→ メーカーはタイ・インドネシアに生産を集約し、フィリピンは市場になった
・国内組立が減る → 部品の発注ロットが小さくなる
→ 部品メーカーが採算割れ → 撤退 → さらに国内調達率が下がる
この悪循環を止めるために作られたのが CARS であり、
その後継が RACE であり、今度は EVIS である
トヨタの国内生産(2025年)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生産台数 | 63,804台(+6%、過去最高)。サンタ・ロサ工場(ラグナ州のトヨタ経済特区=TSEZ) |
| 生産車種 | ヴィオス/イノーバ(Innova)/タマラオ(Tamaraw) |
| タマラオ | 2024年12月に復活。工場改修に55億ペソ。年産1万8,000〜2万2,000台想定。2025年に約17,542台販売 |
| 2026年 | 5モデル体制を計画。累計販売300万台到達を視野 |
注 ホンダは2020年にフィリピンでの四輪生産を終了しており、現在の乗用車組立はトヨタと三菱の実質2社。 「日系が多い」という印象と、実際の生産拠点の少なさは別物である。
9. 税制 ── 何が高くなり、何が安いか
| 車種 | 自動車物品税(excise tax) |
|---|---|
| ガソリン車・ディーゼル車 | 価格帯で 4%/10%/20%/50%(60万ペソ以下〜400万ペソ超) |
| ハイブリッド(HEV) | 上記の50%(半額) |
| 完全電気自動車(BEV) | 免税 |
| ピックアップトラック | 2025年7月1日から免税が撤廃され課税対象に |
ピックアップ課税の影響(2025年)
- 根拠法はCMEPA(資本市場効率化促進法、共和国法12214号)。2025年5月29日署名、7月1日施行。
- フォード・レンジャー(Ranger)Wildtrak 4x4 ATは195万ペソ → 234万ペソへ、39万ペソの値上げ(2025年8月)。
- DOFは2028年までに約300.6億ペソの増収を見込む。
- CAMPIは2025年下半期の市場悪化要因のひとつとしてこの課税を挙げている。
関税(EO 12号)
- 2023年1月13日署名。EV本体の関税を5〜30%から0%に、部品を1%に、2028年まで引き下げ。
- 2024年5月に対象拡大。電動二輪・三輪・四輪、e-ジープニー、e-バス、HEV・PHEVの乗用車とトラック、各種CKDを追加(計34品目のBEV関連を含む)。
- 期限は2028年。EVAP(電気自動車協会)は2028年以降の延長を求めない方針を表明している(国内生産を守るため)。
10. EV普及の実態 ── インフラとEVIDA法
EVIDA法(共和国法11697号/Electric Vehicle Industry Development Act)
2022年4月15日に「法として成立(lapsed into law)」。大統領署名ではなく期間経過による成立。
| 主な内容 | 中身 |
|---|---|
| 企業・政府の車両 | 保有台数の最低5%をEVにする |
| ガソリンスタンド | 第19条 ── 充電設備の設置・運営義務(違反は5万〜50万ペソの罰金) |
| 駐車場 | EV専用区画の設置 |
| その他 | グリーンルート、国内EV製造支援 |
| MVUC(自動車利用者負担金) | BEVは30%割引、HEVは15%割引(LTO Memorandum Circular 2026-2183) |
注 ガソリンスタンドの充電器設置には「全国一律の台数」は決まっていない。 DOEは規模別(例:給油ポンプ4基超の店舗に1口など)で調整する方針で、スペースがない店舗には許可留保などで対応する。「全ガソリンスタンドに充電器が義務」と単純化すると誤る。
充電インフラ
| 時点 | 公共充電ポイント |
|---|---|
| 2025年3月31日 | 912か所(首都圏に集中) |
| 2026年3月 | 約1,569口(AC 781/DC 260/バッテリー交換 528) |
| 2028年目標(CREVI) | 7,000〜7,300か所 |
充電料金(2026年、DOE)
| 方式 | 単価 |
|---|---|
| AC充電 | 24.03ペソ/kWh |
