農地改革とCARP ── フィリピンの土地問題を法令原文から読む
注2026-08-26 検証済み。 本稿の修正履歴(RA 3844の承認日確定、RA 8532の改正条の訂正、RA 6657第21条/第26条の取り違えの訂正、DAR予算の指標明示ほか)は、代表ファイル『1987年憲法_v1.0_20260826.md』末尾の「検証記録(2026-08-26)」に全件表で記録してある。本稿の RA 6657/9700/11953/7881/7905/8532/3844/Act 1120 の条文・数値は、いずれも LawPhil 所収原文で再照合済み。
0. この資料の要点
フィリピンの土地問題は「植民地期に作られた大土地所有(アシエンダ)を、独立後の共和国が法律で解体しようとし、40年近くかけてなお終わっていない」という一本の線で理解できる。2026年7月27日の施政方針演説(SONA)でマルコス大統領は「4年間で40万件超の権利証(land titles)、50万ha超を配布した」と述べ、「2027年に完了させる」と表明した(Manila Times 2026-07-29、2026-08-17)。つまり 1988年に始まったCARPは、2026年時点でもまだ「完了宣言前」である。
| 論点 | 現状(2026-08-26時点) |
|---|---|
| 根拠法 | RA 6657(1988年6月10日承認)+ RA 9700(2009年8月7日承認)+ RA 11953(2023年7月7日承認)。さらに RA 7881(1995-02-20)・RA 7905(1995-02-23)・RA 8532(1998-02-23)も RA 6657 の改正法(2026-08-26 改正確認で追加。第6-1-2節) |
| 新規の強制取得権限 | 2014年6月30日で失効(RA 9700第5条)。以後は「期限前に着手した案件の処理」が中心 |
| 累計配分 | 4,823,037 ha/受益者2,807,108人(2016年末、DAR PIMD/PIDS DP 2017-34) |
| 残高 | 600,504 ha(同上、対スコープ11.1%) |
| 債務免除 | RA 11953により570億5,700万ペソ(P57.557 billion)・610,054人・1,173,101.57 ha を帳消し |
| 2026年DAR予算 | 174億ペソ(P17.4 billion。2025年の104億ペソから大幅増) |
1. スペイン期 ── アシエンダとフライロクラシア
スペイン統治下で、王領地の下賜(encomienda→hacienda)と修道会(Augustinian/Dominican/Recollect/Jesuit)による土地集積が進み、中部ルソンを中心に「修道会領(friar lands)」が形成された。19世紀に砂糖・タバコ・アバカの輸出経済が拡大すると、地代を取る不在地主と、収穫を分け合う小作(kasama, share tenancy)という構造が固まる。
修道会が世俗行政にまで影響力を持つ体制は「fraylocracia(フライロクラシア=修道士支配)」と呼ばれ、1896年革命の主要な争点の一つとなった。 注 この語の初出・用法を確定できる一次資料には到達していない(一次資料未到達)。革命期の反修道会運動そのものは、後述の米国政府による修道会領買収という行政上の帰結からのみ、本資料では確認している。
2. 米国期 ── 「フレンドリー・エステート」買収(1903〜1904年)
米国統治政府は、革命の火種だった修道会領を買い上げて小作人に売り渡すという方式を採った。根拠法は Act No. 1120(Friar Lands Act、1904年4月26日制定)である。
| 項目 | 内容(Act No. 1120 前文・本文) |
|---|---|
| 契約日 | 1903年12月22日 |
| 売主 | Philippine Sugar Estates Development Company, Ltd./La Sociedad Agricola de Ultramar/British-Manila Estates Company, Ltd./Recoleto Order(レコレクト会) |
| 面積 | 約164,127 ha(8州にまたがる) |
| 金額 | 7,239,784.66米ドル |
| 財源 | 公債。売却代金は公債の元利償還のための信託基金(第23条) |
| 現占有者の権利 | 第11条「実際の善意の入植者・占有者は、政府にとっての実費(actual cost)で購入する権利を有する」 |
| 所有権留保 | 第15条「全分割払と利息の完済まで、政府は各筆の権原を留保する」 |
注 一般に流通する「約166,000 ha/720万ドル」という数字は概数であり、法文自体は「164,127 ha/$7,239,784.66」と書いている。引用時は法文の数字を使うべきである。
この買収は、資金力のある者(実際には既存の有力家系や新興の商業資本)が優先的に買い取る結果を生み、小作制の解消にはつながらなかった。米国期にはむしろ、公有地払下げ(Public Land Act系)を通じて新たな大規模砂糖農園がネグロスなどに成立した。
3. 戦後 ── 小作争議とフク団
中部ルソンの小作争議は1930年代から激化し、日本占領期に抗日人民軍(Hukbalahap)として武装組織化、戦後は人民解放軍(HMB)として反政府武装闘争に転じた。 注 フク団の規模・死者数について、本資料では 一次資料未到達。数字は書かない。
代わりに、政府側の対応は立法として跡付けられる。
| 法令 | 承認日 | 内容(原文で確認した条文) |
|---|---|---|
| RA 1199 農業小作法 | 1954年8月30日 | 第4条で「share tenancy(分益小作)」と「leasehold tenancy(定額小作)」の2類型を規定。第32条で稲作の分配率を明示(土地30%・労働30%・農具5%・役畜5%・最終砕土5%・田植25%、種籾と生産費控除後) |
| RA 1400 土地改革法 | 1955年9月9日 | 第6条(2):収用対象は自然人の場合「連担300 ha超」、法人の場合「600 ha超」。ただし「正当な農民不安が存在する土地は面積を問わず収用可」 |
| RA 3844 農地改革法典 | 1963年8月8日 | 第4条「農業分益小作は公序に反するものと宣言し、これを廃止する」/第51条(1)(b) 収用対象を「75 ha超」に引下げ/第74条 フィリピン土地銀行(Land Bank of the Philippines)を創設/第34条 定額小作料は「直前3農年の平年収穫の25%」を上限 |
(2026-08-26 検証で修正)RA 3844 の承認日は 1963年8月8日である。旧版は「LawPhil掲載本文に承認日の記載がなく未確認」としていたが、LawPhil所収原文の末尾(第173条 Effective Date の直後)に "Approved: August 8, 1963" と明記されている。出典:LawPhil statutes/repacts/ra1963/ra_3844_1963.html 原文。
