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フィリピンの医療と健康

情報基準日:2026-08-26 / 分野:社会・人権・治安


0. 30秒でわかる要点

# 要点
1 全国民が制度上はPhilHealth加入者(RA 11223/ユニバーサル・ヘルス・ケア法、2019年)。ただし「加入=無料」ではない
2 保険料は月給の5%(2026年、上下限で月500〜5,000ペソ)。2019年の2.75%から段階的に上げ、5%が法定の上限で打ち止め
3 2024年に国庫へ移された600億ペソは、2025年12月5日の最高裁判決で違憲・返還。2026年予算で戻った
4 自己負担は42.7%(2024年、PSA国民保健会計)。PhilHealthが入院請求書に占める割合は14〜15%程度(DOH、2026年)
5 世界最大級の看護師送り出し国でありながら、国内は深刻な人手不足という構造
6 結核は世界の患者の6.8%を占め世界3位(WHO世界結核報告2025/2024年データ)
7 HIVはアジア太平洋で最も増加が速い(UNAIDS、2025年6月)
8 デングは2026年に前年比マイナス(1/4〜8/1で93,155件、-46%/DOH)
9 発育阻害は23.6%→25.3%に悪化(DOST-FNRI 2025年更新調査、2026年6月公表)=10年ぶりの上昇
10 旅行者・短期滞在の外国人はPhilHealthの対象外。民間病院は前払い・高額。旅行保険は事実上必須

1. 制度の骨格 ── ユニバーサル・ヘルス・ケア法(RA 11223)

共和国法11223号(Republic Act No. 11223, Universal Health Care Act)は2019年成立。全フィリピン国民を自動的にPhilHealth(Philippine Health Insurance Corporation/フィリピン健康保険公社)の加入者とし、州単位の医療圏(province-wide / city-wide health systems)への統合、プライマリケアのゲートキーパー化、支払方式の改革などを定める。

加入区分

区分 内容
直接拠出者(Direct Contributors) 被用者、自営業・専門職、家事労働者(kasambahay)、OFW(海外就労者)、任意加入者など。自分で保険料を払う
間接拠出者(Indirect Contributors) 貧困層(NHTS-PR で特定)、高齢者、PWD、4Ps受給者など。保険料は国庫が負担
対象 根拠法
高齢者(60歳以上のフィリピン国民) RA 10645(2014年)により保険料無料
障害者(PWD) RA 11228(2019年)

高齢者の無料加入は「フィリピン国民」が対象。外国人の高齢者は拡大高齢者法の強制加入対象にならない(後述の第11章)。


2. PhilHealth ── 保険料(2026年)

  2026年の保険料率=月額基本給の 5.00%
     下限:月収 10,000ペソ以下   → 一律 500ペソ
     区間:10,000.01〜99,999.99ペソ → その5%
     上限:月収 100,000ペソ以上  → 一律 5,000ペソ

  被用者は 2.5% ずつ雇用主と折半(下限なら250+250)
  自営業・専門職・OFW は 5% 全額を自己負担
  RA 11223 第10条の段階引き上げは 2019年 2.75% から始まり
    2024年に 5%(上限所得10万ペソ)で頭打ち → 2026年の引き上げなし

(出典:Philippine Information Agency「PhilHealth sets 5% premium contribution rate for 2026」)

2026-08-26 検証で条文を精査したうえでの補正。 RA 11223 第10条(Premium Contributions)の法定表は「2019年 2.75%/2020年 3.00%/2021年 3.50%/2022年 4.00%/2023年 4.50%/2024年 5.00%/2025年 5.00%」で終わっており、条文に「2026年」の行は存在しない。 上限所得も 2024年に10万ペソへ達してそこで止まる。したがって2026年の5%は「条文の2026年欄」ではなく、PhilHealth が2026年5月6日付アドバイザリーで前年同率を据え置いたものである。「RA 11223 第10条により2026年は5%」と書くのは条文の読み違いになる(出典:LawPhil 掲載 RA 11223 第10条 https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2019/ra_11223_2019.html/PIA 2026年報道)。 なお RA 11223 は2026年8月時点で改正法(amendatory Republic Act)が存在しない。2025年2月に下院がUHC法改正案を可決したが法律にはなっていない(下院可決=法律成立ではない)。ただしPhilHealth の設立法は RA 7875 であり、RA 11223 はその大幅改正法である点は別資料(分野別15)に既述。

延滞利息: 自営業・陸上OFWは月1.5%、雇用主・海上OFWは月3%。雇用主は EPRS(Electronic Premium Remittance System)経由で翌月に送金する。

「保険料を払っていれば病院代が無料」ではない。PhilHealthは診療報酬の一部を病院に払う仕組みであり、残りは自己負担になる(第4章)。


3. 2024年の資金国庫移管と最高裁判決(2025年12月5日)

フィリピンの医療政策で2024〜2026年に最大の争点となった問題。読者が誤解しやすいので詳述する。

何が起きたか

時期 出来事
2024年 2024年一般歳出法(RA 11975)の特別条項1(d)(第XLIII章)が、GOCC(政府所有・管理法人)の「余剰積立金」を国庫に戻して未計上予算(unprogrammed appropriations)に充てることを認める
2024年 財務省(DOF)通達 003-2024 が、PhilHealthの資金残高 899億ペソの移管を指示
2024/5/10 200億ペソ移管
2024/8/21 100億ペソ移管
2024/10/16 300億ペソ移管(合計600億ペソ
2024/11 残り 299億ペソの移管予定 → 最高裁のTRO(一時差止命令)で停止
2025/12/5 最高裁が違憲・無効と判断(主任裁判官:Amy Lazaro-Javier判事)

