出典をたどれるフィリピン情報
トップ分野一覧エネルギー・電力・廃棄物 › フィリピンの地熱と地下の再生可能資源 ── 世界3位の地熱大国はなぜ伸び悩むのか

フィリピンの地熱と地下の再生可能資源 ── 世界3位の地熱大国はなぜ伸び悩むのか

情報基準日:2026-08-26 / 分野:エネルギー・電力・廃棄物


## 0. この資料の使い方(数字の定義に関する共通注意)

地下資源の話は、数字の「種類」を取り違えると簡単に間違える。以下は地熱にも地下水にもCCSにも共通する注意点である。

用語 意味 地熱での使われ方
埋蔵量(reserves) 掘削・試験で確認され、既知の技術・経済条件で回収できると確認された量 フィリピンでは「proven(確認)」約2,500MW級という評価がある(後述、一次資料未確認)
資源量(resources) 地質的に存在が推定されるが、経済性・技術性が未確認の量 「4,000MW超のポテンシャル」はここに近い
賦存量/ポテンシャル(potential) 理論上その地域に存在する熱量・容量の推計 DOE等が公表する「4,054MW」「4,064MW」はこの系統

知らないと間違える点①:フィリピンの地熱でよく引かれる「約4,000MW(4,054MW/4,064MW)」は資源ポテンシャルであって、掘れば必ず出る確認埋蔵量ではない。ThinkGeoEnergy掲載の市場概観や関連文献では、実際に確認された規模は約2,500MW程度とされ、既存の主要地帯(Tiwi、Mak-Ban、Palinpinon、Tongonan)でほぼ商業化済み、という整理が繰り返されている(出典:ThinkGeoEnergy/ScienceDirect掲載章「The Philippines: Antecedents and Perspectives of the Third Largest Geothermal Power Market」。一次資料の原文は未確認)。

知らないと間違える点②:鉱物資源でいう JORC・NI 43-101 のような報告基準は、地熱には直接は適用されない。地熱は「貯留熱法(stored heat/volumetric method)」や「数値シミュレーション」で評価され、国際的にはUNFC等の分類枠組みがあるが、フィリピンで公表される数字の多くは政府(DOE)またはPNOC系機関の推計事業者の主張である。第三者監査済みの鉱物埋蔵量報告とは性格が違う。

知らないと間違える点③:「世界第2位/第3位」は、ほぼ常に設備容量(installed capacity, MW)での順位である。発電量(GWh)ベース、あるいは電源構成に占める割合ベースでは順位が変わりうる。またデータ提供元(ThinkGeoEnergy/Global Energy Monitor/各国政府)で数百MW単位の差が出る。


## 1. 世界の中でのフィリピンの位置(2025年末時点)

ThinkGeoEnergy が公表した2025年末時点の世界地熱発電設備容量ランキングは以下のとおり。

順位 設備容量(MW、2025年末)
1 米国(United States) 3,953
2 インドネシア(Indonesia) 2,742
3 フィリピン(Philippines) 2,034
4 トルコ(Türkiye) 1,797
5 ニュージーランド(New Zealand) 1,259
6 ケニア(Kenya) 980
7 メキシコ(Mexico) 976
8 イタリア(Italy) 916
9 アイスランド(Iceland) 808
10 日本(Japan) 607
世界合計 17,173

(出典:ThinkGeoEnergy「Global Top 10 Geothermal Power Countries at Year-End 2025」)

2位から3位へ落ちた経緯

時期 出来事
1977年7月 レイテ島で3MWの坑口ユニットが稼働(国内最初の地熱発電)
1979年 ティウィ(Tiwi、アルバイ州)で110MW級が稼働、大規模化の起点
1980〜90年代 Tongonan/Malitbog/Mahanagdong、Palinpinon、Mt. Apo が相次いで運開
2000年代以降 新規開発が事実上停滞(「2007年以降、RE法があっても追加は86MWにとどまった」=DOE次官 Rowena Cristina Guevara 発言として引用)
2018年 インドネシアに抜かれて世界2位→3位に後退
2024〜2025年 Palayan Binary(29MW、2024年)、Tanawon(22MW、2025年)で微増

