デジタル環境・SNS・キャッシュレス決済
フィリピンを理解するうえで、この分野は「おまけ」ではない。 情報がどう流れ、金がどう動くかが、他の全分野の前提になる。 フィリピンでは「マーケティング=Facebook広告」「決済=GCash」「本人確認=国民ID」が、 ほぼそのまま実務のデフォルトになっている。ここを外すと事業設計が成立しない。
0. まず押さえる10行サマリー
| 論点 | 現在地(出典・年) |
|---|---|
| ネット利用者 | 9,800万人・人口の83.8%(DataReportal「Digital 2026」2025年10月時点) |
| SNS | 9,580万ID・人口の81.9%、前年比 +900万(+10.3%)(同上) |
| スマホ保有 | 98.6%(同上)※世帯・個人ベースの調査値であり回線数とは別物 |
| 支配的プラットフォーム | Facebook(ニュース接触91%/Pulse Asia 2026年7月) |
| 平均利用時間 | ネット1日8時間52分、SNS1日3時間32分(DataReportal 2026) |
| デジタル決済比率 | 2025年に件数の64.7%(BSP/BusinessWorld 2026年8月報道) |
| 二大ウォレット | GCash 登録9,000万超・MAU 40.4百万、Maya 約5,000万登録(Mynt目論見書2026年6月/Bloomberg 2026年2月) |
| 口座保有率 | 約50%(2025年CFIS)/58%(2026年Q1 SWS) 注「44%が無銀行」は古い前提 |
| 最大の政策イベント | GCash親会社Mynt のPSE上場(2026年10月予定、比史上最大IPO) |
| 最大のリスク | オンライン詐欺・マネーミュール・偽情報。2025年にフィッシングサイト+423% |
1. インターネットとSNS ── Digital 2026 の数値
出典は DataReportal / We Are Social / Meltwater「Digital 2026: The Philippines」(2026年1月公表、基準時点は2025年10月)。 この分野の日本語記事はほぼ全部このレポートの孫引きなので、原典の定義を知っておくと誤読を避けられる。
1-1. 基本指標
| 指標 | 数値 | 人口比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 総人口 | 1億1,700万人(注国連推計/DataReportal の分母) | ── | 年齢中央値 26.1歳、都市49.1%/農村50.9% |
| 携帯回線数 | 1億3,700万回線 | 117% | うち3G/4G/5G は89%。回線数であって人数ではない |
| インターネット利用者 | 9,800万人 | 83.8% | オフライン人口はなお 1,900万人(16.2%) |
| SNSアカウント(ID) | 9,580万 | 81.9% | 「人数」ではなく「ID数」 |
| スマートフォン保有率 | 98.6% | ── | 調査ベースの保有率 |
(2026-08-25 第2回相互照合で補足。出典:分野「スラム・住宅・都市問題」第1節) 下の注のセンサス値(112,729,484人)は、社会・生活クラスタ側からも独立に裏づけが取れた。同分野第1節の「全国の都市部人口6,222万人=55.2%」を逆算すると 約1億1,270万人 となり、センサス値と一致する。ネット利用者9,800万人を PSA センサスで割り直すと約87%(国連推計分母では83.8%)。
注 携帯回線117%=「1人1台以上」ではない。 フィリピンは複数SIM保有が当たり前の国で、 1人が Globe・Smart・DITO を用途別に持ち替える。117%はその重複を含む数字である。
注(2026-08-25 相互照合で追記)上表の「1億1,700万人」は国連の推計値であり、フィリピンの確定人口ではない。 確定値は2024年センサスの 112,729,484人(基準日2024年7月1日、2025年7月17日の大統領布告973号で公式化)。上表の人口比(携帯117%、ネット83.8%、SNS 81.9%)はDataReportal が国連推計を分母に計算したものなので、センサス値で割り直すと数ポイント上振れする(例:携帯1億3,700万回線 ÷ 112,729,484人 = 約122%)。分母の出所を書かずに普及率だけを引用しないこと。同じ問題が分野「通信インフラ」§・「水と上下水道」§でも指摘されている。(出典:分野「地理と行政区画」§/「統計とデータソースの使い方」§2)
1-2. 伸び(前年比)
| 指標 | 前年比 |
|---|---|
| SNSアカウント | +900万(+10.3%)── 最も速い |
| インターネット利用者 | +78.9万(+0.8%) すでに伸びは止まりかけている |
| 携帯回線 | +400万(+3%) |
| モバイル回線速度(中央値) | +77.2% → 59.64 Mbps |
| 固定回線速度(中央値) | +11.4% → 105.17 Mbps |
重要な読み替え:「人が増える局面」は終わり、「1人あたりの時間と支出が増える局面」に入っている。 新規ユーザー獲得ではなく、既存ユーザーの利用深度(time & wallet share)が競争軸になった。
1-3. プラットフォーム別リーチ(広告到達ベース、2025年10月)
| プラットフォーム | 広告到達 | 人口比 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 9,580万 | 81.9% | +10.3% | |
| Messenger | 6,580万 | 56.2% | +9.4% |
| TikTok | 6,400万 | 18歳以上の81.8% | 高成長 |
| YouTube | 5,960万 | 50.9% | +3.3% |
| 2,690万 | 22.9% | +24.6% | |
| 2,200万 | 18.8% | +15.8% | |
| 1,510万 | 12.9% | 急増(低い基数からの拡大) | |
| Threads | 480万 | 4.1% | ── |
| X(旧Twitter) | 798万 | 6.8% | ▲22.7% |
| Snapchat | 339万 | 2.9% | ▲24.6% |
注 これは「広告到達可能人数」であり、実ユーザー数ではない。 各社の広告管理画面が出す推計で、 重複アカウント・ボットを含みうる。政府統計ではない。推計値であることを明示して使うこと。
注 X(旧Twitter)の存在感は日本と真逆。 日本の感覚で「まずX」と考えると完全に外す。 フィリピンで企業広報がXだけを使うのは、届く相手が7%以下という意味になる。
2. 「Facebookの国」── 依存の構造とニュース接触
2-1. 注 よく誤読される 97.7% の意味
正しい:ネット利用者の 97.7% が「何らかのSNS」を最低1つ使っている(DataReportal 2026)
注誤り :「Facebook利用者=全ネット利用者の97.7%」という言い方