判決の要点

(出典:最高裁プレスブリーフ 2025年12月5日、Rappler、Philstar、Inquirer)

その後 ── 2026年予算への反映

項目 金額 出典
2026年 保健セクター総額 4,481億2,500万ペソ(史上最大) 2026年一般歳出法/PNA
DOHと関連機関 2,975億ペソ(保健予算の66%、前年比+20%) 同上
PhilHealth 1,298億ペソ(保健予算の29%)※返還された600億ペソを含む PIA「2026 national budget allocates P129.8B for PhilHealth」
ゼロ・バランス・ビリング(LGU病院) 10億ペソ 2026年GAA

2025年のPhilHealth向け国庫補助はゼロだった。議会は「約5,000億ペソの余剰積立金があり給付拡大も遅い」として補助を全額削除。2026年は行政府案53億→議会で1,298億ペソへ大幅増という異例の経緯をたどった。

数字の出所を区別すること。「余剰5,000億ペソ」は議会側の主張、「補助ゼロでも1,500億ペソの余剰がある」はDOHの説明、「2023〜2025年で3,566億ペソの積立不足」はUP医学部Antonio Dans教授らの批判的推計であり、いずれも確定した政府統計ではない。

補足: 2026年7月、PCSO(フィリピン慈善宝くじ公社)が追加16億ペソのPhilHealth拠出を承認(Philstar、2026年7月30日)。


4. 自己負担の実態 ── 数字で見る

国全体の医療費(2024年、PSA国民保健会計 PNHA/2025年7月24日公表)

指標 2024年 前年比
総保健支出(THE) 1兆5,600億ペソ(GDP比 5.9% +17.1%
一人あたり保健支出 12,751ペソ +17.6%
家計の自己負担(OOP) 6,151.6億ペソ=経常保健支出の 42.7% +11.8%
政府・強制拠出制度 6,431.2億ペソ=44.7% +29.5%
任意支払制度(HMO等) 1,811.2億ペソ=12.6% +8.9%
プライマリケア支出(PHCE、試行指標) 7,488億ペソ +19.2%

2024年は、政府の負担割合(44.7%)が家計の自己負担(42.7%)を初めて上回った年として報じられた(Manila Standard、2025年)。ただし自己負担の絶対額は増え続けている点に注意。

なぜ自己負担が残るのか

  PhilHealthは「オール・ケースレート(All Case Rates/定額)」で病院に支払う。
     例)肺炎 29,250ペソ、帝王切開 37,050ペソ、胆嚢摘出 60,450ペソ(2025年1月改定後)

  実際の請求額がケースレートを超えた分は、患者の負担になる。
  民間病院ではケースレートが全額を賄うことはまず無い。

  認定施設では退院時に請求書から直接差し引かれる
    (後から領収書を持って償還請求する必要はない)。

DOHの説明では、PhilHealthが患者の入院請求書に占める割合は現状 14〜15%。25〜30%以上へ引き上げることを目標としている(PIA、2026年)。 この数字は「加入していれば大半が賄われる」という思い込みを正すうえで最も重要な一点である。

ケースレートの陳腐化

PIDS(フィリピン開発研究所)の2025年研究によれば、8,869あるケースレートの99.9%が2013年以降更新されていなかった。正常分娩のケースレート6,500ペソは、2023年の実質価値で約3,900ペソ。請求の98.8%が償還額を超過していた。

2027年をめどにDRG(Diagnosis-Related Groups/診断群分類)方式へ移行予定。2024年から「シャドー・ビリング」(実際の支払いはケースレート、並行してDRG試算)を実施。2026年第4四半期にデータ分析完了予定、2026年8月時点で中部ビサヤの41病院がパイロット参加。グルーパー(分類ソフト)はタイのTCMC(Thai CaseMix Centre)のものをベースに開発中。(出典:BusinessMirror 2025年11月、Philstar/The Freeman 2026年8月)


5. PhilHealth ── 給付の拡大(2024〜2026年)

制度改定の時系列

時期 内容
2024年2月 全給付を一律30%引き上げ(2013年以来はじめて)
2024年10月1日 「単一入院期間(Single Period of Confinement)」ルールを撤廃(Circular 2024-0021)。同一疾患で90日以内に再入院すると1件分しか払われなかった規則。2023年だけで26,750件の請求が却下されていた
2025年1月1日 約9,000パッケージをさらに50%引き上げ(Circular 2024-0037、2024年12月28日公示)
2025年4月4日 年間45日の入院日数上限を撤廃(Circular 2025-0007、Edwin Mercado総裁署名)
2025年7月25日 YAKAP発足(後述)
2026年1月1日 YAKAPの全国運用規則が発効(Circular 2025-0017)

主な給付(2026年時点)

項目 金額・条件 備考
帝王切開 37,050ペソ(24,700→) 2025年1月改定
肺炎 29,250ペソ(19,500→) 同上
血液透析 年156回 × 1回6,350ペソ ≒ 年99万600ペソ 90回×4,000ペソから拡大、2024年10月9日発効。PhilHealth透析データベース(PDD)登録が条件
経皮的冠動脈形成術(PCI) 524,000ペソ(約1,600%増) 2025年新設・拡充
血栓溶解療法 133,500ペソ(約900%増) 同上
乳がん(Zベネフィット) 140万ペソ(10万ペソ→) 病期0〜4を対象
腎移植(Zベネフィット) 生体ドナー 100万ペソ超/死体ドナー 214.6万ペソ Circular 2024-0035。2012年の制度開始以来はじめての引き上げ
腹膜透析(CAPD、成人) 年38万9,640〜51万140ペソ(約89%増) 小児APDは最大約120万ペソ
予防的口腔ケア 検診・クリーニング・フッ化物塗布・シーラント等 2025年に新設(PhilHealthは「歴史的な初」と表現)
外来救急ケア給付(OECB) 342項目のサービス・薬剤・材料 2025年1月11日発効。24時間以内に帰宅する救急外来受診が対象

