金の制度・税制・BSP
フィリピンの金をめぐる論点は「地質」ではなく「制度」である。 誰が採掘権を持てるか(鉱業法)、政府がいくら取るか(財政制度)、産出した金をどこに売るか(BSP買取)── この3層がすべて別々の法律で動いており、しかも整合していない。 2025年9月、大規模金属鉱業の財政制度が30年ぶりに書き換えられた(RA 12253)。同時に金価格が史上最高値圏にある。この2つが重なったのが2025〜2026年である。
0. 注 最初に正す3つの誤り
このテーマは、日本語・英語を問わず誤情報が非常に多い。先に片付ける。
| よくある記述 | 実際 |
|---|---|
| 「鉱業財政制度改革法は RA 12022(2024年成立)」 | 注誤り。 RA 12022(2024年9月成立)は農業経済破壊行為防止法(Anti-Agricultural Economic Sabotage Act)で、米・豚肉・玉ねぎ等の密輸を経済破壊罪とする法律。鉱業とは無関係(上院立法参考局/最高裁E-Library)。鉱業財政制度はRA 12253(2025年9月4日署名)である |
| 「2021年のEO 130が露天掘り禁止を解除した」 | 注誤り。 EO 130(2021年4月14日)が解除したのはEO 79第4条の「新規鉱物協定モラトリアム」。露天掘り禁止(DAO 2017-10)を廃止したのはDAO 2021-40(2021年12月23日、シマツ環境天然資源相署名)。EO 130の施行規則 DAO 2021-25(2021年8月8日公布)は、当初案にあった DAO 2017-10 廃止条項を土壇場で削除している |
| 「フィリピンは世界第2位の金埋蔵国」 | 注裏が取れない。 出所は1980年代の鉱山地球科学局(MGB)の記述を2005年の上院政策文書が孫引きしたもので、年次も定義も不明。Rappler・FactRakers の事実検証はいずれも「誤り」判定。USGS の世界埋蔵量表にフィリピンは上位に入らない |
1. 用語の整理 ── 埋蔵量・資源量・賦存量は別物
この区別を飛ばすと、以下の議論はすべて意味を失う。
| 用語 | 英語 | 意味 | 数字が動く理由 |
|---|---|---|---|
| 賦存量 | endowment / mineralization | 地殻中に存在すると推定される総量。経済性も採掘可能性も問わない | 地質推定の更新 |
| 資源量 | mineral resources | 地質学的に確からしさが確認された量。採算性は保証されない。Inferred / Indicated / Measured の3段階 | ボーリング調査の進捗 |
| 埋蔵量 | ore reserves / mineral reserves | 資源量のうち、その時点の価格・コスト・許認可で採算が取れると証明された部分。Probable / Proved の2段階 | 金価格が上がると増え、下がると減る |
| (中央銀行の)準備金 | gold reserves(monetary gold) | 地中の話ではなく、中央銀行が金庫に持つ地金。上の3つと全く別概念 | 中銀の売買・価格 |
注 英語の "gold reserves" は「地中の埋蔵量」と「中銀の保有地金」の両方を指す。 「フィリピンの gold reserves は◯◯トン」という記事を読むとき、どちらの話かを必ず確認すること。前述の「世界第2位」神話は、まさにこの2つの取り違えで増殖してきた。
数字の「格付け」── どの基準か
| 基準 | 性格 | 特徴 |
|---|---|---|
| JORC(豪)/NI 43-101(加) | 上場企業に義務づけられた開示基準 | 有資格者(Competent Person / Qualified Person)が署名。監督当局が違反を処分できる。最も信頼度が高い |
| PMRC(Philippine Mineral Reporting Code) | フィリピン版。JORCに準拠 | 比証券取引所(PSE)上場鉱山会社に適用 |
| 政府推計(MGB/PSA) | 行政統計 | 後述のPSA「Class A/B/C」など。国連 UNFC-2009 準拠。JORC のような第三者検証はない |
| 業界・政治家の主張 | 根拠不明が多い | 「1.4兆ドルの未開発鉱物資源」「世界第2位」など。出典を追うと1980年代に行き着く |
フィリピン統計庁(PSA)の鉱物資産勘定 ── 政府公式の「埋蔵量」
PSA は国連 SEEA/UNFC-2009 に基づき、金・銅・ニッケル・クロム鉄鉱の資産勘定を毎年公表している。分類は3段階。
- Class A = 商業的に回収可能な資源(commercially recoverable)── 貨幣価値を付けるのはこれだけ
- Class B = 潜在的に商業回収可能
- Class C = 非商業的・その他の既知鉱床
| 指標(金) | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| Class A 埋蔵量(金属含有量) | 382,330 kg | 注当初発表 357,110 kg/改訂値 390,530 kg | 371,260 kg(改訂後2024年比 ▲4.9%) |
| Class A 埋蔵量の評価額 | 1,741.5億ペソ | 2,180.4億ペソ(改訂値。当初発表は4,814.5億ペソ系の別集計あり注) | 3,087.9億ペソ(+41.6%) |
| 年間採掘量 | 21,850 kg | 20,110 kg(▲8.0%) | 19,550 kg(▲2.7%) |
| 採掘分の評価額 | ─ | ─ | 162.6億ペソ(+45%) |
出典:PSA 環境経済勘定(2026年6月25日公表)/技術ノート