エネルギー長官 Sharon Garin(シャロン・ガリン)は2025年、順位低下について「リスクが大きすぎる。だから我々は世界2位から3位に落ちた」と述べている(出典:ThinkGeoEnergy/Philippine News Agency)。政府は2位奪還を目標に掲げている。


## 2. 国内の位置づけ ── 設備容量と電源構成

設備容量(DOE系データ)

時点 国内総設備容量 うち地熱 石炭 再エネ計
2025年2月28日 30,487 MW 1,952 MW 13,006 MW(約43%) 約34%
2025年7月 31,701 MW 2,004 MW 13,006 MW(41%) 10,240 MW(32%)
2026年8月(Garin長官発言) 約32.2 GW

(出典:DOE集計を引用した各種報道・BOI「Renewable Energy」industry profile 2025年3月、Manila Bulletin 2026年8月11日)

電源構成に占める地熱の割合

期間 地熱の発電量シェア 備考
2005年 約17.5% この古い数字が今も引用され続けている
2018年12月 10.5%(設備1,918.19MW) DOE
2023年 約9.1% 石炭62.5%、ガス14.1%、水力8.7%
2025年4月〜2026年3月 約8% 石炭約60%、ガス約18%、水力約11%、太陽光約4%、風力約1%(lowcarbonpower.org集計)

知らないと間違える点④フィリピン地熱協会(National Geothermal Association of the Philippines, NGAP)のサイトは現在も「設備約1,984MW、電力ミックスの17%超」と記載している。しかしこの17%台は2005年前後の水準であり、2020年代の実績は8〜9%台である。日本語記事で「フィリピンは地熱が電力の17%」と書くと、20年古い数字を引用することになる。設備容量が横ばいのまま総需要が伸びたため、シェアは半減した。


## 3. 主要な地熱地帯と発電所

フィリピンの地熱は、ルソン(Tiwi、Mak-Ban、BacMan、Maibarara)/レイテ(Tongonan-Leyte)/ネグロス(Palinpinon)/ミンダナオ(Mt. Apo)の4系統に大別できる。

3-1. 全体マップ(主要7地帯)

地帯 所在 主な発電事業者 蒸気供給(スチームフィールド) 概略規模
ティウィ(Tiwi) アルバイ州(Albay) AP Renewables Inc.(APRI/Aboitiz Power) PGPC(SM系) 銘板289MW/実力値約118MW
マクバン(Mak-Ban = Makiling-Banahaw) ラグナ州/バタンガス州 APRI(Aboitiz Power) PGPC(SM系) 銘板458MW/実力値約231MW
トンゴナン/レイテ(Tongonan / Leyte) レイテ州カナンガ等 EDC EDC自社 国内最大級(後述、合計700MW超級)
バコンマンイト(Bacon-Manito=BacMan) アルバイ州/ソルソゴン州 EDC(Bac-Man Geothermal Inc.) EDC自社 銘板約209.8MW
パリンピノン(Palinpinon) 東ネグロス州バレンシア EDC(GCGI) EDC自社 約192.5MW+Nasulo 49.37MW
マウント・アポ(Mt. Apo) 北コタバト州キダパワン EDC EDC自社 約106MW(1997年3月運開)
マイバララ(Maibarara) バタンガス州サントトマス Maibarara Geothermal, Inc.(MGI) MGI自社 32MW

「パラナス(Paranas)」について:今回の調査では、サマール州パラナスの地熱サービス契約・発電所の存在を裏付ける公開情報を確認できなかった。DOEの地熱案件一覧(2025年2月/4月版)にも該当が見当たらない。未確認として扱うべきで、記事化する場合は名称の取り違え(Palinpinon/Palayan/Southern Leyte等)の可能性を疑うべきである。なお2026年6月にPGPCが落札した「南レイテ地熱プロジェクト(25MW)」は、サマール島ではなく南レイテ州の案件である。

3-2. EDCの地熱ポートフォリオ(設備明細)