Facebookの人口比リーチは 81.9%。97.7%はSNS全体の浸透率である。 ただし、実質的にFacebookがほぼ全員に届いているという結論自体は変わらない(下記Pulse Asia参照)。
2-2. ニュース接触の実態(Pulse Asia「Ulat ng Bayan」2026年6月28日〜7月6日調査、n=2,400、誤差±2%)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 成人のネット利用率 | 85%(うち5人に4人が1日複数回接続) |
| アカウント保有(ネット利用者ベース) | Facebook 99%/YouTube 73%/TikTok 42%/Instagram 17%/X 6% |
| オンラインニュース源 | Facebook 91%/YouTube 61%/TikTok 21%/vlog 9%/ニュースサイト直接 5%/Instagram 4%/X 2% |
| 偽情報を「大きな問題」と考える | 72% |
| 「多くの人が共有していれば信じやすい」 | 41% |
| 別バージョンの情報に接したら「他の信頼できる情報源で確認する」 | 56% |
ここが本質:フィリピンでは「報道機関」ではなく「Facebookのフィード」がニュースの入口である。 ニュースサイトへの直接訪問が5%しかないという構造は、企業広報・危機対応・世論の動き方すべてを規定する。
TikTokは3月調査の23%から21%へ微減、アカウント保有率は逆に7ポイント上昇(35%→42%)。 「アカウントは持つが、ニュース源としてはまだFacebook/YouTube」という段階。
2-3. 信頼の急落(Reuters Institute「Digital News Report 2026」、YouGov、比サンプル2,021人)
| 指標 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| ニュースを概ね信頼する | 38% | 28%(▲10pt、調査48市場中もっとも大きい下落) |
| ニュース回避(often/sometimes) | 48% | 51%(低所得層55%/高所得層42%) |
| 世界平均の信頼度 | ── | 37%(2015年の調査開始以来の最低) |
同レポートは、SNS・動画プラットフォームが初めてテレビとニュースサイトを抜いてニュース接触の主経路になったとする。 ブランド別の信頼は横ばい(高いものは50〜60%台)で、下がったのは「ニュース一般」への信頼。 つまり 「どの媒体が信用されるか」ではなく「情報環境そのものが信用されなくなった」 という質の変化である。
2-4. 政府 vs Meta(2026年)
- 2026年4月10日、PCO(大統領府広報局)とDICT が Meta に共同書簡を送付。 燃料価格・供給不足のデマ、指導者の健康/死亡デマ、銀行・デジタル決済への攻撃的な虚偽情報、 軍・警察を装う偽情報、機関の信用を落とす協調的非真正行動(CIB)を名指しし、 ①高リスク偽情報の能動検知 ②政府通報・削除の迅速化 ③24時間対応の上級窓口 ④対応期限 ⑤透明性報告 の5点を要求。 応じない場合は RA 10175(サイバー犯罪防止法) に基づく法的措置を検討するとした(PIA/PCO 2026年4月)。
- Meta は安全対策への投資規模と現地チーム、IFCN認証ファクトチェッカー(AFP・Rappler・VERA Files)との連携を回答したが、 DICT は「一般的説明にすぎない」として不十分と判断(DICT 2026年)。
- 注 Metaのファクトチェック廃止は米国先行。 2025年4月に米国のサードパーティ・ファクトチェックを終了し コミュニティノート方式へ移行したが、比国を含む米国外では従来方式が継続とされてきた。「世界で廃止された」は誤り。
2-5. 立法の動き ── 規制リスクとして無視できない
| 法案 | 状況 |
|---|---|
| HB 9465「Digital Media Anti-False Information Act」 | 2026年6月3日、下院で三読会通過(賛成286票)。トロールファーム・ボット網・偽アカウント組織・外国の影響工作・AI生成改変画像を対象。単なる「いいね/シェア」は原則不可罰(故意かつ実質的関与の立証が必要)。比国内で運営するデジタル・プラットフォームに「国内法人格(legal presence)」設置を義務づける条項を含む |
| SB 191(Anti-False Content and Fake News Act)/SB 1441(アルゴリズム透明性)/SB 1490(Anti-Troll Farm Act) | 上院で審議中。2025年12月15日の公聴会でMetaが欠席し、召喚(subpoena)動議が出された |
| 罰則案 | 検証可能な公共的損害・国家安全保障への重大な脅威を意図した虚偽情報の流布に 懲役6〜12年。注罰金額は出所により異なる:50万〜200万ペソとする集計と、上限1,200万ペソ(約19万4,250米ドル)とする集計がある(下記注) |
注 (2026-08-25 相互照合で併記。出典:分野「市民社会とNGO」第10-2節=CIVICUS Monitor/本稿の従来出典) HB 9465 の罰金額について、本クラスタ内で2つの数字が流通している。 - 50万〜200万ペソ(本稿の従来記載) - 上限1,200万ペソ(CIVICUS Monitor が「約19万4,250米ドル」と併記。1ドル=約61.8ペソで逆算すると1,200万ペソと整合する) どちらが下院可決版の条文かは一次資料(下院可決版の法案本文)で確認できなかったため、両方を残す。注 法案は罪種別に複数の罰則帯を持つのが通常であり、「基本類型50万〜200万ペソ/加重類型・法人向け上限1,200万ペソ」のように同一法案内で併存している可能性が高い。引用する際は必ず「どの条・どの類型の罰金か」を確認すること。 注 いずれにせよ、これは下院通過どまりの法案であって成立法ではない。 | 反対 | Human Rights Watch が2026年6月2日、「曖昧かつ広範で濫用されうる」として撤回を要求。ジャーナリスト・学術・市民社会の反対連合が形成中 |
第20議会(2025-2028)にはSNS関連法案が多数提出されており、偽情報系だけで下院17件・上院5件、未成年のSNS利用規制も下院13件以上。 注 成立していない法案を「決まったこと」として扱わないこと。 現時点で下院通過どまり。
3. TikTok ── 時間シェアの王者
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 月間平均利用時間 | 40時間39分〜40時間46分(引用元で数分ぶれる) | Meltwater 2026 |
| 1日平均(Android、2025年8月) | TikTok 1時間30分/Facebook 1時間31分/YouTube 1時間18分/Messenger 57分/Instagram 34分 | DataReportal 2026 |
| 月間利用時間の比較 | TikTok 約40時間 > YouTube 25時間26分 > Facebook 約23.5時間 > Messenger 16時間27分 | Meltwater 2026 |
