フィリピンの観光産業
1. 全体像 ── 「客数は伸びないが、金額は過去最高」という国
フィリピン観光の最大の特徴は、訪問者数が2019年水準に戻らないまま、観光収入だけが2019年を超えたという点である。
| 指標 | 2019年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 外国人訪問者数 | 8.26百万人(過去最高) | 5.95百万人 | 5.94百万人(ほぼ横ばい) |
| 訪問者総数(在外フィリピン人含む) | ─ | ─ | 6.48百万人(+0.76%) |
| 訪問客支出(DOT/入国管理局ベース) | 約6,000億ペソ | 7,605億ペソ(過去最高) | 約6,940億ペソ(−9.5%) |
(出典:フィリピン観光省(DOT)、入国管理局(BI)、AMRO/ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス)
注注 (2026-08-25 相互照合で検出した本稿内部の不整合。このまま引用しないこと。) ① 2025年の訪問客支出の増減率が合わない。 7,605億ペソ → 6,940億ペソ は −8.7% であって、表に書かれた −9.5% にはならない。原因は (a) 2024年値、(b) 2025年値、(c) 増減率、のいずれかの取り違えと考えられる。DOTの一次発表で未確認。 ② 2025年の外国人訪問者数の増減率が §13 と食い違う。 本表では 2024年 5.95百万人 → 2025年 5.94百万人(=約 −0.2%)だが、§13の表は「約594万人(+0.3%)」としている。§13の +0.3% は「訪問者総数(在外フィリピン人を含む、6.48百万人・+0.76%)」または eTravel ベースの系列を混ぜた可能性が高いが未確認。 ③ §4の「インバウンド(約7,000億ペソ)」も、本表の2024年値7,605億ペソと一致しない。 教訓:本稿は §1 で「同じ年について3つの数字が流通する」と警告しておきながら、自分の中でその3系列を混ぜてしまっている。 支出・人数を引く際は、必ず「eTravelベース/BIベース/balikbayan込み」のどれかを明示すること。
2024年の訪問客支出は2019年比 +26.7%。「人数は3割減ったのに、金額は3割近く増えた」(AMRO, 2025年)。滞在日数の長期化と単価上昇が理由である。
注 数字の出所で値が変わる。 DOTは①DICTのeTravel(電子入国申告)と②入国管理局(BI)の2系統を併用しており、2025年は eTravel ベース 586万人、BIベース 594万人と差が出る。さらに「在外フィリピン人(balikbayan)を含む総数」で語る記事もあるため、同じ年について5.6百万・5.9百万・6.4百万という3つの数字が同時に流通している。 引用時は必ず定義を確認すること。
2. 目標未達が常態化している
| 年 | DOT目標 | 実績(外国人) | 達成率 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 4.8百万 | 5.45百万 | 超過達成 |
| 2024年 | 7.7百万 | 5.95百万 | 約77% |
| 2025年 | 8.4百万(後に7.7百万に修正) | 5.94百万 | 約71〜77% |
| 2026年 | 6.7百万(目標を大幅に下方修正) | 1〜7月で 3.7百万(+4.25%) | 進捗約55% |
2026年の目標設定は、2年連続の未達を受けて現実路線へ切り下げられた。1〜6月は318万人(+5.41%)で、2019年同期比 76.5% にとどまる。
予算という制約
フラスコ前長官は「到達できる数字は与えられた予算で決まる」と繰り返し主張していた。2025年のプロモーション予算はわずか 1億ペソ規模とされ、タイ・ベトナムとの広告投下量の差が構造的な弱点になっている。2026年8月、DOTは「Love the Philippines」ブランド刷新のため 約3.98億ペソ(戦略約1.50億+グローバル媒体展開約2.48億)の入札を公示した。
注 「Love the Philippines」は2023年の立ち上げ動画にブラジル・スイス・UAE等の外国ストック映像が混入していたことで炎上し、広告代理店DDBとの契約が解除された経緯がある。2026年6月時点でDOTは「Discover More to Love は置き換えではなく補完」と説明し、ブランド自体は存続している。
人事
