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環境と生物多様性

情報基準日:2026-08-26 / 分野:災害・環境・気候

フィリピンは「世界17のメガダイバース国(megadiverse countries)」の一つであり、同時に国土全体が丸ごと「生物多様性ホットスポット(biodiversity hotspot)」に指定されている数少ない国である。 「世界有数の豊かさ」と「世界有数の危機」が同じ場所で同時に起きている ── これがフィリピン環境問題の基本構造である。 2026年6月29日、環境天然資源省(DENR)は行政命令2026-30号で「自然を基盤とする解決策(Nature-based Solutions/NbS)」の国家方針を初めて制度化した。政策の重心が「何本植えたか」から「生態系が機能しているか」へ動いている。


1. 全体像 ── 数字で押さえる

指標 数値 出所・年
記載された生物種数 約5万2,000〜5万4,000種(研究者は「控えめな推計」とする) CEPF/2025年の学術レビュー
脊椎動物の固有率 60%超 2025年 ScienceDirect 掲載研究
陸生脊椎動物 1,166種前後(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類)/うち約62%が固有種 CEPF
両生類 約90種、固有率およそ85%(新種記載が続き増加中) CEPF
海洋生物種 約1万種。「世界の海洋種のおよそ5分の1」は未確認の比率主張(分母=「世界の海洋種」が既知記載種か推定総種数かで桁が変わる。既知の海洋記載種は約24万種とされ、その場合1万種は約4%にしかならない)。書くなら分母の定義・集計機関・年を明示すること(2026-08-25 相互照合で注記。分野「統計とデータソースの使い方」§12.3 のチェックリストを比率主張にも適用。数値「約1万種」自体は残置) 各種集計
海水魚類 約3,212種 各種集計
サンゴ礁面積 約2万5,000 km²「世界第3位」は指標(面積か種数か)・集計機関・年が特定できない未確認の順位主張。書くなら指標名と出典を明記すること 各種集計/2026年報道(2026-08-25 相互照合で注記。分野「統計とデータソースの使い方」§12.3「世界第◯位」チェックリストを適用)
重要生物多様性地域(KBA) 228か所、世界的に重要な855種の生息地 CEPF
原生林の残存 固有種の多くが、元の森林面積のわずか7%程度の断片林に閉じ込められている CEPF
森林被覆(2020年) 722.6万 ha(国土の約24%)これはDENR-FMB/NAMRIA系の値。FAO基準(世界銀行WDI)では2020年718.9万 ha、2023年729.3万 ha=24.46%、NAMRIA 2020年を23.4%とする集計もある DENR-FMB/Philippine Forestry Statistics(2026-08-25 相互照合で修正。FAO基準値の出典=世界銀行WDI AG.LND.FRST.K2、lastupdated 2026-07-13。分野「林業と森林」§2-1 と併記)
マングローブ 約31.1万 ha(2024年推計)。1920年は約45万 ha ASEAN生物多様性センター等
海草藻場 約2万7,282 km² NBCAP関連資料 2026
保護区(NIPAS) 251か所・約787万 ha(うちASEAN遺産公園14か所)同一資料群では別の値も使われている:分野「地理と行政区画」§/「林業と森林」§=244か所・約776万 ha(国土の15.4%、2020年時点)、E-NIPAS法(RA 11038)の法定分は資料により 107か所(約300万ha)(分野「地熱と地下の再生可能資源」§4-2)/248か所(「地理と行政区画」)。年次と数え方(DENR現況/2020年時点/法律で一括宣言した分)が違うだけで矛盾ではないが、年と数え方を書かずに「フィリピンの保護区は◯か所」と引かないこと(2026-08-25 相互照合で注記。本稿の251/787万haは最新のDENR発表値として維持し、他の値も消さない) DENR 2025〜2026年発表
世界災害リスク指数 193か国中1位(スコア46.56)「17年連続1位」は誤り ── 2022年版の指数全面改定以降、2022〜2025年版で4年連続1位 WorldRiskIndex 2025(原典データ)(2026-08-25 相互照合で修正。出典:weltrisikobericht.de 配布の WorldRiskIndex-2025.xlsx=Philippines / PHL / 46.56 / Exposure 39.99 / Vulnerability 54.20、および WeltRisikoBericht 2025 本文 p.8「Spitzenreiter … auch 2025 wieder die Philippinen」・p.65「WeltRisikoBerichte 2011–2024」)