注条文番号の取り違えに注意。「25%上限」は RA 3844第34条である。鉱業法 RA 7942 第34条とは無関係であり、混同した引用がしばしば見られる。
RA 1400・RA 3844は上限が高すぎ(300 ha/75 ha)、かつ財源と実施体制を欠いたため、実効性は限定的だった。
4. マルコス期 ── PD 27(1972年)
戒厳令布告(Proclamation No. 1081)直後の 1972年10月21日、大統領令第27号(PD 27)が発せられた。
| 項目 | PD 27 原文の内容 |
|---|---|
| 対象 | 「主としてコメおよびトウモロコシに供される私有農地」の分益小作・定額小作の小作農のみ |
| 受益者の取得面積 | 灌漑地3 ha/非灌漑地5 ha の「家族規模農場」 |
| 地主の保留 | 7 ha(自ら耕作するか、耕作する意思がある場合) |
| 評価額 | 「平年3作年の平均収穫の2.5倍」 |
| 支払 | 15年・15回の均等年賦、年利6% |
| 条件 | 農民は公認協同組合に加入すること。譲渡は相続または政府への移転に限る |
PD 27の下では、まず土地移転証明書(CLT: Certificate of Land Transfer)が交付され、完済後に解放特許(EP: Emancipation Patent)が発行された。支持価格はコメ1カバン(cavan)=35ペソ、トウモロコシ=31ペソに1972年時点で固定された(PIDS DP 2017-34 脚注9)。
PD 27の決定的な限界は「コメとトウモロコシだけ」だった点である。砂糖・ココナッツ・バナナ等の大農園(アシエンダ・ルイシタを含む)は対象外だった。
注 台湾の1950年代の補償係数も2.5倍で、PD 27はこれに倣ったとされる。日本の農地改革の補償係数は年収穫の7倍、韓国は1.25倍(Iyer and Maurer 2008、PIDS DP 2017-34 経由)。
5. CARP ── 包括的農地改革計画(RA 6657、1988年)
5-1. 法の骨格
正式名称:AN ACT INSTITUTING A COMPREHENSIVE AGRARIAN REFORM PROGRAM TO PROMOTE SOCIAL JUSTICE AND INDUSTRIALIZATION, PROVIDING THE MECHANISM FOR ITS IMPLEMENTATION, AND FOR OTHER PURPOSES 承認:1988年6月10日(コラソン・アキノ政権)
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第4条(範囲) | 「保有形態および生産作物のいかんを問わず、すべての公有および私有の農地」を対象。Proclamation No. 131 および Executive Order No. 229 を承ける |
| 第6条(保有上限) | 「いかなる場合も地主の保留は5 haを超えてはならない」+「地主の子1人につき3 haを付与できる」(15歳以上で現に耕作または直接管理していること) |
| 第7条(優先順位) | 第1期=PD 27対象地・遊休地・自発的提供地(4年以内)/第2期=公有A&D地・50 ha超の私有地(4年以内)/第3期=24〜50 ha(4〜7年目)、保留限度〜24 ha(6〜10年目) |
| 第16条(取得手続) | 地主への通知→30日の回答期間→拒否なら略式行政手続で補償額決定→供託後にDARが占有し権原移転を請求 |
| 第17条(評価要素) | 取得原価、類似物件の現在価値、性質、現況利用と収益、所有者の宣誓評価、税申告、政府査定官の評価、社会的・経済的便益、税滞納 |
| 第18条(補償方式) | Land Bank(LBP)経由。現金比率は保有規模に応じ25〜35%、残余は譲渡性政府証券/LBP債(年10%ずつ償還、市場金利、用途限定で譲渡可)/株式/税額控除 |
| 第22条(受益者順位) | 農業定額小作人・分益小作人 → 常用農業労働者 → 季節労働者 → その他労働者 → 公有地占有者 → 協同組合 → その他現に耕作する者 |
| 第24条(授与・CLOA) | 「DARが現実に占有を取得した時から180日以内に授与を完了する」。所有権はCLOA(Certificate of Land Ownership Award=土地所有権授与証書)によって証される |
| 第27条(譲渡制限) | 「受益者が取得した土地は、10年間、相続、政府、LBP、他の適格受益者への移転を除き、売却・譲渡・移転してはならない」 |
| 第31条(SDO) | 農地を所有する法人は、適格受益者に対し「農地が会社総資産に占める割合に相当する自社株式を購入する権利」を与えることができる(株式分配オプション=Stock Distribution Option) |
| 第65条(転用) | 「授与から5年経過後、当該土地が農業目的として経済的に成り立たなくなったとき…DARは再区分または転用を許可できる」 |
| 第73条(f)(禁止行為) | 受益者が本法の規定を潜脱する目的で、取得地の使用権その他の用益権を売却・譲渡・移転すること |
5-2. 当初スコープ
1991年時点の当初LADスコープは 3,820,900 ha/受益者1,553,500人(Adriano 1991、PIDS DP 2017-34 Table 1)。内訳:
| 区分 | 面積(千ha) | 構成比 |
|---|---|---|
| 第1期(コメ・トウモロコシ727.8/遊休地250.0/差押・PCGG接収2.5/政府所有74.5) | 1,054.8 | 27.6% |
| 第2期(再定住地478.5/50 ha超の私有地706.3) | 1,184.8 | 31.0% |
| 第3期(5〜24 ha 1,063.6/24〜50 ha 517.7) | 1,581.3 | 41.4% |
| 合計 | 3,820.9 | 100% |
注 このスコープは後年に大きく膨らんだ。2016年末のDAR PIMD基準では 5,425,343 ha である。「CARPの対象面積」を引用するときはどの時点のスコープかを必ず明記すること。
6. CARPER(RA 9700、2009年)と2014年6月30日
正式名称は「CARPを強化し、全農地の取得・分配を延長し…RA 6657の一部を改正し、資金を充当する法律」。承認:2009年8月7日。
| 項目 | 内容(RA 9700原文) |
|---|---|
| 期限 | 「2014年6月30日まで」に、州ごと(province-by-province)に取得・分配を完了 |
| 段階 | 第1期=50 ha超(延長5年間)/第2期(a)=24〜50 ha、(b)=24 ha超の残余は2012年7月1日から/第3期=保留限度〜24 ha、最終区分(保留限度〜10 ha)は2013年7月1日から |
| 予算 | 「少なくとも1,500億ペソ(P150,000,000,000.00)」 |