| TikTok浸透率 | 75.4%(世界最高水準) | 各種2026年集計 |
注 「TikTok利用時間が世界一」という言い方は裏が取れていない(未確認)。 確実に言えるのは①浸透率(penetration)が世界最高水準であること、 ②国内プラットフォーム間ではTikTokが時間シェア首位であること、の2点。
注 「SNS利用時間が世界一」も現在は誤り。 2025年時点でフィリピンは首位から陥落し2位、 デジタルメディア接触時間(週54時間)でもケニアに次ぐ2位(Digital 2026)。 かつての「世界一のSNS大国」というフレーズは2015〜2021年頃の話であり、新旧を混ぜて使わないこと。
実務的含意:Facebookは「届く」媒体、TikTokは「時間を奪う」媒体という役割分担になっている。 到達(reach)で設計するならFacebook、滞在と購買喚起(live commerce)で設計するならTikTok。
4. 通信インフラ ── 3社体制、速度、料金
4-1. 事業者構図
| 事業者 | 位置づけ | 2026年時点のポイント |
|---|---|---|
| PLDT / Smart | モバイル大手。固定は PLDT Home | 2025年4月にDigitel(Sun Cellular)を取得しSmartに統合。2026年capex は約550〜580億ペソ計画。固定ブロードバンドは2026年4月時点でシェア42%、1,850万世帯超をカバー |
| Globe Telecom | モバイル大手。GCash(Mynt)を擁する | 加入者ベースで首位を維持。フィンテック連携で囲い込み。2026年2月、Starlink Direct-to-Cell を東南アジア初導入と発表 |
| DITO Telecommunity | 第3事業者(中国電信+Udenna系) | 2021年商用開始。加入者シェアは概ね10〜15%。低価格・データ定額とゲーマー向け訴求。全IP網でVoNR対応 |
| Converge ICT | 固定専業(FTTH) | Ookla の2026年上半期で「Best/Fastest Internet」「Best Fixed Latency」を獲得(Speed Score 61.86、Globe 60.84、PLDT Home Fiber 58.48) |
注 「DITOが2026年に16%へ」という予測(First Metro/DBS)は達成されていない。 実績は控えめで、二強+DITOという構図。予測値と実績値を区別すること。 第3事業者は「入ったが、ひっくり返してはいない」というのが2026年の正確な評価である。
4-2. 速度と料金 ── ここ3年で最も変わった領域
| 指標 | 2023年Q1 | 2026年Q1 | 出典 |
|---|---|---|---|
| モバイル下り中央値 | 25.29 Mbps | 43.80 Mbps | DICT/Ookla(2026年8月報道) |
| 固定(fiber)下り中央値 | 89.58 Mbps | 108.94 Mbps | 同上 |
| 5G人口カバー率 | 22% | 62% | 同上 |
| 5Gカバー自治体(LGU)数 | 120 | 460 | 同上 |
| 1GBあたりデータ単価 | 21.5ペソ(2023年) | 7.07ペソ | Ookla/DICT(Philstar 2026年8月21日) |
注 DataReportal の 59.64 Mbps と DICT/Ookla の 43.80 Mbps は食い違うが、どちらも誤りではない。 計測期間・端末構成・集計手法が異なるため。出典と時点を必ず添えて引用すること。
注 7ペソ/GB は「全プラン平均」であり、実際の小口ロードでは10〜50ペソ/GBになる。 (例:Smart Magic Data 99=2GBで99ペソ=49.5ペソ/GB、Magic Data 349=16GBで21.8ペソ/GB、 DITOの30ペソ3日3GB=10ペソ/GB)。大容量束買いほど単価が下がる構造。 Globe はプリペイドに無制限プランを出しておらず、無制限系は GOMO か DITO 5G(NCR・セブ・ダバオ等の限定エリア)。
4-3. 衛星と「最後の3%」
- 2026年2月、Globe が Starlink Direct-to-Cell を発表。専用端末なしで通常のLTE端末が衛星経由でデータ・音声・SMSに接続。 東南アジア初、アジアで2番目とされる。Globe は「残り3%」の圏外人口を対象とし、Q1 2026中の稼働を目標。投資規模10億ドル規模、加入者6,310万(Globe/DICT 2026年)。
- Starlink 個人向けは地方で純増(新規加入の他社からの乗換率=win share は2025年Q4で4.3%、都市部は0.7%/Opensignal)。 ただし月額が平均月収の約175%という価格障壁。「piso WiFi」への転売は規約違反として速度制限が始まっている。
- DICT「Free Wi-Fi for All」:2023年末で約15,000サイト、2028年までに125,000サイトが目標。
4-4. Konektadong Pinoy Act(RA 12234)── 2026年の制度的最大変数
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成立 | 2025年8月24日、大統領署名なしで自然成立(lapsed into law)。旧称「Open Access in Data Transmission Act」 |
| IRR(施行規則) | 2025年9月15〜30日にパブコメ、2025年11月5日にDICT他6機関が署名。2026年から本格実施 |
| 中身 | データ伝送網を①国際ゲートウェイ ②コア/バックボーン ③ミドルマイル ④ラストマイル に分け、全区間を「競争的」と宣言。新規参入の障壁(従来必要だった議会フランチャイズ等)を緩和し、オープンアクセスと設備共用を促進。周波数の透明な管理と独占的支配の防止も規定 |
| 期待効果 | 未接続の約11,000バランガイへの接続、3年でインターネット料金を概ね半減(政府説明) |
注 これは「期待効果」であって実績ではない。 実際に価格が下がるかは、 NCR外での新規データ伝送事業者の参入が起きるかにかかっている。2026年時点では検証途上。
5. SIM登録法(RA 11934)── 外国人が最初につまずく法律
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成立・施行 | 2022年10月10日成立、2022年12月27日施行 |
| 内容 | プリペイド・ポストペイドを問わず全SIMの実名登録を義務化。政府発行の有効な身分証と紐づけ。施行後販売のSIMは有効化前の登録が必要 |
| 経過措置 | 既存加入者は180日(DICTが最大120日延長可)。未登録SIMは自動失効し、2024年7月31日までに恒久的に無効化(再登録・復活不可) |
| 影響規模 | Globe だけで3,000万超のSIMを削除。上記「携帯回線1億3,700万」はこの整理後の数字 |
| 罰則 | 登録時の虚偽申告=懲役6か月〜2年または罰金10〜30万ペソ。Sec.11のスプーフィング(発信元詐称)=懲役6年以上または罰金20万ペソ、もしくは併科 |