EDC(Energy Development Corporation)は国内地熱の約56%を占める最大手。

プラント 容量 備考
Tongonan レイテ 123 MW(41MW×3) 1983年運開
Upper Mahiao レイテ 134 MW
Malitbog レイテ 232.5 MW 1996年運開
Mahanagdong レイテ 180 MW
Optimization Leyte レイテ 57.2 MW
Palinpinon I ネグロス 112.5 MW(37.5MW×3) 1983年運開
Palinpinon II ネグロス 60〜80 MW Nasuji 20MW(保存モード)、Okoy 5(20MW、1994年)、Sogongon 20MW×2(1995年)
Nasulo ネグロス 49.37 MW
BacMan I アルバイ/ソルソゴン 110 MW
BacMan II 同上 20 MW
Palayan Binary 同上 28.9〜29 MW 2024年運開(バイナリー)
Tanawon ソルソゴン 22 MW 2025年運開、投資約70億ペソ、東芝ESS製フラッシュ、年間約159,000MWh、CO2削減年38,000トン超
Mindanao I ミンダナオ 52.3 MW Mt. Apo
Mindanao II ミンダナオ 50.93 MW Mt. Apo
Mindanao III ミンダナオ 3.6 MW

(出典:EDC/First Gen開示、ThinkGeoEnergy、BusinessWorld 2025年、Daily Tribune 2025年8月1日)

EDCの現在進行の投資 - 300億ペソ規模(約5.1億ドル)で40坑の掘削プログラム。2024年に29MW、2025年に54MW、2026年までに累計+85MWを目標。2025年6月時点で40坑中29坑が完了。 - 2025年内にMahanagdong Binary(28MW)と蓄電池3件(計40MWh:BacMan 20MWh、Tongonan 10MWh、Negros 10MWh)を予定。 - 2025年8月、BacMan複合の90MW拡張構想を公表(BusinessWorld 2025年8月4日)。 - アマカン(Amacan、ミンダナオ/ダバオ・デ・オロ):2017年のDOE競争入札で獲得したグリーンフィールド。First Gen社長 Francis Giles Puno は70〜100MWを期待と発言。EDC CEO Jerome Cainglet は1MWあたり約600万ドルの投資が必要で、商業性の判断は2026年、その後の建設に2〜3年としている。実現すればMt. Apo(1997年)以来ミンダナオ2件目の地熱となる。

3-3. Aboitiz Power(APRI)── ティウィとマクバン

項目 内容
取得 2009年に政府(PSALM民営化)から4億4,700万ドルで取得
運営主体 AP Renewables, Inc.(APRI)
銘板容量 Tiwi 289MW + Mak-Ban 458MW = 約747MW
実際の出力 Tiwi 約118MW、Mak-Ban 約231MW/系統への正味販売可能容量は約300MW
新設 ティウィ・バイナリー発電所 17MW(グロス)。ブラインの余熱を利用するクローズドループ方式。EPCはOrmat TechnologiesDesco。2023年1月着工。AboitizPower資料では「最新の稼働案件」と記述されており、運開済みと読めるが正式なCOD日は未確認
蒸気供給 PGPC。2018年のGeothermal Resources Supply and Services Agreement で6年間に12坑の生産井を掘削し出力20%増(「12坑・50MW」)を約束。実際の掘削キャンペーンでは94MW分の出力回復を実現し当初想定の倍になったとされる。

知らないと間違える点⑤フィリピン地熱は「銘板容量」と「実出力」の乖離が非常に大きい。ティウィは銘板289MWに対し実力値118MW(4割程度)。貯留層の減衰・スケール・坑井老朽化のためで、「フィリピンの地熱設備○○MW」という数字を発電量換算するとほぼ必ず過大になる。

3-4. Chevron撤退の経緯(重要な構造変化)

時期 出来事
〜2016年 Chevron が Philippine Geothermal Production Company, Inc.(PGPC)に40%を保有。PGPCはTiwi・Mak-Ban(合計692MW規模)向けの蒸気供給を担う。残り60%は憲法の国籍要件により比国側(SM系 All First Equity Holdings)
2016年 Bloombergがアジア地熱資産(比・インドネシア)売却検討を報道。規模は最大30億ドル級と観測
2016年12月 Chevron が Star Energy Consortium(比側は AC Energy+Star Energy)とSPA締結を公表
遅延 パートナーの All First Equity Holdings(SM Investments)が先買権(right of first refusal)を保持しており、比国側の取引が難航
決着 最終的にAyala/Star側が持分99%を AllFirst Equity Holdings(SM系)へ移管する形で決着
2022年4月 SM Investments が Tiwi・Mak-Ban のスチームフィールドを157.3億ペソで取得と報道