| 第30条 | 「2014年6月30日時点で係属中の事件・手続は、同日以後も終結まで進行し、執行することができる」 |
| 通知(NOC) | 第1期の対象判定に「2008年12月10日以前に発せられた coverage notice(対象通知)」を参照 |
6-1. 「改正法の第◯条」と「改正された先の第◯条」の対応表(混同注意)
注RA 9700 は RA 6657 の条文を書き換える改正法である。したがって「RA 9700 第◯条」と「RA 6657 第◯条」は別の番号を指す。LawPhil に載る RA 6657 は1988年の制定時原文であり、以下の条は現行条文ではない(2026-08-26 改正確認。出典:LawPhil ra_9700_2009.html 条文原文)。
| 改正法=RA 9700 の条 | → | 改正先=RA 6657 の条 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第1条 | → | 第2条 | 政策宣言 |
| 第2条 | → | 第3条 | 定義 |
| 第3条 | → | 第4条 | 適用範囲 |
| 第4条 | → | 第6条の後に新条を挿入 | 保留地の扱い等 |
| 第5条 | → | 第7条 | 実施日程=「2014年6月30日まで」の取得・分配期限。注本資料群が「RA 9700第5条」と書くのは正しいが、その中身は RA 6657 第7条として現行法に溶け込んでいる |
| 第7条 | → | 第17条 | 補償額の決定 |
| 第9条/第10条/第11条 | → | 第24条/第25条/第26条 | 権原の授与・受益者の負担額・償還 |
| 第12条 | → | 第27条 | 授与地の譲渡制限=10年(RA 9700改正後も10年のまま) |
| 第18条/第19条 | → | 第50条/新設 第50-A条 | DARの準司法権限 |
| 第21条 | → | 第63条 | 財源 |
| 第22条 | → | 第65条 | 授与後5年経過後の転用(conversion)許可 |
| 第24条/第25条 | → | 第73条/第74条 | 禁止行為/罰則(第73条(f)=潜脱目的の用益権譲渡の禁止) |
| 第30条 | → | (改正ではない=RA 9700 独自の規定) | 「2014年6月30日時点で係属中の事件・手続は同日以後も終結まで進行・執行できる」。注これは RA 6657 のどの条にも挿入されない RA 9700 限りの規定であり、「RA 6657 第30条」と書くのは誤り |
6-1-2. 注 RA 9700 の前にも3本の改正法がある(2026-08-26 改正確認で追加)
本資料群はこれまで「RA 6657 → RA 9700 → RA 11953」の3段だけを書いていたが、DAR 法令情報システム(lis.dar.gov.ph)は RA 6657 を "as amended by RA 7881, 7905, 8532 and 9700" と表示する。1990年代の3本を落とすと、養殖池の除外や支援サービス局の設置が「条文にない」ことになってしまう。
| 改正法 | 承認日 | 改正先=RA 6657 の条 | 内容 |
|---|---|---|---|
| RA 7881 | 1995-02-20 | 第3条(b)/第10条/第11条第1項を改正、第32-A条・第65-A〜65-D条・第73-A条を新設 | 養殖池(fishpond)・エビ養殖場をCARPの対象から除外。マングローブ保護、養殖労働者への利益配分 |
| RA 7905 | 1995-02-23 | 第35条/第36条/第44条/第45条 | 支援サービス局(Support Services Office)の創設と財源、州農地改革調整委員会(PARCCOM)、州別実施 |
| RA 8532 | 1998-02-23 | 第63条(財源) | CARP基金に追加財源(augmentation fund)を措置 |
注ここでも「改正法の条」と「改正先の条」は別番号である。正しい例:RA 8532 「第1条」が改正するのは RA 6657 第63条(財源)であり、同法第2条は施行期日条項にすぎない(2026-08-26 検証で修正。旧版は「RA 8532 第2条が RA 6657 第63条を改正する」と書いていたが誤り。原文は "Section 1. Sec. 63 of Republic Act No. 6657 … is hereby amended to read as follows" / "Section 2. This Act shall take effect within fifteen (15) days following the completion of its publication…")。同様に RA 7881 は第1〜3条で RA 6657 第3条(b)・第10条・第11条第1項を改正し、第4条で第32-A条、第5条で第65-A条以下を新設する。出典:LawPhil ra_7881_1995.html/ra_7905_1995.html/ra_8532_1998.html 各原文。
(2026-08-26 検証で確認)3法の承認日はいずれも原文末尾で確定:RA 7881=1995年2月20日/RA 7905=1995年2月23日/RA 8532=1998年2月23日。
注RA 6657 は2026年8月時点で、上記5本(RA 7881/7905/8532/9700/11953)以外に改正されていない。2025〜2026年の新規改正法は確認できなかった(Google News RSS/上院・下院の法案検索で「amending Republic Act No. 6657」の成立法なし)。
重要な帰結:2014年6月30日をもってDARの「新規の対象通知(Notice of Coverage)発出=新規強制取得の入口」は閉じた。 以後のDARの仕事は、(1) 期限内に着手した案件の処理、(2) 集団CLOAの個別分筆(後述SPLIT)、(3) 支援サービス、に事実上シフトしている。注「CARPは2014年に終わった」という言い方は不正確で、取得権限が失効しただけであり、配分・登記・訴訟は現在も続いている。
7. RA 11953(2023年)── 新農地解放法
正式名称:New Agrarian Emancipation Act(農地改革受益者を財政負担から解放し、CARPの下で授与された農地に係る元本・未払償還金・利息を免除し、相続税を免除する法律) 承認:2023年7月7日(マルコス政権)
| 項目 | 数値(RA 11953本文に明記) |
|---|---|
| 免除総額(元本) | 570億5,700万ペソ(P57.557 billion) |
| 対象受益者 | 610,054人 |
| 対象面積 | 1,173,101.57 ha |
| 即時免除分 | P14.5 billion(263,622人) |
| 名簿提出後の免除分 | P43.057 billion(346,432人) |
| VLT/DPS方式の直接支払停止 | P206,247,776.41(10,201人) |