肺がんは2026年時点でZベネフィットの対象外。「がんは全部カバーされる」は誤り。 Zベネフィットは事前承認(pre-authorization)と契約病院の利用が必要。パッケージ内のサービスは基本病室であれば追加負担なしが原則。

YAKAP ── Konsultaの後継

項目 内容
正式名 YAKAP(Yaman ng Kalusugan Program)
発足 2025年7月25日(メトロマニラ先行)→ 2026年1月に全国展開
構成 KONSULTA(診察)+LABORATORYO(検査)+GAMOT(薬)+SCREEN(がん検診)
GAMOT(薬) 対象薬 75品目、年間2万ペソまで(抗菌薬、抗血栓薬、喘息薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、降圧薬など)。Circular 2025-0013(2025年7月30日公示)
検査 約19項目。血算、脂質、空腹時血糖、HbA1c、クレアチニン、胸部X線、喀痰検査、心電図、尿検査、パップスメア、便潜血など。乳・肺・肝・大腸のがん検診はYAKAPで新たに追加
登録者 約4,000万人(PhilHealth、2026年)
登録方法 eGovPHアプリ、会員ポータル、またはPhilHealth窓口。初年度に「First Patient Encounter」を済ませて有効化する

「Konsulta」という名称はもう正式には使われていない。旧Konsultaは2025年7月にYAKAPへ改称・拡充された。旧Konsulta登録者は自動的にYAKAPへ移行。クリニックの看板の切り替え期限は2026年4月1日(Advisory 2025-0061)。 別物として、無料EMRソフト「eKonsultaシステム」は廃止される(Circular 2025-0077)。認証EMRへの移行期限は情報源により2026年7月1日/12月31日と食い違っており、未確認。PhilHealthの通達で直接確認すること。 YAKAPは登録した施設に紐づく。登録先以外で受診すると自己負担になりうる。

精神保健の外来給付についての訂正

本ファイルの初稿には「2026年から精神科の初回相談も対象に追加」とあったが、これは不正確。PhilHealthの外来精神保健給付パッケージはCircular 2023-0018に基づくもので、2023年から存在する。2026年の動きはむしろ「YAKAP実施施設すべてに精神保健パッケージを提供させる」という普及目標である(PIA)。この給付は年2万ペソのYAKAP-GAMOT枠とは別枠で併用できる。

2026年の給付規模

指標 数値 出典
2026年の給付目標 3,780億〜4,000億ペソ Edwin Mercado総裁(Manila Bulletin、2026年5月13日/GMA)
参考:2023年の給付実績 1,190億ペソ 同上
2026年1〜5月の実績 1,778.2億ペソ(前年同期比 +49.6%) PNA(2026年)
うち民間施設 1,047.0億ペソ 同上
うち政府施設 731.2億ペソ 同上

4,000億ペソは「目標/年間事業予算の枠」であって確定給付額ではない。PhilHealth自身、この水準は保険料収入+国庫補助の見込みを上回ると認めている。


6. 公私の医療格差と病院の階層

病院の分類(DOH行政命令 AO 2012-0012)

区分 内容
Level 1(一般病院) 非診療科制。内科・小児科・産婦人科・外科/麻酔の基本、臨床検査・放射線・薬局、中等度までの看護
Level 2(一般病院) Level 1+診療科制、専門医の常勤、ICU、新生児ケア、高度な検査・手術能力
Level 3(一般病院・教育/研修病院) Level 2+研修プログラム、透析、血液銀行、より高度な集中治療
専門病院(Specialty Hospital) 心臓、肺、がん、腎、精神など特定疾患・特定患者向け
インファーマリー(Infirmary) 病院の「レベル」ではない。入院ベッドを持つ「プライマリケア施設」として別分類。救急初期対応と母子ケアが中心
バランガイ保健所(BHS)/地方保健ユニット(RHU) LGUが運営する最前線。YAKAPの窓口になることが多い

数で見る格差

指標 数値 出典・年
病院数 約1,300(うちメトロマニラ155=11.9%) Herbosa保健長官、2025年
人口1,000人あたり病床 1.005(目標1.5) DOH、2024年
同上(別の言及) 0.5(「3倍にする必要がある」) DOH、2025年1月/Philstar
世界銀行ベース 約1.0(ASEANでカンボジア0.7に次いで低位) World Bank
メトロマニラの内訳 民間54病院/DOH病院17/GOCC病院4、比率は約2床/1,000で「適正」 Herbosa保健長官
病床0.5未満の州 27州 PIDS研究

病床比率の「1.005」と「0.5」は同じDOHから出ている異なる数字。前者は登録病床全体、後者は稼働・認定ベースと解釈されるが、どちらが正しいかは公式に整理されていない(未確認)。古い記事の「0.5」だけを引用するのは危険。

構造的な要点: 病床の多くは民間にあり、公立の大病院(PGH、地方の地域病院など)に患者が集中する。都市部は選択肢が多く高額、地方は選択肢が乏しく、重症例はマニラ・セブへの搬送が必要になる。これが「医療費が払えるかどうか」以前の、地理的なアクセス格差を生んでいる。