種数・固有種数・保護区数は出典によって数字が動く。分類学的な再検討と新種記載が現在進行形で進んでいること、保護区が法律・布告で随時追加されることが理由である。「どの年の・どの機関の集計か」を添えないと比較にならない。

なぜこれほど固有種が多いのか

フィリピンは、大陸と一度も陸続きにならなかった島(オセアニック島)と、氷期にスンダランド(ボルネオ側)とつながった島(パラワンなど)が混在する。島ごとに独立した進化が進んだ結果、「フィリピン固有」ではなく「ミンドロ島固有」「シブヤン島固有」といった島単位の固有種が積み上がった。裏を返せば、1つの島の森が消えるだけで種がまるごと絶滅しうるということでもある。

新種記載は今も止まっていない

「発見され尽くした国」ではない。2000〜2025年の25年間だけで維管束植物792種が新種として正式記載された(2026年の学術レビュー)。近年の代表例:

年月 場所・特徴
2025年5月 スガ(ツトガ科)の蛾 40種 ベルリン自然史博物館の収蔵標本から一括記載
2025年10月 管鼻コウモリ 6種 ロイヤル・オンタリオ博物館・フィールド博物館等。保護林内で発見
2025年11月 ウツボカズラ Nepenthes megastoma パラワン固有・近絶滅。プエルト・プリンセサ地底河川国立公園。記載直後から違法採取品がメトロマニラで売買されていると報告
2026年3月 ヤモリ Luperosaurus alvarezi シブヤン島(ロンブロン州)固有
2026年7月 ヘルメット蘭 Corybas apoensis アポ山の蘚苔林。確認個体はわずか10株、既知の生育地は1か所のみ

「記載された瞬間に絶滅危惧種」というパターンが定着している。分類学の進展そのものが保全の緊急課題を増やし続けている構造である。


2. 象徴的な固有種

2-1. フィリピンワシ(Philippine Eagle/Pithecophaga jefferyi

項目 内容
地位 国鳥。IUCN 近絶滅種(Critically Endangered)
生息 ルソン島・サマール島・レイテ島・ミンダナオ島の4島のみ。個体の半数以上はミンダナオ
個体数 研究者間で見解が対立。90〜250つがい(=成熟個体180〜500)とする推計と、約392つがい(=つがいを構成する成鳥784羽相当)とする推計が並立。旧記載の「≒未成熟個体を含め784羽」は誤り ── 392×2=784 はつがいの成鳥数であって、未成熟個体・単独個体はこれに上乗せされる(総個体数はより多い)。2つの推計は「つがい数」どうしを比べれば 90〜250 vs 392 で、同じ土俵に載る(2026-08-25 相互照合で修正)。出典を一次資料に差替え(2026-08-26):高い側は査読論文 Sutton, L. J., Ibañez, J. C. ほか (2023) "Priority conservation areas and a global population estimate for the Critically Endangered Philippine Eagle", Animal Conservation, doi:10.1111/acv.12854(ZSL/Wiley)=生息適地面積(AOH) 28,624 km² から "a global population of 392 breeding pairs (range: 318–447 pairs), or 784 mature individuals" と推定。"784" は論文自身が "mature individuals"(成熟個体)と呼んでおり、未成熟個体は含まない(旧記載「≒未成熟個体を含め784羽」が誤りであることは論文原文で確定)。低い側は IUCNレッドリスト/BirdLife International 種ファクトシート(datazone.birdlife.org/species/factsheet/philippine-eagle-pithecophaga-jefferyi)の成熟個体 180〜500392つがい推計には査読上の異論が出ている("Uncertainty and Precaution in Estimating the Population Size of the Philippine Eagle" 2025/"A Call for Better Estimates of Philippine Eagle Population Size" 2025)ため、決着済みの数字として引かないこと。島別内訳(ミンダナオ82〜233つがい+サマール6・レイテ2・ルソン若干)は 一次資料未到達(2026-08-26時点)=IUCN/BirdLife の本文に直接到達できていない
必要面積 1つがいあたり7,000〜13,000 ha の原生林(だから密度は上げられない)
飼育繁殖 フィリピンワシ財団(PEF、1987年設立)が1992年1月15日に「パグアサ(Pag-asa=希望)」の人工孵化に成功。2004年に飼育個体の初放鳥
施設 フィリピンワシセンター(ダバオ市マラゴス、アポ山麓、8.4 ha)