免除の対象は「元本・未払償還金・利息・違約金・追徴金」。「本法による免除は、取得地に付された、LBPが代表する国家政府のためのすべての抵当権(mortgage liens)を解除する」と規定する。登記所(Register of Deeds)は60日以内に権原を登記し、免除の注記を付す(第8条)。受益者は「基礎農業部門登録制度(RSBSA)」に登録され、信用供与・支援サービスで優先される。授与地は相続税の課税対象財産(gross estate)から除外される。
RA 11953 が RA 6657 に対して行った改正は1か所だけである。RA 11953 第16条(Repealing Clause)が "Section 21 of Republic Act No. 6657, as amended, is hereby modified." と明記する。
注2026-08-26 検証で修正 ── RA 6657 第21条の中身を取り違えていた。
- RA 6657 第21条の見出しは "Payment of Compensation by Beneficiaries Under Voluntary Land Transfer"=自発的譲渡(VLT)における受益者から地主への直接支払を定める条である(原文:「Direct payments in cash or in kind may be by the farmer-beneficiary to the landowner under terms to be mutually agreed upon by both parties…」)。RA 11953 が VLT/DPS 方式の直接支払(P206,247,776.41/10,201人/11,531.24 ha)を打ち切るのは、まさにこの第21条に接続するからである。
- 一方、受益者からLBPへの償還金(amortization)=「30年年賦・年利6%」を定めるのは RA 6657 第26条("Payment by Beneficiaries")であって第21条ではない。旧版は第21条を「payment of amortizations を定める条」としていたが誤り。
- (出典:LawPhil ra_6657_1988.html 第21条・第26条原文、ra_11953_2023.html 第16条)
注「RA 11953 第16条」と「RA 6657 第21条」を混同しないこと。なお RA 11953 第4条は対象受益者を「PD 27/RA 6657(改正後)/RA 9700 により土地を授与された者」と定義し、第73条・第74条(RA 6657)違反の確定有罪者を除外する。
注 この法律は 借金を消すだけで、土地を新たに増やすものではない。また、抵当解除は「10年間の譲渡制限(RA 6657第27条=RA 9700第12条により改正済み。10年という期間自体は改正後も同じ)」そのものを廃止するものではない。実務上は「抵当が消えたので売れる」という誤解が広がりやすい ── 実際、DARは2026年1月に「早期の賃貸・売却を理由にCLOAを取消した」と報じられている(GMA Network 2026-01-08 見出し)。
実施の進み具合
| 時点 | COCROM(免除・抵当解除証書)交付 | 面積 | 免除額 |
|---|---|---|---|
| 2024年(年間) | 198,364人 | ─ | P10.86 billion |
| 2025年1〜7月 | ─ | ─ | P28.68 billion |
| 2023年施行〜2025年7月 累計 | 383,701件/310,773人 | 416,381 ha | P39.54 billion |
(出所:BusinessMirror 2025-07-30「DAR chief: 2024 a 'banner year' for agrarian reform」) 2026年7月のSONAでマルコス大統領はRA 11953の完全実施を改めて表明し、DARのエストレージャ長官(Conrado Estrella III)は「2026年内に残る免除をすべて終える」と述べた(Manila Times 2026-08-17)。
8. 2025〜2026年の動向
8-1. DARの予算
| 費目 | 2026年 | 出所 |
|---|---|---|
| DAR総額 | 174億ペソ(提案時 P17.395 billion) | BusinessMirror 2025-09-11/2025-11-25 |
| (参考)2025年 | 104億ペソ | 同上 |
| Project SPLIT | P5.1 billion | 同上 |
| 土地保有権保障(Land Tenure Security) | P9.5 billion 注 | BusinessMirror 2025-11-21 |
| 同(9月時点の提案説明) | P3.19 billion 注 | BusinessMirror 2025-09-11 |
| 農地改革司法(Agrarian Justice Delivery) | P1.4 billion | 2025-11-21 |
| 受益者育成(ARBDSP) | P1.87 billion | 同上 |
| 人件費/運営費/資本支出 | P6.45B(38.58%)/P10.246B(58.9%)/P437.7M(2.5%) | 2025-09-11 |
注 プログラム別内訳の合計(5.1+9.5+1.4+1.87=17.87B)は総額17.4Bを上回る。SPLITは土地保有権保障プログラムの内数と見るのが整合的だが、報道ベースでは併記されており、内訳の合算は避けるべきである。
注(2026-08-26 検証で追記)この「174億ペソ」は2026年国家支出計画(NEP)の提案額(P17,395,384,000)であって、成立した2026年一般歳出法(GAA)の確定額ではない。 2026年GAAでは農業・農地改革セクター全体が2,975億ペソへ増額されており(2026年NEPの2,560億ペソ、2025年GAAの2,480億ペソから大幅増)、DAR単独の確定額は提案額と異なる可能性がある。DBM公表の2026年GAA第I-A巻DAR分(dbm.gov.ph/wp-content/uploads/GAA/GAA2026/VolumeIA/DAR/DAR.pdf)は画像PDFでテキスト抽出できず、本検証では確定額に到達できなかった(一次資料未到達)。「2026年のDAR予算」を引用するときは提案額(NEP)か確定額(GAA)かを必ず書き分けること。
上院はP17.4Bを承認(Daily Tribune 2025-10-25)、ズビリ議員はさらなる増額を要求(Manila Bulletin 2025-10-26)。2026年6月18日にはPARC(大統領農地改革評議会)が59億ペソの支援サービス予算を承認したと報じられた(PNA 2026-06-18 見出し。注 詳細は原記事に到達できず未確認)。
8-2. SPLIT ── 集団CLOAの個別分筆
