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フィリピンの金融・税務・株式市場

情報基準日:2026-08-26 / 分野:経済・産業・ビジネス

フィリピンの金融・税務は、2024〜2025年の「低インフレ・利下げ・大型税制改革」から、2026年に入って「インフレ再燃・利上げ・成長減速」へと局面が反転した。数字を引用するときは何年何月時点かを必ず確認しないと、正反対の結論になる。以下、2026年8月時点の状況を中心にまとめる。


1. 中央銀行(BSP)と金融政策

1-1 BSPの役割

バンコ・セントラル・ング・ピリピナス(Bangko Sentral ng Pilipinas, BSP) は1993年の新中央銀行法で設立された。物価安定を第一目的とし、①金融政策、②銀行・電子マネー事業者などBSP監督下金融機関(BSFI)の監督、③決済システムの運営、④外貨準備の管理、⑤通貨発行を担う。最高意思決定機関は金融委員会(Monetary Board)、総裁はエリ・レモロナ(Eli M. Remolona, Jr.)。政策金利は翌日物リバースレポ金利(RRP, Target RRP Rate)である。

1-2 政策金利の推移(2025〜2026)

時期 動き RRP
2024年8月〜 利下げサイクル開始 ──
2025年12月 25bp利下げ(2025年に計8回) 4.50%
2026年2月19日 25bp利下げ(2024年8月以降で累計225bp) 4.25%
2026年4月23日 約2年ぶりの利上げ(+25bp) 4.50%
2026年6月18日 連続利上げ(+25bp) 4.75%
2026年8月27日 次回会合(本稿執筆時点で結果未確定) ──

2026年の最大の転換点は「利下げ→利上げ」への反転である。 BusinessWorldの2026年8月調査では24人中19人、Philippine STARの調査では13人中9人が8月27日の25bp利上げ(5.00%へ)を予想している。5.00%になれば2025年6月(5.25%)以来の高水準。残る2026年の会合は10月22日・12月17日。

2025年に書かれた「フィリピンは利下げ局面」という記述は、2026年には通用しない。 2月の利下げ記事と6月の利上げ記事が同じ検索結果に並ぶので、日付を確認すること。

1-3 預金準備率(RRR)

2025年2月21日に大幅引き下げが発表され、2025年3月28日から以下の水準となった。

業態 引き下げ前 現在(2026年8月)
ユニバーサル銀行・商業銀行、準銀行業務を持つノンバンク 7% 5.0%
デジタルバンク 4% 2.5%
貯蓄銀行(Thrift Bank) 1% 0%
地方銀行・協同組合銀行 ── 0%(2024年10月から)

2018年には20%だった。レモロナ総裁は任期(2029年まで)中のRRRゼロ化を目標に掲げており、証券会社の一部は2026年中にさらに200bp引き下げ(3%へ)を予想している。RRRの引き下げは金利操作とは違い「構造的措置(structural, not cyclical)」と説明されている点が特徴。

1-4 インフレ・為替・成長率(2026年8月時点)

指標 数値
インフレ率(2025年通年平均) 1.7%(12月単月1.8%)=目標下限割れ
インフレ率(2026年4月) 7.2% =ピーク
インフレ率(2026年7月) 6.2%(6月6.4%/PSA、2026年8月5日発表)
コアインフレ(2026年7月) 4.2%
2026年1〜7月平均 5.0%(目標レンジは2〜4%)
実質GDP成長率(2026年Q2) +2.3%(前年同期比)=コロナ期を除くと2009年Q4以来の低さ
同上(2026年上半期平均) 2.6%(前年同期は5.4%)
為替 1米ドル=約61.6〜61.8ペソ(2026年8月下旬)。1年で約9%下落
外貨準備 約1,030億ドル(年初来約7%減)

インフレ再燃の主因は中東(イラン)情勢に伴う原油高と、それに連動するペソ安である。

(2026-08-25 相互照合で修正。出典:分野資料「電力と電気代」§4の日付入り年表/「半導体・電子部品産業」§8-1/「自動車産業とEV」§7) 旧稿の「衝突(2026年4月)」は時点が1〜2か月遅い。 他の3資料はいずれも 2026年2月下旬のホルムズ海峡閉塞 → 3月中旬に原油が1バレル約115ドル(開戦前72ドル)→ 3月24日に大統領令110号(EO 110)で国家エネルギー非常事態を宣言という時系列で記述しており、EO 110の署名日(2026年3月24日)が動かない基準点になる。4月なのは「衝突の発生」ではなく「インフレ率のピーク(7.2%)」である。両者を混同しないこと。フィリピンは石油をほぼ全量輸入するため、原油価格に極端に弱い。Q2は固定投資が13.7%減(5年超で最大の落ち込み)と、治水事業汚職スキャンダルによる公共投資の停滞が響いた。