結果として、「地上の発電所=Aboitiz(APRI)/地下の蒸気=SM(PGPC)」という分離構造が確定した。これは日本語記事で誤りやすい点で、Tiwi/Mak-Banは「Aboitizの地熱発電所」だが、貯留層開発の主体はSM系PGPCである。

3-5. PGPC(SM系)の攻勢 ── 2025〜2026年最大の動き

3-6. その他の案件

案件 主体 状況(2026年8月時点)
Maibarara(マイバララ) MGI=PetroGreen Energy 65%/ACEN 25%/PNOC-RC 10% 稼働中32MW(M-1:20MW/2014年2月8日COD、M-2:12MW/2018年4月30日COD)。敷地はわずか7.5ha。2025年にPSALMから4億7,300万ペソで用地を落札取得。2026年7月末、ThermaPrime Drilling(First Balfour=Lopez系)と2026〜27年探査掘削契約。9月開始、2027年5月完了目標、深度2,100〜3,000m、確定3坑+オプション1坑。最大40MWの拡張構想
Biliran(ビリラン) 旧:Biliran Geothermal Inc.(Emerging Power/Nickel Asia系)→ 新:AG&P Industrial等の企業連合 長期停滞。発電所は未完成。DOE資料では50MW・約2.1億ドル、商業性確認は2014年12月28日付。2024年にAG&P Industrialら4社がMoU、「Biliran II」として50〜70MW、11,178haで最大70MW評価。2026年1月時点で「まず5MWから」との報道
Kalinga/Southwest Kalinga Aragorn Power and Energy Corp.(APEC)+Guidance Management Corp. 100MW構想。2010年3月25日にGSC付与、対象26,139ha(Pasil/Lubuagan/Tinglayan)。2023年にPAS-02探査井掘削完了。先住民の反対が継続(後述)。現在はPGPCの探査ポートフォリオにも名を連ねる

## 4. なぜ伸び悩むのか ── 5つの構造要因

4-1. 探査リスクと初期投資

項目 数値(年・出典)
探査井1坑のコスト 600〜800万ドル(2025年、ThinkGeoEnergy/DOE説明)。別報道では1,000〜1,200万ドル(2026年、ThinkGeoEnergy)
開発コスト 1MWあたり約600万ドル(EDC CEO Cainglet、2025年、Amacan案件について)
探査から運開まで 探査→商業性判断→建設2〜3年。合計で10年規模になりうる

太陽光・風力と違い、掘って外れれば全損という点が、企業にとっても銀行にとっても最大の障壁。First Gen副社長 Jay Joel Soriano は「政府は地熱を『古い技術』と見なしてきた。だから長らく支援を受けられなかった」と述べている(Philstar 2025年10月29日)。

4-2. 保護区(NIPAS/E-NIPAS)内に有望地帯が多い

法令 内容
RA 7586(NIPAS法、1992年) 国立統合保護区制度。11カテゴリ、国土の約15%・海域の約1%。PAMB(Protected Area Management Board)が管理。カテゴリー・定義(§4)・PAMB(§11)はいずれも RA 11038(2018)で改正済みの条であり、1992年の原文を現行法として引いてはならない(2026-08-26 改正確認。出典:lawphil.net 収録 RA 11038 §3・§9 原文)。(2026-08-26 の再確認で追記)RA 7586 の改正法は RA 11038 だけではない ── RA 10629(2013-09-26)が先に §16(IPAF=統合保護区基金)を改正し、PAMB による収入の75%留保を認めている(RA 11038 §15 の書き出しが "as amended by Republic Act No. 10629" である)
RA 11038(E-NIPAS法、2018年6月22日) 法律で設定された保護区を13→107(約300万ha)に拡大。法定保護区の解除・区分変更には「法律」が必要になり、事業側のハードルが上がった。同法施行時点で既得の財産権・事業権は尊重される旨の規定あり
RA 9237(2004年、Mt. Apo自然公園法) Mt. Apoを保護区に指定しつつ、PNOCの地熱リザベーション区域を公園から除外。送電線・変電所等の付帯設備はバッファゾーン内でPAMB承認のもと実施可、と明記