CARPの隠れた最大の課題は「集団CLOA(collective CLOA)」である。複数の受益者に1枚の権利証を出したため、個々の農民は自分の筆を特定できず、担保にも相続にも使えなかった。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 発行済み集団CLOA総面積(2016年1月1日時点) | 2,168,116 ha |
| うち分筆済み | 1,064,746 ha |
| 分筆不要(林地・道路・水源等) | 115,816 ha |
| 共有者が分筆を望まず | 139,134 ha |
| 分筆残高 | 848,420 ha |
(出所:De los Reyes 2016/DAR Field Operations Office、PIDS DP 2017-34 Table 9)
世界銀行支援のSPLIT(Support to Parcelization of Lands for Individual Titling)はこの残高を電子権利証(e-Title)化する事業で、2026年の目標は「248,000件の権原を検証、300,000 ha、247,000人」(BusinessMirror 2025-09-11)。 注 世界銀行のプロジェクトページ(P172346)は本調査時点でスクリプト依存のため本文取得に失敗し、融資額・承認日は一次資料未到達。
8-3. 権利証配布の実績(マルコス政権)
| 年 | 権利証交付 | 面積 | 受益者 |
|---|---|---|---|
| 2022 | 21,876件 | 25,159 ha | ─ |
| 2023 | 69,897件 | 84,044 ha | 73,399人 |
| 2024 | 102,338件 注 | 120,343 ha | 88,087人 |
| 2024(別発表) | 211,751件 注(e-Title 134,736+CLOA 77,015) | ─ | 203,839人 |
| 2025(8月時点) | 48,772件 | 76,398 ha | ─ |
| 2025(年間目標) | 30〜40万件 | 約399,762 ha | ─ |
| 2022〜2026年累計(SONA) | 40万件超 | 50万ha超 | ─ |
注2024年の数字は発表によって 102,338件(BusinessMirror 2025-07-30、DAR長官発言)と 211,751件(BusinessMirror 2025-02-05)で食い違う。前者はLAD(通常の土地取得・分配)中心、後者はSPLITのe-Titleを含む総数と見られるが、DARは定義を明示していない。「何件配った」を引用するときは、必ず出所と定義(LADのみか、SPLIT込みか)を添えること。
2026年3月4日にはDARが「業績評価91%」を発表(PNA)。2026年8月17日、エストレージャ長官は「残りを2027年に完了する」と明言(Manila Times)。一方、2026年7月28日にはケソン州の司祭がSONAの農地改革実績主張に公然と異議を唱えている(Inquirer 見出し)。
9. 成果と限界
9-1. 配分済みと未配分
2016年末時点(DAR PIMD、PIDS DP 2017-34)
| 区分 | 面積(ha) | 構成比 |
|---|---|---|
| スコープ | 5,425,343 | 100% |
| 私有農地(PAL)配分 | 2,625,547 | 48.4% |
| 非私有地(政府所有地・再定住地・接収済大農園) | 2,116,033 | 39.0% |
| 非CARP対象部分 | 81,457 | 1.5% |
| 純配分合計 | 4,823,037 | 88.9% |
| 残高 | 600,504 | 11.1% |
| 受益者 | 2,807,108人 | ─ |
残高が集中する地域が問題の核心である。ネグロス島地域(NIR)29.3%、ARMM(現BARMM)33.4%、ビコール(第5地方)20.9%が未配分(2016年末)。砂糖アシエンダとイスラム自治地域が最後まで残るという構図は、2024年のネグロスをめぐる報道(Rappler 2024-04-11「Land distribution gap in Negros sparks doubts over CARP deadline」)でも変わっていない。
未配分地の作物別内訳(2014年末、総694,784 ha):ココナッツ30%、コメ23%、サトウキビ19%、トウモロコシ13%。
また、配分実績の「質」に問題がある。私有農地の配分(2,625,547 ha)のうち、強制取得(CA)はわずか14%、自発的譲渡(VLT/直接支払)が32%、自発的売却申出(VOS)が25%、PD 27由来(OLT)が22%である。つまり「地主が納得した土地」が過半を占め、真に対立的な大農園への切り込みは限定的だった。
さらに ── 取得価格の分布を見ると、PD 27/EO 228方式を除くCARP取得地の57%が1 ha当たり4万ペソ未満だった(PIDS DP 2017-34)。2010〜2014年に取得された稲作地の補償額は「天水田の推定資本化純収益をも下回る」水準で、DARが後年に取得したのは低生産性・遠隔地の土地だった可能性が高い、と同論文は指摘している。
9-2. 受益者の農地売却・逆流
RA 6657第27条は10年間の譲渡を禁じ、第73条(f)は潜脱目的の用益権譲渡を禁じる。しかし実務上は、賃貸借(arrangement)・質入れ・「耕作権の売買」という形で流出が起きる。
確認できる具体例(2024〜2026年):
| 時期 | 事案 | 出所 |
|---|---|---|
| 2023-10 | パンパンガ州で、償還を終えた農地改革地が開発業者の手に渡る | Rappler 2023-10-17 |
| 2024-03 | 同州CLOA保有者がClarkhillsによる接収に対抗、新たな調査が唯一の望み | Rappler 2024-03-19 |
| 2026-01 | DARが「早期の賃貸・売却」を理由にCLOAを取消 | GMA Network 2026-01-08 |
| 2026-02 | DARがタルラック州の187 ha超の「土地収奪」を調査開始 | BusinessMirror 2026-02-05 |
| 2026-02 | ダバオ・サマル島の農民がCLOA転用・売買の無効化を要求 | SunStar 2026-02-22 |
| 2026-06 | DAR次官パルマレスが受益者に「土地を売らないでほしい」と公式に呼びかけ | BusinessMirror 2026-06-29 |
政府次官が公式行事で「売るな」と言わねばならない状況そのものが、逆流の実在を示している。
9-3. 生産性・所得は上がったのか(諸説)
結論から言えば「はっきりしない」。PIDS DP 2017-34(Ballesteros, Ancheta and Ramos, 2017年12月)は主要な影響評価をこう整理している。
| 研究 | 対象期間 | 主な知見 |
|---|---|---|