| 司法判断 | プライバシー・適正手続を争う複数の申立てがあるが、最高裁による確定的判断はまだ出ていない |
注登録したのに詐欺SMSは止まっていない。 減少はしたが撲滅されていない。 むしろ 「SIM登録してください」という偽SMS自体が詐欺の主要手口になったという皮肉な結果になっている。 正規の登録は、通信会社の公式アプリ(GlobeOne/GigaLife/DITO App)か、自分で入力した公式サイトのみ。 SMS内のリンクからは絶対に登録しない。これは在留邦人・出張者にそのまま伝えるべき実務注意である。
実務メモ:外国人がSIMを買うにはパスポートが要る。 空港のカウンターでも登録手続きが必要で、 「買ってすぐ使える」わけではない。到着当日に業務用の番号を確保したい場合は前提を変えて計画すること。
6. キャッシュレス決済 ── 公共レールの上の民間競争
6-1. BSPの2025年実績 ── 目標を前倒しで達成
| 指標 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| デジタル決済の件数比率 | 52.8% | 57.4% | 64.7% |
| 件数 | ── | ── | デジタル 39.37億件 vs 紙ベース 21.49億件 |
出典:BSP(Deputy Governor Zeno Ronald R. Abenoja)/BusinessWorld・Manila Bulletin・GMA 2026年8月17-19日報道。 フィリピン開発計画2023-2028の目標帯(60〜70%)に初めて入った年が2025年である。 注 「デジタル決済57.4%」は2024年の数字。 2026年に57.4%を引用しているメディアはまだ多いので、 新旧を並べて示すこと(2024年 57.4% → 2025年 64.7%)。
6-2. 公共レール ── InstaPay / PESONet / QR Ph
| レール | 性格 | 2025年実績 |
|---|---|---|
| InstaPay | 少額・即時送金(24時間) | 金額 11.554兆ペソ(+57.27%)/件数 46.56億件(前年比+231%)。2020年以降、ATM引出しを件数・金額とも上回る |
| PESONet | 大口・バッチ(当日/翌営業日) | 金額 13.191兆ペソ(+30.91%)/件数 1億1,725万件(+16.25%)。小切手決済を上回る |
| 合計 | ── | 24.745兆ペソ(+42.02%)/47.73億件(前年 15.08億件 から3倍超。2026-08-25 相互照合で修正、下記注) |
| QR Ph | 国家統一QR規格(P2P/P2M) | 1.16兆ペソ・24.7億件。デビットカード・クレジットカードの取引を初めて上回った |
注 (2026-08-25 第2回相互照合で修正。出典:本表内の InstaPay/PESONet 実績値を算術照合) 旧版は「前年1回5.08億件から3倍超」としていたが、5.08億件では「3倍超」にならない(47.73÷5.08=9.4倍)。同じ表の伸び率から前年値を復元すると 15.08億件 となり、桁が1つ落ちた誤記と判断できる。
InstaPay 46.56億件(+231%) → 前年 46.56 ÷ 3.31 = 14.07億件
PESONet 1.1725億件(+16.25%) → 前年 1.1725 ÷ 1.1625 = 1.01億件
前年合計 14.07 + 1.01 = 15.08億件
47.73 ÷ 15.08 = 3.17倍 … 本文の「3倍超」と整合する
用途別の内訳(2025年 E-Payments Measurement Report)
| 用途 | 構成比 | 備考 |
|---|---|---|
| P2M(消費者→店舗) | 74.31% | 大半がQR Ph経由。件数29.3億件(前年22億件、+33.22%) |
| P2P(個人間送金) | 17.7% | InstaPay拡大が牽引 |
| B2B(仕入先支払) | 3.67% | PESONetの複数バッチ決済化が寄与 |
2026年上半期:PESONet+InstaPay は金額16.09兆ペソ(+44.6%)、件数42億件(+約170%)。 デジタル決済口座 +69.4%、デジタル決済受入加盟店ロケーション +36.3%(BSP/BusinessWorld 2026年8月)。
6-3. 新レールと料金の激変(2026年)
- 2026年7月29日、BSP・PPMI が新サービスを開始:Direct Debit PH(請求事業者が期日に自動引落)、 InstaPay Cash-In、InstaPay for Business(法人向け上限を50万ペソへ引上げ)。 公共料金・サブスク・保険料の自動引落が銀行口座/ウォレット横断で可能になり、 「毎月ローソンで払う」型の生活からの離脱が制度的に後押しされた。
- 2026年6月17日、BSP Circular No. 1238:2021年12月から続いた送金手数料の変更モラトリアムを解除。 国家小売決済システム枠組み(NRPS)と加盟店受入枠組みを改定し、 他行・他社宛のP2P手数料が自社内送金と「実質的に異ならない」ことを要求(差はスイッチ手数料=約1.50ペソ相当のみ)。 2026年7月4日までに「合理的」水準への是正を求めた。
- 結果、BPI が7月1日に InstaPay・PESONet 手数料を恒久無料化(従来 InstaPay 10ペソ/PESONet 50ペソ)。 7月10日までに BDO・Metrobank・LandBank・UnionBank・PNB・Chinabank・Security Bank が追随(GMA・BusinessWorld 2026年7月)。
- 注 「無料」には条件付きが混在する。 RCBC Pulz は「月30回まで・1回100ペソ以上」、 EastWest は「平均残高2,000ペソ以上」など。BSP は RCBC の設計を「通達に非適合」と名指しで指摘している(Rappler 2026年)。 日本から見て「フィリピンの銀行送金は高い」という前提は、2026年7月で崩れた。 資金管理設計を見直す価値がある。
6-4. NFC/タッチ決済の登場(2025年11月〜2026年8月)
| 出来事 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| Google Wallet / Google Pay 開始 | 2025年11月18日 | NFC対応Android・Wear OS・Fitbitで利用可。参加9社は ChinaBank・EastWest・RCBC・Zed(Visa/Mastercard)、GoTyme・Maya・UnionBank・Wise(Visa)、GCash・Zed(Mastercard)。BDO と BPI は開始時点で非対応 |
| Apple Pay 開始 | 2026年8月4日 | Chinabank・GoTyme・Metrobank・UnionBank の4行で開始。iPhone/Apple Watch/iPad/Mac 対応 |