格付けは投資適格を維持しているが、2026年4月に相次いで見通しが下方修正された。

機関 格付 見通し(2026年4月)
Fitch BBB ネガティブ(4月20日、安定的から変更)
S&P BBB+ 安定的(ポジティブから変更=「A」格昇格期待が後退)
Moody's Baa2 安定的

背景は財政。政府債務は2025年に17.71兆ペソ/対GDP63.2%と20年ぶりの高水準。Fitchは2026年の利払費/歳入比率を13%(BBB格中央値9%)と試算している。


2. 銀行制度

2-1 免許区分と機関数

区分 業務範囲 機関数(2025年)
ユニバーサルバンク(UB) 商業銀行業務+証券引受・非金融事業への出資が可能。最上位免許 UB・KB合計 44
商業銀行(KB, Commercial Bank) 預金・貸出・為替。証券業務は不可 同上
貯蓄銀行(Thrift Bank) 消費者金融・住宅ローン中心 42
地方銀行・協同組合銀行(Rural / Cooperative Bank) 農村・小口。統廃合進行中 374
デジタルバンク(Digital Bank) 実店舗を持たない。2020年新設の免許類型 6
合計 ── 466

銀行システム総資産は29.86兆ペソ(2025年、過去最高)。うちUB・KBが2025年6月末で25.93兆ペソ(前年比+6.5%)と圧倒的多数を占める。不良債権比率(NPL)は3.3%(2025年9月)と落ち着いている。全国の銀行拠点は13,500超(2025年11月、BSP)。

1990年代後半に1,000行超あった銀行数は、M&Aで約500行まで減った。2012年以降だけで地方銀行・貯蓄銀行の合併は100件超。2022年のRA 11901などにより地方銀行は外資100%出資が可能になっている。

2-2 主要行(総資産・BSP公表、2025年6月末)

順位 銀行 総資産(百万ペソ) 系列
1 BDO Unibank 4,693,853 シー(Sy)家/SMグループ
2 Land Bank of the Philippines 3,426,491 政府系(農地改革金融)
3 Bank of the Philippine Islands(BPI) 3,269,249 アヤラ(Ayala)グループ
4 Metropolitan Bank & Trust(Metrobank) 3,183,188 ティ(Ty)家/GT Capital
5 China Banking Corporation 1,787,807 シー家
6 Rizal Commercial Banking Corp.(RCBC) 1,509,240 ユチェンコ(Yuchengco)家
7 Security Bank 1,417,776 ──
8 Philippine National Bank(PNB) 1,287,325 タン(Tan)家/LTグループ
9 Development Bank of the Philippines(DBP) 1,038,111 政府系(開発金融)
10 UnionBank of the Philippines 1,007,875 アボイティス(Aboitiz)グループ

順位は基準時点(単体/連結、四半期)で入れ替わる。2025年第4四半期以降にMetrobankが順位を上げたとする報道もあり、「2位はどこか」は資料の時点を確認すること。BPIは1851年創業で東南アジア最古級の銀行。Landbank・DBPの統合構想は繰り返し浮上しているが2026年時点で実現していない

2-3 預金保険(PDIC)

フィリピン預金保険公社(Philippine Deposit Insurance Corporation, PDIC)は共和国法3591号に基づく政府機関。

2025年3月15日から、預金保険の上限(MDIC)が1預金者・1銀行あたり50万ペソ→100万ペソに倍増した。 根拠はPDIC Memorandum 2025-01。インフレと「1人当たりGDPに対する比率」を勘案した調整で、以後3年ごとに見直される。保険料は据え置きで、預金者の負担はゼロ。

指標 2024年 2025年末
付保預金総額 3.7兆ペソ 5.2兆ペソ(+4割超)
全額保護される口座数 ── 約1億7,000万口座(全口座の98.8%)
預金総額 ── 21.7兆ペソ(+7.1%)
預金保険基金/付保預金 比率 ── 5.3%(2031年に8.0%を目標)