2-2. タマラウ(Tamaraw/Bubalus mindorensis

ミンドロ島だけに生息する小型の野生水牛。近絶滅種。

個体数 備考
1960年代 約1万頭とされる 過去の推計
2025年 380頭 イグリット・バコ山群自然公園(MIBNP)コアゾーン
2026年 425頭(前年比+12%) 2026年4月15〜20日、19の観測地点・8セッション、DENR-MIMAROPA/タマラウ保全プログラム事務所(TCPO)
ミンドロ島全体 574〜610頭(2025年時点のDENR推計) MIBNP以外にSADIK重要生息地候補、上部アムナイ流域にも個体群

2-3. フィリピンメガネザル(Philippine Tarsier/Carlito syrichta

2-4. ジンベイザメ(Whale Shark/現地名 butanding)

ドンソル(Donsol、ソルソゴン州) オスロブ(Oslob、セブ州)
方式 餌付けなし(自然回遊) 餌付け(provisioning)あり、通年・毎日
開始 1990年代後半〜 2011年
ルール 1個体に1隻、同時6名まで、10分以内、4m以上離れる、フラッシュ禁止、接触禁止 行動規範はあるが遵守率が低い
規範遵守率 44%(2005年調査) 21.4%(2012年)→3.4%(2014年)へ低下
規模 中規模。シーズンは11月中旬〜5月中旬、最盛期2〜4月 世界最大の非飼育・餌付け型サイト

2-5. フィリピンセンザンコウ(Philippine Pangolin/Manis culionensis

2-6. 野生生物取引の全体像


3. 海 ── コーラル・トライアングルの中心

3-1. 「センター・オブ・ザ・センター」

フィリピンはコーラル・トライアングル(Coral Triangle)の中心に位置し、なかでもルソン島とミンドロ島の間のベルデ島海峡(Verde Island Passage/VIP)は、2005年の研究で「海洋沿岸魚類多様性の中心の中心(the center of the center)」と位置づけられた。VIPはバタンガス、ロンブロン、マリンドゥケ、東ミンドロ、西ミンドロにまたがる約114万 haの海域である。この位置づけを打ち出した研究の中心人物ケント・カーペンター(Kent Carpenter)氏は、南シナ海仲裁裁判でフィリピン側の専門家証人も務めた。

2026年7月12日、カーペンター氏はネグロス・オリエンタル州シブランの自宅で射殺された(享年73)。警察は強盗を主因とみて複数の容疑者を逮捕。フィリピン海洋科学界に大きな衝撃を与えた事件で、2026年の環境分野を語るうえで避けて通れない。

3-2. サンゴ礁の実態 ── 「良い」は残っていない

地点 白化した造礁サンゴ 2年間の被度変化
ボリナオ/アンダ(パンガシナン)、イバ(サンバレス) 60〜77%(多くが重度) −51〜59%
プエルト・ガレラ(東ミンドロ) 20〜43% −2%
ロボ(バタンガス) 20〜43% +20%