| 利用可能場所 | ── | MRT-3(マニラ)、セブ・マンダウエのモダンジプニー、Easybook のバス券。オンラインは Shopee、PesoPay/Payermax 経由の加盟店 |
| 規制の扱い | ── | BSP は Google Pay 等のグローバルウォレットを銀行ではなく「技術サービス提供者(TSP)」に分類し、早期展開を可能にした |
注 GCash/Maya の「残高」そのものは Google Wallet に載らない。 トークン化できるのは対象のクレカ・デビット・プリペイドカードのみ。 注 NFCは「モールと大手チェーンの決済」であり、QRは「サリサリストアの決済」。 端末設置状況が違うため、 QRからNFCへ置き換わるのではなく、上層にNFCが乗ると理解するのが正確である。
6-5. クロスボーダー
- Project Nexus(BIS Innovation Hub主導、インド・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイが創設参加)。 2022年PoC、2024年7月に青写真公表、シンガポールに運営体 Nexus Global Payments を設立。2026年に本番移行の見込み。 実現すればフィリピンの InstaPay が各国の即時決済網とハブ&スポークで接続される。
- ASEAN Regional Payment Connectivity:2025年12月時点で29のクロスボーダー接続、3,620万件・7億1,640万ドル(AMRO集計)。
- 注 IMFは「フィリピンはクロスボーダー接続で域内他国にやや後れている」と評価している(IMF Staff Country Report 2026/042)。 「フィリピンがASEAN決済統合を牽引」という言い方は事実と逆。
7. GCash と Maya ── 二強の実像
7-1. GCash(運営:Mynt = Globe Fintech Innovations/ウォレットは子会社 G-Xchange)
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 登録ユーザー | 9,000万〜1億(報道により差) | 2026年 |
| 月間アクティブ(MAU) | 40.4百万=成人人口の約55% | 2026年3月31日時点、Mynt目論見書(Frost & Sullivan) |
| 2025年通年MAU | 39.1百万 | Mynt |
| 1日平均取引件数 | 6,240万件 | 2026年Q1 |
| 決済GTV | 2025年 17.03兆ペソ/2026年Q1 4.75兆ペソ(+23.2%) | Mynt |
| QR加盟店 | 210万 | 2026年3月 |
| 現金入出金拠点 | 130万 | 同上 |
| 貸出(active borrowers) | 750万人 | 同上 |
| 貯蓄(GSave)/投資/株式 | 1,690万人/900万人/190万人 | 同上 |
| ユーザー属性 | 低所得層 92%/首都圏外 78% | Mynt IPO関連開示 2026年 |
注登録者数(9,000万〜1億、報道により9,400万とも)と「MAU 40.4百万」は矛盾しない。前者は累計登録、後者は実稼働。 注 (2026-08-25 相互照合で明示化) 本稿内でも第0節「9,000万超」、上表「9,000万〜1億」、本注「9,400万」と3通りの表記が併存している。登録者数はGCash側が節目ごとに更新する広報値であり、一次的な監査済み統計ではない。Mynt 目論見書に載る監査対象の指標は MAU 40.4百万(2026年3月31日時点)の側であり、事業計画に使う数字はこちらに一本化すること。 登録数は成人人口に近いかそれを超えるが、これは複数アカウント・休眠を含む。 事業計画に使うなら必ずMAU(40.4百万)側を使うこと。登録数を市場規模と読むと2倍以上の過大評価になる。
注 旧記載の訂正:初稿の「GCash利用者の92%が低所得層、78%が首都圏の外」は数字としては正しいが、 2024年の20周年発表では「90%/74%」であった。年で数字が動く指標なので、必ず時点を添えること。
Mynt の PSE 上場(2026年10月予定)── フィリピン史上最大のIPO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請 | 2026年6月27日、比SEC・PSEに予備目論見書を提出 |
| 価格・株数 | 上限 1株10.00ペソ、基本オファー 最大 80億2,741万株=最大803億ペソ。オーバーアロットメント(最大12億411万株)行使で総額最大 923億ペソ(約15億ドル) |
| 構成 | 注基本オファーのうち新株は16億548万株のみ。残り64億2,193万株は既存株主(Ant International、ASP Philippines LP 等)の売出し。つまり大半は資金調達ではなく既存株主のイグジット |
| 放出比率 | 発行済669億株に対し約12%(OA完全行使で約13.8%) |
| 含意時価総額 | 約6,690億ペソ(約109億ドル)BDO Unibank(約6,456億ペソ)を上回る |
| 業績 | 調整後収益:2023年 336億 → 2024年 541億 → 2025年 797億ペソ。純利益:64億 → 111億 → 172億ペソ。2026年Q1:収益207億/純利益56億ペソ |
| 日程 | ブックビルディング 2026年9月28日頃 → オファー期間 10月5〜9日 → 上場 10月19日予定、ティッカー "GCASH" |
| 配分 | 小口・取引参加者向け30%(ブローカー20%+LSI 10%) |
| 注 論点 | 上限価格は2026年予想PER約20倍。同業グローバル比較は14〜15倍で割高との指摘(Aletheia Capital, Nirgunan Tiruchelvam)。一方「上場時点で黒字の決済会社は稀」との反論もある |
注 初稿の「時価総額80億ドル規模」は古い。 目論見書ベースでは約109億ドル。 (参考:2024年に三菱UFJフィナンシャル・グループが出資した際の評価額は50億ドル)新旧を並べて理解すること。 注 日程は SEC・PSE の承認次第で動きうると目論見書自身が注記している。
7-2. Maya(運営:Voyager Innovations/MVP系。株主に KKR、Tencent、IFC)
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 登録ユーザー | 約5,000万 | 2025年〜2026年報道 |
| Maya Bank の銀行顧客 | 820万人(全ユーザーの16%) | 2026年報道 |
| 貸出残高 | 270億ペソ(+59% YoY) | 2025年9月 |
| 預金 | 567億ペソ(+44%) | 同上 |
| 純金利マージン | 18.9%(前年13.9%) | 同上 |
| 通年純利益 | 17億ペソ ── 初の通年黒字 | 2025年通年 |
| 累計貸出実行額 | 2,560億ペソ | 2025年 |
| NPL比率 | 3.8% | 2025年Q1末 |