| DC充電 | 30.15ペソ/kWh |
| バッテリー交換 | 53.46ペソ/kWh |
注 DC急速充電の30.15ペソ/kWhは、家庭用電気料金(メラルコで約14.8ペソ/kWh、2026年8月)の約2倍。 「EVは燃料代が安い」という話は、自宅充電が前提で成り立つ。公共急速充電に頼る使い方だと優位性は大きく縮む。
CREVI(EV産業包括ロードマップ)
- EVIDA法にもとづきDOEが策定。2023〜2040年。
- 短期(2023〜2028年)目標:EV 245万台(乗用車・三輪・二輪・バス合計)。乗用車の内訳は HEV 41万5,000台/PHEV 6万9,000台/BEV 6万9,000台。
- 2040年に走行車両の50%をEVに(EVIDAの5%義務をDOEが10%へ引き上げ、クリーンエネルギーシナリオで50%)。
- エネルギー長官 Sharon S. Garin は、電動化をエネルギー安全保障の柱(輸入石油依存の低減)と位置づけている。
注 フィリピンの電源構成は石炭が約6割(2025年4月〜2026年3月)。 EVに切り替えても、発電側が石炭のままではCO2削減効果は限定的である。この点は現地でも議論がある。
11. 二輪車 ── 実は台数では圧倒的
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 2024年 | 1,682,482台(MDPPA会員、5年ぶり高水準) |
| 2025年 | 約1,793,219台(+6.7%) |
| 2026年見通し | 約1.86百万台(+4%) |
- MDPPA会員はホンダ・カワサキ・スズキ・ヤマハ・TVS。
- 三輪・電動を含む「その他」区分は月間3,000台台にとどまり、二輪市場での電動比率はごく小さい。
- 注 車が売れず二輪が伸びるのは、消費者の購買力低下の裏返しという指摘がエコノミストから出ている(2025年)。
12. 知らないと間違えやすい点まとめ
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 「CARS予算が拒否されて自動車支援は終わった」 | 注 拒否されたのは2026年の未計画歳出枠。既発行TPC分は2025年GAAとDPWH節約分で支払う方針。終了ではなく資金ルートの付け替え |
| 「RACEは復活が決まった」 | 注 2026年4月に実施撤回、6月に復活検討の発言。2026年8月時点で再開は決まっていない |
| 「EVISは購入補助金」 | 注 消費者向けではなくメーカー向け。しかも現金ではなくTPC(税額充当証書) |
| 「フィリピンの新車販売首位のEVはVinFast」 | 注 CAMPI-TMA基準の話。BYDはAVID所属で別集計、実際はブランド全体で3位規模 |
| 「日系メーカーが多数生産している」 | 注 乗用車の国内組立はトヨタと三菱の実質2社。ホンダは2020年に四輪生産撤退 |
| 「EVは安い」 | 注 BEVは物品税免税・関税0%(2028年まで)だが、公共DC充電は家庭用電気料金の約2倍 |
| 「2026年8月には燃料価格が戦前水準に戻った」 | 注 誤り。2026年8月のディーゼルは85〜90ペソ/L台で高止まり(GlobalPetrolPrices 2026年8月17日 85.50ペソ/L)。戦前(2025年)の50〜55ペソ/L台と混同しないこと(2026-08-25 相互照合で修正) |
| 「EVIS=三菱で決まり」 | 注 三菱は唯一の公表済み参加表明。枠は4社あり、IRR公布後に競争が起きる可能性がある |
13. 日本企業・在住者にとっての読みどころ
① 三菱のサンタ・ロサ拡張(2028年量産)に伴い、
ラグナ周辺で部品・治工具・電装・エンジニア需要が動く可能性
② EVISは1社あたり最低50億ペソの投資を要求する。
部品サプライヤーは「EVIS参加メーカーのTier1に入れるか」が分水嶺
③ 2028年でEO 12号のEV関税ゼロが切れる。
それまでは輸入EVが有利、以後は国産化した側が有利になる設計
④ CARSの支払い遅延は「約束された優遇が予算プロセスで消える」
というカントリーリスクを実証してしまった。
600億ペソのEVISにも同じ疑念が向けられている(BusinessMirror社説など)