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フィリピンの観光産業

情報基準日:2026-08-26 / 分野:観光・旅行


1. 全体像 ── 「客数は伸びないが、金額は過去最高」という国

フィリピン観光の最大の特徴は、訪問者数が2019年水準に戻らないまま、観光収入だけが2019年を超えたという点である。

指標 2019年 2024年 2025年
外国人訪問者数 8.26百万人(過去最高) 5.95百万人 5.94百万人(ほぼ横ばい)
訪問者総数(在外フィリピン人含む) 6.48百万人(+0.76%)
訪問客支出(DOT/入国管理局ベース) 約6,000億ペソ 7,605億ペソ(過去最高) 約6,940億ペソ(−9.5%)

(出典:フィリピン観光省(DOT)、入国管理局(BI)、AMRO/ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス)

(2026-08-25 相互照合で検出した本稿内部の不整合。このまま引用しないこと。) ① 2025年の訪問客支出の増減率が合わない。 7,605億ペソ → 6,940億ペソ は −8.7% であって、表に書かれた −9.5% にはならない。原因は (a) 2024年値、(b) 2025年値、(c) 増減率、のいずれかの取り違えと考えられる。DOTの一次発表で未確認。 ② 2025年の外国人訪問者数の増減率が §13 と食い違う。 本表では 2024年 5.95百万人 → 2025年 5.94百万人(=約 −0.2%)だが、§13の表は「約594万人(+0.3%)」としている。§13の +0.3% は「訪問者総数(在外フィリピン人を含む、6.48百万人・+0.76%)」または eTravel ベースの系列を混ぜた可能性が高いが未確認。 ③ §4の「インバウンド(約7,000億ペソ)」も、本表の2024年値7,605億ペソと一致しない。 教訓:本稿は §1 で「同じ年について3つの数字が流通する」と警告しておきながら、自分の中でその3系列を混ぜてしまっている。 支出・人数を引く際は、必ず「eTravelベース/BIベース/balikbayan込み」のどれかを明示すること。

2024年の訪問客支出は2019年比 +26.7%「人数は3割減ったのに、金額は3割近く増えた」(AMRO, 2025年)。滞在日数の長期化と単価上昇が理由である。

数字の出所で値が変わる。 DOTは①DICTのeTravel(電子入国申告)と②入国管理局(BI)の2系統を併用しており、2025年は eTravel ベース 586万人、BIベース 594万人と差が出る。さらに「在外フィリピン人(balikbayan)を含む総数」で語る記事もあるため、同じ年について5.6百万・5.9百万・6.4百万という3つの数字が同時に流通している。 引用時は必ず定義を確認すること。


2. 目標未達が常態化している

DOT目標 実績(外国人) 達成率
2023年 4.8百万 5.45百万 超過達成
2024年 7.7百万 5.95百万 約77%
2025年 8.4百万(後に7.7百万に修正) 5.94百万 約71〜77%
2026年 6.7百万(目標を大幅に下方修正) 1〜7月で 3.7百万(+4.25%) 進捗約55%

2026年の目標設定は、2年連続の未達を受けて現実路線へ切り下げられた。1〜6月は318万人(+5.41%)で、2019年同期比 76.5% にとどまる。

予算という制約

フラスコ前長官は「到達できる数字は与えられた予算で決まる」と繰り返し主張していた。2025年のプロモーション予算はわずか 1億ペソ規模とされ、タイ・ベトナムとの広告投下量の差が構造的な弱点になっている。2026年8月、DOTは「Love the Philippines」ブランド刷新のため 約3.98億ペソ(戦略約1.50億+グローバル媒体展開約2.48億)の入札を公示した。

「Love the Philippines」は2023年の立ち上げ動画にブラジル・スイス・UAE等の外国ストック映像が混入していたことで炎上し、広告代理店DDBとの契約が解除された経緯がある。2026年6月時点でDOTは「Discover More to Love は置き換えではなく補完」と説明し、ブランド自体は存続している。

人事

2026年4月10日、ディタ・アンガラ=マタイ(Maria Bernardita "Dita" Angara-Mathay)が観光長官に就任。前任クリスティーナ・ガルシア=フラスコ(Christina Garcia Frasco)は大統領顧問へ転出した。新長官は通商産業省(DTI)出身で、直前は在東京フィリピン貿易投資センターの商務参事官。日本市場との距離が近い人事である。


3. 出発国の構図 ── 韓国の陥落と中国の反転

2026年1〜6月の上位市場

順位 市場 到着数 前年比
1 米国 581,565 +6.9%
2 韓国 552,860 −13.7%
3 日本 (3位、+6.87%) +6.87%
4 中国 219,796 +64.5%
5 オーストラリア 174,257 +12.3%
6 カナダ 156,763 +15.6%
7 台湾 111,134 +11.9%
8 英国 92,829 +1.7%
10 インド 60,583 +43.0%

(出典:DOT/BusinessMirror 2026年7月)

2026年、米国が韓国を抜いて最大の送出国になった。 これはフィリピン観光史における構造転換である。米国市場の中心は フィリピン系米国人(Fil-Am)の里帰り需要であり、景気変動に強い一方、単価と行き先が偏る。