| Hayami & Kikuchi (1982, 2000)、Otsuka (1990)、Umehara (1997)、Deininger (2000) | 1980〜1990 | PD 27(OLT)受益者の所得・厚生は有意に改善。ただしこれは「緑の革命」による稲収量の急増と時期が重なったため |
| APPC (2007) | 1990〜2000 | ARC(農地改革コミュニティ)の貧困発生率低下は非ARCより 1.4ポイント大きいだけ。1人当たり支出は2003年価格で134ペソ高いだけ。土地所有世帯の1人当たり消費支出は無地世帯より15〜17%高いが、その効果はCARP経由でも相続・購入経由でも同じ |
| World Bank (2009) | 1990〜2000 | CARP受益者の実質1人当たり所得はP14,625→P21,903、非受益者はP18,025→P21,575。差は15%だが有意水準は限界的(p値0.15)。貧困だった受益者の52%が2000年までに非貧困化。逆に受益者の15%、非受益者の22%が貧困に転落 |
| World Bank (2009)(Balisacan & Fuwa 2004拡張) | 1991〜2006 | CARP実績が10%上がると貧困削減率が2〜3ポイント高まる。ただしCARPが説明できるのは1991〜2006年の平均貧困削減率の8%にすぎない |
| Monsod et al. (2016) | 1990〜2010 | ARCの貧困低下は非ARCより1.2ポイント大(2000〜2010年では2.1ポイント)。一方、1人当たり支出の伸びは非ARCの方がわずかに高かった |
PIDSの総括:「土地を持つことは厚生を高めるが、それがCARP経由か相続・購入経由かで差はない」「CARPが農業投資・正規金融アクセス・公平性を改善したという明確な証拠はない」。 注 逆に、DARや農民団体が主張する「CARPで生産性が上がった」という言明は、政府統計の原表に基づく因果推定ではなく、受益者と非受益者の単純比較(非実験的手法)に依拠していることが多い。推計値と確定値、政府発表と業界・団体の主張は区別して読むこと。
9-4. 農地転用(land conversion)── 実質的な後退
配分された土地が農地でなくなれば、農地改革は形骸化する。RA 6657第65条は「授与後5年経過」「農業として経済的に成立しなくなったとき」という条件を付けるが、実務では自治体による「再区分(reclassification)」が先行し、DARの「転用(conversion)」許可がこれを追認する構図が長く続いた。
| 指標 | 数値 | 出所・年 |
|---|---|---|
| 灌漑地の転用(2012〜2022年の10年累計) | 620,399.48 ha | PSA『Compendium of Philippine Environment Statistics(CPES)』(BusinessMirror 2023-12-11経由) |
| うち国営灌漑システム(NIS) | 468,468.43 ha | 同上 |
| うち共同灌漑システム(CIS) | 151,176.91 ha | 同上 |
| 年平均 | 約62,040 ha | 同上 |
| 単年最大(2022年) | 64,068.12 ha | 同上 |
| 中部ルソン(コメどころ)10年累計 | 111,079.46 ha | 同上 |
| ビコール(最少) | 1,356.83 ha | 同上 |
注この62万haは「CPESにおける灌漑区域の転用」であり、DARが許可した「土地利用転用(land use conversion)」の面積とは定義が異なる。DAR許可ベースの累計転用面積は、本調査では原表に到達できなかった(一次資料未到達)。両者を同一視して「62万haがDARの許可で農地でなくなった」と書くのは誤りである。
2026年の政策転換 ── 転用の一時凍結
2026年に入り、農業省(DA)は転用そのものにブレーキをかけた。
| 時期 | 措置 |
|---|---|
| 2026年1月 | DA Department Circular No. 1:土地利用再区分証明(Land Use Reclassification Certification)申請の受理・処理を 2026年6月まで凍結 |
| 2026年3月 | DA Department Circular No. 11:再生可能エネルギー(DOE認証)と社会化住宅(NHA/DHSUD認証)を凍結の適用除外に |
| 2026年6月 | 5か月の見直しを経て凍結を解除 |
| 2026年7月 | DAのティウ・ラウレル長官が「全国の稲作地300万haは大統領命令によらない限り再区分すべきでない」と表明。太陽光は平地では農業併用が条件、灌漑地は保全、勾配8%未満は開発抑制 |
| 2026年8月 | 新しい転用ガイドラインを公表予定 |
(出所:BusinessMirror 2026-03-06/2026-07-23、Manila Times 2026-07-24) 根拠は1995年の共同覚書回状(LGUが農地を非農地に再区分する前にDA証明を要する)。包括的な国家土地利用法(National Land Use Act)は2026年8月時点でなお未成立である。
10. アシエンダ・ルイシタ ── CARPの試金石
10-1. 経緯(最高裁判決の事実認定に基づく)
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 1957 | スペイン系タバカレラ(Compañía General de Tabacos de Filipinas)が 6,443 ha の Hacienda Luisita と製糖会社 Central Azucarera de Tarlac の支配持分を売却。ホセ・コファンコ・シニア系の Tarlac Development Corporation(Tadeco)が取得。中央銀行とGSISが融資を斡旋 |
| 1957-11-27 | GSISが591万1,000ペソを融資。条件として「Hacienda Luisitaを構成する土地は、申請法人により分筆され、小作人に原価で売却されるものとする」と明記 |
| 1980 | 戒厳令下の政府がTadecoを相手にマニラ地裁へ収用訴訟。地裁は収用を認容、Tadecoが控訴 |
| 1988-05-18 | 控訴院が「Tadecoが株式分配計画の承認を得られなかった場合には」という条件付きで訴えを却下 |
| 1988-08-23 | Tadecoが Hacienda Luisita, Inc.(HLI)を分社設立 |
| 1989-05-11 | Tadeco・HLI・5,848人の適格農園労働者受益者(FWB)が 株式分配オプション協定(SDOA)を締結。約118,391,976.85株を30年かけて労働日数按分で分配、加えて生産分配3%と無償宅地 |
| 1989-11-21 | PARC決議 No. 89-12-2 が株式分配計画(SDP)を承認 ── のちに最高裁が「収用(taking)の日」と認定 |