注 (2026-08-25 相互照合で修正) 本資料は従来2024年値を 357,110 kg とし、2025年を「▲5%」と記していたが、357,110 → 371,260 は ▲5% ではなく +4.0% であり、内部矛盾していた。 PSAは2024年値を翌年に 390,530 kg へ上方改訂しており、371,260 kg が ▲4.9% になるのは改訂値ベースの場合のみである。分野「金の埋蔵量と鉱床」3-2 は改訂値390.53千kgを採用し「▲4.9%」としており、そちらが整合する。当初値と改訂値は両方残すが、前年比を語るときは必ず改訂値で揃えること。 2023年の採掘量も「21,860 kg 前後」→ 21,850 kg(同3-2)に統一した(20,110 kg の▲8.0%と整合するのは21,850)。
この表がこの資料の核心である。数量は3年連続で減っているのに、金額は41〜45%増えている。増えたのは金ではなく金価格である。 金属鉱物全体の埋蔵量評価額も2025年に17%増の約5,900億ペソとなったが、これも同じ理由による。
注 「フィリピンの金の埋蔵価値が急増」という見出しを見たら、まず数量が増えたのか価格が上がったのかを分けて読むこと。2025年は完全に後者である。
2. 鉱業法(RA 7942)の枠組み
2-1. 憲法が決めている大枠
1987年憲法第12条第2項が出発点である。
- 鉱物資源は国家所有。探査・開発・利用は国家の完全な管理・監督の下で行う。
- 国家は、フィリピン国民または資本の60%以上をフィリピン人が保有する法人と、共同生産・合弁・生産分与契約を結べる。
- 例外として、大規模な探査・開発・利用については、大統領が外国資本の法人と「金融または技術支援に関する契約」を結べる。
この「例外」を具体化したのが、1995年3月にラモス大統領が署名したフィリピン鉱業法(Philippine Mining Act of 1995, RA 7942)である。
2-2. MPSA と FTAA の違い(最重要)
| 項目 | MPSA(鉱物生産分与契約) | FTAA(金融技術支援契約) |
|---|---|---|
| 正式名 | Mineral Production Sharing Agreement(第26〜28条) | Financial or Technical Assistance Agreement(第33条) |
| 外資比率 | フィリピン資本60%以上が必須(外資は40%まで) | 100%外資が可能 |
| 想定規模 | 通常規模 | 大規模操業 |
| 最低資本金 | 250万ペソ | 400万米ドル(注分野「金と投資・日本企業」第4章は「授権資本1,000万ドル」とし食い違う=未確認。2026-08-25 相互照合で併記) |
| 最低投資額 | ── | 5,000万米ドル(インフラ・開発への投資コミットメント)。注根拠条文の訂正:これは RA 7942 第34条ではない。 RA 7942 第34条は「Maximum Contract Area(最大契約面積:陸域1,000メリディオナル・ブロック、海域4,000ブロック)」であり、RA 7942 の本文には米ドル建ての金額規定が一切存在しない(2026-08-25 に lawphil 掲載の全文で確認)。5,000万ドル・400万ドルはいずれも施行規則(DENR AO 96-40 → 現行 DAO 2010-21)由来とみられる。条番号を引用する場合は施行規則の該当条を確認すること(原典未確認)(2026-08-25 相互照合で追記・修正) |
| 承認権者 | 環境天然資源相(DENR長官) | 大統領の承認が必要 |
| 申請窓口 | MGB地方事務所 | MGB中央事務所 |
| 期間 | 25年(さらに25年まで更新可) | 同左 |
| 政府取り分 | 各種税・手数料・ロイヤルティ | 上記+追加政府取り分(Additional Government Share, AGS) |
このほか探査許可(Exploration Permit, 第26条)があり、探査結果に応じて MPSA または FTAA に転換する。
注 「フィリピンの鉱業は外資40%まで」は不正確。 FTAA なら100%外資が可能で、これは憲法自身が置いた例外である。実務上 MPSA が多いのは、①最低資本金が低い、②大統領承認が不要で手続きが速い、という理由による。つまり外資規制の実態は「法律上の壁」より「手続コスト」で決まっている。
FTAA の合憲性は、La Bugal-B'laan Tribal Association v. Ramos(G.R. No. 127882)で争われた。最高裁は2004年1月に一度は違憲としたが、同年12月の再審理で合憲と判断を覆した。この逆転がフィリピン鉱業の外資受け入れの法的土台になっている。
FTAA の代表例が、オセアナゴールド(OceanaGold)のディディピオ鉱山(Didipio Mine)である。ヌエバ・ビスカヤ州とキリノ州にまたがる金・銅鉱山で、2019年のFTAA期限切れ後に州知事がバリケードを設置して2年間停止。2021年7月14日に2019年6月19日に遡って25年間(=2044年まで)更新された。更新時の修正条件は、①総収入の1.5%を地域開発に追加拠出、②ネットスメルターリターン(NSR)を控除可能項目とし政府60%/企業40%で配分、③3年以内に OceanaGold Philippines 株の10%以上をPSEに上場、である。
2-3. その他の法的レイヤー
| 法令 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| RA 8371(先住民権利法・IPRA, 1997) | 祖先伝来地に及ぶ事業はFPIC(自由意思による事前の情報に基づく同意)が必須 | 鉱区の多くが先住民地域と重なる。FPIC取得が最大のボトルネック |
| RA 7076(人民小規模鉱業法, 1991) | 小規模鉱業を Minahang Bayan(人民の鉱山)区域に限定 | 後述 |
| PD 1586 / ECC | 環境適合証明書(ECC)の取得義務 | 着工前提条件 |
| 地方自治法 | LGU の同意・条例 | 南コタバト州の露天掘り禁止条例がタンパカン鉱山を止めてきた |
3. 禁止と解除の年表 ── 2012年から2026年まで
1995年 3月 鉱業法(RA 7942)成立。MPSA / FTAA の枠組み確立