2026年4月10日、ディタ・アンガラ=マタイ(Maria Bernardita "Dita" Angara-Mathay)が観光長官に就任。前任クリスティーナ・ガルシア=フラスコ(Christina Garcia Frasco)は大統領顧問へ転出した。新長官は通商産業省(DTI)出身で、直前は在東京フィリピン貿易投資センターの商務参事官。日本市場との距離が近い人事である。
3. 出発国の構図 ── 韓国の陥落と中国の反転
2026年1〜6月の上位市場
| 順位 | 市場 | 到着数 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 1 | 米国 | 581,565 | +6.9% |
| 2 | 韓国 | 552,860 | −13.7% |
| 3 | 日本 | (3位、+6.87%) | +6.87% |
| 4 | 中国 | 219,796 | +64.5% |
| 5 | オーストラリア | 174,257 | +12.3% |
| 6 | カナダ | 156,763 | +15.6% |
| 7 | 台湾 | 111,134 | +11.9% |
| 8 | 英国 | 92,829 | +1.7% |
| 10 | インド | 60,583 | +43.0% |
(出典:DOT/BusinessMirror 2026年7月)
2026年、米国が韓国を抜いて最大の送出国になった。 これはフィリピン観光史における構造転換である。米国市場の中心は フィリピン系米国人(Fil-Am)の里帰り需要であり、景気変動に強い一方、単価と行き先が偏る。
韓国の失速(最重要)
韓国は長年ダントツ首位で、セブ・ボホール・ボラカイの経済を支えてきた。しかし 2025年は約113万人(11月時点、−21%)、2026年もマイナスが続く。理由は複合的である。
- 治安不安。 2025年4月、アンヘレス市で韓国人観光客が強盗殺害された動画が韓国で拡散。パンパンガでの射殺事件、バタンガスでの外国人誘拐なども重なり、駐マニラ韓国大使館が繰り返し注意喚起を出した。
- 韓国側の海外旅行需要そのものの鈍化と、日本・ベトナムなど競合先の攻勢。
- セブの渋滞を嫌い、直行便が増えたボホールへ需要が流出(セブ域内でのシェア移動)。
DOTは「韓国市場は2019年比 62.9% まで回復」と説明し、韓国の旅行会社15社との共同販促、観光警察8,000人超の研修などで巻き返しを図っている。
中国人観光客の減少と、その反転
- 2019年、中国は総到着の21.1%を占める第2の市場だった。それが 2024年は312,342人=2019年比17.9%、シェア5.3% まで崩落した(AMRO)。2025年も 237,101人(−14.3%)と底這い。
- 理由は観光ではなく安全保障である。 南シナ海(西フィリピン海)での対立、中国人によるスパイ活動摘発、POGO(オフショア賭博)に絡む犯罪多発を背景に、フィリピンだけがビザ緩和に踏み切れず、eVisaも停止された(日本経済新聞ほか)。近隣諸国が中国向けビザ免除で客を取り戻す間、フィリピンは取り残された。
- 転機は2026年1月16日。 フィリピン外務省は中国国籍者に対し 14日間のビザ免除(観光・商用限定、延長・変更不可、入国空港は NAIAとマクタン・セブ国際空港に限定、1年間の暫定措置)を開始。結果、2026年1〜7月の中国人到着は前年比 +67% と急反発した。
- インドにも2025年から14日間ビザ免除(豪・加・日・シェンゲン・星・英・米のビザ/永住権保持者は30日)を適用。台湾も免除対象で、この3市場が2026年の伸びを牽引している。
注 全渡航者に eTravel(etravel.gov.ph)の出発72時間以内の登録が必要。 ビザ免除でもこれは免除されない。
4. GDP寄与と雇用(観光サテライト勘定=PTSA)
| 指標 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| TDGVA(観光直接粗付加価値) | 2.12兆ペソ | 2.35兆ペソ(+11.2%) | ─ |
| 対GDP比 | 8.7%前後 | 8.9%(2019年の12.9%以来の高水準) | 8.1%(速報) |
| 観光産業の就業者 | 6.37百万人 | 6.75百万人(+6.1%) | ─ |
| 総就業に占める比率 | ─ | 13.8% | ─ |
(出典:フィリピン統計庁(PSA)観光サテライト勘定、2025年6月公表)
就業の7人に1人が観光関連という比率は、この産業がフィリピンにとって「雇用装置」であることを示す。内訳は健康・ウェルネス 183万人(27.1%)、宿泊・飲食 169万人(25.0%)、旅客輸送 167万人(24.7%)。