| 1995-08 / 1996-08-14 | HLIが500 haの工業用途への転用を申請、DARが承認。土地は子会社Centennary Holdings、Luisita Realty Corporationへ |
| ─ | 80.51 ha が SCTEX(スービック・クラーク・タルラック高速道路)用に取得。農地は4,915.75 ha → 約4,335.75 ha へ |
| 2003年末 | Supervisory Group(Jose Julio Suniga、Windsor Andaya)と AMBALA(Alyansa ng mga Manggagawang Bukid ng Hacienda Luisita)がSDP再交渉・取消を申立て |
| 2004-11-16 | ルイシタ虐殺(後述) |
| 2005-12-22 | PARC決議 No. 2005-32-01 がSDPを取消し、CARPの強制取得下に置く |
| 2006-01-02 | 対象通知(Notice of Coverage)発出 |
10-2. 2004年11月16日のルイシタ虐殺
製糖工場と農園の労働組合によるストライキの強制排除で、農民・労働者7人が死亡し、100人以上が負傷した(BusinessMirror 2016-11-16)。
| 論点 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 死者 | 7人 |
| 負傷 | 100人超 |
| 排除の実行 | 陸軍旅団長 Col. Gregorio Pio Catapang Jr. が兵員と装甲車の投入を指揮したとされ、「現場指揮官の一人」と報じられた |
| 民間側被告発人 | 労働長官 Patricia Santo Tomas、次官 Manuel Imson |
| 刑事責任 | オンブズマンは2005年7月に民間側被告発人の告発を却下、2010年12月に警察・軍側被告発人の告発を却下。有罪判決に至った者はいない |
(出所:BusinessMirror 2016-11-16「Group: Justice remains elusive for Luisita massacre victims」) 注 最高裁のG.R. No. 171101(2011年7月5日判決)は農地改革・株式分配の適法性のみを扱っており、判決文中に虐殺への言及はない。「最高裁が虐殺を認定した」と書くのは誤りである。 注 犠牲者の氏名を含む詳細については、一次資料(オンブズマン決議・検死記録)に未到達。
10-3. 最高裁の判断
| 日付 | 判断 |
|---|---|
| 2011-07-05 | SDPの取消しを是認しつつ、FWBには「HLI株主に留まるか、土地の分配を受けるか」の選択権を与えた |
| 2011-11-22 | 選択権を 全員一致で撤回。理由は「FWBは農民による経営を担保するのに必要な過半数支配を到底得られない」。4,915.75 ha を 6,296人の適格FWBに分配するよう命令 |
| 2012-04-24 | 再考申立を棄却(政府が宅地相当分の正当補償をHLIに支払う点のみ修正)。「収用の日は 1989年11月21日(PARCがSDPを承認した日)」と 8対6 で確認。500 ha転用地と80.51 ha SCTEX用地の売却代金は、3%分・税・費用を控除のうえFWBに返還。LIPCO/RCBCなど第三者取得分は分配対象から除外 |
| 2018-07-04 | HLIは農民へのP13億3,000万ペソ(P1.33 billion)の分配義務を履行済み、と最高裁が認定 |
| 2021-04-26 | 最高裁が正当補償算定のためのタスクフォース設置を命令。DARが農地改革基金から補償額を決定し、LBPが検証完了後に支払うよう指示。HLIが受領済みの売却代金として、Luisita Realty(200 ha)5億ペソ、Centennary Holdings(300 ha)7億5,000万ペソ、政府の高速道路用取得(80.51 ha)8,050万ペソに言及 |
10-4. 2025年 ── 政府が284億ペソを支払え
2025年、事態は農民側にとって皮肉な展開を見せた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 判断機関 | 控訴院 特別第12部(Special Twelfth Division) |
| 決定日 | 2025年4月25日(35ページ。公表は2025年6月) |
| 対象 | 4,500 ha |
| 元本(土地評価額) | P1,029,089,933.66 |
| 総額 | P28,488,944,278.71(2025年4月30日時点。1989年11月21日からの利息を加算) |
| 原審 | タルラック地裁(特別農地裁判所)2023年2月15日決定・同年8月11日決議は、LBP評価 P304.03百万+利息 P167.4百万=P471.5百万を支払済みとして是認 |
| その後 | DARは上訴を表明(2025年6月20日)。LBPは「支払義務を負うのは銀行ではなく、農地改革基金=国家政府である」と表明(2025年6月19日) |
つまり、農民に土地を渡すために、国家がコファンコ=アキノ家側に約284億9,000万ペソ(元本の約28倍)を支払う可能性がある。決定は確定していない(GMA Network 2025-06-19)。 注 報道で「P1 billion」と「P28.48 billion」の両方が見出しになったが、前者は元本、後者は35年分の利息を含む総額である。混同しないこと。
11. 注 誤りやすい点(チェックリスト)
| 注 よくある誤り | 正しくは |
|---|---|
| 「CARPは2014年に終了した」 | 終了したのは新規取得権限(RA 9700第5条、2014年6月30日)。係属案件は第30条により期限後も進行する |
| 「CARPの対象は約400万ha」 | 当初スコープ3,820,900 ha(1991年)と、2016年末スコープ5,425,343 haは別物。年次を明記すること |
| 「所有上限は5ha」 | 正確には「地主の保留5 ha+子1人につき3 ha(15歳以上・現に耕作/直接管理)」(RA 6657第6条) |
| 「PD 27で全農地が対象になった」 | PD 27はコメ・トウモロコシのみ。全作物対象は1988年のRA 6657から |
| 「RA 11953で10年の譲渡制限も消えた」 | 消えたのは国家(LBP)の抵当権。RA 6657第27条の譲渡制限自体は同法で改廃されていない |
| 「62万haがDARの転用許可で失われた」 | PSA/CPESの「灌漑区域の転用」(2012〜2022年)であって、DAR許可ベースの数字ではない |
| 「最高裁が2004年の虐殺を認定した」 | G.R. No. 171101の判決文に言及はない。刑事告発はオンブズマンが2005年・2010年に却下 |
| 「25%の小作料上限はRA 7942第34条」 | RA 3844第34条。RA 7942は鉱業法であり無関係 |