韓国の失速(最重要)

韓国は長年ダントツ首位で、セブ・ボホール・ボラカイの経済を支えてきた。しかし 2025年は約113万人(11月時点、−21%)、2026年もマイナスが続く。理由は複合的である。

  1. 治安不安。 2025年4月、アンヘレス市で韓国人観光客が強盗殺害された動画が韓国で拡散。パンパンガでの射殺事件、バタンガスでの外国人誘拐なども重なり、駐マニラ韓国大使館が繰り返し注意喚起を出した。
  2. 韓国側の海外旅行需要そのものの鈍化と、日本・ベトナムなど競合先の攻勢。
  3. セブの渋滞を嫌い、直行便が増えたボホールへ需要が流出(セブ域内でのシェア移動)。

DOTは「韓国市場は2019年比 62.9% まで回復」と説明し、韓国の旅行会社15社との共同販促、観光警察8,000人超の研修などで巻き返しを図っている。

中国人観光客の減少と、その反転

全渡航者に eTravel(etravel.gov.ph)の出発72時間以内の登録が必要。 ビザ免除でもこれは免除されない。


4. GDP寄与と雇用(観光サテライト勘定=PTSA)

指標 2023年 2024年 2025年
TDGVA(観光直接粗付加価値) 2.12兆ペソ 2.35兆ペソ(+11.2%)
対GDP比 8.7%前後 8.9%(2019年の12.9%以来の高水準) 8.1%(速報)
観光産業の就業者 6.37百万人 6.75百万人(+6.1%)
総就業に占める比率 13.8%

(出典:フィリピン統計庁(PSA)観光サテライト勘定、2025年6月公表)

就業の7人に1人が観光関連という比率は、この産業がフィリピンにとって「雇用装置」であることを示す。内訳は健康・ウェルネス 183万人(27.1%)、宿泊・飲食 169万人(25.0%)、旅客輸送 167万人(24.7%)。

TDGVAの中身は買い物 21.8%(5,127億ペソ)、その他サービス20.2%、宿泊18.4%。「ビーチ」より「消費」が金額を作っている。

国内観光が主役である。 2024年の国内観光支出は 3.16兆ペソ(+16.4%)で、観光支出全体の約4分の3。インバウンド(約7,000億ペソ)の4倍以上。フィリピン観光を語るとき、外国人だけを見るのは誤りである。

観光旅行者の集中も課題で、外国人の宿泊延べ数の6割超がNCR(首都圏)と中部ビサヤ(セブ)に集中している(AMRO)。


5. 出国税(トラベルタックス)とTIEZA

フィリピンから出国する際に課される税で、観光インフラ企業ゾーン庁(TIEZA)が徴収する。国内旅行にはかからない。

徴収額
2019年 71億ペソ
2023年 63億ペソ
2024年 78億ペソ
2025年 約87億ペソ(コロナ前を大幅超過)

配分は TIEZA 50%/高等教育委員会(CHED)40%/国家文化芸術委員会(NCCA)10%(共和国法9593第73条)。TIEZAは2021〜2025年に200件超の観光インフラ事業(主要街道の休憩所34か所など)を実施した。

廃止法案が下院委員会を通過し、マルコス大統領が優先法案に指定している。 財務省は年約80億ペソの減収と試算。成立すればTIEZA・CHED・NCCAの財源が消えるため、成否は2026年時点で未確定。

(2026-08-26 改正確認)観光法(RA 9593)は改正されている。 - RA 11262("An Act Amending Sections 85 and 103 of Republic Act No. 9593"、承認 2019-04-10)。 - 条番号の対応=RA 11262 第1条RA 9593 第85条を改正、同第2条RA 9593 第103条を改正。「RA 11262 第85条」ではない。 - 改正後の第85条は、観光インセンティブについて TIEZA に "sole and exclusive jurisdiction"(専属的管轄) を与え、優遇制度の期限を2029年12月31日まで延長した(議会レビュー付き)。大型投資と中小企業を優先し、在外フィリピン人投資家に内国民待遇を与え、税関・内国歳入庁と連携して優遇の濫用を防ぐ旨も定める。 - 改正後の第103条は、観光長官に対し月次の観光客到着統計四半期の実施報告を合同議会監督委員会へ提出することを義務づける。 - 本節で使っている第73条(出国税の配分=TIEZA 50%/CHED 40%/NCCA 10%)は RA 11262 の改正対象外であり、現行のままである。 - TIEZA の「専属的管轄」(RA 9593 第85条)と、CREATE(RA 11534)第293条(H) が TIEZA を投資促進機関(IPA)の1つとして FIRB 体制に組み込んだこととの関係は、本検証では確定できていない(要個別確認)

(出典:最高裁 E-Library 掲載 RA 11262 本文 https://elibrary.judiciary.gov.ph/thebookshelf/showdocs/2/88235、2026-08-26 取得)


6. 観光インフラ ── 空港が最大のボトルネック

ニノイ・アキノ国際空港(NAIA)の民営化

新マニラ国際空港(New Manila International Airport/ブラカン)