2004年12月 最高裁が再審理で FTAA を合憲と判断(La Bugal-B'laan)
2012年 7月 6日 アキノ大統領が大統領令79号(EO 79)に署名(公表は7月9日)
・第4条:「歳入配分を合理化する新法が施行されるまで、
新規の鉱物協定を締結しない」= 実質モラトリアム
・探査許可の発給は継続(新法成立後の第一優先開発権を付与)
・観光地78カ所・優良農地・海洋保護区などを「no-go zone」に追加
・小規模鉱業を Minahang Bayan に限定、水銀使用を禁止
・鉱業産業調整評議会(MICC)を創設
注 結局、想定された「新歳入配分法」は9年間成立しなかった
2017年 4月 ロペス環境相がDAO 2017-10 に署名 = 全国の露天掘りを禁止
理由:「露天掘り鉱山は永久的な負債として残る」
影響:タンパカン銅金鉱山、キンキン銅金鉱山などが停止
2017年 5月 ロペス環境相、任命委員会(CA)で承認されず退任
2021年 4月14日 ドゥテルテ大統領がEO 130 に署名
→ EO 79 第4条を改正し、9年間のモラトリアムを解除
注露天掘り禁止には触れていない
2021年 8月 8日 EO 130 の施行規則 DAO 2021-25 公布
注 草案第11条にあった DAO 2017-10 廃止条項は削除された
2021年12月23日 シマツ環境相がDAO 2021-40 に署名
→ 露天掘り禁止(DAO 2017-10)を正式に廃止
対象:銅・金・銀・複合鉱
理由:「悪影響を回避・管理する最良の管理手法と技術が存在する」
2025年 9月 4日 マルコス大統領がRA 12253(大規模金属鉱業強化財政制度法)に署名
→ EO 79 が9年間待ち続けた「新歳入配分法」がついに成立
2025年12月18日 財務省(DOF)が RA 12253 の施行規則(IRR)を発出
2025年12月20日 IRR 公布・発効
2026年 2月17日 大規模鉱業事業者への適用開始(発効から150日)
2026年 8月21日 マルコス大統領がEO 122 に署名
→ 重要鉱物(critical minerals)の国家政策枠組みを設定、MICC を再編
DENR と DOF の共同議長制、許認可の合理化、国内加工・高付加価値化を推進
4. 鉱業財政制度改革(RA 12253)── 2025年の大転換
4-1. 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名 | Enhanced Fiscal Regime for Large-Scale Metallic Mining Act(大規模金属鉱業強化財政制度法) |
| 共和国法番号 | RA 12253(注 RA 12022 ではない) |
| 署名 | 2025年9月4日、マルコス大統領(官報掲載9月5日) |
| 前身法案 | 上院法案2826号/下院法案8937号 |
| IRR | 2025年12月18日発出、12月20日公布・発効 |
| 事業者への適用開始 | 2026年2月17日(発効から150日の経過措置) |
| 対象 | 大規模金属鉱業(小規模鉱業・非金属は対象外) |
| DOF 歳入見込み | 2026〜2029年で追加250.8億ペソ(年平均約62.6億ペソ) |
4-2. ロイヤルティ ── 鉱物保留地の内か外かで全く違う
| 立地 | 課税ベース | 税率 |
|---|---|---|
| 鉱物保留地の内側(mineral reservations) | 総産出額(gross output) | 一律5%(RA 7942 から不変。収益性に関係なく課される) |
| 鉱物保留地の外側 | 鉱業所得(margin ベース) | 新設の5段階累進(1〜5%) |
保留地外の5段階マージン別ロイヤルティ(マージン=鉱業所得÷総産出額)
| マージン | ロイヤルティ率 |
|---|---|
| 0〜15% | 1.0% |
| 15%超〜30% | 2.0% |
| 30%超〜45% | 3.0% |
| 45%超〜60% | 4.0% |
| 60%超 | 5.0% |
マージンがゼロまたはマイナスの場合は、総産出額の0.1%(1%の10分の1)を最低ロイヤルティとして課す。
注 この「最低0.1%」を「0.01%」と書く記事がある(グラント・ソントン比の解説など)。法文は「one-tenth (1/10) of one percent」=0.1% である。
4-3. 超過利潤税(Windfall Profits Tax)── 金価格高騰を狙い撃つ仕組み
金属鉱業からの純所得に対し、マージンが30%以上のときに追加で課される。5段階。
| マージン | 超過利潤税率 |
|---|---|
| 30%〜40% | 1% |
| 40%超〜55% | 3% |
| 55%超〜65% | 5% |
| 65%超〜75% | 7% |
| 75%超 | 10% |
この税は課税所得から控除できない(法文明記)。超過利潤の計算では選択的標準控除(OSD)は使えないが、法人所得税とロイヤルティ支払は純所得算定上控除できる。
制度趣旨は明確で、商品価格が急騰した局面で政府が「棚ぼた」を取りに行くためのものである。金が2025〜2026年に史上最高値を更新している以上、金鉱山は真っ先にこの網にかかる。
4-4. 租税回避対策 ── リングフェンシングと過少資本規制
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| リングフェンシング(ring-fencing) | 各鉱業プロジェクトを別個の課税単位として扱う。A鉱山の損失をB鉱山の利益と相殺できない。同一協定下に複数事業者がいる場合も個別課税。各プロジェクトを BIR に別々の支店TIN で登録させる |
| 過少資本規制(thin capitalization) | 関連者借入について負債資本比率2:1の上限。これを超える部分の支払利息は損金不算入 |
| 売買・輸出の監査権 | BIR と関税局(BOC)が鉱物・鉱産物・原鉱のすべての販売および輸出を税務目的で検査・監査できる(第151-D条) |