3-3. 海洋保護区と保護区制度

制度・区域 内容
RA 7586(1992)NIPAS法 国家統合保護区制度の基本法
RA 11038(2018)E-NIPAS法 保護区を法律で一括宣言。境界の実測(delineation)と標識・ブイ設置(demarcation)を規定
現況(2025〜2026) 251か所・約787万 ha。うちASEAN遺産公園14か所
RA 12238(2025年8月29日) パナオン島保護海景(Panaon Island Protected Seascape)を宣言。61,204 ha、リロアン/サンフランシスコ/ピントゥヤン/サンリカルドの4町。10年以上の調査で350個体超のジンベイザメを識別
大統領布告489号(2018) フィリピン海嶺(Philippine Rise、旧ベンハム海膨)海洋資源保護区 434,517 ha(厳正保護区49,684 ha+多目的利用区352,390 ha)。DENRとBFARの共同管理
PRICELESS プロジェクト(2026年〜) 地球環境ファシリティ(GEF第7期)出資、5年計画。対象はフィリピン海嶺 約1,300万 ha。DENR-BMB主導、BFAR共同議長、海軍・沿岸警備隊・PNP海上部隊・UPMSI・Rare・ハリボン財団が参加。2026年2月に立ち上げ
西フィリピン海のMPA構想(2026年7月) クナ長官がカラヤアン諸島群(Kalayaan Island Group)の生態学的重要海域をMPAとして宣言する方針を表明。2017〜2025年のCARE-CDRES/PROTECT WPS事業の科学的知見が根拠
VIPPS法案 ベルデ島海峡保護海景法案。2026年、漁民団体・科学者ら約30団体が施政方針演説(SONA)前に成立を要求

3-4. ベルデ島海峡の重油流出(2023年)とその後


4. 森林 ── 減少の歴史と再植林

4-1. 20世紀に何が起きたか

時期 森林被覆 備考
20世紀初頭 約2,100〜2,300万 ha(国土の70%超) 日本外務省資料等
2007年頃 約716万 ha(同24%) 同上
2015年 701.4万 ha DENR-FMB
2020年 722.6万 ha(+21万2,241 ha) DENR-FMB/NAMRIA 土地被覆図系の公式値(2026-08-25 相互照合で修正。旧記載は出所を「FAO 世界森林資源評価2025」としていたが、FAO基準の系列とは値が一致しない)
2022年(公式統計) 722万 ha=国土の24.07% Philippine Forestry Statistics
参考:FAO基準(同じ2020年) 718.9万 ha/2023年は729.3万 ha=24.46% 世界銀行WDI AG.LND.FRST.K2(FAO FRA準拠、lastupdated 2026-07-13。2026-08-25 に API で実取得)

2020年の内訳は閉鎖林(樹冠被覆40%超)222万 ha=30.7%/疎林(同10〜40%)469万 ha=65.0%/マングローブ31.1万 ha=4.3%。閉鎖林が増えたことが数字上の明るい材料である。

「フィリピンの森林率44%」と「24%」の両方が流通しているが、これは矛盾ではなく定義の違いである。 ・「森林地(forest land)」=法的な土地分類。1,580万 ha、国土の52.7%。樹木があるかどうかとは無関係。 ・「森林被覆(forest cover)」=実際に樹木がある面積。約722万 ha、24%。 ・衛星ベースのGlobal Forest Watch(GFW)の「自然林(natural forest)」=2020年時点で1,300万 ha、国土の44%。 つまり「44%」には2つの別々の出所(法的分類とGFWの自然林定義)があり、どちらも「実際の森林被覆24%」とは違う指標である。