100万ペソの新上限は「2025年3月15日以降に閉鎖命令が出た銀行」にのみ適用される(遡及しない)。 それ以前に破綻した銀行は50万ペソまで。 投資信託・UITF・債券・株式はPDICの対象外。 銀行窓口で販売されていても保護されない。ペソ建て・外貨建ての預金、共同名義人ごとの別枠計算は対象。

2-4 デジタルバンク

現在の免許保有は6行Overseas Filipino Bank(OFBank、Landbank傘下)/Tonik Digital Bank/UNObank/UnionDigital Bank/GoTyme Bank/Maya Bank。いずれもBSP免許でPDICの100万ペソ保護対象。

2025年2月にフィリピンはFATF(金融活動作業部会)のグレーリストから脱退した。FATFは2027年に再評価を予定している。

銀行秘密法(RA 1405、外貨預金はRA 6426)はまだ改正されていない。 BSPが不正の疑いのある預金を検査できるようにする法案(下院法案7号・6707号、上院法案1047号など)が20th Congressで審議中だが、2026年8月時点で成立していない。IMFもAML/CFT実効性向上のため改正を勧告している。


3. 株式市場

3-1 フィリピン証券取引所(PSE)

Philippine Stock Exchange, Inc.(PSE)は1992年にマニラ証券取引所とマカティ証券取引所が統合して誕生した唯一の取引所(起源は1927年)。自らも上場している(ティッカー:PSE)。開示ポータルはPSE EDGE、社長兼CEOはラモン・モンソン(Ramon S. Monzon)。

3-2 PSEi指数

2026年8月3日発効のリバランス - 採用:Maynilad Water Services(MYNLD) ── IPO後に株価が約49%上昇し全体22位の時価総額へ。早期採用は制度導入以来3社目 - 除外:Converge ICT(CNVRG) ── 構成銘柄で最下位となりMidCap指数へ - 配当利回り指数にAboitiz Equity Ventures(AEV)が追加(RRHI上場廃止に伴う補充)

次回(2026年1〜12月対象)の見直しからは、時価総額より流動性を重視する新方式が適用される。「15年ぶりの指数方法論の大改正」と位置づけられている。

3-3 市場規模と2026年の相場

指標 数値
上場銘柄数 287社(2025年)
国内時価総額(2025年末) 13.65兆ペソ(前年比 ▲6.29%、2024年は14.57兆ペソ)
1日平均売買代金(2025年) 73.3億ペソ(前年比+20.1%)
外国人売買(2025年) ▲517.8億ペソの売り越し(2024年は▲231.8億ペソ、2023年は▲536.5億ペソ)
調達総額(2025年) 1,441.4億ペソ
2025年最安値圏 5,584.35(2025年11月中旬)=2020年5月以来の安値
PSEi(2026年8月中旬〜下旬) 6,200〜6,300前後

外国人投資家の売り越しが3年続いている。2025年の下落要因としてPSE自身が挙げているのは、①治水事業(flood control)汚職スキャンダル、②ペソ安、③第3四半期GDPの失速である。2026年8月時点の市場PERは約8倍台と、ASEAN内でも割安圏にある。

SEC委員長が2025年に述べた「汚職で1.7兆ペソの時価総額が失われた」という数字は、根拠資料が実在しないものだったとして本人が2025年10月に謝罪・撤回している。実際の下落幅は2025年8月11〜29日で約1,860億ペソとされる。この1.7兆ペソという数字を引用しないこと。

3-4 IPO動向 ── GCashとMaya

PSEは2026年に約4件のIPO・総額1,700〜1,750億ペソの調達を目標としている(モンソンCEO)。2025年は目標6件に対し実績2件(4月のTop Line Business Development、11月のMaynilad)にとどまった。

Maynilad Water Services(2025年11月上場) - 公開価格1株15ペソ(当初の参考価格20ペソから引き下げ)、調達額343億ペソ。2021年のMonde Nissin以来の大型案件 - IFC・ADBとの協議を経た価格設定で、企業価値は約1,130億ペソ。配分はアジア53.6%、国内29.6%、欧州14.7%、米国1%