上場計画(流動的) - 2026年2月、Bloomberg が米国上場(NasdaqまたはNYSE)で5億〜10億ドル調達を検討と報道。 - 会長 Manuel V. Pangilinan は米国上場+比国上場のデュアルリスティング方針を表明、当初はQ3 2026想定。 - 注その後、後ろ倒しの観測。2027年のPSE上場を目標とし、GCashが先に上場する構図と報じられている。 2026年のIPO市況悪化が背景(Reuters等)。「Maya は2026年Q3に重複上場」は現時点では最新ではない。
7-3. 注「ASEANで唯一」という主張について
初稿にあった 「消費者向け電子ウォレットの月間アクティブ利用が小売銀行アプリを上回る、ASEANで唯一の国」 は、 確認できたのは二次的なまとめ記事のみで、一次的な調査レポート(機関名・調査手法)にたどり着けなかった。→ 未確認。
代わりに、同趣旨を裏づける確実な数字は以下:
| 事実 | 出典 |
|---|---|
| 「最初に持った金融商品」が e-wallet 35% > 銀行口座 30% | TransUnion「2025 Credit Perception Index」 |
| e-wallet がオンライン金融サービスで最も使われている(デジタルバンキング・オンライン融資を上回る) | 2026年各種集計 |
| QR Ph が2025年に初めてデビット/クレカ取引を上回った | BSP 2025年 E-Payments Measurement Report |
| 88.5% が毎月オンラインで銀行・投資・保険を利用 | DataReportal「Digital 2026」 |
「ASEAN唯一」とは書かず、上の4点で示すのが正しい書き方である。
8. 金融包摂 ── 初稿の最大の誤りを訂正
8-1. 注「人口の44%が銀行口座を持たない」は誤り/古い
正しくは以下。無銀行(unbanked)の割合はもっと大きい。
| 調査 | 時点 | 成人の口座保有率 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| BSP CFIS(Consumer Finance and Inclusion Survey) | 2025年(2/16〜7/24、n=8,784、15歳以上) | 50%(2021年の56%から低下) | 電子マネー口座36%/銀行口座23% |
| World Bank Global Findex 2025 | 2025年 | 50.2%(2021年 51.4%から低下) | ── |
| SWS 調査(BSP委託) | 2026年Q1 | 58%(18歳以上) | 電子マネー43%/銀行21% |
| 世帯ベース | 2025年 | 85%の世帯が少なくとも1口座(2024年 74%) | ── |
つまり「成人のおよそ4〜5割が、いまだにいかなる正式な金融口座も持たない」。44%という数字は BSPの過去プレゼンにあった「所得の低さ・書類不足による無銀行率44%」の引用と思われ、現状より楽観的すぎる。
注2021→2025で口座保有率が「下がった」ことは直感に反するが、BSPの説明は明確: マイクロファイナンス機関(9%→5%)や協同組合(5%→2%)の融資に紐づく取引口座が減ったため。 借入の減少が口座数の減少に直結した。「デジタル決済が伸びている=口座が増えている」ではない。
他方でポジティブな変化:15〜19歳の口座保有 27%(2021)→34%(2025)、 女性の銀行口座 20%→25%で、男性(26%→22%)を初めて上回った。 注 一部メディアが「BSP最新調査で65%」と書いているが、BSPのCFIS/SWSいずれの数字とも一致せず、出典が確認できない → 使わないこと。
8-2. PhilSys(国民ID)── eKYC の基盤
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | RA 11055。BSP監督下の全銀行は PhilID を身分証明として受理する義務 |
| BSP Circular 1170 | 物理カード(PhilID)・紙(ePhilID)・PhilSys Card Number / PhilSys Number のいずれも十分な本人確認書類とし、追加書類を要求してはならない。裏面のPSNは機密で、表面のみスキャン |
| BSP Memorandum 2025-012 | 全監督下金融機関にカード・紙・デジタルの全形式の受理を指示し、National ID eVerify(顔認証/指紋照合)との直接連携を推奨 |
| 実装状況 | AUB・GoTyme・PNB・GCash が NIDAS(National ID Authentication Services)に接続。BPIは国民ID登録済みなら「基本情報+自撮り」だけでアプリから口座開設可(同行は開設数が約50%増と説明) |
| 普及 | 2025年4月時点で 8,400万件超のデジタル国民ID が eGovPH で利用可能。2026年に7,000万人超へePhilID展開 |
| 関連 | 2025年2月、FATF がフィリピンをグレーリストから除外。一貫した顧客確認体制の整備が要因のひとつとされる |
注 実務上の注意:地方の一部の農村銀行・協同組合は未統合で、方針上は不要な副次的IDを求められることがある。 BDOは口座種別によって副次ID要求あり、BPI・UnionBank は国民IDのみで完結、GCash・Maya は物理カードとePhilIDの両方を受理。
8-3. デジタル銀行(BSP認可)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 認可数 | 長らく6行。2024年8月にBSPがモラトリアムを解除し上限10行へ。2026年7月、MariBank(旧 SeaBank Philippines)が農村銀行免許からデジタル銀行免許へ格上げされ7行目に |
| 顔ぶれ | Maya Bank、Overseas Filipino Bank、Tonik Digital Bank、GoTyme Bank、UNOBank、UnionDigital Bank、MariBank(Sea Limited=Shopee/Garena系) |
| 資産規模 | 2024年12月時点で Maya Bank が最大、GoTyme が続く(統計) |
| 金利 | 高利回り預金の基本レートは概ね年4.5%程度まで(大手従来行は約0.25%)。注Maya の「年15%」は残高上限付き・毎月の利用条件付きで、全額に適用される利率ではない |
| 預金保険 | PDIC の付保上限は1口座あたり100万ペソ(旧50万ペソから引上げ済み)。注50万ペソと書いている記事がまだ多い |
9. EC(Eコマース)
| 指標 | 数値 | 出典・年 |
|---|---|---|
| Shopee+Lazada+TikTok Shop の比国GMV | 220億ドル(FY2025、+15%) | Cube "Tradewinds" 2026 注 業界推計であり政府統計ではない |
| Shopee | 120億ドル・+25%。月間サイト訪問 約7,020万(2026年5月) | 同上 |
| TikTok Shop | 60億ドル・+53%。MAU 1,500万。2025年Q4に四半期売上でLazadaを抜き2位 | 同上 |