衛星統計は「増減」ではなく「損失」を測る。GFWによれば2025年の自然林損失は3万2,000 ha(CO₂換算1,800万トン)、2001〜2022年の累計樹木被覆損失は142万 ha(7.6%減)。パラワンだけで2025年に4,500 haを失い、湿潤原生林は10%減と全国平均より悪化が速い。「公式統計は増、衛星統計は減」は矛盾ではなく、別々の質問に答えている。

4-2. 国家緑化計画(National Greening Program/NGP)

4-3. マングローブとブルーカーボン


5. 環境法の体系

法令 要点
PD 1152 フィリピン環境法典 1977 環境政策の包括法典
PD 1586 環境影響評価(EIS)制度 1978 環境重要事業(ECP)/環境重要区域(ECA)はECC必須
RA 7586 NIPAS法 1992 保護区制度。改正は2本(2026-08-26 の再確認で1本追加)。RA 10629(2013-09-26)§16(IPAF)を改正し、PAMB が当該保護区の収入の75%を留保できるようにした。②RA 11038(E-NIPAS、2018-06-22)第2・4・5・6・8・9・10・11・12・13・14・15・16・19・20・21条を改正し、§11-A(PAMB の権限)・§11-B(PAMO)・§16-A(免税)を新設、さらに§21 の後に §22〜§33 の12か条を挿入。前版は「第2・4・5・6・8・9・10・11・12・16条を改正し §11-A・§11-B を新設」としており、§13〜§15・§19〜§21 の改正、§16-A・§22〜§33 の新設、そしてRA 10629 の存在が抜けていた(RA 11038 §15 が "Section 16 of Republic Act No. 7586, as amended by Republic Act No. 10629, is hereby further amended" と書いていることで発覚)。LawPhil の RA 7586 頁は制定時原文なので、定義(§4)・PAMB(§11)・IPAF(§16)をそこから引くと現行法を誤る(2026-08-26 改正確認。出典:lawphil.net 収録 RA 11038 §1〜§20 原文/上院 LRB「Republic Act No. 7586 -- Amendments」/officialgazette.gov.ph 2013-10-01 掲載 RA 10629)
RA 8749 大気清浄法(Clean Air Act) 1999 「制御より予防」。移動・固定・面的発生源の3分類。エアシェッド(airshed)単位の管理、稼働許可、野焼き禁止。施行規則はDAO 2000-81
RA 9003 生態系固形廃棄物管理法 承認2001-01-26(短縮名は "of 2000") 自治体に最低25%の減量・分別(diversion)義務(第20条)。MRF(資源回収施設、第32条)とサニタリー・ランドフィル整備、オープンダンプ禁止(第37条) ── いずれも未改正。ただし第2・3・4・7・45・49・60条は RA 11898(2022)で改正済み。特に第4条の NSWMC 構成は「政府14+民間3」→「政府8+民間5」(2026-08-26 改正確認。出典:lawphil.net 収録 RA 11898 §4 原文)
RA 9147 野生生物資源保存保護法 2001-07-30 CITES国内担保法。ただしパラワン州内はPCSDが所管2026-08-26 改正確認:改正法は成立していない。罰則は制定時の第28条のまま(罰則引上げ案・全部置換案 HB 8586 は継続審議)。確認範囲は LawPhil の2023〜2026年 RA 一覧と表題検索であり、2002〜2022年の年次一覧は未通覧=「改正なし」の根拠としてはなお弱い(→ 同種の見落としが RA 7586/RA 10629 で実際に起きた。「環境行政とECC制度」§知らないと間違える点 13〜15 参照)
RA 9275 水質清浄法(Clean Water Act) 2004-03-22 水質管理区域(WQMA)の指定、排水許可制。改正法はない(2026-08-26 確認)が、第28条が「罰金は2年ごとに10%増額」と自動増額を定めているため、制定時の「1日1違反あたり1万〜20万ペソ」をそのまま現行額として書いてはならない(出典:lawphil.net 収録 RA 9275 §28 原文)
RA 9729 気候変動法 → RA 10174 2009-10-23 → 2012-08-16 気候変動委員会(CCC)設置。人民生存基金(People's Survival Fund)を年10億ペソで創設PSF の根拠は「RA 10174 第13条」ではなく、同条が RA 9729 に挿入したRA 9729 第18条(創設)・第19条(財源10億ペソ)・第20条(使途)・第21条(PSF理事会)。RA 10174 は他に RA 9729 の第2・3・4・5・6・7・9・11・12・15・16・17条を改正している(2026-08-26 改正確認。出典:lawphil.net 収録 RA 10174 原文)
RA 11038 E-NIPAS法 2018 保護区の法定化
RA 11898 拡大生産者責任法(EPR法) 2022年7月23日に大統領署名なしで法律化(lapsed into law)「2022年8月12日施行」は公布から15日後の施行日とみられるが本検証では官報の公布日を確認できていない(一次資料未到達) 後述。独立法ではなく RA 9003 の改正法。新章 §44-A〜§44-H を挿入するのは RA 11898 第6条(第2条ではない)
RA 11995 PENCAS法 2024年5月22日署名 後述
RA 12238 パナオン島保護海景法 2025 61,204 ha の海洋保護区
DAO 2026-30 NbS国家方針 2026年6月29日署名 後述