TDGVAの中身は買い物 21.8%(5,127億ペソ)、その他サービス20.2%、宿泊18.4%。「ビーチ」より「消費」が金額を作っている。
国内観光が主役である。 2024年の国内観光支出は 3.16兆ペソ(+16.4%)で、観光支出全体の約4分の3。インバウンド(約7,000億ペソ)の4倍以上。フィリピン観光を語るとき、外国人だけを見るのは誤りである。
観光旅行者の集中も課題で、外国人の宿泊延べ数の6割超がNCR(首都圏)と中部ビサヤ(セブ)に集中している(AMRO)。
5. 出国税(トラベルタックス)とTIEZA
フィリピンから出国する際に課される税で、観光インフラ企業ゾーン庁(TIEZA)が徴収する。国内旅行にはかからない。
| 年 | 徴収額 |
|---|---|
| 2019年 | 71億ペソ |
| 2023年 | 63億ペソ |
| 2024年 | 78億ペソ |
| 2025年 | 約87億ペソ(コロナ前を大幅超過) |
配分は TIEZA 50%/高等教育委員会(CHED)40%/国家文化芸術委員会(NCCA)10%(共和国法9593第73条)。TIEZAは2021〜2025年に200件超の観光インフラ事業(主要街道の休憩所34か所など)を実施した。
注 廃止法案が下院委員会を通過し、マルコス大統領が優先法案に指定している。 財務省は年約80億ペソの減収と試算。成立すればTIEZA・CHED・NCCAの財源が消えるため、成否は2026年時点で未確定。
(2026-08-26 改正確認)観光法(RA 9593)は改正されている。 - RA 11262("An Act Amending Sections 85 and 103 of Republic Act No. 9593"、承認 2019-04-10)。 - 条番号の対応=RA 11262 第1条が RA 9593 第85条を改正、同第2条が RA 9593 第103条を改正。注「RA 11262 第85条」ではない。 - 改正後の第85条は、観光インセンティブについて TIEZA に "sole and exclusive jurisdiction"(専属的管轄) を与え、優遇制度の期限を2029年12月31日まで延長した(議会レビュー付き)。大型投資と中小企業を優先し、在外フィリピン人投資家に内国民待遇を与え、税関・内国歳入庁と連携して優遇の濫用を防ぐ旨も定める。 - 改正後の第103条は、観光長官に対し月次の観光客到着統計と四半期の実施報告を合同議会監督委員会へ提出することを義務づける。 - 本節で使っている第73条(出国税の配分=TIEZA 50%/CHED 40%/NCCA 10%)は RA 11262 の改正対象外であり、現行のままである。 - 注TIEZA の「専属的管轄」(RA 9593 第85条)と、CREATE(RA 11534)第293条(H) が TIEZA を投資促進機関(IPA)の1つとして FIRB 体制に組み込んだこととの関係は、本検証では確定できていない(要個別確認)。
(出典:最高裁 E-Library 掲載 RA 11262 本文 https://elibrary.judiciary.gov.ph/thebookshelf/showdocs/2/88235、2026-08-26 取得)
6. 観光インフラ ── 空港が最大のボトルネック
ニノイ・アキノ国際空港(NAIA)の民営化
- 2024年9月、サンミゲル(SMC)主導のNew NAIA Infrastructure Corp.(NNIC)が運営を引き継いだ。政府への収益分配率82.16%という破格の条件で落札。
- 目標は年間旅客処理能力を 3,500万人 → 6,200万人、時間当たり発着回数を 42回 → 48回 へ。当初5年間で720億ペソを投じる計画。 注 (2026-08-25 相互照合)投資額が資料間で食い違う。 本稿「5年間で720億ペソ」/分野資料「財閥・企業グループ」9-1「設備投資1,235億ペソ」。前者が当初5年分、後者がコンセッション全期間の計画額を指している可能性が高いが、一次資料(DOTr/NNIC事業計画)では未確認。両方を残す。 政府への支払い条件は両資料で一致:前払い300億ペソ+年間定額20億ペソ+収益分配82.16%。政府が見込む収入は総額9,000億ペソ・年360億ペソ。 注 政府への実納付額も食い違う(「13カ月で520億ペソ」/「民営化1年で570億ペソ」)。期間の取り方が違うため、引用時は「何カ月分か」を必ず明記すること。
- 民営化初年度の実績は 旅客5,170万人・28.3万便(前年比+290万人)。入国審査の電子ゲート60台導入など待ち時間短縮が進む。ターミナル4・5の新設、地下鉄接続も構想にある。