| 透明性義務 | データの公開義務、マルチステークホルダー機構の設置 |
4-5. 適用される税の全体像
| 税目 | 税率 | 備考 |
|---|---|---|
| 法人所得税(CIT) | 25% | CREATE 法後の標準税率 |
| 物品税(excise tax) | 4% | 2018年の TRAIN 法(RA 10963)で2%→4%に倍増。収益性と無関係に総産出額に課税 |
| ロイヤルティ | 保留地内5%/外1〜5%(最低0.1%) | 上記 |
| 超過利潤税 | 1〜10% | 上記 |
| 先住民ロイヤルティ | 最低1% | IPRA に基づく |
| 地方事業税(LBT) | 0.5% | RA 12253 で明確化 |
| 源泉税 各種 | ─ | ─ |
歳入配分:ロイヤルティ・物品税等の総徴収額の40%を受入LGUに交付(国による留保・差押えなしで直ちに交付)。ロイヤルティの最低10%を MGB と金属産業研究開発センター(MIRDC)の探査・試験所・能力構築に充てる。
納付実務:ロイヤルティは四半期ごとに、各暦四半期末から60日以内に BIR へ申告・納付。四半期ロイヤルティ相当額の保証金(bond)を差し入れ、過不足は年次で精算する。
注 既存の MPSA / FTAA との関係:RA 12253 は既存協定について法的安定性を与えるとされるが、注FTAA の「追加政府取り分(AGS)」と新ロイヤルティ・超過利潤税の重複調整の細部は、BIR の追加通達待ちの部分が残る(2026年8月時点)。新設税の申告書式や守秘義務免除条項の範囲についても、なお BIR ガイダンスが予定されている。
5. BSP(フィリピン中央銀行)の金買取制度
5-1. 制度の骨格
BSP は、フィリピンで鉱山から金を買い取り輸出できる唯一の機関である。根拠は RA 7076(人民小規模鉱業法, 1991)ほか。買い取った金は BSP 自身の製錬所で精錬し、国際地金市場で通用する形にする。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買取拠点(Gold Buying Station, GBS) | 5カ所:①ケソン市(BSPセキュリティ・プラント・コンプレックス/製錬所併設)、②北ルソン地方事務所(バギオ市/コルディリェラ)、③南ルソン地方事務所(ナガ市/ビコル)、④ミンダナオ地方事務所(ダバオ市)、⑤サンボアンガ市。注本資料は従来⑤を「ブトゥアン支店(カラガ)」としていたが、クラスタ内3資料(「金の埋蔵量と鉱床」9章/「主要金鉱山と生産」2章/「金と投資・日本企業」12章)はいずれも5カ所目をサンボアンガ市とする。多数値としてサンボアンガを採用しつつ、ブトゥアン(カラガ)説も消さずに併記する=BSP公式サイトでの原典確認が必要(未確認)(2026-08-25 相互照合) |
| 営業時間 | 平日 9:00〜14:00 |
| 価格決定 | LBMA(ロンドン地金市場協会)の国際金買値 × BSP の当日ペソ・ドル買相場でペソ建て支払 |
| 買取形態 | バーまたはディスクのみ(粉末・宝飾品は不可) |
| サイズ上限 | バー 18×8×6cm/ディスク 直径10×厚5cm |
| 重量上限 | 1個5kg、1ロット12.5kg |
| 最低純度 | 金品位30%以上(低品位でも受け入れる設計) |
| 品質条件 | 水銀フリー、異物混入なし |
| 購入枠 | 数量目標なし。持ち込まれた金はすべて買う |
| 支払 | 初期分析後に99%を先払い、火法分析(fire assay)確定後に精算 |
BSP の製錬所は1977年に操業を開始し、1979年9月に LBMA の Good Delivery(グッド・デリバリー)認定を取得。世界で唯一、LBMA 認定製錬所を自ら運営する中央銀行である。BSP は「責任ある金調達方針(Responsible Gold Sourcing Policy)」を定め、LBMA の責任ある金ガイダンスに準拠する管理体制を敷いている(2024年6月3〜5日にはバタンガスで ASGM に関する世界フォーラムが開催され、LBMA の ASGM ツールキットが公開された)。
5-2. RA 11256(2019年)── 税を外して密輸を取り戻す試み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名 | An Act to Strengthen the Country's Gross International Reserves (GIR)(内国歳入法第32条・第151条の改正) |
| 共和国法番号 | RA 11256 |
| 署名 | 2019年3月29日、ドゥテルテ大統領 |
| BIR 通達 | RMC No. 61-2019(2019年6月11日)/歳入規則 RR No. 4-2020(2020年2月18日)が実施細則 |
内容
- 総所得からの除外(第32条改正):①登録済み小規模鉱夫(RA 7076 上の定義)および認定トレーダーによる BSP への金の売却、②小規模鉱夫から認定トレーダーへの売却(最終的に BSP へ売られるもの)── の所得を非課税とする。
- 物品税免除(第151条改正):BSP に売却される(または最終的に売却される)金を物品税免除とする。売却前に物品税を納付済みの者は BIR に還付・税額控除を請求できる。
- 第4条:金の出所の推定 ── 認定トレーダーが BSP に売却した金は、小規模鉱夫から購入したものと推定される(立証負担の転換)。
- 認定は BSP が発行する証明書に基づく(有効期間3年)。要件は納税者番号(TIN)、有効な小規模鉱業契約など。
立法理由(法案趣旨説明)
注 ここがこの制度の核心である。
2010年 BSP の国内金購入 = 90万トロイオンス超
(一部資料では 28.56 トン)
2011年7月 BIR が金売却への課税(物品税2% + 源泉税5% = 計7%)の
徴収を本格化(歳入規則 RR 7-2008 が根拠)
2018年 BSP の購入量 = 0.33 トン