アクセス改善策(2024〜2026年)


7. 医療人材の海外流出(Brain Drain)

看護師

指標 数値 出典・年
海外へ移住した登録看護師(累計) 316,000人(当時の登録看護師の半数超) DOH、2021年時点
2022〜2024年の追加流出 約30,000人 DMW(移住労働者省)
世界で働くフィリピン人看護師 約240,000人(推計) 2020年推計
米国内のフィリピン養成看護師 約130,000人=米国の看護師の約20人に1人、外国生まれRNの約3分の1 各種推計
国内の看護師不足 約127,000人(2023年基準)、2030年に約250,000人との推計も DOH/各種推計
看護師:患者比 DOH基準 1:12 → 現場では1:20、悪い場合1:50 業界報道
公立病院の欠員 約4,500ポスト 同上
二国間労働協定 22カ国 政府

「世界最大の看護師輸出国」について これは海外に送り出す看護師の絶対数に基づく通説であり、国際機関が毎年公表する公式の順位表があるわけではない。学術文献・業界メディアで広く共有された表現だが、「何位」を断定する公的指標は未確認。使うときは「送り出し数で世界最大級」と書くのが安全。

医師

指標 数値 出典
人口1万人あたり医師 3.6〜4人(推計により7.92人とも)/WHO推奨は10人 各種推計/アテネオ大学研究(2025年)
PRC登録医師数 159,283人 PRC
うち国内で実際に診療 約59.7%(約95,000人) 同上
地域差 BARMM 2人/1万人 ⇔ メトロマニラ 29人/1万人 IBON Foundation
公的施設の不足数 医師60,000人・看護師121,000人・助産師109,000人 各種推計
EDCOM II の推計 医療人材の不足は290,000人。保健系学生の56%は資格取得前後に離脱し就業しない EDCOM II
RHU・プライマリケア施設の欠員 医師2,000人以上、看護師4,400人、助産師3,900人、歯科医約140人 DOH

(2026-08-25 第2回相互照合で明示化。上表内の数値を算術照合) 上表の「人口1万人あたり医師 3.6〜4人」は、同じ表の「国内で実際に診療 約95,000人」と両立しない。

  95,000人 ÷ 1億1,270万人(PSA 2024年センサス)× 10,000 = 1万人あたり 約8.4人
  → 表が併記する「推計により7.92人とも」とはほぼ整合する
  → 「3.6〜4人」だと医師数は約4万〜4.5万人になり、95,000人と合わない

「3.6〜4人」は、PRC登録医師のうち一部(例:公的セクター勤務医のみ、あるいはWHO集計の別定義)を数えた値である可能性が高いが、原典に到達できず未確認。 「フィリピンの医師は人口1万人あたり3.6人でWHO推奨10人の半分以下」という書き方と、「約9.5万人が国内で診療している」を同じ文で並べると内部矛盾になる。どちらも消していないが、併記するなら必ず定義の違いに触れること。

なぜ流出するのか ── 給与

区分 2026年の月額 出典
政府 Nurse I(俸給等級SG15) 42,178ペソ(Step1)〜45,202ペソ(Step8)+PERA 2,000ペソ EO 64 第3トランシェ、2026年1月1日発効
参考:2025年のSG15(EO 64 第2トランシェ) 40,208ペソ (2026-08-25 第3回相互照合で修正) 同上
参考:EO 64 以前のSG15(SSL V 最終年=2023年) 約36,619ペソ 本表が旧版で「2025年の値」としていたもの
政府 Nurse II(SG16) 45,694〜49,020ペソ 同上
民間病院の新人看護師 報道により12,000〜18,000ペソとも、18,000〜40,000ペソとも。標準表がなく幅が大きい(未確認) 各種求人・報道

(2026-08-25 第3回相互照合で修正。出典:Executive Order No. 64, s. 2024 の Salary Schedule 原文=lawphil.net/分野「教育制度」第9-1節と同一の俸給表で照合) 旧版は「2025年のSG15=約36,619ペソ」としていたが、36,619ペソは EO 64 以前(SSL V の最終トランシェ=2023年)の値であり、EO 64 第2トランシェ(2025年)の SG15 Step 1 は 40,208ペソである。 同じ EO 64 の俸給表を、隣の分野「教育制度」第9-1節が SG11=2025年30,024/2026年31,705/2027年33,387ペソSG18=53,818SG21=73,303 と正しく引いており、原文と一致した(SG15 は 2024年38,413/2025年40,208/2026年42,178/2027年44,148)。本稿の2026年 42,178ペソは正しい。誤っていたのは比較用の前年値だけである。 この1点の残置で、看護師の昇給幅が実際の +4.9%(40,208→42,178)ではなく +15.2%(36,619→42,178)に見えていた。「政府看護師の待遇が一気に改善した」という印象は、3年分の昇給を1年分と誤読したものである。

政府病院の方が高いという逆転が起きている。そのため政府ポストの競争が激しく、大手民間医療センターを除く民間病院ほど流出しやすい。 SG15の額面には落とし穴がある。フィリピン看護師連合(FNU)は「政府看護師の多くが契約職員(contractual)で、実際にはSG15を受け取っていない」と指摘。

立法の動き: 2025年12月15日、Erwin Tulfo上院議員が上院法案1612号を提出。フィリピン看護法(RA 9173)第32条を改正し、政府看護師の最低俸給等級をSG15からSG19へ引き上げる内容。2026年8月時点で審議中。