新マニラ国際空港(New Manila International Airport/ブラカン)
- サンミゲル・エアロシティによる 2,500ヘクタールの埋立地上の巨大空港。総事業費 7,356億ペソ規模。 注 (2026-08-25 相互照合)分野資料「建設産業」7章は同事業を「150億ドル」とする。 2026年8月のレート(約61.8ペソ/ドル)では150億ドル≒9,270億ペソで、7,356億ペソ(≒119億ドル)と一致しない。当初発表額とペソ建て改定額、あるいは第1期分と全体の混在が疑われるが一次資料(SMC開示/DOTr)では未確認。両方を残す。
- 第1期で年3,500万人、最終的に 滑走路4本・年1億人を想定。
- 注 遅延している。 2023年のマニラ湾埋立停止令に伴う砂の調達難で第1期が1年遅れ、旅客ターミナル着工は2026年1月、完成は 2028年後半の見通し。
地方空港
- マクタン・セブ国際空港(MCIA):アボイティス・インフラキャピタル運営。2026年1〜6月で 646.7万人(+9.1%)、国際線は +18.4%。2026年1月は単月過去最高の 130万人。ベトナム航空、エアロK、ジェットスター等が就航し、ハノイ・清州・ブリスベン・マカオ線が開設。ACIから「アジア太平洋ベスト空港(年間500〜1,500万人部門)」を受賞。
- 注 2026年6月は国際線が前年割れ(−5.8%)。米・イラン情勢に伴う燃油サーチャージ引き上げ(CABレベル19)が需要を冷やしている。
- ボホール・パングラオ国際空港(TAG):2026年5月2日、セブパシフィックが 成田=ボホール のチャーターを初運航。第2の国際ゲートウェイ化が進む。
- 新シアルガオ空港、ブスアンガ空港、南パラワン空港の整備がNEDAで進行中。
7. ボラカイ閉鎖(2018年)と環境収容力
これはフィリピン観光政策の分水嶺であり、世界のオーバーツーリズム論でも頻繁に引用される事例である。
- 2018年4月26日〜10月26日の6か月間、全面閉鎖。 ドゥテルテ大統領が「肥溜め(cesspool)」と表現した水質汚染と、無秩序な開発が理由。閉鎖前の島内人口(観光客含む)は 1日あたり70,781人。
- 措置: 汀線から30m以内の海岸後退帯(easement)規制で 約900軒を撤去。下水処理・排水設備を刷新。宿泊提供を認められる施設を 353軒に限定。2022年にはDENRが「排水の8割超を処理」と報告した。
- 環境収容力(carrying capacity): DENR委託調査により 同時滞在19,215人/1日あたり新規到着6,405人 と設定。民間航空委員会(CAB)が航空会社に遵守を求めた。
注 上限は守られていない。 2022年の聖週間に21,252人・22,519人と突破し、直近の聖週間には 聖金曜日に32,780人というコロナ後最高の超過を記録した(自治体観光局データ)。PCCIボラカイ支部は「上限は改修前の前提で算定されたもの」として見直しを要求しており、環境収容力と経済のせめぎ合いは決着していない。
8. カジノ・統合型リゾート(IR)
業界規模
| 区分 | 2024年 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 総粗収益(GGR) | 3,723億ペソ | 3,961億ペソ | +6.39% |
| うち電子・オンライン | 1,547億ペソ | 2,011億ペソ | +30.0% |
| うちライセンスカジノ(陸上) | 2,018億ペソ | 1,825億ペソ | −9.6% |
| うちPAGCOR直営カジノ・フィリピノ | ─ | 125億ペソ | 約−21% |
(出典:PAGCOR、2026年4月公表。約66億米ドル規模)
2025年、オンライン・電子ゲーミングが全体の 50.77% を占め、初めて実店舗カジノを上回った。 「オンラインは補助的セグメントではなく成長の主役」(テンコPAGCOR会長)。
エンターテインメント・シティ(Entertainment City)
マニラ湾岸パラニャーケ市、NAIAから車で約10分。PAGCORが造成した「東南アジアのラスベガス・ストリップ」構想の区域。
| 施設 | 運営 | 開業 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ソレア(Solaire Resort Entertainment City) | ブルームベリー(エンリケ・ラソン) | 2013年 | 区域第1号。ケソン市に「ソレア・ノース」も展開 |
| シティ・オブ・ドリームス・マニラ | メルコ+SM/ベル | 2015年 | 6.2ha。4社中唯一オンライン賭博を運営しない |