2019年 BSP の購入量 = 10,207 トロイオンス
= 2010年比 ▲99%
─── なぜか。ブラックマーケットの方が高く買うからである。────
2019年3月 RA 11256 成立(税を外す)
2020年 BSP の購入量 = 115,800 トロイオンス(約3,601.78 kg)
= 前年比 約11倍(BSPは「約1,000%増」と表現)
出典:BSP 造幣・製錬事業部(MROD)ダビド部長発言、GMA News/Inquirer/PNA/Philstar 各報道、RA 11256 立法趣旨。
教訓は明確である。7%の税が、国の金の9割以上を地下経済に押し出した。税を外した途端、1年で11倍戻った。 これはフィリピンの租税政策史のなかで最も因果関係がはっきりした事例のひとつである。
注 ただし「解決した」わけではない。 2020年の115,800トロイオンスは、2010年の90万トロイオンス超に比べればなお1割強にすぎない。
5-3. 注 制度が今も抱える摩擦
RA 11256 後も、バギオ(コルディリェラ)の小規模鉱夫の多くがブラックマーケットを選び続けていることが報じられている。理由は税ではなく手続コストである。
| 摩擦 | 内容 |
|---|---|
| 火法分析(fire assay)に時間がかかる | 初期分析は数分だが、純度を確定する火法分析は約13日。地方事務所に持ち込まれた金はケソン市に送られる |
| 手数料 | 加工費 約1,600ペソ、リテンション料1% ほか |
| 距離 | 買取拠点が5カ所しかない。鉱山から遠い |
| 書類 | 有効な小規模鉱業契約(SSMC)が必要 → 契約を持たない鉱夫は制度に入れない(後述) |
| ブラックマーケットの即金性 | 現場で即現金。書類不要 |
BSP はこれに対し、①小規模鉱夫向けレートの改善、②手数料の圧縮、③分析・支払のスピードアップを金融政策委員会(Monetary Board)に諮り、④認定トレーダー制度の拡充、⑤質屋(pawnshop)を小規模買取拠点として活用する構想、⑥大規模鉱山からの直接調達(2022年5月に OceanaGold Philippines と購入契約を締結)── といった手を打ってきた。
6. 小規模金鉱業(ASGM)── 制度の外にいる50万人
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 小規模金鉱夫の数 | 約50万人 | planetGOLD |
| 展開する州 | 30〜40州以上(全82州のうち)(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載「全81州」。フィリピンの州数は2022年9月17日のマギンダナオ分割以降82州。planetGOLD等の原文が「81 provinces」とする場合は分割前の値なので引用時に年次を添えること) | planetGOLD/NCSSMPI |
| 生計を支える人数 | さらに約200万人 | planetGOLD |
| 全国産金量に占める比率 | 約70〜75% | planetGOLD/NCSSMPI |
| Minahang Bayan 指定区域数 | 注集計により53カ所と63カ所が併存する。 ①63カ所=MGB「Minerals Industry at a Glance」(2025年3月14日時点/金50・クロマイト11・マグネサイト1・シリカ石英1)── 政府の公式集計。②53カ所(2025年7月時点、法務系・報道集計)── 地域内訳はルソン13、ビサヤ3、ミンダナオ27、コルディリェラ11とされるが合計は54となり内訳と総数が合わない。引用時は必ず出所と時点を明示すること(2026-08-25 相互照合で修正・併記。出典:分野「金の埋蔵量と鉱床」9章/「主要金鉱山と生産」2章/「小規模金採掘と水銀問題」3章) | MGB/各種報道 |
RA 7076 の当初構想は「全国1,637の市町村それぞれに Minahang Bayan」だった。34年経って53〜63カ所である。(2026-08-25 相互照合で修正。集計により53/63が併存するため範囲表記に改めた) これが「フィリピンの金の大半が統計に乗らない」最大の構造的理由である。
RA 7076 の制約と、2025〜2026年の改革論議
| 現行 RA 7076 の制約 | 現場の不満 |
|---|---|
| 年間産出5万トン、契約面積20haまで | 実態に合わない |
| 手作業と簡素な道具に限定。近代的機械は禁止 | 安全性・効率が上がらない |
| 採掘対象は金に限定 | 他鉱種は違法になる |
| 申請要件が大規模鉱業とほぼ同等 | 資力のない鉱夫には不可能 |
| Minahang Bayan の宣言手続が煩雑 | 結果、大半が非合法のまま操業 |
2025年11月、TUCP 政党リストが下院法案5840号「Minahang Bayan 法(Minahang Bayan Act)」を提出。 申請・許認可の簡素化、地方鉱業規制委員会への権限付与、水銀等の有害手法の禁止を柱とする。別途、下院法案9311号(エリック・ヤップ議員)も RA 7076 第4条・第8条を改正する内容で提出されている。2026年4月26〜28日、マウンテン州サガダで開催された全国小規模鉱夫連合(NCSSMPI)第7回全国大会には59団体・200名超が参加し、HB 5840 の成立を求める運動を強化することを決議した(BusinessMirror 2026年4月29日、Pressenza/BAN Toxics 報道)。
2026年8月 ── DAO 2026-08「暫定小規模鉱業契約」
DENR は2026年8月、行政命令 DAO 2026-08 を発出し、暫定小規模鉱業契約(Interim Small-Scale Mining Contract, ISSMC)の制度を新設した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 宣言済み Minahang Bayan 区域内での小規模鉱業の正規化(formalization) |