環境訴訟の武器 ── カリカサン令

2010年施行の「環境事件手続規則」により、「カリカサン令(Writ of Kalikasan、自然の令状)」と「継続的職務執行令状(Writ of Continuing Mandamus)」が創設された。2県以上の住民の健康・環境に影響する事案で提訴でき、フィリピン環境行政の実効性を語る際の中核概念である。マニラ湾浄化命令(2008年)は継続的職務執行令状の代表例

RA 11898(EPR法)── 企業実務で最重要

項目 内容
条文の引き方 RA 11898 は RA 9003 の改正法。対象事業者=RA 9003 §44-B、対象包装=§44-C、義務=§44-D、登録=§44-E、回収目標=§44-F、監査=§44-G、PRO=§44-H、罰則=§49(g)これら §44-A〜§44-H を挿入したのは RA 11898 第6条(第2条ではない。第2条は RA 9003 §2=政策宣言の改正)(2026-08-26 改正確認。出典:lawphil.net 収録 RA 11898 §6 原文)
対象 総資産(土地を除く)1億ペソ超の「義務事業者(obliged enterprise)」
対象素材 軟包装(サシェ・ラベル・多層ラミネート)、硬質容器・キャップ・蓋、レジ袋、発泡ポリスチレン
仕組み 自社単独または生産者責任組織(PRO)経由でEPRプログラムをNSWMC(国家固形廃棄物管理委員会)へ登録
回収目標 2023年分20%/2024年分40%/2025年分50%/2026年分60%/2027年分70%/2028年以降80%
報告 翌年6月30日までにEPR適合監査報告(ECAR)を提出。第三者監査人による検証が法定要件
実施規則 DAO 2023-02(IRR)/DAO 2024-04(報告・監査ガイドライン)
監督 DENR環境管理局(EMB)+NSWMC

実績(DENR発表、2026年2月)

対象年 法定目標 実績回収率
2023年 20% 33.16%
2024年 40% 55.98%

EPRの実務は「まず自社のプラスチック・フットプリントを素材・ブランド・製品ライン別に棚卸しする」ところから始まる。この基礎データがないとPROとの契約も目標設定もできない。フィリピンで消費財・小売を扱う日本企業が最初にぶつかる規制がこれである。2026年分(60%)は2027年6月30日までにECARを出す ── 今日の調達判断がその数字を決める。

RA 11995(PENCAS法)── 「自然を国民経済計算に載せる」法律

DAO 2026-30 ── 自然を基盤とする解決策(NbS)の国家方針

EIA/ECC制度の実務


6. マニラ湾 ── 浄化命令、白砂、埋立

6-1. 経緯

6-2. 水質の推移(基準は100 MPN/100mL)