8. 主要な疾病 ── 2026年の状況

8-1. デング熱(Dengue)── 2026年は大幅減

期間 症例数 前年同期 増減
2026年1月〜5月 50,727件 114,308件 -56%
2026年1月4日〜8月1日 93,155件 174,077件 -46%
死者(同期間) 386人 699人 -45%

(出典:DOH/Philstar 2026年8月8日、DitoSaPilipinas 2026年6月22日)

地域別(2026年8月1日時点): 中部ルソン16,057件、NCR 10,611件、カラバルソン10,320件。マンダルーヨン、ラプラプ、サンボアンガなどは流行閾値超過。セブ市は8月初旬時点で1,228件・死者10人。

減少の要因(DOHの説明): 地域ぐるみの予防強化と啓発。「4つのT」運動(Taob/Taktak/Tuyo/Takip=ひっくり返す・落とす・乾かす・ふたをする)で、ボウフラの発生源となる溜まり水を減らした。

ただし油断はできない

  減少率は 1〜5月の -56% から 1〜8月の -46% へ縮小している。
    年初は元々流行の少ない時期であり、
    本番は7〜9月のピーク期。

  温暖化でネッタイシマカ(Aedes aegypti)の繁殖期間が
    従来の雨季を超えて延びているという構造要因は変わっていない。

  局地的な流行は続いている。

初稿にあった「2025〜2027年の年平均444,678件」等の予測値は、出典(発表機関・モデル名)を特定できなかったため本稿では採用しない。予測モデル由来の数値をDOHの実測値と並べるのは避けること。

ワクチンについて(2026年8月時点): - Qdenga(TAK-003、武田薬品)はフィリピンFDAで審査中で、まだ承認されていない(大統領府、2026年6月2日)。申請は2023年から。 - 政府側の懸念:4〜5歳での有効性が他年齢層より低いこと、フィリピンで流行するデング3型のデータ、米国・シンガポールでの申請取り下げの経緯。 - 背景に2018年のDengvaxia(デングワクシア)問題があり、行政は極めて慎重。 - 世界では40カ国以上で承認、WHOは2024年5月に事前認証。

旅行者向け:デングの危険は雨季(おおむね6〜11月)に高い。 蚊対策(DEET/イカリジン含有忌避剤、長袖、宿の網戸)と旅行保険が必要。 PhilHealthは非加入の外国人旅行者を原則カバーしない。

8-2. 結核(TB)── 世界3位

指標 数値 出典
世界の結核患者に占める割合 6.8%=インド(25%)、インドネシア(10%)に次ぐ世界3位 WHO世界結核報告2025(2024年データ)
罹患率(推計 incidence) 人口10万人あたり625人(2024年) 確定 WHO世界結核報告2025/世界銀行 SH.TBS.INCD(lastupdated 2026-07-13)で照合
参考:推計罹患率の推移 2020年 544 → 2021年 579 → 2022年 627 → 2023年 632 → 2024年 625 同上
「約500/10万人」 推計罹患率としては、どの年にも該当しない(下記注)
死亡 1日あたり約98人(前年比-3%) WHO/DOH
診断ギャップ(未診断) 世界のギャップの7.5%(インドネシア、インドに次ぐ3位) WHO世界結核報告2025

(2026-08-25 第3回相互照合で決着。出典:WHO/世界銀行 指標 SH.TBS.INCD=WHO世界結核報告由来、2026-07-13 更新) 旧版は「625と500は同じWHO報告の異なる集計」としていたが、これは誤りである。WHOの推計罹患率の実系列は 2015〜2024年で 544〜632 の帯に収まり、500 という値はどの年にも現れない。

  625(2024年)=WHO の「推計罹患(estimated incidence)」── 本表の確定値
  500 前後      =「登録・届出された症例(notification)」の率、
                     または端数を丸めた古い引用とみられる(原典未確認)

算術でも625の側が裏づけられる。625/10万 × 1億1,273万人(PSA 2024年センサス)=約70.5万人で、これは本表の「世界の結核患者の6.8%」(世界の推計罹患 約1,070万人に対し約70.5万人)とほぼ一致する。500/10万なら約56万人=世界の約5.3%となり、6.8% と両立しない。

2026-08-25 検証で修正。旧記載「約1,050万人」は誤り。出典:WHO Tuberculosis fact sheet https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/tuberculosis ="an estimated 10.7 million people fell ill with TB worldwide"(2024年)/死亡123万人。分野「公衆衛生と感染症」§3-1 と数値を統一した)

上表「診断ギャップ 7.5%/インドネシア・インドに次ぐ3位」について:分野「公衆衛生と感染症」§3-2 は、この記述の原典(WHO世界結核報告2025の該当章)に到達できず「未確認」として扱っている。どちらも消していないが、引用する際は原典の章・表番号を確認すること。 患者数シェアは「インド25% > インドネシア10%」であり、ギャップの順位だけ逆転する理由の説明が原典で確認できていない。 したがって本稿は 625 を採る。「約500」は削除せずに残すが、推計罹患率として引用してはならない。「診断された数(notification)」と「推計された数(incidence)」の差=診断ギャップこそがフィリピン結核対策の中心論点であり、この2つを「同じ指標の別カット」と書くと問題の所在自体が消えてしまう。

対策(PhilSTEP2 2025-2030/PAAP-TB 2023-2035): - 2026年に1,200万人のスクリーニングを目標(DOH+WHO、2025年11月12日発表)。 - 2026年のTB予算案は42億ペソ(2025年の26億ペソからほぼ倍増)。 - 超小型・AI支援の胸部X線装置、WHO推奨の核酸増幅検査(NAAT)を導入。 - 薬剤耐性結核は全経口レジメンで治療期間が2年から6カ月に短縮。 - 短期予防治療(TPT)の登録者は2024年に50%以上増加。 - TB-DOTS(保健所での無料診断・治療)は国民・外国人を問わず利用できるのが原則。