| 資格 | フィリピン国民、宣言済み Minahang Bayan 区域内 |
| 期間 | 2年(更新・延長なし)。この間に本契約の要件を整える。申請受付も発効から2年以内 |
| 申請 | 様式 SSM-01、申請料10,000ペソ |
| 金の売却先 | 回収した金は BSP にのみ売却しなければならない。州・市の鉱業規制委員会(P/CMRB)が BSP または認定トレーダーへの売却を監視 |
| 禁止事項 | 水銀の使用を全工程で禁止、18歳未満の就労禁止 |
| その他 | 環境基金・社会基金を政府指定銀行に預託。区域外の選鉱は別途 Mineral Processing License が必要 |
早期の適用例として、DENR-MGB コルディリェラがベンゲット州イトゴン(Itogon)の56haロアカン Minahang Bayan で3団体に ISSMC を交付した(Antamok Loacan Northwall Miners Association、Shianwart Gold Trading、Banggawan Gold Ore Miners Association)。
注目すべきは「金は BSP にのみ売却」を契約条件として明文化した点である。 従来は法律上そうであっても契約上の担保が弱かった。これは制度側が密輸ルートを契約で塞ぎにいった動きと読める。
7. 金の密輸 ── 統計と実態の乖離
7-1. 乖離の証拠
注 フィリピンの金統計を扱うとき、「公式統計は実態の一部しか捉えていない」を前提に置かないと必ず誤読する。
| 指摘 | 内容 | 出典・年 |
|---|---|---|
| 香港との鏡像統計の食い違い | 2010〜2011年、比が申告した対香港・金輸出は、香港側が記録した輸入量の約3%にすぎなかった。香港側の数字は比側の約30倍 | 各種分析/貿易統計 |
| UN Comtrade を用いた推計 | 2005〜2015年に採掘された金の79%が香港へ密輸。金額で約42億ドル(約2,000億ペソ) | Manila Times 2017年2月22日 |
| BSP 幹部の発言 | 「金取引の最大95%がブラックマーケットに移った」/「BSP には密輸を止める警察権限も資源もない」 | Inquirer Business/MINING.COM |
| 調査報道の推計 | 小規模鉱業産の金の最大90%が密輸。主な仕向地は中国。2005〜2010年、香港の金輸入の最大供給元がフィリピン | Global Initiative/planetGOLD |
| 関税局に記録がない | 鉱物輸出の記録が BOC に欠落しており、実績を正確に測れない | PIDS/各種分析 |
構造的な抜け穴:香港の税関は、業務・商取引としての金の搬入には登録を求めるが、旅客が身につけて持ち込む金には報告義務を課していない。フィリピンからは香港への直行便を持つ国際空港が複数あり、さらに1,000超の海港が抜け道になる。
7-2. 2025〜2026年の状況
| 動き | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 金輸出額の急増 | 2025年6月、比の総輸出が前年同月比26.1%増の70億ドル。金の輸出が130.9%増と牽引 | PSA/Trading Economics |
| 2026年1月 | 総輸出71億ドル(+7.9%)。金の輸出が263%増 | PSA |
| 2026年3月 | 総輸出81.7億ドル(+20.4%)。金が前年同月比 +1億5,688万ドルで寄与額3位 | PSA |
| 2026年上半期 | 商品輸出が13%増の467.2億ドル、1991年の統計開始以来の上半期最高 | PSA |
| DENR の対応 | DENR は DOLE・中央銀行と連携し、「正規ルートで売れば適正な支払と訴追からの保護を保証する」として小規模鉱夫を制度内に呼び込む方針を表明 | DENR/PNA |
| 摘発 | 2026年4月9〜10日、スリガオ・デル・スル州カンティランのカラカン川で違法採掘を摘発。中国人9名とフィリピン人1名を逮捕、重機・金鉱石など約5,050万ペソ相当を押収。6月27日にはバロボ町でも3名逮捕(MGBとの合同作戦) | PIA/PNA |
| 国家警察の動員 | PNP が全国の地方本部長に対し、DENR との違法伐採・違法採掘取締り連携強化を指示 | PNA |
注 「輸出統計上の金が急増した」ことを「密輸が減って正規化が進んだ」と読むのは危険である。 金額の増加は主に価格上昇によるもので、数量ベースでは PSA の資産勘定が示すとおり採掘量は2023→2025年で減少している。金額と数量を必ず分けて読むこと。
注 さらに、注2025〜2026年のフィリピンにおける金の密輸量そのものの新しい定量推計は、確認できていない(未確認)。 引用される「79%」「90%」「95%」はいずれも2012〜2017年の推計であり、現時点の数値ではない。現在の比率を断定的に書いてはならない。
8. 外貨準備における金 ── 2025〜2026年
8-1. 数字
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 金保有量(トン) | 131.88 t → 133.12 t | 2025年第4四半期/CEIC・Trading Economics |
| 金保有量(トン) | 133.51 t | 2026年第1四半期 |
| 金の評価額 | 185.8億ドル | 2025年末/BSP |
| 金の評価額 | 206.7億ドル | 2026年1月/BSP |
| 金の評価額 | 230.57億ドル(過去最高) | 2026年2月/CEIC |
| 金の評価額 | 194.80億ドル | 2026年5月/CEIC |
| 総外貨準備(GIR) | 1,108億ドル | 2025年12月末/BSP |
| GIR | 1,125.1億ドル | 2026年1月/BSP(過去最高は2024年9月の1,127.1億ドル) |
| GIR | 1,047億ドル → 1,033億ドル | 2026年6月末→7月末/BSP(18カ月ぶり低水準) |