| オカダ・マニラ | タイガー・リゾート(Tiger Resort) | 2016年 | 2026年Q1のGGRが17%減 |
| ウエストサイド・シティ(Westside City) | トラベラーズ+サントラスト(アライアンス・グローバル) | 2026年Q3予定 | 31ha・12.5億ドル。客室2,500超、「アジアのブロードウェイ」を掲げるグランド・オペラハウスが目玉 |
注 ニューポート・ワールド・リゾーツ(Newport World Resorts)はエンターテインメント・シティではない。 NAIA第3ターミナル向かいのニューポート・シティ(パサイ市)にあり、2009年開業のメトロマニラ初のIR(旧リゾーツ・ワールド・マニラ、2022年に改称)。運営はトラベラーズ・インターナショナル。
PAGCORの民営化(decoupling)
- PAGCORは規制者でありながら45か所のカジノ(カジノ・フィリピノ)を自ら運営しており、この二重の立場が利益相反として長年批判されてきた。
- 方針は「純粋な規制機関」への転換。カジノ・フィリピノの売却で300〜500億ペソ(約5.3〜8.9億ドル)を見込む。
- 注 何度も延期されている。 当初2025年Q3開始→2026年→現行の見通しは 2026年後半〜2027年。GOCC統治委員会(GCG)の審査、続いて大統領府の承認(大統領令等)が必要。
- 評価額も800億→600億→300〜500億ペソと縮小した。テンコ会長いわく「PAGCORは物件を所有せず賃借しているため、売るのはライセンスと将来収益」。
- 民営化後は収入源がライセンス料・規制料に一本化される。現行法では収入の約7割が国庫・社会事業に充てられており、この配分構造が変わる。
POGO禁止の後遺症
- 2024年7月の施政方針演説でマルコス大統領がPOGO(フィリピン・オフショア賭博事業者)の全面禁止を表明、大統領令74号で2024年末までに全事業停止。2025年10月、共和国法12312「反POGO法」で恒久禁止が法制化された(初犯で懲役6〜8年、罰金30万〜1,500万ペソ)。2026年4月、司法省は「POGOは完全に根絶された」と宣言。
- 影響:DOLEは 30,567人(直接27,790・間接2,777)の労働者に影響と推計。PAGCORの2025年賭博収入は951.5億ペソ(−2.4%)、総収入1,060.3億ペソ(−5.09%)。
- 意図せぬ帰結として、ジャンケット(仲介業者)経由のVIP・ハイローラー市場が大きく縮小した。 カジノの収益構造は「外国人VIP」から「国内マス市場+オンライン」へ反転した。
- 副次的な成果として、2025年2月にFATF(金融活動作業部会)がフィリピンをグレーリストから除外した(カジノ・ジャンケットのAML監督改善が評価要素の一つ)。
9. MICE(会議・報奨旅行・国際会議・展示会)
- PICC(フィリピン国際会議場):1976年開業の同国初の国際会議場。2026年の第48回・第49回ASEAN首脳会議と開場50周年に向け、2025年3〜9月に全面改修。本会議場は3,500席超。
- SMXコンベンションセンター(SMプライム系):2026年上半期の来場者 430万人(+18%)、開催イベント 807件。WORLDBEX、International Travel Expo、Franchise Asia Philippines等。
- SMXコンベンションセンター・シーサイド・セブ:南部道路用地(SRP)に 53億ペソを投じ2026年内開業予定。延床4万m²超・貸出可能面積2.1万m²で国内最大級。隣接して16,000席のSMシーサイド・アリーナ、パークイン300室、ラディソン200室。
- パサイ市に SMXCITE(1.8万m²)を2027年初頭開業予定。
- ASEAN観光フォーラム(ATF)+TRAVEX 2026 は2026年1月27日〜2月4日、セブ(マクタン)で開催され700名超が参加。SMXが「ASEAN最優秀コンベンションセンター2026」を受賞。
- 2026年2月、DOTはマニラ・クラーク・ボラカイ・イロイロ・セブ・ボホール・ダバオの7都市MICEガイドブックを発行。
10. クルーズ
| 項目 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 寄港数 | 136回 | 1〜2月で26回、通年127回の予測 |
| 海路到着者 | 43,369人(+26.9%、DOT)/56,040人(BI) | 1〜2月で 76,188人(PPA) |
主要寄港地は マニラ、プエルト・プリンセサ、ボラカイ。マニラのエバ・マカパガル・クルーズターミナルでは ターンアラウンド(発着母港)寄港が2026年4月時点で6回(前年2回)へ増加し、「寄港地」から「母港(homeport)」への転換が進みつつある。