8-3. HIV ── アジア太平洋で最も急増

指標 2026年第1四半期(1〜3月) 出典
新規確認症例 4,633件(前年同期比 +9% と −9% の2通りが流通。下記注) DOH疫学局
1日あたり 51件(2025年Q1は57件、-11%) 同上
男女比 男性4,381(95%)/女性252(5%) 同上
年齢構成 25〜34歳が46%、15〜24歳が31%、35〜49歳18%、50歳以上3% 同上
診断時点で進行期(advanced HIV) 1,104件=24% 同上
地域 NCR 989(21%)、Region IV-A 808(17%)、Region III 551(12%) 同上
累計(1984年以降) 168,079件 同上
推計PLHIV(HIV陽性者) 約288,000人、うち診断済みは55%(157,350人) 同上、2026年3月時点
無料ART(抗レトロウイルス療法)登録者 108,367人 同上
参考:2025年Q4 4,277件(1日47件) PNA

(2026-08-25 第2回相互照合で明示化。出典:本表の DOH疫学局データを算術照合/分野「ジェンダー・LGBT・家族法」第9節) 本表の「+9%」は、同じ表の「1日51件(2025年Q1は57件、−11%)」と両立しない。算術は以下のとおり。

  4,633件 ÷ 90日 = 1日 51.5件  … 表の「1日51件」と一致する
  2025年Q1が1日57件なら 57 × 90 = 5,130件
  4,633 ÷ 5,130 = −9.7%     … つまり前年同期比は「−9%」側になる

符号違い(+9%/−9%)である可能性が高いが、DOH原典(HARP四半期報告)に到達できなかったため、どちらも消していない。 混同の原因と思われるもの:2025年Q4(4,277件)と比べれば +8.3% の「増」であり、2025年Q1(推定5,130件)と比べれば「減」である。「前年同期比」なのか「前四半期比」なのかを必ず確認すること。同じ数字が「増えた」証拠にも「頭打ち」の証拠にも使われている。

国際的な位置づけ: - UNAIDS:「フィリピンはアジア太平洋で最も急速に拡大しているHIV流行を抱える」(2025年6月)。 - Herbosa保健長官:「西太平洋地域で新規症例が最も多い」。 - 2013年の1日13件から57件へ、12年で+338%。 - 15〜25歳の若年層では500%の増加と報じられた(DOH/PNAC)。下記注(年齢区分と期間が分野「ジェンダー・LGBT・家族法」と食い違う)

(2026-08-25 第4回相互照合で明示化。出典:分野「ジェンダー・LGBT・家族法」第9節) 同じ「若年層で約500%増」という主張が、本クラスタ内で2つの異なる定義で書かれている。

出所 年齢区分 期間
本節 15〜25歳 期間の記載なし
分野「ジェンダー・LGBT・家族法」第9節 15〜24歳 2010〜2023年

DOH/PNACの疫学統計(HARP)が標準的に用いる区分は「15〜24歳」(本稿 第8-3節の表も「15〜24歳が31%」としており、本稿内では同じ節の表と本文で区分が食い違っている)。 「15〜25歳」は報道での丸めとみられるが、原典に到達できず未確認のため、どちらも消していない。 引用するなら「15〜24歳、2010〜2023年で約500%増(DOH/PNAC)」と、区分と期間を必ず添えること。倍率だけを期間なしで書くと、近年1年で5倍に増えたかのように読める。

緊急事態宣言をめぐる動き DOHとPNAC(フィリピン全国エイズ評議会)は2025年、RA 11332に基づく「国家公衆衛生上の緊急事態」宣言をマルコス大統領に勧告。WHOとUNAIDSも支持を表明。しかし2026年8月の調査時点で、宣言が正式に署名されたことを確認できる情報は見つからなかった(未確認)。「宣言済み」と書かないこと。

予防: - AO 2026-0005:PrEP(曝露前予防)・PEP(曝露後予防)の差別化サービス提供に関する行政命令。 - PrEPは国家医薬品処方集に収載され、政府調達で15万人への提供を目指す。 - 経口PrEPとカボテグラビルが承認済み、レナカパビルは審査中(Global PrEP Tracker、2026年7月)。 - 根拠法はRA 11166(Philippine HIV and AIDS Policy Act、2018年)。差別禁止、検査の同意年齢引き下げ、匿名検査などを規定。

8-4. 麻疹・風疹とワクチン接種率

指標 数値 出典
麻疹・風疹症例(2025年1月1日〜2026年1月3日) 5,159件(2024年3,901件から+32% DOH
うち未接種者 73% DOH(2026年)
1歳未満児の完全接種率 約72%(集団免疫の目標は95%) DOH

対応: 2026年1月19日からミンダナオで麻疹・風疹の補足的予防接種活動(MR-SIA)を開始。生後6〜59カ月が対象。2026年予算で麻疹・風疹ワクチン枠を増額。WHOはフィリピンを「ゼロドーズ(一度もワクチンを受けていない)児が世界で最も多い5カ国」の一つに挙げている。

8-5. 非感染性疾患(NCD)が死因の主役

2025年の死因上位(PSA暫定値、2026年4月30日時点。確定値は2027年1月公表予定)