知らないと間違える点⑥:「Mt. Apo地熱は国立公園の中にある」という書き方は不正確。RA 9237は地熱区域を公園コアから切り出し(除外)、周辺をバッファゾーンとして扱う構成になっている。公園コア面積54,974ha、バッファ9,078ha。

逆に言えば、E-NIPAS以降に新規の有望地帯が法定保護区にかかっていると、事業化には立法府レベルの調整が要る。これが「探査リスク」に上乗せされる制度リスクである。

4-3. 先住民との関係(IPRA/FPIC)

4-4. 地元自治体との調整と歳入分配

RA 9513(後述)の下で、地熱の政府取り分(government share)は総所得の1.5%。この配分は国60%/地方40%で、さらに受入自治体側の取り分の80%は住民の電気代補助に充てると定められている。地元にとっての直接的利益は電気代割引という形になり、自治体の裁量的歳入としては限定的で、これが地元合意形成の交渉材料を狭めている面がある。

4-5. 政策の優先順位


## 5. 制度 ── RA 9513と外資規制

5-1. 再生可能エネルギー法(RA 9513、2008年)の優遇

改正の有無(2026-08-26 確認)。RA 9513 を改正した共和国法は確認できなかった(LawPhil の2023〜2026年 RA 一覧に "amending... 9513" なし。ネットメータリング拡充・屋根置き太陽光の改正法案が上院で審議中で、2026年4月30日に合同公聴会)。変わったのは法律ではなく下位規則と税制の重なりである。 - DOE 通達 DC 2022-11-0034(2022-11-15 署名/2022-12-08 発効)が IRR を改正して外資規制を撤廃(下記5-2)。法律本体は改正していない。 - 下表の税制優遇は RA 9513 第15条に基づくが、RA 11534(CREATE, 2021)および RA 12066(CREATE MORE, 2024-11-11)による優遇制度の再編と重なっている。本検証では「CREATE 系が RA 9513 第15条を明文で廃止した」事実は確認できなかった(両制度の選択関係と解説されるのが主流)。個別案件の適用可否は税務専門家に確認すること。下表を単独で現行の税務結論として使わない。

優遇措置 内容
所得税免税(ITH) 商業運転開始から7年間、国税としての所得税免除
法人税10% ITH終了後は純課税所得に対し10%(通常税率より大幅に低い)。ただし節税分を電気料金引き下げで需要家に還元することが条件
ITH延長 追加投資・新規資源発見は新規投資扱い。追加投資分の適用は当初ITHの3倍まで、通算最大21年
輸入関税免除 機械・設備・資材の輸入は免税
VATゼロ税率 RA由来電力の販売はゼロ税率
不動産税の上限 土木・設備等の固定資産税は取得原価から減価償却を控除した簿価の1.5%を上限
NOLCO 商業運転開始後3年間の欠損金を7年間繰越控除
国内調達優遇 国産RE機器等はVAT・関税相当額の100%税額控除

5-2. 2022年の外資100%開放 ── 地熱は「対象外」

事項 内容
根拠 司法省意見 第21号(2022年):太陽光・風力・水力・海洋(潮汐)は憲法第12条第2節の国籍要件の対象外と解釈
通達 DOE Department Circular No. 2022-11-0034(2022年11月15日署名、2022年12月8日発効)。RA 9513のIRR第19条を改正
効果 太陽光・風力・水力・海洋 のEDU(探査・開発・利用)で外資100%が可能に。既存合弁の外資が比側持分を買い取ることも可
除外 地熱は対象外。自然水源からの取水も対象外(水は「枯渇性資源」と整理)

知らないと間違える点⑦(本テーマ最重要)「2022年にフィリピンは再エネを外資100%開放した」→「だから地熱も外資100%で入れる」は誤り。地熱は依然として60%比国資本が原則である。DOEは第5回OCSP(OCSP5)の説明でも「OCSP契約は比国企業・外国企業ともに応募可能。ただし地熱は例外で、60%以上が比国資本で比国が支配する法人であることを要する」と明示している。