- DOTは約7,000件のクルーズ・ビザ免除を運用し、シアルガオ(ダパオ・ジュバン)、コロン、カミギン、プエルト・ガレラ、マニラ南港などで港湾整備を進める。2026年1月に国家クルーズ観光開発戦略の下で委員会を再編。
- スービック湾自由港が数十億ペソ規模の大型船対応ターミナルで最有力の対抗馬。マニラのピア15は混雑が制約となっている。
11. 医療ツーリズムとウェルネス
- 市場規模は 2025年で約17億米ドル、2034年に約50億米ドル(年率12.4%)との民間推計(ResearchAndMarkets/IMARC等)。ただし民間調査会社の推計であり、政府統計ではない。
- 主力は 美容整形・歯科・整形外科。2025年は美容・歯科・整形が牽引し収入が前年比19%増との業界調査もある。
- DOT認定施設には The Medical City、マカティ・メディカル・センター、セント・ルークス・メディカル・センター、歯科では GAOC(Gan Advanced Osseointegration Center)が第1号として挙がる。2024年5月に「Filipino Brand of Wellness」モジュールを開始、38か国が参加する国際健康・ウェルネス観光会議も立ち上げた。
- 注 タイ・インド・マレーシアに比べて未成熟である。 国際認証(JCI等)取得施設の少なさ、統治の分断、医療人材の海外流出が制約。逆にフィリピン人が韓国へ美容医療に行く流れの方が目立つ側面もあり、「送り出し国」でもある点に注意。
- PTSAでは「健康・ウェルネス」が観光雇用の最大区分(183万人)だが、これは国内向けサービスを広く含む定義であり、インバウンド医療ツーリズムの規模とは別物である。
12. 語学留学(ESL)産業
日本人にとって最も身近な「フィリピン観光産業」がこれである。マンツーマン授業と低価格を武器に、2000年代初頭に韓国人留学生の流入で立ち上がった。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| CALA(セブ語学学校協会)加盟校の受入 | 2025年2月〜2026年1月で約19,000人 |
| うち日本 | 7,106人(最大市場) |
| うち台湾 | 約5,000人 |
| うち韓国 | 2,761人 |
| うち中国 | 約2,000人 |
| セブの語学学校数 | 約110校 |
| コロナ前の外国人学生総数(PSAC推計) | 約35,000人 |
2026年時点で、セブの語学学校における最大の顧客は日本である。 かつての韓国一強は終わっている。
- 地域特性: セブ=最大規模・初心者向け/バギオ=「スパルタ」式の厳格・没入型(涼しい高地)/マニラ=大都市型・大学進学接続/クラークも拠点。
- 新市場は中東・北アフリカ(MENA)。 DOT中部ビサヤ地方局は、エジプト・サウジアラビア・インド・ベトナム・モンゴルからの学生が増えていると説明。マクタンの学校が中心。
- 行政の位置づけは「教育ツーリズム(education tourism)」。滞在が長く支出が大きい高付加価値セグメントとされ、韓国人レジャー客の減少をESLが埋める構図がセブで生じている。
- マルコス大統領は外務省に留学生ビザ手続きの簡素化・標準化を指示済み。
13. ASEAN内での位置づけ
| 国 | 2025年の外国人到着(概数) |
|---|---|
| タイ | 約3,300万人(−7.2%) |
| マレーシア | 1〜8月で2,820万人(+14.5%、日帰り含む) |
| ベトナム | +21.5%と域内最速の伸び |
| フィリピン | 約594万人(注+0.3% は §1 の表(2024年5.95百万→2025年5.94百万=約−0.2%)と食い違う。系列の混在。2026-08-25 相互照合で検出、§1の注記参照) |
フィリピンは主要ASEAN諸国の中で最小のインバウンド市場であり、それはコロナ前からそうだった。(2019年:タイ4,000万、マレーシア2,600万、インドネシア1,600万、シンガポール1,500万に対しフィリピン826万)
構造要因: 1. 群島国家ゆえの島間移動コストと乗り継ぎの多さ(陸路の隣国流入がない) 2. 空港の処理能力と到着体験の悪さ(入国審査の行列、手荷物の遅延) 3. 観光インフラ投資の相対的な少なさとプロモーション予算の小ささ 4. 中国市場の消失(2024年時点で2019年比17.9%) 5. 治安に関する渡航情報(2025年は主要市場から34件の渡航警報が出されたとDOTが説明)