地方空港


7. ボラカイ閉鎖(2018年)と環境収容力

これはフィリピン観光政策の分水嶺であり、世界のオーバーツーリズム論でも頻繁に引用される事例である。

上限は守られていない。 2022年の聖週間に21,252人・22,519人と突破し、直近の聖週間には 聖金曜日に32,780人というコロナ後最高の超過を記録した(自治体観光局データ)。PCCIボラカイ支部は「上限は改修前の前提で算定されたもの」として見直しを要求しており、環境収容力と経済のせめぎ合いは決着していない。


8. カジノ・統合型リゾート(IR)

業界規模

区分 2024年 2025年 前年比
総粗収益(GGR) 3,723億ペソ 3,961億ペソ +6.39%
うち電子・オンライン 1,547億ペソ 2,011億ペソ +30.0%
うちライセンスカジノ(陸上) 2,018億ペソ 1,825億ペソ −9.6%
うちPAGCOR直営カジノ・フィリピノ 125億ペソ 約−21%

(出典:PAGCOR、2026年4月公表。約66億米ドル規模)

2025年、オンライン・電子ゲーミングが全体の 50.77% を占め、初めて実店舗カジノを上回った。 「オンラインは補助的セグメントではなく成長の主役」(テンコPAGCOR会長)。

エンターテインメント・シティ(Entertainment City)

マニラ湾岸パラニャーケ市、NAIAから車で約10分。PAGCORが造成した「東南アジアのラスベガス・ストリップ」構想の区域。

施設 運営 開業 備考
ソレア(Solaire Resort Entertainment City) ブルームベリー(エンリケ・ラソン) 2013年 区域第1号。ケソン市に「ソレア・ノース」も展開
シティ・オブ・ドリームス・マニラ メルコ+SM/ベル 2015年 6.2ha。4社中唯一オンライン賭博を運営しない
オカダ・マニラ タイガー・リゾート(Tiger Resort) 2016年 2026年Q1のGGRが17%減
ウエストサイド・シティ(Westside City) トラベラーズ+サントラスト(アライアンス・グローバル) 2026年Q3予定 31ha・12.5億ドル。客室2,500超、「アジアのブロードウェイ」を掲げるグランド・オペラハウスが目玉

ニューポート・ワールド・リゾーツ(Newport World Resorts)はエンターテインメント・シティではない。 NAIA第3ターミナル向かいのニューポート・シティ(パサイ市)にあり、2009年開業のメトロマニラ初のIR(旧リゾーツ・ワールド・マニラ、2022年に改称)。運営はトラベラーズ・インターナショナル。

PAGCORの民営化(decoupling)

POGO禁止の後遺症


9. MICE(会議・報奨旅行・国際会議・展示会)


10. クルーズ

項目 2025年 2026年
寄港数 136回 1〜2月で26回、通年127回の予測
海路到着者 43,369人(+26.9%、DOT)/56,040人(BI) 1〜2月で 76,188人(PPA)

主要寄港地は マニラ、プエルト・プリンセサ、ボラカイ。マニラのエバ・マカパガル・クルーズターミナルでは ターンアラウンド(発着母港)寄港が2026年4月時点で6回(前年2回)へ増加し、「寄港地」から「母港(homeport)」への転換が進みつつある。


11. 医療ツーリズムとウェルネス


12. 語学留学(ESL)産業

日本人にとって最も身近な「フィリピン観光産業」がこれである。マンツーマン授業と低価格を武器に、2000年代初頭に韓国人留学生の流入で立ち上がった。

項目 数値
CALA(セブ語学学校協会)加盟校の受入 2025年2月〜2026年1月で約19,000人
うち日本 7,106人(最大市場)
うち台湾 約5,000人
うち韓国 2,761人
うち中国 約2,000人
セブの語学学校数 約110校
コロナ前の外国人学生総数(PSAC推計) 約35,000人

2026年時点で、セブの語学学校における最大の顧客は日本である。 かつての韓国一強は終わっている。


13. ASEAN内での位置づけ

2025年の外国人到着(概数)
タイ 約3,300万人(−7.2%)
マレーシア 1〜8月で2,820万人(+14.5%、日帰り含む)
ベトナム +21.5%と域内最速の伸び
フィリピン 約594万人+0.3% は §1 の表(2024年5.95百万→2025年5.94百万=約−0.2%)と食い違う。系列の混在。2026-08-25 相互照合で検出、§1の注記参照)

フィリピンは主要ASEAN諸国の中で最小のインバウンド市場であり、それはコロナ前からそうだった。(2019年:タイ4,000万、マレーシア2,600万、インドネシア1,600万、シンガポール1,500万に対しフィリピン826万)

構造要因: 1. 群島国家ゆえの島間移動コストと乗り継ぎの多さ(陸路の隣国流入がない) 2. 空港の処理能力と到着体験の悪さ(入国審査の行列、手荷物の遅延) 3. 観光インフラ投資の相対的な少なさとプロモーション予算の小ささ 4. 中国市場の消失(2024年時点で2019年比17.9%) 5. 治安に関する渡航情報(2025年は主要市場から34件の渡航警報が出されたとDOTが説明)


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