Mynt(GCash運営会社)── 国内史上最大のIPOへ

項目 内容
申請 2026年6月27日、SEC・PSEに仮目論見書を提出
ティッカー GCASH(メインボード)
想定価格 1株最大10.00ペソ
規模 基礎売出 80億2,740万株=803億ペソ、オーバーアロットメント(12億411万株)込みで最大923億ペソ(約15億ドル)
日程 募集2026年10月5〜9日、決済・上場10月19日予定
想定時価総額 6,690億ペソ(約109億ドル)=BDO Unibankの時価総額を上回る
内訳 新株16億548万株+既存株主(Ant International、ASP Philippines LP等)の売出64億2,192万株。公開比率12%(OA込みで13.8%)
主幹事 Morgan Stanley、J.P. Morgan、UBS(シンガポール支店)

Myntはグローブ・テレコム(Globe)、アヤラ(Ayala Corp.)、アリペイ系Ant Groupの合弁。GCashの月間アクティブユーザーは2026年3月末で4,040万人(成人人口の約55%、2位の4倍)、2025年の決済取扱高(GTV)は17.0兆ペソ。加盟店QR Ph 210万、キャッシュイン/アウト拠点130万。

10ペソは2026年予想PER約20倍で、海外同業の14〜15倍より高いとの指摘がある(Aletheia Capital)。フィリピン市場の流動性の薄さもあり、最終価格は未定。2026年上半期のフィリピンの新規発行市場は4件・2億2,700万ドルでIPOはゼロだった。

Maya(Maya Innovations Holdings、旧Voyager Innovations) - 米国上場を先行させ、その後PSEに上場する「二重上場」を計画(パンギリナン会長)。規模は最大10億ドル規模と報じられ、実現すれば東南アジア発フィンテックとして大型 - 株主はPLDT・First Pacific(合計約39.6%)、KKR、Tencent、IFCなど。PLDTは持分維持のため新株引受権を求めている - Maya Bankは2025年に黒字化(1〜9月で純利益16億ペソ)。2025年9月末で貸出270億ペソ(+59%)、預金567億ペソ(+44%)、純金利マージン18.9% - 2026年3月にPSEは「予定通り」としたが、中東情勢による市況悪化で第3四半期の日程は流動的


4. 税制

4-1 直近10年の改革パッケージ

法律 通称 署名年 要点
RA 10963 TRAIN法 2017 個人所得税の大幅減税、相続税・贈与税を6%に一本化、燃料・砂糖飲料税
RA 11534 CREATE法 2021 法人税30%→25%(小規模内国法人20%)、投資優遇の再編
RA 11976 EOPT法(納税容易化法) 2024年1月 納税者の規模別4分類、どこでも申告・納付、年次登録料500ペソ廃止
RA 12001 RPVARA(不動産評価改革法) 2024年6月 不動産評価をSMVに統一、固定資産税アムネスティ
RA 12023 デジタルサービスVAT法 2024年10月 非居住デジタル事業者に12%VAT
RA 12066 CREATE MORE法 2024年11月 優遇登録企業の税率20%、手続簡素化
RA 12214 CMEPA(資本市場効率化促進法) 2025年5月 株式取引税0.1%、利子課税20%統一

4-2 法人所得税

区分 税率
内国法人・居住外国法人(通常) 25%
小規模内国法人(課税所得500万ペソ以下かつ土地を除く総資産1億ペソ以下) 20%
最低法人税(MCIT、総所得ベース) 2%(操業4年目から。25%課税額と比較して高い方)
優遇登録企業(RBE)の特別法人税(SCIT、総所得ベース) 5%
RBEの拡充控除制度(EDR)適用時 CREATE MORE 20%

「CREATE MOREで法人税が20%になった」は誤り。 20%は(a)小規模内国法人、(b)投資促進機関(IPA)に登録した企業がEDRを選んだ場合の登録事業所得に限られる。一般法人は25%のまま。小規模枠は毎年「所得」「総資産」の両テストを満たす必要があり、1年でも外れると25%に戻る(BIR RR 7-2025)。

20%という水準はOECDグローバル・ミニマム課税(第2の柱、15%)を意識した設計と説明されている。輸出企業向けには、所得税免税(ITH)4〜7年+SCIT/EDR 20年、またはSCIT/EDR最大24〜27年といった選択肢がある。MCITの超過額は3年間繰り越して控除できる。

4-3 個人所得税(2023年1月1日以降・2026年も同じ)