順位 死因 死亡数 構成比
1 虚血性心疾患 122,339 19.7%
2 悪性新生物(がん) 70,668 11.4%
3 脳血管疾患 60,947 9.8%
4 肺炎 43,106 6.9%
5 糖尿病 37,978 6.1%

PSAの死因統計は「暫定値」が段階的に更新される。同じ2025年でも2026年2月時点のカットでは虚血性心疾患100,958件、4月時点では122,339件。必ず「〇年〇月時点の暫定値」と明記すること。


9. 栄養不良と肥満 ── 二重の負担

発育阻害(Stunting)は悪化した

指標 2023年 2025年 出典
5歳未満児の発育阻害 23.6% 25.3%(+1.7ポイント) DOST-FNRI
学齢児(5〜10歳)の発育阻害 18.9% 同上
青少年(10〜19歳)の発育阻害 21.4% 同上
学齢児の低体重 18.6% 同上

本ファイルのテーマ指定にあった「発育阻害23.6%」は2023年国民栄養調査(NNS、2024年12月公表)の数値であり、最新ではない。 2025年更新調査(2025年4月23日〜2026年3月31日実施、118州・高度都市化市、目標世帯の91.5%をカバー/2026年6月公表)で25.3%に上昇し、これは2015年以来10年ぶりの上昇である。DOST-FNRIはこれを「高い公衆衛生上の懸念(high public health concern)」に分類。

地域差: 農村部27.8% ⇔ 都市部23.2%。BARMM 36.0%、サンボアンガ半島34.6%が最悪。

用語の注意:「ENNS(Expanded National Nutrition Survey)」は2018〜2021年ラウンドの呼称。2023年は「NNS」、2025年は「Updating Survey(更新調査)」であり、名称が変わっている。

一方で成人の肥満が急増

指標 2023年 2025年
成人(20〜59歳)の肥満 39.8% 44.5%
成人の過体重 17.1%
青少年(10〜19歳)の過体重・肥満 12.5% 15.6%
学齢児(5〜10歳)の過体重・肥満 8.6%

(出典:DOST-FNRI 2025年更新調査/Rappler・BusinessWorld・GMA、2026年6月17日。アジア太平洋版BMI基準)

内訳: 女性50.1%、都市部48.3%、最富裕層で57.8%。地域別はNCR 52.7%、CAR 50.6%、中部ルソン49.6%。 青少年の77.5%が身体活動不足、5.4%が喫煙、9.1%が飲酒。 成人の約10人に1人は逆に慢性的エネルギー不足(男性に多い)。

国家栄養評議会(NNC)は2026年、「発育阻害と肥満がともに悪化し、PPAN 2023-2028の年次削減目標を下回っている」として、社会全体(whole-of-society)での緊急行動を呼びかけた。


10. 精神保健(Mental Health)

共和国法11036号(RA 11036, Mental Health Act)は2018年成立。フィリピンで初めて精神保健を権利として定め、以下を義務づけた。

危機ホットライン(NCMH Crisis Hotline、24時間)

  全国共通: 1553
  トールフリー: 1800-1888-1553
  Smart/TNT:  0919-057-1553
  Globe/TM:   0917-899-8727 / 0966-351-4518

  Hopeline Philippines(Natasha Goulbourn Foundation): (02) 8804-4673

(2019年5月2日開設、キャッチコピーは "Kamusta Ka?, Tara Usap Tayo")

実施の現実

指標 数値 出典・年
精神保健従事者 人口10万人あたり1人未満 WHO
精神科医 548人(0.5/10万人) WHO精神保健特別イニシアティブ、2020年
精神科看護師/心理士 516人/133人 同上
別集計(WHO Mental Health Atlas 2020) 精神保健従事者計1,821人、精神科医240人超 同上 数字が食い違う(未確認)
精神科病床の集中 NCMH(マンダルーヨン市)が全国の精神科病床の77%(約4,200床)を保有 各種研究
精神科医の地理的偏在 58%がメトロマニラ、認定専門医の44%も同様 MDPI Healthcare、2026年
精神科病床 人口10万人あたり4.13床、平均在院日数209日 各種研究

政策枠組み: DOHとWHOが「Philippine Council for Mental Health Strategic Framework 2024-2028」を策定。ガバナンス、プライマリケアへの統合、スティグマ低減、データ基盤の4本柱。

立法の動き: 2025年11月の下院法案は、RA 11036が「単一の相互運用可能な3桁全国ホットライン」を義務づけていないため運営主体が乱立していると指摘し、一本化を求めている。

給付: PhilHealthの外来精神保健給付パッケージ(Circular 2023-0018)。YAKAP実施施設での提供拡大が2026年の目標。


11. 在留・旅行者向けの実務(外国人の視点)

11-1. 外国人とPhilHealth

項目 内容
加入資格 永住・長期居住が認められた外国人(resident alien)。ビザの名称より「居住資格が認められているか」が実質基準
SRRV保有者 フィリピン退職庁(PRA)経由で加入(EO 1037に基づく)。マカティのPRA本部または支所へ申請
その他の長期居住者 最寄りのPhilHealth事務所へ ACR I-Card 持参で申請
重要 外国人はフィリピン人配偶者の「扶養家族」としてはカバーされない。本人が加入者になる必要がある
生涯会員(Lifetime Member) 60歳+拠出120カ月で資格。ただし拡大高齢者法(RA 10645)の強制無償加入の対象外
保険料 未確認。2026年の民間ガイドはSRRV保有者で年約15,000ペソ、その他外国人居住者で年約17,000ペソとする一方、別のガイドは「インフォーマル経済」区分で年5,000ペソとする。数字が一致しないため、必ずLHIO(地方健康保険事務所)またはPRAで直接確認すること
必要書類 パスポート(原本+コピー)、ACR I-Card、在留資格の証明(ビザ/SRRV/労働許可)