時点・地点 糞便性大腸菌群
2019年 パドレ・ファウラ排水口 790万 MPN/100mL
2020年 ドロマイト前面A/B/C地点 350万/920万/160万
2022年5月 同A/B/C地点 1,600/1,100/920
2022年10月 湾全体平均 5万1,300(2019年は12万6,000)
2022年後半 ベイウォーク周辺 65万8,000(ピーク時575万から低下)
2023年1月/2月/7月 490/570/1,185(7月は南西モンスーン期の上昇)

劇的に改善した地点はあるが、いずれの時点でも遊泳基準の100を安定して下回ってはいない。「白砂ビーチができた=泳げる」ではない。

6-3. 論争の中身

6-4. 埋立プロジェクトの凍結 ── 2026年も決着していない


7. プラスチック汚染

7-1. 「世界最大の海洋プラスチック排出国」とされる根拠

「フィリピンが海洋プラスチック排出世界1位」はモデル推計であって、実測値ではない。 別のモデル(Lebreton ら2017)ではパシッグ川は世界8位、Jambeck ら(2015)ではフィリピンは3位。手法が変われば順位も桁も変わる。実地データが極端に乏しいことが、この分野最大の弱点である。 また「排出が多い」のは消費量が多いからではなく、島嶼国で川と海が近く、廃棄物管理から漏れやすい構造(leakage)による面が大きい。

7-2. 廃棄物管理の現況

指標 数値
固形廃棄物の年間発生量 906.9万トン(2000年)→ 1,663万トン(2020年) → 2,450万トン(2045年予測) 監査委員会(COA)2023年報告
サニタリー・ランドフィル 290か所(2022年)/稼働245か所は全1,634自治体のうち29.25%しかカバーしていない(2021年) DENR等
資源回収施設(MRF) 1万1,779か所。バランガイの39%(4万2,046のうち1万6,418)にしかない(2021年) DENR
新設実績 DENRの目標300か所に対し実績56か所(自治体の財政難が主因)

7-3. 法案と国際交渉(2025〜2026)


8. 大気と水


9. 気候変動への脆弱性

指標 内容
WorldRiskIndex 2025 193か国中1位、スコア46.56(「非常に高い」)「17年連続1位」は誤り。WeltRisikoBericht は2011年創刊、しかも2022年版で指数を全面改定しているため17年の連続記録は成立しない。改定後の2022〜2025年版で4年連続1位が正確(2026-08-25 相互照合で修正。出典:WorldRiskIndex-2025.xlsx 原データ/WeltRisikoBericht 2025 p.8・p.65。分野「気候変動と適応」§1-2 と整合)
内訳 曝露(Exposure)39.99=世界4位(中国64.59・メキシコ50.08・日本43.67に次ぐ/原データで再計算)/脆弱性(Vulnerability)54.20=世界21位
洪水リスク 世界9位(50.05)。州別ではカガヤン88.10が最悪、以下アグサン・デル・ノルテ87.51、パンガシナン85.19、パンパンガ83.49、マギンダナオ82.94、メトロマニラ81.12
発行元 ドイツの Bündnis Entwicklung Hilft + ボーフム大学 IFHV(2025年9月24日公表、特集テーマは「洪水」)