年間課税所得 税率
25万ペソ以下 0%
25万〜40万ペソ 15%
40万〜80万ペソ 20%
80万〜200万ペソ 25%
200万〜800万ペソ 30%
800万ペソ超 35%

4-4 付加価値税(VAT)と源泉徴収

源泉徴収の体系は、給与源泉、拡大源泉税(EWT)、最終源泉税(FWT)に分かれる。専門家報酬などは支払時に5%または10%を源泉徴収され、BIR様式2307を受け取って確定申告で控除する。

4-5 CMEPA(RA 12214)── 投資家に直結する改正

2025年5月29日署名、2025年7月1日施行(BIR RMC 60-2025で周知)。目的は①近隣国との税率整合、②税制の簡素化、③市場参入コストの引き下げ。2025〜2030年で250億ペソ超の増収を見込む。

項目 改正前 改正後
上場株式の取引税(STT) 売却総額の0.6% 0.1%
預金・信託等の利子への最終源泉税 通貨・期間・納税者で0〜20%とばらばら 一律20%
5年以上の長期預金の利子非課税 非課税 廃止(20%課税)
FCDU(外貨預金)利子(非居住者を除く) ── 20%
非上場株式の譲渡益(国内・外国法人株とも 国内株のみ15% 一律15%
株式の原始発行に係る印紙税(DST) 額面の1% 0.75%
投資信託・UITFの設定・解約・償還のDST 課税 非課税
PERA(個人退職口座)への雇用主拠出 ── 50%の追加損金算入

STTの6分の1への引き下げは、PSEでの売買コストを一気に下げた近年最大の制度変更である。 一方で「5年以上の長期預金は非課税」という従来の常識は消滅した。古い資産運用記事の記述に注意。

4-6 BIRの電子申告・電子化

内国歳入庁(Bureau of Internal Revenue, BIR)が国税を所管する。

システム 用途
eFPS(Electronic Filing and Payment System) 大口・指定納税者向けの電子申告納付。一定規模以上は義務
eBIRForms eFPS対象外の納税者向け。オフライン記入+オンライン提出
ORUS 登録・登録情報更新のオンライン化
VDSポータル 非居住デジタルサービス事業者の登録・申告・納付
eAFS 監査済財務諸表の電子提出

徴収実績:2025年の実績は3.105兆ペソで、目標3.2兆ペソに未達。BIRは下半期の失速理由を「治水事業汚職の調査開始で徴収活動が大きく影響された」と説明している。2026年の目標は3.579兆ペソ(前年比約11%増)。

4-7 資産・不動産関連税

税目 税率・要点
相続税(Estate Tax) 6%(2018年1月1日以降の死亡)。標準控除500万ペソは証憑不要
贈与税(Donor's Tax) 6%(年間25万ペソ超の部分)
不動産譲渡益課税(資本資産) 売買価格・ゾーナルバリュー・評価額のうち最も高い額の6%
非上場株式の譲渡益 純譲渡益の15%
固定資産税(RPT) 地方自治体(LGU)が課税。特別教育基金(SEF)1%が上乗せされる

5. 外国人・非居住者の課税と日比租税条約

5-1 3つの区分

区分 定義 課税方法
居住外国人(Resident Alien) フィリピンに居住を確立した外国人 国内源泉所得に累進課税(0〜35%)
NRAETB(事業従事の非居住外国人) 暦年中の滞在が180日超 国内源泉所得に累進課税(0〜35%)。受動的所得の最終税は最高20%
NRANETB(事業非従事の非居住外国人) 暦年中の滞在が180日以下 国内源泉総所得(gross)に一律25%の最終源泉税。原則として申告不要

5-2 日比租税条約

2026年5月28日、日本とフィリピンは新租税条約に署名した。1980年発効・2008年に一部改正された現行条約を全面的に置き換えるもの。

所得区分 新条約の限度税率
配当 5%(持分90%以上・保有6か月以上)/10%(持分10%以上・保有6か月以上)/15%(その他)
利子 免税(政府受取等)/10%(その他)
使用料(ロイヤルティ) 一律10%(現行条約では映画フィルム等15%・その他10%)
事業所得 恒久的施設(PE)に帰属する利得のみ進出先国で課税