5-3. 例外ルート=FTAA(大規模地熱)

事項 内容
時期 2020年10月20日、Alfonso Cusi長官がOCSP3ガイドラインに署名
内容 大規模地熱の探査・開発・利用については外資100%を許容。ルートはFTAA(Financial and Technical Assistance Agreement/財務技術支援契約)で、大統領が署名する
「大規模」の定義 初期投資額 約5,000万米ドル以上
法的根拠 RA 9513が地熱を「鉱物資源(mineral resource)」と定義しており、憲法上、石油・鉱物・鉱油についてはFTAAが認められる、という構成。当時のNREB議長 Monalisa Dimalanta が説明
手続き 外資・内資を問わずOCSP(公開競争選定)で競争する必要がある
リスク 法律実務家(Pinsent Masons の John Yeap 等)は「将来の法的挑戦の可能性がないわけではない」と指摘。地熱=鉱物という整理は憲法解釈上の論点を残す

したがって外資の実務上の入り方は、①5,000万ドル超のFTAA案件として大統領承認ルート②比国側60%パートナーとの合弁、の二択になる。ChevronがPGPCで40%にとどまっていたのはこの制約による。

5-4. 2025〜2026年の目玉 ── 地熱探査デリスキング基金(PGRDF)

項目 内容
名称 Philippine Geothermal Resource De-Risking Facility(PGRDF)
規模 約107億ペソ/約1億7,000万米ドル(当初目標の1億ドルを上回った)
資金源 ADB(アジア開発銀行)からフィリピン政府へのソブリンローン
承認 Economy and Development Council が承認(2025年)
締結 2025年12月、Makatiでの2025 Sustainable Energy Awardsにて、Garin長官Landbank総裁 Ma. Lynette Ortiz がMOA署名
運用開始 2026年第1四半期から利用可能
仕組み 探査・掘削費用の少なくとも50%を政府が負担する「条件付き返済型グラント」。成功すれば貸付(返済)、失敗すればグラント(返済不要)
事務 Land Bank of the Philippines が Facility Administrator & Manager。マイルストーン方式で資金拠出
目的 ADBのGRDFは、2001年以来止まっていたグリーンフィールド地熱投資の再起動を狙う

このスキームの直接的な成果として、Amacan(EDC)とMt. Malinao(PGPC)でのグリーンフィールド掘削再開が挙げられている。

関連イベント第7回フィリピン国際地熱会議(7th Philippine International Geothermal Congress)、テーマ「Sharpening the Geothermal TIP: Technology, Investment, and Policy」、2026年9月2〜4日、バタンガス州リパ市開催予定。


## 6. 目標値 ── どこまで積むつもりか

目標 数値 出典・年
RE比率 2030年35%、2040年50%、2050年50%超 Philippine Energy Plan(PEP)2023-2050
地熱設備 2030年までに3,000MW(約15億ドルの投資が必要) DOE(2025〜2026年報道)
地熱追加 2040年までに2.5GWの新規地熱 PEP系(媒体経由)
総設備容量 2040年までに121.3GWが必要(現状約32.2GW=約276%増) DOE、Garin長官 SONA後会見、2026年8月11日(Manila Bulletin)
短期 10,000MWのパイプラインのうち4,100MWを完工予定 Garin長官、2026年8月上旬

一方で市場分析側は厳しい。「確認済み地熱埋蔵量はほぼ商業化済みで、未確認資源はよりアクセス困難な場所にある」ため、地熱の発電シェアは2030年に8%、2040年に4%へ低下するという見立てが示されている(ThinkGeoEnergy掲載市場概観)。3,000MW目標との落差は大きい。

知らないと間違える点⑧:2026年8月時点の系統運用でも、地熱は「安定電源」として頼られている一方で故障の影響も大きい。2026年8月にはCebu Private Power Unit 10の停止とLeyte-A地熱の出力低下がビサヤ系統のイエローアラート延長の要因になっている。