| GIR に占める金の比率 | 約16.8%(2025年末)→ 約18.4%(2026年1月) | 上記から算出。BSP が直接公表する比率ではない |
| 世界順位 | 約134トンでIMF/WGC 集計38カ国中29位、世界の中銀保有金の約0.4% | 2026年5月時点/World Gold Council |
2026年7月の GIR 減少は、BSP の外国為替オペ、政府の対外債務返済のための外貨引出し、外貨建て資産の評価減が主因で、金の評価益と対外投資収益がその落ち込みを緩和したと BSP は説明している。
注 データの読み方の注意 - 注 World Gold Council の国別ランキングは IMF IFS を出所とし、2カ月遅れである。「2026年のランキング」と称するものの中身は2025年12月時点であることが多い。 - 注 トン数はほとんど動いていないのに、ドル建て評価額は激しく動く。 2026年2月の230.57億ドルから5月の194.80億ドルへの減少は、売却ではなく金価格の下落による。 - 注 「GIRに占める金の比率」は BSP が定期公表する指標ではない。 報道の数字は多くが算出値である。
8-2. BSPの内部論争 ── 「もう売るべきではないか」
2025年10月28日、クアラルンプールのブルームバーグ ASEAN ビジネスサミットで、金融政策委員会(Monetary Board)委員で前BSP総裁のベンジャミン・ディオクノ(Benjamin Diokno) が次のように述べた(Bloomberg/Gulf News)。
- 「我々の金保有はすでに過剰だ(Our holdings of gold are already excessive)」
- 「もう売るべきではないのか(Shouldn't you sell already?)」
- 金は GIR の約13%を占め、これは域内の他の中銀より高い。理想は8〜12%。
- BSP の取得価格は1オンス約2,000ドル。 当時の史上最高値は約4,400ドル、その時点は約4,000ドルで推移。
ゲームチェンジャーはここである。BSP は取得原価の2〜2.5倍の含み益を抱えている。 「積み増すか、利益確定するか」は2026年8月時点でも BSP 内部で決着していない。レモロナ(Eli Remolana)総裁は「金は単体では平均リターンがマイナスの悪い投資だが、分散ポートフォリオの中ではヘッジとして価値がある」との立場を示してきた。
注 ディオクノの「13%」(2025年9月時点、GIR約1,090億ドル)と、2026年1月の算出値「約18.4%」には開きがある。時点と算出方法が違うので、単純比較しないこと。
注 2024年には BSP が「アクティブ運用戦略」の一環で相当量の金を売却したと報じられている(Gulf News 2025年8月19日)。BSP は買うだけでなく売る。 「中央銀行が国内産金を買い集めている」という単純な図式は正確ではない。
9. 2025〜2026年の金価格高騰が制度に与えた影響
9-1. 価格の動き
| 時点 | 金価格(USD/トロイオンス) | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年平均 | 2,383.69ドル(前年比 +22.7%) | MGB |
| 2025年秋 | 約4,400ドル(当時の史上最高値) | Bloomberg/Gulf News |
| 2026年1月 | 約5,600ドル(史上最高値) | GoldRepublic |
| 2026年第2四半期 | 四半期で約16%下落 | 各種市況 |
| 2026年8月20日 | 4,472ドル | Fortune |
| 2026年8月21日 | 4,587ドル | Fortune |
| 2026年8月24日 | 4,645.74ドル(前日比 +0.83%、前年同月比 +37.98%) | Trading Economics |
2025年には53回の史上最高値更新があり、金需要総額は初めて5,000トンを超え、金額ベースで5,550億ドル(前年比+45%)の記録となった(World Gold Council)。世界の中銀の買い越しは2024年1,045トン、2025年863トンである。
9-2. 価格高騰が各チャンネルに与えた影響(整理)
| チャンネル | 影響 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①生産統計 | 数量は減り、金額は増える。2025年1〜9月の金の生産量は21,651kg→20,500kg(▲5.3%)だが、金額は1,174.21億ペソ(+28.9%)。金属鉱物全体は2,197.42億ペソ(+14.8%) | MGB |
| ②金がニッケルを抜く | 2024年に金がニッケルを抜いて最大の生産品目に。 2024年の金の生産額は1,263.6億ペソ。以後この構図が続く | MGB |
| ③埋蔵量の評価額 | Class A 金埋蔵量の評価額が2025年に+41%超(2,180.4億→3,087.9億ペソ)。数量は▲5% | PSA |
| ④財政(RA 12253) | 超過利潤税は価格高騰局面を狙って設計された。 マージン75%超で10%。金鉱山は真っ先に該当しうる。適用開始は2026年2月17日で、まだ通年の実績が出ていない(未確認) | RA 12253 |
| ⑤延命する老朽鉱山 | フィレックス(Philex)のパドカル(Padcal)鉱山は操業68年目、金の鉱石品位が17%低下・銅が7%低下しているが、価格高騰が採算を支え2026年も操業継続。CLSA は2028年の閉山を見込む | Philstar/InsiderPH |
| ⑥新規プロジェクト | フィレックスのシランガン(Silangan、スリガオ・デル・ノルテ)は2026年第1四半期の商業生産開始を目指したが第4四半期完工へ後ろ倒し。タンパカン(Tampakan、南コタバト)は2026年→2028年に後退。注価格が高くても許認可・地方政治のボトルネックは解けない | InsiderPH/Chambers |