| Lazada | 30億ドル・▲34% | 同上 |
| 平均注文単価 | TikTok Shop 198ペソ/Shopee 316ペソ/Lazada 416ペソ | 同上 |
| 週1回以上オンライン購入する人 | 56.3〜56.4% | DataReportal「Digital 2026」 |
| 年間オンライン消費 | 約4,875億ペソ(82.4億ドル、2025年) | 同上 |
注 Shopeeのシェアは出典により42%/49%/55%と割れる。 分母が「3社合計GMV」か「EC市場全体」かで変わる。 単一の数字を引くときは必ず分母を明示すること。
制度面:Internet Transactions Act(RA 11967、2023年12月5日成立、IRR 2024年5月24日) - DTI 傘下に E-Commerce Bureau を設置。オンライン商人・e-retailer・eマーケットプレイス・デジタルプラットフォームを対象。 - オンライン事業者データベース(OBD) への登録推進、E-Commerce Philippine Trustmark の整備。 - DTI長官に召喚状(subpoena ad testificandum / duces tecum)発行権限。 - IRR施行から18か月の経過措置が既に満了しており、2026年時点でコンプライアンス義務は「猶予」ではなく「発効中」。 - 適用外:オンラインメディアコンテンツ、C2C取引。域外適用条項(Sec.5)あり。
10. オンライン詐欺とサイバー犯罪 ── 最大の実務リスク
10-1. 被害の規模と傾向
| 指標 | 数値 | 出典・年 |
|---|---|---|
| フィッシングサイト数 | 731件(2024)→ 3,824件(2025)=+423% | 2026年2月報道 |
| 危険URL件数 | 2025年Q1 13,602 → Q4 49,431 | Whoscall「2025 Philippines Scam Report」 |
| 不正の内訳(金額ベース) | ソーシャルエンジニアリング+口座乗っ取り+なりすまし 76%/ハッキング 13%/カード非対面 8% | BSP 2025年 |
| デジタル不正疑い率 | 4.1%(世界平均3.8%)6年連続で世界平均超 | TransUnion 2025年 |
| 詐欺の標的にされた消費者 | 72%(世界平均53%)※2025年8〜12月 | 同上 |
| 業種別で最悪 | 物流 8.5%(偽の配送・代引き詐欺)/保険7.6%/出会い・SNS 5.8%/小売5.2%/金融2.3% | 同上 |
| 合成ID書類詐欺 | +291%(2025年上半期、前年同期比) | Sumsub |
| 認証情報流出 | 2025年Q3に5,200万件超が侵害 | 2026年集計 |
警察の統計(PNP Anti-Cybercrime Group)は逆に減少を示す
| 手口 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| オンライン販売詐欺 | 3,025件 | 1,525件(約▲50%) |
| 投資詐欺 | 1,101件 | 291件 |
| アカウント乗っ取り/なりすまし | 604件 | 183件 |
| ビッシング(音声詐欺) | 589件 | 80件 |
| 上半期のオンライン詐欺件数 | 5,526件(2025年1-6月) | 4,509件(2026年1-6月) |
注「警察の認知件数は減り、技術指標(フィッシングサイト・危険URL)は激増している」という食い違いに注意。 PNPは「国民の認識向上」を理由とするが、通報されない被害が増えている可能性を排除できない。 政府統計(PNP認知件数)と民間セキュリティ企業の観測値を混ぜて語らないこと。 注 一部に「2025年12月に企業のデジタル不正被害が4兆ペソ(678億ドル)」という数字が流通しているが、 規模が国家予算級で不自然。一次出典が確認できない → 使わないこと。
10-2. AFASA(RA 12010)── 2024年成立の詐欺対策法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成立 | 2024年7月20日。Anti-Financial Account Scamming Act |
| 対象 | BSP監督下の銀行・ノンバンク金融機関・決済事業者。銀行口座と電子ウォレットの両方が対象 |
| 禁止行為 | マネーミュール(口座の貸与・売買・賃貸、偽名口座の開設、勧誘)、社会工学的詐取、経済的サボタージュ等。勧誘するだけで処罰対象 |
| BSP施行通達(2025年) | Circular 1213(IT リスク管理の改正:取引モニタリング、デバイス管理、認証の強化)/Circular 1214(金融口座への照会と情報共有の手続)/Circular 1215(係争取引に関する資金の一時保留と協調的検証) |
| 責任配分 | 係争資金を保留しなかった機関は損害賠償・原状回復責任を負う。逆に不当に保留した/保留期間を超過した機関も責任を負う。BSP基準を遵守していた機関は、詐欺が起きても免責される |
| 未整理の論点 | 注ディープフェイク/AI支援型の金融詐欺への適用は今後の運用で明確化が必要 |
10-3. POGO(オフショアゲーミング)と詐欺拠点
| 出来事 | 時期 |
|---|---|
| 大統領令 EO 74(全POGO・インターネットゲーミング免許の禁止、2024年末までの操業停止) | 2024年11月4日 |
| RA 12312(POGO Ban Act) で法定化 | ── |
| DOJ が「国内でPOGO拠点は稼働していない」と表明(Vida司法長官、期限から1か月で稼働拠点の80%を閉鎖) | 2026年4月上旬 |
| 統一SOPに15の法令・省令を同期させ、複数省庁が署名(DOJ検察官が立件初期から関与、AMLC・SECが資金追跡・資産凍結) | 2026年4月22日 |
注「POGOフリー宣言」は制度上の話であって、詐欺そのものは終わっていない。 2026年6月時点で PNP は、大規模施設から「ゲリラ型」の小規模分散拠点へ移行した後継ネットワークの検証を継続。 バクララン、ビノンド、パラニャーケ(首都圏)、パラワン、セブ等が指摘されている。 取締りの焦点は「大型施設の摘発」から「分散拠点の捕捉と資金遮断」に移った。
11. データ・プライバシー法と規制環境
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本法 | Data Privacy Act of 2012(RA 10173)。監督機関は National Privacy Commission(NPC)。委員長は Atty. Johann Carlos S. Barcena(2026年時点) |
| 域外適用 | 比国内の機器や拠点を通じて比国内の個人データを処理する外国企業にも適用される |
| 侵害通知 | 発見から72時間以内に NPC と本人の双方へ通知(機微個人情報を含む、または現実の危害リスクがある場合)。以後5日以内に詳細報告 |
| 年次報告 | Annual Security Incident Report(ASIR)。2025年分の期限は2026年3月31日(NPC Circular 2022-04)。DBNMS で提出後は修正不可 |