## 7. 地熱以外の「地下」の使い方

7-1. 地下水とメトロマニラの地盤沈下

指標 数値(年・出典)
最大沈下速度 年間109mm(約11cm)、ブラカン州(Guiguinto、Balagtas、Bulakan周辺の工業・住宅地)。Sentinel-1 InSAR、2014〜2020年。UPディリマン校(Jolly Joyce Sulapas、Audrei Anne Ybañez、Alfredo Mahar Francisco Lagmay ら、UPRI-NOAH)
CAMANAVA(カロオカン・マラボン・ナボタス・バレンズエラ) 年10〜20mm(地下水規制がある区域)
ブラカン州・カビテ州 年40mm以上(規制が及ばない区域)
沿岸部の局所最大 年2〜11cm、局所的に年10〜15cm(2014〜2020年)。実効的な相対海面上昇は一部で年約2.6cm以上(2025年、MDPI掲載研究)
比較:世界平均の海面上昇 年約3.7mm

つまりメトロマニラ周辺の「沈む速さ」は、地球温暖化による海面上昇の10〜30倍である。UPの研究者(Fernando Siringan、Carlo Arcilla)は「マニラが沈む主因は温暖化ではなく、家庭・商業用の地下水の過剰揚水である」と結論づけている。

規制の枠組み

事項 内容
根拠法 PD 1067(フィリピン水法典)
規制機関 NWRB(National Water Resources Board)、DENR・自治体と連携
主要措置 NWRB決議 001-0904(2004年)で深井戸新設のモラトリアム。当初はブラカン州(Guiguinto、Bocaue、Marilao、Meycauayan)、北カロオカン、ナボタス西、ケソン市、マカティ、マンダルヨン、パシッグ、パテロス、パラニャーケ、パサイ、ラスピニャス、ムンティンルパ、カビテ州ダスマリニャスなど8つの危機的地域の水利権を取消。後にメトロマニラ全域とリサール州の一部に拡大
現状(2025年) メトロマニラおよびブラカン・カビテ・リサール・ラグナの一部は「critical/over-extracted」に指定。既存許可は有効だが更新は厳格審査
執行実績 2008〜2013年に違法・放棄深井戸1,008本を閉鎖(NWRB)
例外 渇水・エルニーニョ時には、病院等の重要施設向けにNWRB監視下で閉鎖済み井戸の一時再開を認めた例あり

塩水侵入(saltwater intrusion)も深刻。マニラ湾沿岸の浅層および被圧帯上部では塩化物濃度が飲料水基準を超過。マリキナ谷では深度180m以深、パシッグ川・マリキナ川合流点から東では深度約50mで塩水に到達する。パシッグ川からの浸透も経路になっている。

知らないと間違える点⑨2022年の外資100%開放は「地下水」には及ばない。司法省は、河川・湖沼など内陸水は枯渇性資源であるため水法典の国籍要件が引き続き適用されると整理した(海洋・潮汐は対象外扱い)。「フィリピンの水ビジネスは外資100%可」と書くのは誤り。

7-2. CCS(二酸化炭素の地中貯留)── 検討段階にとどまる

事項 状況(2026年8月時点)
専用法 フィリピンには CCS/CCUS を規律する法律も、DOEの包括的なCCS規則も、確認できない(未確認=存在しない可能性が高い)
議会 第19議会で上院決議案第40号(Proposed Senate Resolution No. 40)=CCS技術に関する立法目的の調査要求。これが最も具体的な立法府の動き
地域比較 マレーシアは2025年3月にCCUS法案を上程し、CCUS庁の設置と陸上・海上貯留のライセンス制を提案。フィリピンは大きく後れている
貯留ポテンシャル ADB(2013年)の4地域研究(ベトナム、タイ、メトロマニラ、南スマトラ)で、4か国合計54 GtCO2の貯留資源量を推計。うち88%が塩水帯水層、炭化水素田は143鉱区で3.5 GtCO2にとどまる。ERIA(2024年)は「その基礎データが公開されず、2013年以降この地域の再評価が行われていない」と指摘
有力候補 マランパヤ(Malampaya)ガス田。2001年運開。「ルソンの電力の約40%」はピーク期の過去の値であり、2026年時点の寄与は約20%まで低下している(PCIJ 2026年1月/分野「石油・天然ガスと海底資源」2.2)。「2027年頃に商業的枯渇」もフェーズ4以前の見通しで、2026年のMAE-1(98 Bcf=原始埋蔵量)とカマゴ3(その約2.5倍)の成功により操業寿命は約6年延長される見込み(終期は2030年説・2034年説があり未確定/同2.3・2.5)。SC 38は2023年に更新され2039年2月まで採掘可。2025年6月19日に掘削船 Noble Viking が到着しフェーズ4開始。枯渇後の坑井・プラットフォームをCO2貯留に転用する構想は理屈としては成立するが、公式な計画としては未確認(2026-08-25 相互照合で修正。古い数字の残置を是正)
隣接する炭素政策 HB 11375(Low-Carbon Economy Investment Act)が2025年2月に第2読会通過も、第19議会が2025年6月30日に閉会し廃案。第20議会でHB 1817(2025年7月14日)ほか複数が再提出、下院気候変動委員会に付託。2025年10月中旬、DOEがエネルギー部門のカーボンクレジットに関する一般ガイドラインの通達を発出