| ⑦密輸のインセンティブ | 価格が上がるほど、税を回避して密輸する利得も比例して増える。 DENR は「金価格が高く小規模鉱業区域が増えているのに BSP の買取が減るなら、それはブラックマーケットに流れている証拠だ」と過去に明言している | DENR |
| ⑧BSP の含み益 | 取得価格約2,000ドルに対し4,600ドル台。利益確定論が浮上(前掲ディオクノ発言) | Bloomberg |
| ⑨違法採掘の増加 | 2026年に DENR・PNP・MGB の合同摘発が相次ぐ(カラガ地方、スリガオ・デル・スル)。中国人の関与も摘発されている | PIA/PNA |
注 ④について:RA 12253 の超過利潤税が実際にいくら徴収されたかは、2026年8月時点で公表されていない(未確認)。DOF の見込みは2026〜2029年で250.8億ペソだが、これは金価格が現行水準を維持する前提かどうかも明示されていない。断定を避けること。
10. 実務者のための要点整理
| 問い | 答え |
|---|---|
| 外資100%で金鉱山を持てるか | FTAA なら可能。ただし最低投資額5,000万ドル・大統領承認が必要。注根拠は RA 7942 第34条ではなく施行規則(DAO 96-40/2010-21)(RA 7942 本文に米ドル金額規定はない=2026-08-25 に原文で確認)。資本要件は400万ドル(本資料)/1,000万ドル(分野「金と投資・日本企業」)と資料間で不一致注。MPSA は外資40%まで(2026-08-25 相互照合で修正) |
| 露天掘りはできるか | できる(DAO 2021-40、2021年12月23日以降)。注ただし LGU の条例で禁止されている州がある(南コタバト州=タンパカン) |
| 新規の鉱物協定は結べるか | 結べる(EO 130、2021年4月14日以降)。2012〜2021年のモラトリアムは解除済み |
| 大規模金属鉱山の税負担は | CIT 25% + 物品税4% + ロイヤルティ(保留地内5%/外1〜5%)+ 超過利潤税0〜10% + 先住民ロイヤルティ1%以上 + 地方事業税0.5% |
| プロジェクト間で損益通算できるか | できない(リングフェンシング)。各プロジェクトを別TINで BIR 登録 |
| 関連会社借入は | 負債資本比率2:1 を超える部分の支払利息は損金不算入 |
| 産出した金はどこに売るか | 法律上は BSP。 小規模鉱業は DAO 2026-08 で契約上も BSP 売却が義務。RA 11256 により所得税・物品税は免除 |
| BSP はいくらで買うか | LBMA 国際買値 × BSP 当日ペソ・ドル相場。初期分析後99%先払い |
| 「世界第2位の金埋蔵国」は | 注根拠不明。1980年代の記述の孫引き。事実検証機関は誤りと判定 |
| 統計をどこまで信じるか | 注産金量の70〜75%は小規模鉱業由来で、その大半が統計に乗らない可能性がある。BOC に鉱物輸出の記録が欠落している |
11. これから見るべき論点(2026年8月時点)
- RA 12253 の初年度実績 ── 2026年2月17日適用開始。最初の四半期ロイヤルティ申告(各四半期末+60日)と超過利潤税の実際の徴収額が、DOF の250.8億ペソ見込みに届くか。BIR の追加通達(申告書式・守秘義務免除の範囲)も未発出部分あり。
- 下院法案5840号(Minahang Bayan 法)の行方 ── 50万人の小規模鉱夫を制度に入れられるか。DAO 2026-08 の暫定契約(2年・更新なし)は本契約への橋渡しとして機能するか。
- BSP の金ポジション ── 「積み増しか、利益確定か」。ディオクノの「8〜12%が理想」に沿った売却が実行されるか。GIR が2026年7月に18カ月ぶり低水準(1,033億ドル)に落ちたことが判断に影響しうる。
- EO 122(2026年8月21日)の運用 ── 重要鉱物の国家枠組みと MICC 再編(DENR・DOF 共同議長)。金は「重要鉱物」の中心ではないが、許認可合理化と国内加工推進の枠組みは金にも及ぶ。ACT Teachers のトニオ議員は「鉱物資源の外国への丸ごと明け渡し」と批判。
- シランガンの商業生産開始とタンパカン ── シランガンは2026年第4四半期完工目標。タンパカンは2028年。マルコス政権下で商業生産に入る最初の大型鉱山がシランガンになる見込み。
- 注密輸の現在値 ── 2025〜2026年の定量推計が存在しない。 新しい調査報道・研究が出れば、この資料の第7章は全面的に書き換える必要がある。
12. 注 未確認・要注意事項の一覧
この資料で確認できなかった/断定を避けた項目を明示しておく。
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 2021年以降の BSP 年間金購入量(トロイオンス/kg) | 注未確認。 確認できたのは2019年(10,207 FTO)、2020年(115,800 FTO)まで。BSP 年次報告書の直接確認が必要 |
| 2025〜2026年の金密輸量の定量推計 | 注未確認。 流通する「79%」「90%」「95%」は2012〜2017年の数値 |
| RA 12253 の実際の徴収実績 | 注未確認(2026年2月17日適用開始、通年実績なし) |
| RA 12253 と FTAA の追加政府取り分(AGS)の重複調整の細部 | 注未確認(BIR 追加通達待ち) |
| USGS 2026 年版の比の金埋蔵量(トン) | 注未確認(原文PDFの直接確認ができず) |
| BSP の LBMA Good Delivery 認定の2025〜2026年の更新状況 | 注未確認(変更・停止の報道は見当たらない) |
| GIR に占める金の比率の BSP 公式値 | 注 BSP は定期公表していない。本資料の16.8%・18.4%は公表額からの算出値 |
| 2025〜2026年の税関(BOC)による金の押収事案 | 注未確認(確認できた大型事案は2022年11月の NAIA 24kg 事案) |