「損失と損害基金」のホスト国であること

国内の気候政策


10. ガバナンスと事件 ── 「守る側」が危険な国

記憶されるべき近年の事例

事案
2024年3月 チョコレート・ヒルズ(ボホール州)のリゾート問題。1997年の大統領布告1037号で国定地質記念物・保護景観に指定された区域内に「Captain's Peak Resort」がECCなしで営業していたことがSNSで炎上。DENRの閉鎖命令は2023年9月に出ていたが実効性がなく、サグバヤン町がECC不在のまま建築許可・営業許可を出していた。上院が調査決議。中央(DENR)と地方(LGU)の許認可の断絶を露呈した事件
2025年3〜4月 マスンギ・ジオリザーブ(リサール州、シエラマドレ山脈)。DENRが開発事業者ブルースター社との補足合弁契約を解除し、130 ha のマスンギ国立公園・野生生物保護区からの退去を命令。1997年の職員住宅事業の未完了、大統領布告の欠如、入札手続の不備(2014年のCOA指摘)が理由。マスンギ側はE-NIPAS法上の非国家主体との協定権限を根拠に反論。上院ブルーリボン小委員会が調査。ロイサガ長官(当時)は「マスンギは特別扱いしない」と発言し、俳優レオナルド・ディカプリオが保護を呼びかけたことでも国際的な注目を集めた
2025年11月 DENRがマスンギ側の申立て(リサール・ウィンド・エナジー社 603MW 風力事業のECC取消・操業停止)を却下。担当官は「重大かつ回復不能な環境損害を認めるに足る根拠がない」と判断。合弁契約解除に対する再審査請求はDENRで係属中
2026年7月 海洋生物学者ケント・カーペンター氏の殺害(第3章参照)

2026年の行政体制


11. 知らないと間違えやすい点(まとめ)

  1. 「森林率44%」と「24%」は矛盾ではない。44%には「法的分類の森林地(52.7%)」とGFWの「自然林(44%)」という別々の出所があり、実際の森林被覆は約24%。混ぜて論じない。
  2. 公式統計(増加基調)と衛星統計(損失計上)は別物。FAO/DENRの「722万 ha へ増加」とGFWの「2025年に3.2万 ha 喪失」は、どちらも正しく、測っているものが違う。
  3. 「フィリピンは海洋プラスチック排出世界1位」はモデル推計。別モデルでは順位も量も大きく変わる。実測データが乏しいことこそが問題。
  4. マニラ湾の白砂(ドロマイト)は水質改善策ではない。批判の核心は「未処理下水(下水道接続率約15%)を放置して景観だけ整えた」優先順位。2026年時点でも遊泳可能水質ではない。
  5. マニラ湾の埋立は2023年8月以来、大半が停止したまま。2026年に一部再開が報じられたが全面解除の公式発表は確認できない。「解禁された」前提で事業を語らない。
  6. タマラウ425頭(2026年)は国立公園コアゾーンの数字。ミンドロ島全体は574〜610頭(2025年推計)。
  7. フィリピンワシの個体数推定は研究者間で対立中。「250羽しかいない」と断定調で書くのは危険。2026年の新情報は個体数ではなく遺伝的多様性の極端な低さである。
  8. ジンベイザメは「オスロブ=餌付け(合法・継続中)」「ボホール=2026年に餌付け全面禁止」「ドンソル=元から餌付けなし」。一括りにできない。
  9. ECCは操業許可ではない。他の許認可の前提条件にすぎず、取得後も環境ユニット設置(60日以内)と半期報告が続く。逆に、ECCがあっても保全団体からの取消申立てにさらされうる。
  10. EPR法の回収目標は毎年上がる(2025年分50%→2026年分60%→2028年以降80%)。「一度対応すれば終わり」ではない。2026年8月には155社に釈明命令が出ている。
  11. 保護区の数字は出典で違う。国のNIPAS保護区(2026年時点で251/約787万 ha)と、自治体設置の小規模MPA(数千)を混同しない。
  12. パラワン州内の野生生物法(RA 9147)の所管はDENRではなくPCSD。手続の相手先を間違えると進まない。
  13. 2035年NDCは未提出(2026年8月時点)。「フィリピンの2035年目標は◯%」と書けない状態にある。
  14. フィリピンはFRLD(損失と損害基金)のホスト国だが、資金が優先的に来るわけではない。基金自体が28億ドルの不足を抱える。
  15. 環境NGO・地域活動家の安全は現実の論点である。アジア最多の犠牲者数が12年連続で続いている事実を、環境ビジネスの与件から外さない。


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