| 行政罰 | NPC Circular 2022-01 により、重大違反で年間総収入の0.5〜3%、1違反あたり上限500万ペソ |
| 刑事罰 | Sec.25〜34:懲役6か月〜7年+罰金10万〜500万ペソ |
| 2024-2026年の主要通達 | Advisory 2024-01(越境移転のモデル契約条項)/Advisory 2024-04(AIシステム)/Circular 2025-01(ボディカメラ)/Advisory 2025-02(開発工程へのプライバシー・エンジニアリング)/Advisory 2026-01(2026年4月:データスクレイピングに PIA を義務づけ) |
| 審議中 | NPCが、定型的処理のPIA義務を緩める一方、AI・生体情報・越境移転には厳格化する PIA 指針改定案をパブコメ中 |
| 執行事例 | 2025年10月8日、NPC が Tools for Humanity(World App)に対し、無許可の生体情報収集を理由に停止命令(CDO) |
注「データ・プライバシー法が改正された」は誤り。DPA本体はまだ改正されていない。 改正案(海外PICが国内PIP等を通じて侵害報告できるようにする案、懲役と罰金の選択刑化案、 生体・遺伝情報の定義追加、上院SB 1367等)はいずれも議会で係属中。 2025〜2026年の実質的な変化は、法改正ではなく NPC の通達・アドバイザリーで起きている。
その他の関連法:Cybercrime Prevention Act(RA 10175)、E-Commerce Act(RA 8792)、 SIM Registration Act(RA 11934)、Internet Transactions Act(RA 11967)、AFASA(RA 12010)、 Konektadong Pinoy Act(RA 12234)、POGO Ban Act(RA 12312)。
12. 「世界第◯位」系の主張 ── 検証結果
この分野は誇張された順位主張が最も多い領域である。以下は裏取り結果。
| よく見る主張 | 判定 | 正確な言い方 |
|---|---|---|
| 「SNS利用時間が世界一」 | 注現在は誤り | 2025年時点で2位。時間自体は2020年の4時間から約5時間へ増加(Digital 2026) |
| 「デジタルメディア接触時間が世界一」 | 注誤り | 週54時間でケニアに次ぐ2位(Digital 2026) |
| 「TikTok浸透率が世界一」 | 概ね妥当 | 75.4%(2026年集計)。ただし調査機関ごとに定義差あり |
| 「TikTok利用時間が世界一」 | 注未確認 | 月40時間強は世界最高水準だが、1位と断定する出典を確認できず |
| 「ネット利用者数で世界12位」 | 出典あり(推計) | 9,800万人で12位(Digital 2026) |
| 「ChatGPT月間利用率が世界6位」 | 出典あり | 16歳以上の42.4%が月1回以上利用(世界平均26.5%)/Digital 2026 |
| 「世界第3位の送金受取国」 | 妥当。ただし指標を書くこと | インド・メキシコに次ぐ(受取総額ベース/世界銀行推計)。2025年の個人送金は396.2億ドル(過去最高)、対GDP 8.3%(BSP)。注(2026-08-25 相互照合で追記)同じ2025年・同じ「個人送金」でも世界銀行WDIは 415.60億ドル(BX.TRF.PWKR.CD.DT、lastupdated 2026-07-13/分野「統計とデータソースの使い方」§3.3)で、BSP値と約19億ドル開く。また現金送金(cash)は356.3億ドル・対GDP 7.3%(分野「_地下資源の総合考察」§2)。順位は「対GDP比」で取ると上位に入らないので、必ず①受取総額ベースであること②推計主体を添えること。分野「外交関係の各論」§9-3の「未確認」表記は本項に合わせて更新済み |
| 「e-walletのMAUが銀行アプリを上回るASEAN唯一の国」 | 注未確認(一次出典に到達できず) | §7-3 の4指標で代替して記述すべき |
| 「デジタル決済が全取引の60%(QR)」 | 注不正確 | 正しくは P2M が全デジタル小売決済の74.31%で、その大半がQR Ph(BSP 2025年) |
13. 日本側・進出企業のための実務チェックリスト
| 場面 | 押さえるべき点 |
|---|---|
| マーケティング | 到達はFacebook、滞在と購買喚起はTikTok。Xだけの設計は届かない。LinkedInは2,200万・成人の28.1%でBtoBには使える |
| PR・危機対応 | ニュースサイト直接訪問は5%。サイトにリリースを置くだけでは誰にも届かない。自社ブランドへのデマは実在する経営リスクで、CICC・DICTへの通報経路を事前確認しておく |
| 決済受入 | QR Ph 対応が最優先(サリサリ〜モールまで通用)。NFC(Google Pay 2025年11月/Apple Pay 2026年8月)は都市部の上乗せ |
| 資金移動・課金 | 2026年7月以降、大手行の InstaPay/PESONet 手数料は無料化。「送金コストが高い」前提のスキームは要見直し。Direct Debit PH(2026年7月29日開始) で定期課金設計も現実的に |
| 本人確認 | PhilSys+eVerify が事実上の標準。物理カード・ePhilID・PCN/PSN のいずれも受理義務あり |
| SIM取得 | RA 11934 により実名登録が必要。パスポート必携、購入即開通ではない。SMSリンクからの登録は詐欺 |
| 個人情報 | 域外適用あり。侵害は72時間でNPCと本人へ通知。2026年4月からデータスクレイピングにPIAが必要 |
| EC出店 | RA 11967 の経過措置は満了済み。DTI/SEC登録、BIR登録・領収書、表示・返品ポリシー整備は「猶予なし」 |
| 社員・駐在員 | フィッシングSMS(smishing)が主要手口。「SIM登録」「配送」「銀行」を騙るSMSは開かないを社内標準に |
14. 今後12か月の注視ポイント
- 2026年10月19日予定の Mynt(GCash)PSE上場(比史上最大IPO)。注売出し比率が高く価格は割高との指摘あり。日程は当局承認次第
- Maya の上場。米国先行のデュアルリスティング構想から2027年PSE上場へ後ろ倒しの観測
- Konektadong Pinoy Act の実効性と2026年の700MHz/2.1GHz オークション。NCR外に新規参入が起きるか、DITOに低帯域が配分されるか
- HB 9465(反偽情報法)の上院審議。プラットフォームの国内法人格義務が通れば外資デジタル事業の前提が変わる
- Project Nexus の本番移行と BSP Circular 1238 の運用(条件付き無料の是正)
- AFASA のディープフェイク/AI詐欺への適用、NPCのPIA指針改定の最終版
- Globe × Starlink Direct-to-Cell の実効カバレッジと、次回BSP CFIS の口座保有率(2025年50% → 2026年Q1 SWS 58%が定着するか)