その他、①相互協議で2年以内に解決しない場合の仲裁制度の新設、②情報交換の強化、③特典濫用防止規定(主要目的テスト)の導入が盛り込まれた。

署名=発効ではない。 両国の国内手続(日本は国会承認)を経て、承認を通知する外交上の公文交換の日から30日後に発効する。2026年8月時点で発効しておらず、実務では引き続き現行条約が適用される。

[参考:現行条約の主な限度税率]

所得区分 フィリピン国内法(非居住外国法人) 現行日比条約
配当 25% 10%(出資10%以上)/15%
利子 20% 10%
ロイヤルティ 25% 10〜15%
支店から本店への利益送金税 15% 10%

条約の軽減税率は自動適用されない。 BIR国際税務課(ITAD)への確認申請(Request for Confirmation)/租税条約適用申請(TTRA)、配当・利子・使用料についてはCORTT様式の提出などが必要で、手続き規則は頻繁に変わる。案件ごとに最新の通達を確認すること。


6. 会計基準とSEC

6-1 PFRS(フィリピン財務報告基準)

IFRSをほぼそのまま採用する体系。財務・サステナビリティ報告基準審議会(FSRSC)がIASBの基準を審議してPFRSとして採択し、会計士審議会(BOA)・職業規制委員会(PRC)が承認、SECが改正SRC Rule 68で財務報告規則に取り込む。原則としてIFRSと同じ適用開始日となる。

3層構造:フルPFRS会計基準/PFRS for SMEs/PFRS for Small Entities。どれを使うかはSECが会社の規模区分で定める。

2027年1月1日開始事業年度から大きな改正が重なるため、2026年は「移行準備の年」である。

基準 内容 適用開始
PFRS 18 PAS 1を置換。損益計算書の構造化、経営者定義業績指標(MPM)の注記開示、集約・分解のガイダンス強化 2027年1月1日(遡及適用・比較情報の修正が必要)
PFRS for SMEs 第3版 IASBが2025年2月に公表、FSRSCが2025年5月16日に採択 2027年1月1日(早期適用可)
PFRS 17(保険契約) 2025年2月14日にさらに2年延期 2027年1月1日
PFRS 19 公的説明責任のない子会社の開示簡素化 ──
PFRS S1/S2 サステナビリティ/気候関連開示(ISSB基準準拠)。3段階で導入 ティア1(2025年12月末時点で時価総額500億ペソ超の上場企業)は2026年度分を2027年に報告

PFRS 18は比較期間の遡及修正が必要なので、2026年中に着手しないと間に合わない。

6-2 SEC(証券取引委員会)の役割

Securities and Exchange Commission(SEC)は、①すべての法人・パートナーシップの登記、②証券の登録・発行規制、③公開会社の開示監督、④投資詐欺の摘発を担う。日本の法務局+金融庁を合わせたような役割である。

SECの登記=営業開始ではない。 別途、市町村のビジネスパーミット(Mayor's Permit)、BIR登録、SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの雇用主登録が必要。この多段構えを知らずに「登記が終わったから営業できる」と考える進出企業の失敗が多い。


7. 実務で間違えやすい点(まとめ)

よくある誤解 正しくは
「フィリピンは利下げ局面」 2026年4月から利上げに転じた(8月時点でRRP 4.75%)
「法人税は20%になった」 通常法人は25%。20%は小規模内国法人とIPA登録企業のEDR適用分のみ
「5年以上の長期預金の利子は非課税」 CMEPA(2025年7月)で非課税は廃止。一律20%
「株式売買コストは高い」 取引税は0.6%→0.1%(2025年7月から)
「相続税アムネスティが使える」 2025年6月14日で終了。延長法案は上院で未成立
「預金は50万ペソまで保護」 2025年3月15日から100万ペソ。ただし同日以降に閉鎖された銀行のみ
「銀行で買った投資信託も保護される」 投信・UITF・債券・株式はPDIC対象外
「日比租税条約の新税率がもう使える」 2026年5月28日署名だが未発効。当面は現行条約
「租税条約の軽減税率は自動適用」 BIR ITADへの申請・確認手続きが必要
「短期出張なら課税されない」 最低滞在日数の免除規定はない。180日以下ならNRANETBとして総所得に25%
「SEC登記で営業開始できる」 市町村許可・BIR登録・社会保険登録が別途必要
「オンライン登記(OneSEC)で1日」 外国株主がいる案件は対象外でRegular Processingになる

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