11-2. 民間医療の費用感(あくまで目安)

セント・ルークス、マカティ・メディカルとも公式の価格表を公開していない。以下は民間価格比較サイトが2026年に集計した推計値であり、公式料金ではない。

項目 St. Luke's Medical Center(BGC/QC) Makati Medical Center
外来診察 1,500〜3,500ペソ 1,200〜3,000ペソ
救急外来(ER)受診 3,500〜6,500ペソ 2,500〜5,500ペソ
CT 12,000〜22,000ペソ 10,000〜18,000ペソ
MRI 18,000〜28,000ペソ 15,000〜22,000ペソ
個室(1日) 12,000〜25,000ペソ 9,000〜15,000ペソ

外国人だから高いという二重価格は基本的にない。ただしPhilHealth・HMOがなければ全額自己負担になる。医療者は英語が通じる(医学教育が英語)。

11-3. 知っておくべき法律・仕組み


12. 医療ツーリズム(Medical Tourism)

市場規模 ── すべて民間調査会社の推計

調査会社 基準値 予測
IMARC Group 2025年 17億ドル 2034年 50億ドル(2026-2034 CAGR 12.44%)
PS Market Research 2025年 15.30億ドル 2032年 34.19億ドル(CAGR 12.2%)
Expert Market Research 2024年 12.6億ドル 2034年 39.8億ドル(CAGR 12.20%)
Grand View Research(健康・ウェルネス観光) 2024年 32.8億ドル 2030年まで CAGR 29.66%

同じ時期を対象にしても12.6億〜17億ドルとばらつく。手法が異なる民間の推計であり、政府の確定統計ではない。引用時は必ず調査会社名を添えること。

年間の医療ツーリスト:推計8万〜25万人(幅が大きく、政府の確定値ではない)。

「世界第◯位」の検証

主張 検証結果
「東南アジア3位、世界トップ20」 観光省Christina Frasco長官の発言(政府の主張であり、独立した検証は未確認)
「Medical Tourism Index(MTI)で世界19位」 MTIの最新版は2020-2021年版で、46目的地中19位(医療ツーリズム産業部門16位、施設・サービスの質19位)。2025年版・2026年版のMTIは存在しない(未確認)
「世界8位」 過去にMedical Tourism Association/IHRCが示したとされる古い評価。現在の裏付けなし

結論:「世界◯位の医療ツーリズム大国」という表現は、指標も年次も特定できないため使わないほうがよい。書くなら「観光省は東南アジア3位・世界トップ20と説明している(政府の主張)」と主語を明示する。

国際認証病院(JCI)

情報源により4〜5施設と食い違う(未確認)。挙げられる施設は:

施設 所在
The Medical City パシッグ
Makati Medical Center マカティ
Asian Hospital and Medical Center ムンティンルパ
St. Luke's Medical Center – Quezon City ケソン
St. Luke's Medical Center – Global City タギッグ(BGC)

比較:タイのJCI認証病院は62施設(2024年、Philstarコラム)。フィリピンの弱点は「病院単体の質」ではなくエコシステムの厚みにある。

費用優位と強み


13. 用語・略語表

略語 正式名称 意味
UHC / RA 11223 Universal Health Care Act ユニバーサル・ヘルス・ケア法(2019年)
PhilHealth Philippine Health Insurance Corporation フィリピン健康保険公社
DOH Department of Health 保健省
YAKAP Yaman ng Kalusugan Program 外来プライマリケア給付(旧Konsulta)
GAMOT Guaranteed Access to Medicines for Outpatient Treatment 外来薬剤給付(年2万ペソ)
OECB Outpatient Emergency Care Benefit 外来救急ケア給付
Zベネフィット Z Benefit Package がん・移植など高額疾患の定額パッケージ
ACR / DRG All Case Rates / Diagnosis-Related Groups 現行の定額支払い/2027年目標の新方式
BUCAS Bagong Urgent Care and Ambulatory Service DOHの無料外来・緊急ケア拠点
RHU / BHS Rural Health Unit / Barangay Health Station 地方保健ユニット/バランガイ保健所
DOST-FNRI Food and Nutrition Research Institute 科学技術省 食品栄養研究所
PSA / PNHA Philippine Statistics Authority / Philippine National Health Accounts 統計庁/国民保健会計
PIDS Philippine Institute for Development Studies フィリピン開発研究所
NCMH National Center for Mental Health 国立精神保健センター
PNAC Philippine National AIDS Council フィリピン全国エイズ評議会
HMO Health Maintenance Organization 民間医療保険(保険委員会が監督)
SRRV Special Resident Retiree's Visa 退職者特別居住ビザ

14. 取材・執筆時のチェックリスト

  1. 数字の年次を確認する。PhilHealthの給付額は2024年2月・2025年1月に大きく変わり、栄養統計は2026年6月に更新された。2023年以前の数字はほぼ全て古い。
  2. 政府統計/機関の推計/業界の主張を分ける。PSA・DOH・WHOは統計、PIDS・EDCOMは研究推計、医療ツーリズム市場規模は民間調査会社の推計、「余剰5,000億ペソ」は議会側の主張。
  3. 「世界◯位」は指標名を確認する。結核(WHO報告の症例シェア)は明確、看護師輸出と医療ツーリズムは公式順位表がない。
  4. 一次資料はPhilHealthの通達(Circular)番号で当たる。


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