| 「RA 11953はRA 6657第21条=償還金の規定を修正した」 | RA 6657第21条はVLT(自発的譲渡)下の受益者→地主の直接支払。償還金(30年年賦・年利6%)は第26条(2026-08-26 検証で修正) |
| 「RA 8532第2条がRA 6657第63条を改正」 | RA 8532第1条。第2条は施行期日条項(2026-08-26 検証で修正) |
| 「RA 3844の承認日は不明」 | 1963年8月8日(LawPhil原文末尾 "Approved: August 8, 1963"。2026-08-26 検証で確定) |
| 「2026年のDAR予算は174億ペソ(確定)」 | 174億ペソは2026年NEPの提案額。GAA確定額は本検証で未到達 |
| 「DARは2024年に21万件配った/10万件配った」 | 発表により211,751件と102,338件が併存。定義(SPLIT込みか否か)を確認してから使う |
12. 主要出典
一次資料(法令原文) - Republic Act No. 6657(1988年6月10日承認)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra1988/ra_6657_1988.html - Presidential Decree No. 27(1972年10月21日)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/presdecs/pd1972/pd_27_1972.html - Republic Act No. 9700(2009年8月7日承認)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2009/ra_9700_2009.html - Republic Act No. 11953(2023年7月7日承認)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2023/ra_11953_2023.html - Republic Act No. 3844(農地改革法典)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra1963/ra_3844_1963.html - Republic Act No. 1400(1955年9月9日承認)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra1955/ra_1400_1955.html - Republic Act No. 1199(1954年8月30日承認)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/repacts/ra1954/ra_1199_1954.html - Act No. 1120(Friar Lands Act、1904年4月26日)── LawPhil: https://lawphil.net/statutes/acts/act1904/act_1120_1904.html
一次資料(判決原文) - Hacienda Luisita, Inc. v. PARC, G.R. No. 171101, 2011年7月5日判決 ── https://lawphil.net/judjuris/juri2011/jul2011/gr_171101_2011.html - 同, 2011年11月22日決議 ── https://lawphil.net/judjuris/juri2011/nov2011/gr_171101_2011.html - 同, 2012年4月24日決議 ── https://lawphil.net/judjuris/juri2012/apr2012/gr_171101_2012.html
一次資料(政府系研究機関) - Ballesteros, M. M., Ancheta, J., and Ramos, T.「The Comprehensive Agrarian Reform Program after 30 Years: Accomplishments and Forward Options」PIDS Discussion Paper Series No. 2017-34(2017年12月)── https://pidswebs.pids.gov.ph/CDN/PUBLICATIONS/pidsdps1734.pdf
二次資料(主要報道) - BusinessMirror 2025-06-17「Hacienda Luisita should get ₱28.48 billion from government, says CA」 - BusinessMirror 2025-07-30「DAR chief: 2024 a 'banner year' for agrarian reform」 - BusinessMirror 2025-09-11「DAR seeking ₱17.39-billion budget for 2026」/2025-11-21「DAR's '26 ₱17.4-billion budget…」 - BusinessMirror 2025-02-05「DAR distributes 211K e-titles, Cloas in 2024」 - BusinessMirror 2016-11-16「Group: Justice remains elusive for Luisita massacre victims」 - BusinessMirror 2023-12-11「'PHL converts 600K hectares of irrigated lands'」(PSA/CPES引用) - BusinessMirror 2026-03-06「Lands for RE exempt from DA ban」/2026-07-23「DA seeks to protect 3M hectares of rice land from reclassification」/2026-02-05「Estrella orders investigation of 'land grabbing' in Tarlac」/2026-06-29「DAR writes off ₱9.9M CAR ARBs' agrarian debt…」 - The Manila Times 2026-07-29「DA, DAR laud SONA pronouncements」/2026-08-17「DAR Chief vows to complete the work by 2027」/2025-06-19「Court tells govt to pay Hacienda Luisita P1B」/2026-07-24「New guidelines on farmland conversions out by August」
注 本資料はWikipediaを出典として一切用いていない。到達できなかった一次資料(世界銀行SPLITプロジェクト融資条件、DAR許可ベースの累計転用面積、オンブズマン決議原文、フク団関連の統計)は本文中で「一次資料未到達」と明記した。