知らないと間違える点⑩フィリピンで「CCSプロジェクトが進んでいる」と書くのは現時点では誤り。法制度・規制当局・許認可のいずれも未整備で、地域研究と議会の調査要求のレベルにある。マレーシア・インドネシアと同列に扱ってはいけない。

7-3. 低温地熱の直接利用

ThinkGeoEnergy等は、フィリピンには低温地熱資源(低〜中エンタルピー)が未活用のまま存在すると指摘している。乾燥・冷蔵・温浴等の直接利用や、バイナリー発電による小規模化が技術的には可能で、実際にPalayan Binary(29MW)、Tanawon(22MW)、Tiwi Binary(17MW)、Mahanagdong Binary(28MW)といったブライン余熱利用のバイナリー案件が2024〜2025年の増分の中心になっている。今後の伸びしろは「新規大規模フィールド」よりも「既存フィールドの最適化+バイナリー」にある、というのが2020年代の実像である。


## 8. まとめ ── 押さえるべき10点

  1. フィリピンは設備容量2,034MW(2025年末、ThinkGeoEnergy)で世界3位。1位米国3,953MW、2位インドネシア2,742MW。2018年にインドネシアに抜かれた。
  2. 電源構成に占める地熱は約8%(2025年4月〜2026年3月)。「17%」は2005年頃の古い数字で、業界団体サイトにも残っているため誤引用が多い。
  3. 「約4,000MW」は資源ポテンシャルであり確認埋蔵量ではない。確認済みはおおむね商業化済み、というのが厳しい現実。
  4. 地上(発電所)と地下(蒸気)が分離。Tiwi・Mak-Ban=Aboitiz(APRI)が発電、SM系PGPCが蒸気供給。Chevronは2010年代後半に撤退。
  5. EDC(First Gen/Lopez系)が国内地熱の約56%。Leyte、BacMan、Palinpinon、Mt. Apoを保有。
  6. 2022年の外資100%開放(DC 2022-11-0034)に地熱は含まれない。地熱は60%比国資本が原則で、外資100%は5,000万ドル超のFTAAという別ルートのみ(2020年OCSP3)。
  7. 保護区(E-NIPAS法 RA 11038、2018年)、先住民のFPIC(IPRA、1997年)、自治体調整、探査リスク(1坑600〜1,200万ドル)が停滞の4大要因。
  8. 2026年第1四半期から、ADB資金の1億7,000万ドル「地熱探査デリスキング基金(PGRDF)」が稼働。掘削費の50%以上を条件付き返済型グラントで負担。
  9. 2026年の実際の動きは、PGPCのMt. Malinao探査・南レイテ25MW落札(6月)EDCのAmacan商業性判断Maibararaの2026-27年掘削キャンペーン(9月開始)。地熱がオークションに戻るのはGEA-9(2027年)
  10. 地下の別問題として、メトロマニラ周辺の地盤沈下(ブラカン州で年最大109mm)が海面上昇の10〜30倍の速度で進行。CCSは法制度未整備で検討段階にとどまる。

同じ分野